第2話 その男”麦わらのルフィ”
「は───、今日もいい天気だねーっ」
広い海を無謀にも小船で旅するこの少年、なんと海賊の一団を作る”仲間集め”の途中なのだ。
少年の名は、”モンキー・D・ルフィ”。
赤いベストに青い短パン、サンダル履きで、幼い日に赤髪海賊団の大頭シャンクスからもらった麦わら帽子がトレードマークの少年。
左目の下には、これも幼い日に自らナイフで付けた傷がついている。
「こんなに気持ちのいい日なのになァ。この船旅はひとまず遭難ってことになるな!!」
オールを抱え、のんびり笑いながら言う。
・・・遭難?
「まさかこんな大渦にのまれるとは、うかつだった」
ルフィを乗せた小船は、気持ちのいい天気とは裏腹に大きな渦に巻き込まれていたのだ。
「助けてほしいけど誰もいないし、まーのまれちまったもんはしょうがないとして・・・、泳げないんだよねーおれ・・・」
これまた状況とは裏腹に、ルフィは焦るそぶりも見せない。
彼はこれでも一応本気で困ってるのだが。
そして彼は気づいた。
「あ!こんな大渦の場合泳げようが泳げまいが、関係ねェか」
泳げてもイミねーよ、とぽんと手を叩く。
「・・・わ!!あーっ」
・・・そんなことをやってる間に、彼は大渦に巻き込まれて行った。
とある島。
名を”ゴート島”という。
ここにはある海賊の船が停泊していた。
横顔のどくろにハートマークの海賊旗である。
船の手すりを指でなぞり、彼女は言った。
「・・・何だい?このホコリは・・・」
海賊の下っ端が慌てて答えた。
「も・・・も!!申し訳ありません!!アルビダ様、船は隅から隅まで掃除したつもりでしたが・・・!!も・・・もう一度やり直しますので・・ど・・どうか・・・!!」
「どうか・・何だい?」
アルビダと呼ばれた彼女の目が光った。
「どうか金棒だけは・・・!いやだ死にたくない~~~っ!!!」
ガンッ!
下っ端はアルビダの金棒に一撃でやられてしまった。
「・・・コビー、この海で一番美しいものは何だい?」
倒れる下っ端を尻目に、そばにいた雑用に尋ねた。
「え・・・えへへへ、もちろんそれは、レディー・アルビダ様です!えへへへへ」
小さくて小太り、メガネをかけた、コビーと呼ばれた少年が愛想笑いで答えた。
「そうさ!!だからアタシは汚いものが大嫌いなのさ!!美しいアタシが乗る船も美しくなきゃねェ!!そうだろう?」
アルビダがコビーにじろりと目をやった。
「お前にはどういう訳か、人一倍海の知識があるから生かしておいてやってるんだ」
「は・・・はい、ありがとうございます」
「それ以外は能がないんだから、とっととクツを磨きな!!」
そう怒鳴って、アルビダはコビーを何度も蹴った。
「は・・・はい、すぐに!」
そんなアルビダに、コビーはなすすべもなくクツ磨き用の布を取り出した。
「ホコリ一つ残すんじゃないよ!!お前達!!!」
「へ・・・!!へいっ!!」
アルビダの恫喝に、海賊達は怯えながら掃除を始めた。
コビーはまだアルビダのクツを磨いている。
「もういいよ!!グズだね、お前は!!」
アルビダがコビーを蹴り飛ばした。
「え・・・えへへへ、す・・・・・すみません」
コビーがへらへら、力なく笑いながら答える。
「謝ってるヒマあったら、便所でも掃除してきな!!」
「えへへ・・・、はい、すぐにアルビダ様!!」
口から血を流しながらも、へらへら笑いはやめなかった。
しかし。
「・・・すぐに・・・」
彼の表情には、悔しさもにじみ出ていた。
島では海賊達が、ぶんどって来たお宝や、その他の荷物を倉庫に片付けている。
そこにコビーが酒樽を転がしながらやって来た。
「なに、酒樽が海岸に流れてきただと?雑用コビー」
海賊の1人が言った。
「は・・・はい、まだ中身も入ってるようなのでどうしたらいいでしょうか・・・」
「そりゃいい!おれ達で飲んじまおう!!」
別の海賊が言った。
「しかし兄弟!もしお頭にバレたらおれ達ァ・・・」
「なァにバレやしねェよ!」
別の海賊もけしかける。
「このことを知ってんのは酒蔵掃除のおれらとヘッポココビーの4人だけだ」
「・・・それもそうだな」
しぶっていた海賊も、仲間の言葉につられて言った。
「わかってんな、コビー・・・」
海賊達がコビーを脅す。
「は・・はい、もちろん!ぼ・・・ぼくは何にも見てません!えへへへ・・・!だ・・だからなぐらないでく・・・」
その時だった。
「あ───っ!!!よく寝た───っ!!!」
「ぬあ!!何だ!!!」
コビーを含めた海賊達は目を疑った。
少年が酒樽から飛び出してきたのだ。
「何とか助かったみたいだなァ。目ェ回って死ぬかと思ったよ!!はっはっはっは!!」
ルフィだった。
彼は酒樽の中に入り、あの大渦から難を逃れたのだった。
「ん?」
彼は周りに気がついた。
いかつい男3人と、小太りな少年が自分を見ている。
「誰だお前ら」
「てめェが誰だ!!!」
海賊たちがツっこむ。
「いったい、どういう状況で樽から人間が出てくんだ!?」
海賊の1人がルフィに迫った時、
「さぼってんじゃないよ!!!」
ドゴォッ!!!
金棒がすごい勢いで飛んできた。
その威力は倉庫を壊し、いかつい男達をぶっ飛ばす。
勢いでルフィの入った樽は、森の奥へと飛ばされてしまった。
「・・・お前達!!!この海で一番美しいものは何だい?」
アルビダが金棒を構えて迫る。
「アルビダ様っ!!も・・・勿論レディー・アルビダ様でございます」
海賊達が怯えて言った。
「そうだよ、そのアタシにたてつこうってのかい?」
「え?・・・え!?と・・・とんでもない、何の事だか・・・!!」
アルビダが怒鳴った。
「とぼけんじゃないよ!!船まで聞こえる大声で「よく寝た」って叫びやがったのはどいつだい!!?」
海賊が思い出す。あいつだ!
「は!そ・・・そうだお頭っ!!侵入者です!!」
別の海賊も言った。
「そう!!今コビーの野郎が変なヤツを連れて来やがって・・・!!」
「何・・・?」
アルビダが海賊達をじろりとにらみながら言った。
「まさかアタシの首を狙った賞金稼ぎじゃないだろうねェ・・・!!・・・コビーめ!!あのガキ裏切りやがったね!!」
「しかしこの辺りで名を聞く賞金稼ぎといやあ・・・」
「バカな!!あの男は今海軍に捕まってると聞いたぞ!!」
そんな海賊達の言葉に、
「本物なら逃げ出すくらいわけないさ。あの悪名高いロロノア・ゾロならね!!」
アルビダはほくそ笑んだ。
悪名高い賞金稼ぎに狙われること、それは自分自身の海賊としての評価の高さを物語っているからだ。
一方、森の中。
「・・・あの・・・、大丈夫ですか?ケガは?ずいぶん吹き飛ばされちゃいましたけど」
コビーは吹き飛ばされたルフィを追って来ていた。
心配そうに言うコビーに、ルフィは笑って言った。
「ああ大丈夫、なんかびっくりしたけどな。おれはルフィ。ここどこだ?」
「この海岸は海賊”金棒のアルビダ”様の休息地です。ぼくはその海賊船の雑用係、コビーといいます」
「ふーんそうか。実はどうでもいいんだけどな、そんなこと」
ルフィは酒樽から抜け出しながら言った。
「はあ・・・」
「小船とかねェかな、おれのやつ渦巻きにのまれちゃって」
「う・・・渦巻き!!?渦巻きに遭ったんですか!?」
驚くコビーに、ルフィはため息をつきながら言った。
「あー、あれはびっくりしたよ。まじで」
「ふつう死ぬんですけどね・・・。こ・・・小船なら、ない事もないですが・・・」
そう言ってコビーは、さらに森の奥にルフィを案内した。
奥の少し広くなったスペースに船?のような代物が置いてある。
かなりボロボロだ。
「なんだこりゃ。棺桶か?」
オブラートに包むことなく、ルフィはストレートにものを言う。
「一応・・・船です。ぼくが造った船です・・・!2年かかってコツコツと・・・」
「2年かけて?で・・・いらねェの?」
「はい・・・いりません」
コビーは船を見つめて言った。
「この船はここから逃げ出したくて造ったんですが、結局ぼくにはそんな勇気ないし・・・どうせ一生雑用の運命なんです。・・・一応・・・本当はやりたい事もあるんですけど・・・」
「じゃ、逃げればいいじゃねェかこれで」
ルフィの言葉に、コビーは激しく首を振って答えた。
「ム・・・ムリですよ、ムリムリ。もしアルビダ様に見つかったらって考えると足がすくんで・・・!!恐くてとても・・・!!!」
そして彼はアルビダの船に乗り込む事になったきっかけを話し始めた。
「・・・そう・・・、あれが運命の日でした。ぼくはただ釣りに行こうとしただけなのに、間違って乗り込んでしまったのが、なんと海賊船!!!・・・あれから2年、殺さないかわりに航海士兼雑用係として働けと・・・!!」
「お前ドジでバカだな───っ」
ルフィが驚いて言った。
「そのうえ根性なさそうだしなー。おれ、お前キライだなー」
「え・・えへえへえへえへへへへへ・・・!!!」
─── そんなはっきり・・・。
笑いながらはっきり言うルフィに、コビーは力なく笑った。
「でも・・・その通りです・・・。ぼくにも樽で海を漂流するくらいの度胸があれば・・・。・・・あの・・・ルフィさんはそこまでして海に出て何をするんですか?」
コビーの言葉に、ルフィは満面の笑顔で答えた。
「おれはさ、海賊王になるんだ!!!」
「え・・・」
その言葉にコビーは本気で驚く。
「か!!!か!!!海賊王ってゆうのはこの世の全てを手に入れたものの称号ですよ!!?」
さらに付け加えた。
「つまり、富と名声と力の”ひとつなぎの大秘宝”・・・あの、「ワンピース」を目指すって事ですよ!!?」
ルフィはその言葉を笑顔で聞いている。
「死にますよ!?世界中の海賊がその宝を狙ってるんです」
「おれも狙う」
当然のように言った。
「・・・ム・・・ムリです!!絶対無理!!ムリムリムリ無理に決まってますよ!!海賊王なんて、この大海賊時代の頂点に立つなんてできるわけないですよ!!ムリムリっ!!」
ルフィの鉄拳がコビーへ飛んだ。
「痛いっ!!!ど・・・どうして殴るんですか!!」
「なんとなくだ!!」
「・・・でもいいや・・・慣れてるから・・・えへへへ・・・」
コビーは自虐的だった。
「─── おれは死んでもいいんだ!」
「え?」
ルフィの言葉にコビーは耳を疑う。
ルフィはかぶっていた麦わら帽子を脱いで、帽子に誓う様に言った。
「おれがなるって決めたんだから、その為に戦って死ぬんなら別にいい」
その姿に、コビーは衝撃を受けた。
─── なんてすごい覚悟だろう・・・!!
「・・・し・・死んでもいい・・・!!?」
「それにおれはやれそうな気がするんだけどなー、やっぱ難しいのかなー」
軽く言うルフィ。しかしコビーは受けた衝撃に涙が止まらなかった。
─── 考えた事もなかった・・・
「・・・ぼくにも・・・やれるでしょうか・・・!!」
「ん?何が?」
コビーは誰にも言ったことのない、自分の胸のうちだけに秘めていた夢をルフィに言った。
「ぼくでも・・・、海軍に入れるでしょうか・・・!!」
「海軍?」
「ルフィさんとは敵ですけど!!海軍に入ってえらくなって、悪い奴を取りしまるのがぼくの夢なんです!!!小さい頃からの!!!」
コビーは心から訴えた。
「やれるでしょうか!!?」
「そんなの知らねぇよ!」
ルフィは笑って答えた。
「いえ!!!やりますよ!!!どうせこのまま雑用で一生を終えるくらいなら!!!海軍に入る為命を懸けてここから逃げ出すんです!!そしてアルビダ様・・・アルビダだって捕まえてやるんです!!」
そう叫んだ時だった。
「誰を捕まえるって!!?コビー!!!」
「うわあ!!!」
コビーを追って来た、アルビダの金棒がコビーの船を直撃した。
「僕の船・・・」
コビーの2年間が、アルビダに抵抗した証が、一瞬にして打ち砕かれた。
「このアタシから逃げられると思ってんのかい!?」
海賊達を引き連れたアルビダが、ルフィをじろりと見て言った。
「そいつかい、お前の雇った賞金稼ぎってのは・・・。ロロノア・ゾロじゃなさそうだねェ・・・最後に聞いてやろうか・・・、この海で一番美しいものは何だい・・・?コビー!!」
アルビダの迫力に恐れをなしたコビーが、おどおどしながら言った。
「・・・!!え・・・えへへ、そ・・・それは勿論・・・」
「誰だ、このイカついおばさん」
ルフィがまたもやストレートに言った。
そうなのだ。アルビダは自分では『一番美しい』と言ってはいるが、実際は体はごつく、そばかすだらけの醜いおばさんなのだ。
その言葉にブチ切れるアルビダ。
「こいつ・・・、何て事・・・!!」
その恐ろしさをよく知っている海賊達は震え上がった。
コビーが慌てて言う。
「ルフィさん!!訂正して下さい!!この方はこの海で一番・・・」
その時、ルフィの言葉がコビーの頭によぎった。
”おれがなるって決めたんだから、それで戦って死ぬんなら別にいい”
「一番・・・、一番イカついクソばばあですっ!!!!」
とうとう言ってしまった。
ルフィが大爆笑する横で、怒り狂ったアルビダがコビーに迫っていた。
「このガキャ───っ!!!!!」
「っアアアア───!!!!!」
─── くいはない!!くいはない!!僕は言ったんだ!!戦った!!夢の為に!!戦ったんだ!!!!
「・・・よく言った、さがってなコビー!!」
ルフィがコビーを押しのけた。
「ル・・・ルフィさん!!」
「同じ事さ!!2人共・・・生かしちゃおかないよ!!!」
そう叫んで、アルビダは金棒をルフィの頭に振り下ろした。
しかし金棒の下で、ルフィがにやりと笑う。
「効かないねえっ!ゴムだから」
「バ・・・、そんなバカな!!!アタシの金棒が」
アルビダがうろたえる。
倉庫や船を一発で破壊するほどの威力なのに!
海賊達も、コビーも目の前の出来事が信じられなかった。
その光景を尻目に、ルフィが反撃する!
「ゴムゴムの・・・、銃(ピストル)・・・!」
「な!!!」
ドウン!!!
ルフィの伸びた腕がキレイにアルビダの顔面に入り、一発でKOした。
「・・・・・!!手が・・・、手がのびたぞ!!!」
「お頭!!!アルビダ様が負けた!!化物だ!!」
うろたえる海賊達に向かってルフィは言った。
「コビーに一隻小船をやれ!こいつは海軍に入るんだ!!黙って行かせろ」
「は・・・はい」
海賊達に異論があるはずがない。
「ししし!」
笑うルフィに、コビーは感謝の涙を流した。
「・・・あのゴムゴムの実を食べただなんて、驚きました」
しばらくしてルフィとコビーの2人は、海賊達からもらった小船の上にいた。
波は穏やか、島での出来事などなかったかのような、船出日和である。
「でも・・・、ルフィさん。”ワンピース”を目指すって事は・・・あの、”偉大なる航路(グランドライン)”へ入るってことですよね・・・!」
「ああ」
コビーが不安げに言った。
「あそこは海賊の墓場とも呼ばれる場所で・・・」
「うん、だから強い仲間がいるんだ」
ルフィはコビーの方を向いて言った。
「これからお前が行く海軍基地に捕まってるって奴」
「ああ・・、ロロノア・ゾロですか?」
コビーも思い出して言った。
「いい奴だったら仲間にしようと思って!」
ルフィがにっこり笑う。
「え───っ!!またムチャクチャな事をぉーっ!!!ムリですよ、ムリムリムリあいつは悪魔のような奴なんですよ!?」
コビーが慌てる。
が、ルフィはどこ吹く風。
「そんなのわかんないだろ」
「ムリっ!!」
船は行く。
海軍基地へ。
管理人ひとことこめんと
コビー&アルビダ初登場の回です。
登場はこれだけかと思ったら、なんとびっくり後々重要なキャラになるなんて・・・。
読んでるほうも気が抜けないです(笑)。
広い海を無謀にも小船で旅するこの少年、なんと海賊の一団を作る”仲間集め”の途中なのだ。
少年の名は、”モンキー・D・ルフィ”。
赤いベストに青い短パン、サンダル履きで、幼い日に赤髪海賊団の大頭シャンクスからもらった麦わら帽子がトレードマークの少年。
左目の下には、これも幼い日に自らナイフで付けた傷がついている。
「こんなに気持ちのいい日なのになァ。この船旅はひとまず遭難ってことになるな!!」
オールを抱え、のんびり笑いながら言う。
・・・遭難?
「まさかこんな大渦にのまれるとは、うかつだった」
ルフィを乗せた小船は、気持ちのいい天気とは裏腹に大きな渦に巻き込まれていたのだ。
「助けてほしいけど誰もいないし、まーのまれちまったもんはしょうがないとして・・・、泳げないんだよねーおれ・・・」
これまた状況とは裏腹に、ルフィは焦るそぶりも見せない。
彼はこれでも一応本気で困ってるのだが。
そして彼は気づいた。
「あ!こんな大渦の場合泳げようが泳げまいが、関係ねェか」
泳げてもイミねーよ、とぽんと手を叩く。
「・・・わ!!あーっ」
・・・そんなことをやってる間に、彼は大渦に巻き込まれて行った。
とある島。
名を”ゴート島”という。
ここにはある海賊の船が停泊していた。
横顔のどくろにハートマークの海賊旗である。
船の手すりを指でなぞり、彼女は言った。
「・・・何だい?このホコリは・・・」
海賊の下っ端が慌てて答えた。
「も・・・も!!申し訳ありません!!アルビダ様、船は隅から隅まで掃除したつもりでしたが・・・!!も・・・もう一度やり直しますので・・ど・・どうか・・・!!」
「どうか・・何だい?」
アルビダと呼ばれた彼女の目が光った。
「どうか金棒だけは・・・!いやだ死にたくない~~~っ!!!」
ガンッ!
下っ端はアルビダの金棒に一撃でやられてしまった。
「・・・コビー、この海で一番美しいものは何だい?」
倒れる下っ端を尻目に、そばにいた雑用に尋ねた。
「え・・・えへへへ、もちろんそれは、レディー・アルビダ様です!えへへへへ」
小さくて小太り、メガネをかけた、コビーと呼ばれた少年が愛想笑いで答えた。
「そうさ!!だからアタシは汚いものが大嫌いなのさ!!美しいアタシが乗る船も美しくなきゃねェ!!そうだろう?」
アルビダがコビーにじろりと目をやった。
「お前にはどういう訳か、人一倍海の知識があるから生かしておいてやってるんだ」
「は・・・はい、ありがとうございます」
「それ以外は能がないんだから、とっととクツを磨きな!!」
そう怒鳴って、アルビダはコビーを何度も蹴った。
「は・・・はい、すぐに!」
そんなアルビダに、コビーはなすすべもなくクツ磨き用の布を取り出した。
「ホコリ一つ残すんじゃないよ!!お前達!!!」
「へ・・・!!へいっ!!」
アルビダの恫喝に、海賊達は怯えながら掃除を始めた。
コビーはまだアルビダのクツを磨いている。
「もういいよ!!グズだね、お前は!!」
アルビダがコビーを蹴り飛ばした。
「え・・・えへへへ、す・・・・・すみません」
コビーがへらへら、力なく笑いながら答える。
「謝ってるヒマあったら、便所でも掃除してきな!!」
「えへへ・・・、はい、すぐにアルビダ様!!」
口から血を流しながらも、へらへら笑いはやめなかった。
しかし。
「・・・すぐに・・・」
彼の表情には、悔しさもにじみ出ていた。
島では海賊達が、ぶんどって来たお宝や、その他の荷物を倉庫に片付けている。
そこにコビーが酒樽を転がしながらやって来た。
「なに、酒樽が海岸に流れてきただと?雑用コビー」
海賊の1人が言った。
「は・・・はい、まだ中身も入ってるようなのでどうしたらいいでしょうか・・・」
「そりゃいい!おれ達で飲んじまおう!!」
別の海賊が言った。
「しかし兄弟!もしお頭にバレたらおれ達ァ・・・」
「なァにバレやしねェよ!」
別の海賊もけしかける。
「このことを知ってんのは酒蔵掃除のおれらとヘッポココビーの4人だけだ」
「・・・それもそうだな」
しぶっていた海賊も、仲間の言葉につられて言った。
「わかってんな、コビー・・・」
海賊達がコビーを脅す。
「は・・はい、もちろん!ぼ・・・ぼくは何にも見てません!えへへへ・・・!だ・・だからなぐらないでく・・・」
その時だった。
「あ───っ!!!よく寝た───っ!!!」
「ぬあ!!何だ!!!」
コビーを含めた海賊達は目を疑った。
少年が酒樽から飛び出してきたのだ。
「何とか助かったみたいだなァ。目ェ回って死ぬかと思ったよ!!はっはっはっは!!」
ルフィだった。
彼は酒樽の中に入り、あの大渦から難を逃れたのだった。
「ん?」
彼は周りに気がついた。
いかつい男3人と、小太りな少年が自分を見ている。
「誰だお前ら」
「てめェが誰だ!!!」
海賊たちがツっこむ。
「いったい、どういう状況で樽から人間が出てくんだ!?」
海賊の1人がルフィに迫った時、
「さぼってんじゃないよ!!!」
ドゴォッ!!!
金棒がすごい勢いで飛んできた。
その威力は倉庫を壊し、いかつい男達をぶっ飛ばす。
勢いでルフィの入った樽は、森の奥へと飛ばされてしまった。
「・・・お前達!!!この海で一番美しいものは何だい?」
アルビダが金棒を構えて迫る。
「アルビダ様っ!!も・・・勿論レディー・アルビダ様でございます」
海賊達が怯えて言った。
「そうだよ、そのアタシにたてつこうってのかい?」
「え?・・・え!?と・・・とんでもない、何の事だか・・・!!」
アルビダが怒鳴った。
「とぼけんじゃないよ!!船まで聞こえる大声で「よく寝た」って叫びやがったのはどいつだい!!?」
海賊が思い出す。あいつだ!
「は!そ・・・そうだお頭っ!!侵入者です!!」
別の海賊も言った。
「そう!!今コビーの野郎が変なヤツを連れて来やがって・・・!!」
「何・・・?」
アルビダが海賊達をじろりとにらみながら言った。
「まさかアタシの首を狙った賞金稼ぎじゃないだろうねェ・・・!!・・・コビーめ!!あのガキ裏切りやがったね!!」
「しかしこの辺りで名を聞く賞金稼ぎといやあ・・・」
「バカな!!あの男は今海軍に捕まってると聞いたぞ!!」
そんな海賊達の言葉に、
「本物なら逃げ出すくらいわけないさ。あの悪名高いロロノア・ゾロならね!!」
アルビダはほくそ笑んだ。
悪名高い賞金稼ぎに狙われること、それは自分自身の海賊としての評価の高さを物語っているからだ。
一方、森の中。
「・・・あの・・・、大丈夫ですか?ケガは?ずいぶん吹き飛ばされちゃいましたけど」
コビーは吹き飛ばされたルフィを追って来ていた。
心配そうに言うコビーに、ルフィは笑って言った。
「ああ大丈夫、なんかびっくりしたけどな。おれはルフィ。ここどこだ?」
「この海岸は海賊”金棒のアルビダ”様の休息地です。ぼくはその海賊船の雑用係、コビーといいます」
「ふーんそうか。実はどうでもいいんだけどな、そんなこと」
ルフィは酒樽から抜け出しながら言った。
「はあ・・・」
「小船とかねェかな、おれのやつ渦巻きにのまれちゃって」
「う・・・渦巻き!!?渦巻きに遭ったんですか!?」
驚くコビーに、ルフィはため息をつきながら言った。
「あー、あれはびっくりしたよ。まじで」
「ふつう死ぬんですけどね・・・。こ・・・小船なら、ない事もないですが・・・」
そう言ってコビーは、さらに森の奥にルフィを案内した。
奥の少し広くなったスペースに船?のような代物が置いてある。
かなりボロボロだ。
「なんだこりゃ。棺桶か?」
オブラートに包むことなく、ルフィはストレートにものを言う。
「一応・・・船です。ぼくが造った船です・・・!2年かかってコツコツと・・・」
「2年かけて?で・・・いらねェの?」
「はい・・・いりません」
コビーは船を見つめて言った。
「この船はここから逃げ出したくて造ったんですが、結局ぼくにはそんな勇気ないし・・・どうせ一生雑用の運命なんです。・・・一応・・・本当はやりたい事もあるんですけど・・・」
「じゃ、逃げればいいじゃねェかこれで」
ルフィの言葉に、コビーは激しく首を振って答えた。
「ム・・・ムリですよ、ムリムリ。もしアルビダ様に見つかったらって考えると足がすくんで・・・!!恐くてとても・・・!!!」
そして彼はアルビダの船に乗り込む事になったきっかけを話し始めた。
「・・・そう・・・、あれが運命の日でした。ぼくはただ釣りに行こうとしただけなのに、間違って乗り込んでしまったのが、なんと海賊船!!!・・・あれから2年、殺さないかわりに航海士兼雑用係として働けと・・・!!」
「お前ドジでバカだな───っ」
ルフィが驚いて言った。
「そのうえ根性なさそうだしなー。おれ、お前キライだなー」
「え・・えへえへえへえへへへへへ・・・!!!」
─── そんなはっきり・・・。
笑いながらはっきり言うルフィに、コビーは力なく笑った。
「でも・・・その通りです・・・。ぼくにも樽で海を漂流するくらいの度胸があれば・・・。・・・あの・・・ルフィさんはそこまでして海に出て何をするんですか?」
コビーの言葉に、ルフィは満面の笑顔で答えた。
「おれはさ、海賊王になるんだ!!!」
「え・・・」
その言葉にコビーは本気で驚く。
「か!!!か!!!海賊王ってゆうのはこの世の全てを手に入れたものの称号ですよ!!?」
さらに付け加えた。
「つまり、富と名声と力の”ひとつなぎの大秘宝”・・・あの、「ワンピース」を目指すって事ですよ!!?」
ルフィはその言葉を笑顔で聞いている。
「死にますよ!?世界中の海賊がその宝を狙ってるんです」
「おれも狙う」
当然のように言った。
「・・・ム・・・ムリです!!絶対無理!!ムリムリムリ無理に決まってますよ!!海賊王なんて、この大海賊時代の頂点に立つなんてできるわけないですよ!!ムリムリっ!!」
ルフィの鉄拳がコビーへ飛んだ。
「痛いっ!!!ど・・・どうして殴るんですか!!」
「なんとなくだ!!」
「・・・でもいいや・・・慣れてるから・・・えへへへ・・・」
コビーは自虐的だった。
「─── おれは死んでもいいんだ!」
「え?」
ルフィの言葉にコビーは耳を疑う。
ルフィはかぶっていた麦わら帽子を脱いで、帽子に誓う様に言った。
「おれがなるって決めたんだから、その為に戦って死ぬんなら別にいい」
その姿に、コビーは衝撃を受けた。
─── なんてすごい覚悟だろう・・・!!
「・・・し・・死んでもいい・・・!!?」
「それにおれはやれそうな気がするんだけどなー、やっぱ難しいのかなー」
軽く言うルフィ。しかしコビーは受けた衝撃に涙が止まらなかった。
─── 考えた事もなかった・・・
「・・・ぼくにも・・・やれるでしょうか・・・!!」
「ん?何が?」
コビーは誰にも言ったことのない、自分の胸のうちだけに秘めていた夢をルフィに言った。
「ぼくでも・・・、海軍に入れるでしょうか・・・!!」
「海軍?」
「ルフィさんとは敵ですけど!!海軍に入ってえらくなって、悪い奴を取りしまるのがぼくの夢なんです!!!小さい頃からの!!!」
コビーは心から訴えた。
「やれるでしょうか!!?」
「そんなの知らねぇよ!」
ルフィは笑って答えた。
「いえ!!!やりますよ!!!どうせこのまま雑用で一生を終えるくらいなら!!!海軍に入る為命を懸けてここから逃げ出すんです!!そしてアルビダ様・・・アルビダだって捕まえてやるんです!!」
そう叫んだ時だった。
「誰を捕まえるって!!?コビー!!!」
「うわあ!!!」
コビーを追って来た、アルビダの金棒がコビーの船を直撃した。
「僕の船・・・」
コビーの2年間が、アルビダに抵抗した証が、一瞬にして打ち砕かれた。
「このアタシから逃げられると思ってんのかい!?」
海賊達を引き連れたアルビダが、ルフィをじろりと見て言った。
「そいつかい、お前の雇った賞金稼ぎってのは・・・。ロロノア・ゾロじゃなさそうだねェ・・・最後に聞いてやろうか・・・、この海で一番美しいものは何だい・・・?コビー!!」
アルビダの迫力に恐れをなしたコビーが、おどおどしながら言った。
「・・・!!え・・・えへへ、そ・・・それは勿論・・・」
「誰だ、このイカついおばさん」
ルフィがまたもやストレートに言った。
そうなのだ。アルビダは自分では『一番美しい』と言ってはいるが、実際は体はごつく、そばかすだらけの醜いおばさんなのだ。
その言葉にブチ切れるアルビダ。
「こいつ・・・、何て事・・・!!」
その恐ろしさをよく知っている海賊達は震え上がった。
コビーが慌てて言う。
「ルフィさん!!訂正して下さい!!この方はこの海で一番・・・」
その時、ルフィの言葉がコビーの頭によぎった。
”おれがなるって決めたんだから、それで戦って死ぬんなら別にいい”
「一番・・・、一番イカついクソばばあですっ!!!!」
とうとう言ってしまった。
ルフィが大爆笑する横で、怒り狂ったアルビダがコビーに迫っていた。
「このガキャ───っ!!!!!」
「っアアアア───!!!!!」
─── くいはない!!くいはない!!僕は言ったんだ!!戦った!!夢の為に!!戦ったんだ!!!!
「・・・よく言った、さがってなコビー!!」
ルフィがコビーを押しのけた。
「ル・・・ルフィさん!!」
「同じ事さ!!2人共・・・生かしちゃおかないよ!!!」
そう叫んで、アルビダは金棒をルフィの頭に振り下ろした。
しかし金棒の下で、ルフィがにやりと笑う。
「効かないねえっ!ゴムだから」
「バ・・・、そんなバカな!!!アタシの金棒が」
アルビダがうろたえる。
倉庫や船を一発で破壊するほどの威力なのに!
海賊達も、コビーも目の前の出来事が信じられなかった。
その光景を尻目に、ルフィが反撃する!
「ゴムゴムの・・・、銃(ピストル)・・・!」
「な!!!」
ドウン!!!
ルフィの伸びた腕がキレイにアルビダの顔面に入り、一発でKOした。
「・・・・・!!手が・・・、手がのびたぞ!!!」
「お頭!!!アルビダ様が負けた!!化物だ!!」
うろたえる海賊達に向かってルフィは言った。
「コビーに一隻小船をやれ!こいつは海軍に入るんだ!!黙って行かせろ」
「は・・・はい」
海賊達に異論があるはずがない。
「ししし!」
笑うルフィに、コビーは感謝の涙を流した。
「・・・あのゴムゴムの実を食べただなんて、驚きました」
しばらくしてルフィとコビーの2人は、海賊達からもらった小船の上にいた。
波は穏やか、島での出来事などなかったかのような、船出日和である。
「でも・・・、ルフィさん。”ワンピース”を目指すって事は・・・あの、”偉大なる航路(グランドライン)”へ入るってことですよね・・・!」
「ああ」
コビーが不安げに言った。
「あそこは海賊の墓場とも呼ばれる場所で・・・」
「うん、だから強い仲間がいるんだ」
ルフィはコビーの方を向いて言った。
「これからお前が行く海軍基地に捕まってるって奴」
「ああ・・、ロロノア・ゾロですか?」
コビーも思い出して言った。
「いい奴だったら仲間にしようと思って!」
ルフィがにっこり笑う。
「え───っ!!またムチャクチャな事をぉーっ!!!ムリですよ、ムリムリムリあいつは悪魔のような奴なんですよ!?」
コビーが慌てる。
が、ルフィはどこ吹く風。
「そんなのわかんないだろ」
「ムリっ!!」
船は行く。
海軍基地へ。

コビー&アルビダ初登場の回です。
登場はこれだけかと思ったら、なんとびっくり後々重要なキャラになるなんて・・・。
読んでるほうも気が抜けないです(笑)。
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