第1話 ROMANCE DAWN ― 冒険の夜明け ― <後編>
数日後。
元気におつかいに走る、ルフィの姿があった。
「魚くれっ!!魚屋のおっちゃん」
「ようルフィ、近頃一段と楽しそうだな」
ねじり鉢巻を締めた、少しいかつい魚屋のおっちゃんが親しげに声をかけた。
「お前、今回も海賊たちの航海連れてってもらえなかったんだろ?・・・それに一生泳げねェ体になっちまって」
「いいんだ!一生カナヅチでもおれは一生船から落ちない海賊になるから!それよりおれは"ゴムゴムの実”でゴム人間になれたから、その方がずっと嬉しいんだ!!ほら!!」
両側のほっぺたをびよんびよん引っ張りながら言った。
「・・・それがどうした」
大喜びでほっぺたを引っ張り続けるルフィを見かねて、村長が口を挟んだ。
「確かに不思議だし村中面白がっとるが、なんの役に立つんじゃ。体がゴムになったところで!!」
村長の小言は止まらない。
「何度でも言うがなルフィ。お前は絶対海賊にはならせんぞ!!村の汚点になるわい!!あの船長は少しはわかっとるようじゃが、あいつらとは付き合うな!!」
そんな村長にも、ルフィはどこ吹く風だった。
おつかいのあと、ルフィは”PARTYS BAR”でお駄賃のジュースを飲んでいた。
「もう船長さん達が航海に出て長いわね・・・。そろそろさみしくなってきたんじゃない、ルフィ」
マキノが洗い物を片付けながら言った。
「ぜんぜん!おれはまだ許してないんだ、あの山賊の一件!」
口でジュースのコップをごろごろ転がしながら、ルフィが言う。
「おれはシャンクス達をかいかぶってたよ!もっとかっこいい海賊かと思ってたんだ。げんめつしたね」
「そうかしら、私はあんな事されても平気で笑ってられる方がかっこいいと思うわ」
「マキノはわかってねェからな。男にはやらなきゃいけねェ時があるんだ!!」
「そう・・・、ダメね私は」
「うんだめだ」
マキノはにっこりと笑った。
「─── 邪魔するぜェ」
その声に、ルフィは入り口の方を振り返った。
「・・・げ」
ヒグマ率いる、山賊たちだった。
「今日は海賊共はいねェんだな、静かでいい・・・。また通りかかったんで立ち寄ってやったぞ」
そう言って、いすにどっかと座る。
「何ぼーっとしてやがる。おれ達ァ客だぜ!!!酒だ!!!」
「村長さん!!大変っ!!」
マキノが村長の家に駆け込んで来た。
「・・・どうしたんじゃ、マキノ。そんなに慌てて・・・」
「ルフィが山賊達に・・・・・!!!」
─── ”PARTYS BAR”の前では、ルフィが山賊達に取り囲まれていた。
「本当におもしれェ体だな」
「本当だな、殴っても蹴っても効いてないらしい」
「・・・・・!!」
そばの家の窓から、住民がおびえながら覗いていた。
「お・・・おい、おまえルフィを助けに行けよ!!」
「でも・・・相手は山賊だぞ。殺されちまう!!!・・それにこのケンカはルフィの方から仕掛けたらしいじゃねェか!!」
等のルフィは殴られながらも、必死でヒグマに反撃していた。
「くそォ!!!おれにあやまれ!!!この野郎!!!」
殴りかかるが、軽くよけられる。
「ゴム人間とは・・・、なんておかしな生き物がいるんだろうなァ・・・」
そういってヒグマはルフィを引っ張って投げ飛ばした。
「ちくしょう!!!」
「新種発見だ・・・」
「絶対許さねェ!!!」
ルフィはヒグマをにらみつけながら言った。
「見世物小屋にでも売り飛ばしゃあ、結構な金になりそうだな」
ヒグマがにやりと笑った。
「うわああ~~~~っ!!」
ルフィがそばにあった棒切れを掴んでヒグマに殴りかかる。
「しつこいぞ・・・、ガキ」
ヒグマは足でルフィを止めた。そして顔を思いっきり踏みつける。
「人が気持ちよく酒飲んで語らってたってのに・・・、このおれが何かお前の気にさわる事でも言ったかい」
「・・・!!言った!!あやまれ!!ちくしょう!!!」
ルフィは踏みつけられながらも、めいっぱい言い返した。
「足をどけろ!!バカ山賊っ!!」
その時だ。
「その子を放してくれ!!頼む!!」
マキノが連れてきた村長だった。
そして土下座をする。
「ルフィが何をやったかは知らんし、あんた達と争う気もない。失礼でなければ金は払う!!その子を助けてくれ!!」
「村長!」
ルフィが村長に気づいた。
「さすがは年寄りだな、世の渡り方を知ってる」
ヒグマがあごひげに手をやりながら言った。
「だが駄目だ!!もうこいつは助からねェ。なんせこのおれを怒らせたんだからな・・・!!」
そしてルフィを激しく踏みつけると、
「こんな文字通り軟弱なゴム小僧にたてつかれたとあっちゃあ、不愉快極まりねェぜおれは・・・!!」
「悪いのはお前らだ!!!この山ざる!!!」
ルフィが言い返す。
「よし売り飛ばすのはやめだ。やっぱり殺しちまおう、ここで」
ヒグマが腰の剣を抜いた。
「ルフィ!!」
「た・・・頼む!!見逃してくれっ!!」
マキノと村長が同時に叫ぶ。
「─── 港に誰も迎えがないんで、何事かと思えば・・・」
2人の間を割って、男がゆっくりとルフィの元に近づいてきた。
シャンクスだった。
「いつかの山賊じゃないか。・・・ルフィ!お前のパンチは銃のように強いんじゃなかったのか?」
「・・・・・!!・・・!!うるせェ!!」
「海賊ゥ・・・、まだいたのかこの村に。ずっと村の拭き掃除でもしてたのか?」
ヒグマが憎々しげに言う。
「何しに来たか知らんが、ケガせんうちに逃げ出しな。それ以上近づくと撃ち殺すぜ、腰ヌケ」
それでもシャンクスは顔色1つ変えずに、ルフィの元へ近づく。
山賊の1人がシャンクスに銃を向けた。
「てめェ、聞こえなかったのか!?それ以上近づくな。頭吹き飛ばすぞ、ハハハハハ!!」
周りの山賊も笑う。
「・・・銃を抜いたからには命を懸けろよ」
シャンクスが言った。
「あァ?何言ってやがる」
「そいつは脅しの道具じゃねェって言ったんだ・・・」
その瞬間、山賊は頭を打ちぬかれた。
いつも肉を食っている、ラッキー・ルウだ。
「な・・・!!」
山賊も、マキノも村長も、そしてルフィも驚いて声が出ない。
「・・・や、やりやがったな、てめェ」
「なんて事・・・、なんて卑怯な奴らだ!!!」
「・・・卑怯?」
ベン・ベックマンが言った。
「甘ェ事言ってんじゃねェ。聖者でも相手にしてるつもりか」
「お前らの目の前にいるのは、海賊だぜ」
シャンクスもにやりと笑って言う。
「・・・うるせェ!!だいたいおれ達はてめェらに用はねェぞ」
山賊の一人が怒鳴る。
「いいか山賊・・・」
シャンクスが静かに言った。
「おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、つばを吐きかけられようがたいていのことは笑って見過ごしてやる。・・・だがな!」
鬼の形相に変わった。
「どんな理由があろうと!!おれは友達を傷つける奴は許さない!!!!」
「シャンクス・・・」
ヒグマの足の下でルフィはつぶやいた。
そんなシャンクスに、ヒグマは大笑いしながら言う。
「はっはっはっはっ、許さねェだと!?海にプカプカ浮いてヘラヘラやってる海賊が山賊様にたてつくとは笑わせる!!!ブッ殺しちまえ野郎共!!!」
「うおおおっ!!死ね───っ!!」
山賊が襲い掛かってくる。
「おれがやろう・・・、充分だ」
ベン・ベックマンが愛用の長銃を取り出した。
一番最初に襲い掛かってきた山賊の眉間に咥えていたタバコを押し付けて倒すと、長銃を野球バットのようにして、残りの山賊たちを全て打ち返した。
「うぬぼれるなよ、山賊・・・!!」
長銃をただ1人残ったヒグマに構え、再度タバコに火をつける。
「ウチと一戦やりたきゃ、軍艦でも引っぱってくるんだな」
「つええ・・・」
「すごい・・・」
踏まれたままのルフィや、マキノ、村長は目の前の出来事にただただ驚くことしかできなかった。
「・・・や!!!待てよ・・・仕掛けてきたのはこのガキだぜ」
ヒグマがうろたえる。
「どの道賞金首だろう」
シャンクスがゆっくりと近づく。
「ちっ」
恐怖を感じたヒグマは煙幕を焚きその場を逃げ出した。
「煙幕だ!!!」
海賊たちがひるむ。
「来いガキ!!」
「うわっ!!くそ!!はなせ、はなせェ!!!」
煙幕の煙が消えると、そこにヒグマとルフィの姿は跡形もなかった。
「ルフィ!!」
今度はシャンクスが頭を抱えてうろたえる。
「し!し!しまった!!油断してた!!ルフィが!!どうしよう、みんな!!」
「うろたえんじゃねェ!!お頭、この野郎っ!!みんなで探しゃあすぐ見つかる!!」
ラッキー・ルウが一喝した。
「・・・ったく、この人は・・・」
苦笑いしながらベン・ベックマンがつぶやいた。
「─── はっはっはっはっ!!!まんまと逃げてやったぜ。まさか山賊が海へ逃げたとは思うまい!!」
海賊達から逃げたヒグマと連れてこられたルフィは海上の小さなボートにいた。
「・・・さて、てめェは人質として一応連れて来たが、もう用なしだ!おれを怒らせた奴は過去56人みんな殺してきた」
ルフィがヒグマをにらみつける。
「お前が死んじまえ!!」
渾身の力でパンチを放ったが、軽くよけられてしまった。
「あばよ」
そんなルフィを鼻で笑い、ヒグマはボートからルフィを蹴り落とした。
「・・・!!!くそ!!くそ!!あいつら!クズのくせに・・・!!一発もなぐれなかった・・・!!畜生!!!」
落とされながら必死に叫ぶ。
「畜生ぉ!!!」
─── 落とされながら、ルフィはこの事件の発端を思い出していた。
「─── はっはっはっはっは!!あの時の海賊共の顔見たかよ?酒ぶっかけられても文句1つ言えねェで!!情けねェ奴らだ!!はっはっはっはっは!!」
ヒグマが馬鹿にしたように仲間の山賊たちに言う。
それを聞いて周りも同じように笑う。
「おれァ、ああいう腰ヌケ見るとムカムカしてくんだ。よっぽど殺してやろうかと思ったぜ」
ヒグマは酒を飲みながら言った。
「海賊なんてあんなモンだ。カッコばっかで・・・」
「やめろ!!!」
山賊たちの話に耐え切れず、思わずルフィが怒鳴った。
「ああ!?」
いたのに初めて気づいたとばかりに、ヒグマがルフィの方を見る。
「シャンクス達をバカにするなよ!!!腰ヌケなんかじゃないぞ!!!」
「やめなさい、ルフィ!」
マキノが慌てて止めるが、ルフィの怒りは収まらなかった。
相手がどんなに恐ろしい相手だってそんなの気にならない。
大好きなシャンクス達のことをバカにされて、我慢できるわけがなかった。
「シャンクス達をバカにするなよ!!!」
─── ルフィは泳げない。
もともとカナヅチだったが、悪魔の実を、ゴムゴムの実を食べてしまった為二度と泳ぐことはできないのだ。
海に落とされもがくルフィを、ヒグマは大笑いしながら見つめていた。
その時、もがきながらルフィは見た。
ヒグマの後ろに迫る巨大な影を。うなり声を。
そして。
「ぎゃああああああ───っ!!!」
それは、一口でヒグマの乗ったボートを噛み砕いた。
「うわあああ・・がば・・・ば!!!」
その巨大な魚の化け物、近海の主は次の標的をルフィに定めたようだ。
「ば・・・だれか助けば・・・!!!」
近海の主がヒグマを噛み砕いた大きな口を開け、ルフィに迫る。
「うわああああああああ」
食べられた、と思った瞬間、ルフィは誰かに抱きとめられていた。
シャンクスだった。
シャンクスは主をにらみつけながら言った。
「失せろ」
その迫力に近海の主も怯える。
そして怯えたまま、海へ戻って行った・・・。
シャンクスに助けられたルフィは、しがみついたまま涙が止まらない。
しゃくりあげるルフィに、シャンクスは優しく言った。
「恩にきるよ、ルフィ。マキノさんから全部聞いたぞ。・・・おれ達のために戦ってくれてたんだな」
「ひっく・・・!!えぐ・・・!!」
「おい泣くな。男だろ?」
「・・・だってよ・・・!!・・・ジャングズ・・・・・!!!・・・・・!!!」
ルフィが叫んだ。
「腕が!!!!!」
近海の主からルフィを助けた瞬間、彼は左腕をもぎ取られていたのだ。
「安いもんだ、腕の1本くらい・・・。無事で良かった」
「・・・・・う・・・・・!!!うわあああああああああ!!!」
シャンクスが航海に連れて行ってくれない理由。
海の過酷さ。
己の非力さ。
なによりシャンクスという男の偉大さを、ルフィは知った。
こんな男にいつかなりたいと、心から思った。
何日か経ったある日。
「この船出でもうこの村へは帰ってこないって、本当!?」
ルフィは今しがた聞いたばかりの噂をシャンクスに確かめていた。
港では海賊たちが出港準備を進めている。
「ああ、随分長い拠点だった。ついにお別れだな」
シャンクスが仲間達の出港準備を見つめながら言った。
左腕の傷は、マントで隠している。
「悲しいだろ」
「うん、まあ悲しいけどね」
意外とさらっとルフィは言った。
「もう連れてけなんて言わねえよ!自分でなる事にしたんだ、海賊には」
「どうせ連れてってやんねーよー」
シャンクスが舌を出す。
「お前なんかが海賊になれるか!!!」
「なる!!!」
ルフィがむきになって言い返す。こればっかりは譲れない。
「おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!!世界一の財宝みつけて!!!海賊王になってやる!!!」
ルフィの宣言に、海賊たちが微笑む。
「ほう・・・!!おれ達を超えるのか」
シャンクスも微笑む。
「・・・じゃあ・・・」
自分がかぶっていた麦わら帽子をルフィにかぶせて言った。
「この帽子を、お前に預ける」
「!」
「おれの大切な帽子だ」
かぶせてもらった瞬間、我慢していた涙があふれる。
「いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」
そう言ってシャンクスは、ルフィに背中を向け船へと歩いていった。
「・・・あいつは大きくなるぜ」
ベン・ベックマンがシャンクスに言う。
「ああ・・・、なんせおれのガキの頃にそっくりだ」
シャンクスが笑った。
「碇を上げろォ!!!帆をはれ!!!出発だ!!!」
こうして、シャンクス率いる赤髪海賊団はフーシャ村を後にしていった。
そして、少年の冒険は10年後のこの場所から始まる。
10年後。
港では小さな小さなボートの船出を見送る村民の姿があった。
「とうとう行っちゃいましたね、村長。さみしくなるわ」
マキノが海のかなたを見つめ、笑って言う。
「村のハジじゃ、海賊になろうなんぞ!」
憤慨する村長も、心なしかさびしそうだ。
「本気で行っちまうとはなー」
魚屋のおっちゃんも笑顔で見送った。
「─── やー、今日は船出日和だなー」
空は快晴。波も穏やかだ。
村民達の視線のかなた、17歳になったルフィが小さなボートをのんびり漕いでいた。
が、突如うなり声を上げてルフィの前に立ちふさがる巨大な影があった。
10年前にシャンクスの左腕を奪った、あの近海の主だ。
「わっ」
10年前と同じように、ルフィに狙いを付ける。
「出たか、近海の主!!相手が悪かったな」
ルフィがにやりと笑う。
「10年鍛えたおれの技を見ろ!!」
ぐわ───っと口を広げる近海の主に対し、ルフィは右腕を構えて叫んだ。
「ゴムゴムの・・・・・銃(ピストル)!!!!」
彼の腕がぐわーんと伸び、10年前では怯えることしかできなかった近海の主を一撃で倒した。
伸びた腕がばちんと戻り、にっと笑ってルフィは言った。
「思い知ったか、魚め!!」
シャンクスの左腕の敵をとった瞬間だった。
だが彼の視線は、もう次へ向いている。
「んん・・・!!まずは仲間集めだ。10人は欲しいなァ!!そして海賊旗!!」
彼のまなざしは希望に満ちていた。
そして、海へ、彼自身へ宣言した。
「よっしゃいくぞ!!!海賊王におれはなる!!!!」
まだ見ぬ彼の仲間達を巻き込まんと、小さな船は海をゆく。
かくして大いなる旅は始まったのだ!!!
管理人ひとことこめんと
全てはここから始まりましたねー。長いので勝手に前編後編に分けましたけど、いかがだったでしょーか・・・。
このお話は・・・、内容はちょっと変わりますが読みきりでも描かれてますね。
でも、シャンクスとルフィのお話はまんまその通り。
尾田先生にとっても、このお話は大事なんだろうなとホント思います。
私も大好き☆
元気におつかいに走る、ルフィの姿があった。
「魚くれっ!!魚屋のおっちゃん」
「ようルフィ、近頃一段と楽しそうだな」
ねじり鉢巻を締めた、少しいかつい魚屋のおっちゃんが親しげに声をかけた。
「お前、今回も海賊たちの航海連れてってもらえなかったんだろ?・・・それに一生泳げねェ体になっちまって」
「いいんだ!一生カナヅチでもおれは一生船から落ちない海賊になるから!それよりおれは"ゴムゴムの実”でゴム人間になれたから、その方がずっと嬉しいんだ!!ほら!!」
両側のほっぺたをびよんびよん引っ張りながら言った。
「・・・それがどうした」
大喜びでほっぺたを引っ張り続けるルフィを見かねて、村長が口を挟んだ。
「確かに不思議だし村中面白がっとるが、なんの役に立つんじゃ。体がゴムになったところで!!」
村長の小言は止まらない。
「何度でも言うがなルフィ。お前は絶対海賊にはならせんぞ!!村の汚点になるわい!!あの船長は少しはわかっとるようじゃが、あいつらとは付き合うな!!」
そんな村長にも、ルフィはどこ吹く風だった。
おつかいのあと、ルフィは”PARTYS BAR”でお駄賃のジュースを飲んでいた。
「もう船長さん達が航海に出て長いわね・・・。そろそろさみしくなってきたんじゃない、ルフィ」
マキノが洗い物を片付けながら言った。
「ぜんぜん!おれはまだ許してないんだ、あの山賊の一件!」
口でジュースのコップをごろごろ転がしながら、ルフィが言う。
「おれはシャンクス達をかいかぶってたよ!もっとかっこいい海賊かと思ってたんだ。げんめつしたね」
「そうかしら、私はあんな事されても平気で笑ってられる方がかっこいいと思うわ」
「マキノはわかってねェからな。男にはやらなきゃいけねェ時があるんだ!!」
「そう・・・、ダメね私は」
「うんだめだ」
マキノはにっこりと笑った。
「─── 邪魔するぜェ」
その声に、ルフィは入り口の方を振り返った。
「・・・げ」
ヒグマ率いる、山賊たちだった。
「今日は海賊共はいねェんだな、静かでいい・・・。また通りかかったんで立ち寄ってやったぞ」
そう言って、いすにどっかと座る。
「何ぼーっとしてやがる。おれ達ァ客だぜ!!!酒だ!!!」
「村長さん!!大変っ!!」
マキノが村長の家に駆け込んで来た。
「・・・どうしたんじゃ、マキノ。そんなに慌てて・・・」
「ルフィが山賊達に・・・・・!!!」
─── ”PARTYS BAR”の前では、ルフィが山賊達に取り囲まれていた。
「本当におもしれェ体だな」
「本当だな、殴っても蹴っても効いてないらしい」
「・・・・・!!」
そばの家の窓から、住民がおびえながら覗いていた。
「お・・・おい、おまえルフィを助けに行けよ!!」
「でも・・・相手は山賊だぞ。殺されちまう!!!・・それにこのケンカはルフィの方から仕掛けたらしいじゃねェか!!」
等のルフィは殴られながらも、必死でヒグマに反撃していた。
「くそォ!!!おれにあやまれ!!!この野郎!!!」
殴りかかるが、軽くよけられる。
「ゴム人間とは・・・、なんておかしな生き物がいるんだろうなァ・・・」
そういってヒグマはルフィを引っ張って投げ飛ばした。
「ちくしょう!!!」
「新種発見だ・・・」
「絶対許さねェ!!!」
ルフィはヒグマをにらみつけながら言った。
「見世物小屋にでも売り飛ばしゃあ、結構な金になりそうだな」
ヒグマがにやりと笑った。
「うわああ~~~~っ!!」
ルフィがそばにあった棒切れを掴んでヒグマに殴りかかる。
「しつこいぞ・・・、ガキ」
ヒグマは足でルフィを止めた。そして顔を思いっきり踏みつける。
「人が気持ちよく酒飲んで語らってたってのに・・・、このおれが何かお前の気にさわる事でも言ったかい」
「・・・!!言った!!あやまれ!!ちくしょう!!!」
ルフィは踏みつけられながらも、めいっぱい言い返した。
「足をどけろ!!バカ山賊っ!!」
その時だ。
「その子を放してくれ!!頼む!!」
マキノが連れてきた村長だった。
そして土下座をする。
「ルフィが何をやったかは知らんし、あんた達と争う気もない。失礼でなければ金は払う!!その子を助けてくれ!!」
「村長!」
ルフィが村長に気づいた。
「さすがは年寄りだな、世の渡り方を知ってる」
ヒグマがあごひげに手をやりながら言った。
「だが駄目だ!!もうこいつは助からねェ。なんせこのおれを怒らせたんだからな・・・!!」
そしてルフィを激しく踏みつけると、
「こんな文字通り軟弱なゴム小僧にたてつかれたとあっちゃあ、不愉快極まりねェぜおれは・・・!!」
「悪いのはお前らだ!!!この山ざる!!!」
ルフィが言い返す。
「よし売り飛ばすのはやめだ。やっぱり殺しちまおう、ここで」
ヒグマが腰の剣を抜いた。
「ルフィ!!」
「た・・・頼む!!見逃してくれっ!!」
マキノと村長が同時に叫ぶ。
「─── 港に誰も迎えがないんで、何事かと思えば・・・」
2人の間を割って、男がゆっくりとルフィの元に近づいてきた。
シャンクスだった。
「いつかの山賊じゃないか。・・・ルフィ!お前のパンチは銃のように強いんじゃなかったのか?」
「・・・・・!!・・・!!うるせェ!!」
「海賊ゥ・・・、まだいたのかこの村に。ずっと村の拭き掃除でもしてたのか?」
ヒグマが憎々しげに言う。
「何しに来たか知らんが、ケガせんうちに逃げ出しな。それ以上近づくと撃ち殺すぜ、腰ヌケ」
それでもシャンクスは顔色1つ変えずに、ルフィの元へ近づく。
山賊の1人がシャンクスに銃を向けた。
「てめェ、聞こえなかったのか!?それ以上近づくな。頭吹き飛ばすぞ、ハハハハハ!!」
周りの山賊も笑う。
「・・・銃を抜いたからには命を懸けろよ」
シャンクスが言った。
「あァ?何言ってやがる」
「そいつは脅しの道具じゃねェって言ったんだ・・・」
その瞬間、山賊は頭を打ちぬかれた。
いつも肉を食っている、ラッキー・ルウだ。
「な・・・!!」
山賊も、マキノも村長も、そしてルフィも驚いて声が出ない。
「・・・や、やりやがったな、てめェ」
「なんて事・・・、なんて卑怯な奴らだ!!!」
「・・・卑怯?」
ベン・ベックマンが言った。
「甘ェ事言ってんじゃねェ。聖者でも相手にしてるつもりか」
「お前らの目の前にいるのは、海賊だぜ」
シャンクスもにやりと笑って言う。
「・・・うるせェ!!だいたいおれ達はてめェらに用はねェぞ」
山賊の一人が怒鳴る。
「いいか山賊・・・」
シャンクスが静かに言った。
「おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、つばを吐きかけられようがたいていのことは笑って見過ごしてやる。・・・だがな!」
鬼の形相に変わった。
「どんな理由があろうと!!おれは友達を傷つける奴は許さない!!!!」
「シャンクス・・・」
ヒグマの足の下でルフィはつぶやいた。
そんなシャンクスに、ヒグマは大笑いしながら言う。
「はっはっはっはっ、許さねェだと!?海にプカプカ浮いてヘラヘラやってる海賊が山賊様にたてつくとは笑わせる!!!ブッ殺しちまえ野郎共!!!」
「うおおおっ!!死ね───っ!!」
山賊が襲い掛かってくる。
「おれがやろう・・・、充分だ」
ベン・ベックマンが愛用の長銃を取り出した。
一番最初に襲い掛かってきた山賊の眉間に咥えていたタバコを押し付けて倒すと、長銃を野球バットのようにして、残りの山賊たちを全て打ち返した。
「うぬぼれるなよ、山賊・・・!!」
長銃をただ1人残ったヒグマに構え、再度タバコに火をつける。
「ウチと一戦やりたきゃ、軍艦でも引っぱってくるんだな」
「つええ・・・」
「すごい・・・」
踏まれたままのルフィや、マキノ、村長は目の前の出来事にただただ驚くことしかできなかった。
「・・・や!!!待てよ・・・仕掛けてきたのはこのガキだぜ」
ヒグマがうろたえる。
「どの道賞金首だろう」
シャンクスがゆっくりと近づく。
「ちっ」
恐怖を感じたヒグマは煙幕を焚きその場を逃げ出した。
「煙幕だ!!!」
海賊たちがひるむ。
「来いガキ!!」
「うわっ!!くそ!!はなせ、はなせェ!!!」
煙幕の煙が消えると、そこにヒグマとルフィの姿は跡形もなかった。
「ルフィ!!」
今度はシャンクスが頭を抱えてうろたえる。
「し!し!しまった!!油断してた!!ルフィが!!どうしよう、みんな!!」
「うろたえんじゃねェ!!お頭、この野郎っ!!みんなで探しゃあすぐ見つかる!!」
ラッキー・ルウが一喝した。
「・・・ったく、この人は・・・」
苦笑いしながらベン・ベックマンがつぶやいた。
「─── はっはっはっはっ!!!まんまと逃げてやったぜ。まさか山賊が海へ逃げたとは思うまい!!」
海賊達から逃げたヒグマと連れてこられたルフィは海上の小さなボートにいた。
「・・・さて、てめェは人質として一応連れて来たが、もう用なしだ!おれを怒らせた奴は過去56人みんな殺してきた」
ルフィがヒグマをにらみつける。
「お前が死んじまえ!!」
渾身の力でパンチを放ったが、軽くよけられてしまった。
「あばよ」
そんなルフィを鼻で笑い、ヒグマはボートからルフィを蹴り落とした。
「・・・!!!くそ!!くそ!!あいつら!クズのくせに・・・!!一発もなぐれなかった・・・!!畜生!!!」
落とされながら必死に叫ぶ。
「畜生ぉ!!!」
─── 落とされながら、ルフィはこの事件の発端を思い出していた。
「─── はっはっはっはっは!!あの時の海賊共の顔見たかよ?酒ぶっかけられても文句1つ言えねェで!!情けねェ奴らだ!!はっはっはっはっは!!」
ヒグマが馬鹿にしたように仲間の山賊たちに言う。
それを聞いて周りも同じように笑う。
「おれァ、ああいう腰ヌケ見るとムカムカしてくんだ。よっぽど殺してやろうかと思ったぜ」
ヒグマは酒を飲みながら言った。
「海賊なんてあんなモンだ。カッコばっかで・・・」
「やめろ!!!」
山賊たちの話に耐え切れず、思わずルフィが怒鳴った。
「ああ!?」
いたのに初めて気づいたとばかりに、ヒグマがルフィの方を見る。
「シャンクス達をバカにするなよ!!!腰ヌケなんかじゃないぞ!!!」
「やめなさい、ルフィ!」
マキノが慌てて止めるが、ルフィの怒りは収まらなかった。
相手がどんなに恐ろしい相手だってそんなの気にならない。
大好きなシャンクス達のことをバカにされて、我慢できるわけがなかった。
「シャンクス達をバカにするなよ!!!」
─── ルフィは泳げない。
もともとカナヅチだったが、悪魔の実を、ゴムゴムの実を食べてしまった為二度と泳ぐことはできないのだ。
海に落とされもがくルフィを、ヒグマは大笑いしながら見つめていた。
その時、もがきながらルフィは見た。
ヒグマの後ろに迫る巨大な影を。うなり声を。
そして。
「ぎゃああああああ───っ!!!」
それは、一口でヒグマの乗ったボートを噛み砕いた。
「うわあああ・・がば・・・ば!!!」
その巨大な魚の化け物、近海の主は次の標的をルフィに定めたようだ。
「ば・・・だれか助けば・・・!!!」
近海の主がヒグマを噛み砕いた大きな口を開け、ルフィに迫る。
「うわああああああああ」
食べられた、と思った瞬間、ルフィは誰かに抱きとめられていた。
シャンクスだった。
シャンクスは主をにらみつけながら言った。
「失せろ」
その迫力に近海の主も怯える。
そして怯えたまま、海へ戻って行った・・・。
シャンクスに助けられたルフィは、しがみついたまま涙が止まらない。
しゃくりあげるルフィに、シャンクスは優しく言った。
「恩にきるよ、ルフィ。マキノさんから全部聞いたぞ。・・・おれ達のために戦ってくれてたんだな」
「ひっく・・・!!えぐ・・・!!」
「おい泣くな。男だろ?」
「・・・だってよ・・・!!・・・ジャングズ・・・・・!!!・・・・・!!!」
ルフィが叫んだ。
「腕が!!!!!」
近海の主からルフィを助けた瞬間、彼は左腕をもぎ取られていたのだ。
「安いもんだ、腕の1本くらい・・・。無事で良かった」
「・・・・・う・・・・・!!!うわあああああああああ!!!」
シャンクスが航海に連れて行ってくれない理由。
海の過酷さ。
己の非力さ。
なによりシャンクスという男の偉大さを、ルフィは知った。
こんな男にいつかなりたいと、心から思った。
何日か経ったある日。
「この船出でもうこの村へは帰ってこないって、本当!?」
ルフィは今しがた聞いたばかりの噂をシャンクスに確かめていた。
港では海賊たちが出港準備を進めている。
「ああ、随分長い拠点だった。ついにお別れだな」
シャンクスが仲間達の出港準備を見つめながら言った。
左腕の傷は、マントで隠している。
「悲しいだろ」
「うん、まあ悲しいけどね」
意外とさらっとルフィは言った。
「もう連れてけなんて言わねえよ!自分でなる事にしたんだ、海賊には」
「どうせ連れてってやんねーよー」
シャンクスが舌を出す。
「お前なんかが海賊になれるか!!!」
「なる!!!」
ルフィがむきになって言い返す。こればっかりは譲れない。
「おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!!世界一の財宝みつけて!!!海賊王になってやる!!!」
ルフィの宣言に、海賊たちが微笑む。
「ほう・・・!!おれ達を超えるのか」
シャンクスも微笑む。
「・・・じゃあ・・・」
自分がかぶっていた麦わら帽子をルフィにかぶせて言った。
「この帽子を、お前に預ける」
「!」
「おれの大切な帽子だ」
かぶせてもらった瞬間、我慢していた涙があふれる。
「いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」
そう言ってシャンクスは、ルフィに背中を向け船へと歩いていった。
「・・・あいつは大きくなるぜ」
ベン・ベックマンがシャンクスに言う。
「ああ・・・、なんせおれのガキの頃にそっくりだ」
シャンクスが笑った。
「碇を上げろォ!!!帆をはれ!!!出発だ!!!」
こうして、シャンクス率いる赤髪海賊団はフーシャ村を後にしていった。
そして、少年の冒険は10年後のこの場所から始まる。
10年後。
港では小さな小さなボートの船出を見送る村民の姿があった。
「とうとう行っちゃいましたね、村長。さみしくなるわ」
マキノが海のかなたを見つめ、笑って言う。
「村のハジじゃ、海賊になろうなんぞ!」
憤慨する村長も、心なしかさびしそうだ。
「本気で行っちまうとはなー」
魚屋のおっちゃんも笑顔で見送った。
「─── やー、今日は船出日和だなー」
空は快晴。波も穏やかだ。
村民達の視線のかなた、17歳になったルフィが小さなボートをのんびり漕いでいた。
が、突如うなり声を上げてルフィの前に立ちふさがる巨大な影があった。
10年前にシャンクスの左腕を奪った、あの近海の主だ。
「わっ」
10年前と同じように、ルフィに狙いを付ける。
「出たか、近海の主!!相手が悪かったな」
ルフィがにやりと笑う。
「10年鍛えたおれの技を見ろ!!」
ぐわ───っと口を広げる近海の主に対し、ルフィは右腕を構えて叫んだ。
「ゴムゴムの・・・・・銃(ピストル)!!!!」
彼の腕がぐわーんと伸び、10年前では怯えることしかできなかった近海の主を一撃で倒した。
伸びた腕がばちんと戻り、にっと笑ってルフィは言った。
「思い知ったか、魚め!!」
シャンクスの左腕の敵をとった瞬間だった。
だが彼の視線は、もう次へ向いている。
「んん・・・!!まずは仲間集めだ。10人は欲しいなァ!!そして海賊旗!!」
彼のまなざしは希望に満ちていた。
そして、海へ、彼自身へ宣言した。
「よっしゃいくぞ!!!海賊王におれはなる!!!!」
まだ見ぬ彼の仲間達を巻き込まんと、小さな船は海をゆく。
かくして大いなる旅は始まったのだ!!!

全てはここから始まりましたねー。長いので勝手に前編後編に分けましたけど、いかがだったでしょーか・・・。
このお話は・・・、内容はちょっと変わりますが読みきりでも描かれてますね。
でも、シャンクスとルフィのお話はまんまその通り。
尾田先生にとっても、このお話は大事なんだろうなとホント思います。
私も大好き☆
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