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第4話 海軍大佐”斧手のモーガン”

「や・・・やりやがった・・・!!あいつ誰だ!!」
「大佐の息子を殴りやがった・・・!!モーガン大佐が黙ってないぞ!!!」

町の人達が慌てふためく。
それもそのはず、この町の絶対的な権力者モーガン大佐の息子を、麦わら帽子をかぶった少年が思いっきり殴り倒したのだ。

「ルフィさん!!こらえて下さい!!仮にも相手は海軍です」
「知るか!!何やってても、クズはクズだ!!」

コビーは必死でルフィを抑えた。

─── これ以上状況が悪くなることは避けなきゃ!!!

殴り倒されたヘルメッポがほっぺたを押さえて叫ぶ。

「な・・・な・・・、殴りやがったな!!このおれを殴りやがったな!!親父にだって、一度も殴られたことねェのに・・・!!おれは海軍大佐モーガンの御曹司だぞ!!!親父に言いつけてやる!!!!」

その言葉に町中の人が震え上がった。

「お前がかかってこいよ」
「ルフィさん、止めて下さい!!」

再び殴りかかりそうなルフィを、コビーが再度がっちり引き止める。

「おれを殴ったことを後悔しながら死んでいけ、お前は死刑だ!!!親父に殺されちまえ!!バーカ!!」

悪態をつきながらヘルメッポは、海兵たちに両脇を抱えられ、その場を一目散に逃げて行った。

「・・・あんな奴、これ以上殴る価値もねェ」

ルフィは、殴った勢いで飛んだ麦わら帽子をかぶり直した。

「すごいのね、お兄ちゃん」

女の子がルフィの元に駆け寄ってきた。

「私、胸がすっとしちゃった」
「そうか?じゃあ、もっと殴っときゃよかったな!」

女の子に笑って言った時、1人の女の人が慌てて駆け寄ってきた。

「リ・・・リカ!!こっちへ来なさい!!」

女の子、リカのママだった。

「あの人と口を聞いちゃダメ!仲間だと思われたらリカも殺されちゃうのよ!!」

リカのママはそう言って、リカを家の中へ連れ戻す。
周りの町の人達も慌てて家の中に入っていく。

「だってママ、あの人はいい人よ!ゾロって人だって・・・」
「バカな事言わないの!!まさか磔場へは行ってないでしょうね!?」
「う・・・うん、行ってないよ・・・!!」
「さ、早く家へ入って!!」

リカはママに家の中に引っ張られるようにして入っていった。
ルフィたちに申し訳なさそうな顔をして。
そんなリカを手を振りながら笑顔で見送ったルフィは、回れ右をしてずんずん進んで行った。
コビーが慌てて後を追う。

「やっぱりただじゃ済みそうにありませんよ!!例の大佐が怒って、下手すれば海軍が動く恐れも・・・」
「その時はその時だ!おれ、ゾロに会ってくる」





─── その頃、海軍基地本館では。

「おれは、偉い」

最上階の豪華な部屋で、これまた豪華な椅子にふんぞり返り、葉巻をくゆらす1人の男がいた。
この海軍基地を統べる大佐、斧手のモーガンである。
鋼鉄のあごを持ち、筋骨隆々の腕の右腕は大きな斧となっていた。

「はっ、何しろ大佐でありますから!!モーガン大佐」

そばに控えていた海兵がそれに答える。

「・・・その割には近ごろ町民共の”貢ぎ”が少ねェんじゃねェか?」
「はっ!その・・・、大佐への納金に関しましては、なにぶん町人たちの懐にも限界がありまして・・・」
「懐は問題じゃねェ・・・、要はおれへの敬服度だ!!」

モーガンの迫力に、海兵がひるんだ時、

「親父っ!!!」

けたたましい音を立てて、息子のヘルメッポが部屋に飛び込んできた。

「・・・どうした、ヘルメッポ。騒々しいぞ」
「ブッ殺してほしい奴がいるんだよ!!!」

殴られたあとを冷やしながら、ヘルメッポが父親に訴えた。







一方、ルフィは再びゾロの元にやってきた。

「よっ」
「また来たのか。海賊の勧誘なら断ったハズだぜ・・・!!」

ゾロが呆れたように言った。
だが当のルフィは、

「おれはルフィ!縄解いてやるから仲間になってくれ!!」

ゾロの言葉もどこ吹く風。

「話聞いてんのか、てめェ!!・・・おれにはやりてェ事があると言っただろう。誰が好んで海賊なんて外道になるか」

ゾロがルフィを睨む。

「別にいいじゃんか。お前元々悪い賞金稼ぎって言われてんだから」
「世間でどう言われてるかは知らんが、おれはおれの信念に後悔するようなことは何一つやっちゃいねェ!これからもそうだ。だから海賊にもならねェ!!」

ゾロの信念はゆるぎない。普通だったらその思いに気圧され諦めるところだが・・・。

「知るかっ!おれはお前を仲間にするって決めた!!」

これまたルフィの信念もゆるぎない。

「勝手なこと言ってんじゃねェ!!」

ゾロが怒鳴る。

─── 何なんだコイツは。

「・・・そういえば、お前刀使えるんだってな!」

どこから聞いてきたのか、ルフィが思い出したように言った。

「!・・・・・フン、・・・ああ、何かに体をくくりつけられてなきゃ、一応な」
「刀は?」
「取られたよバカ息子に。命の次に大切なおれの宝だ・・・!!」
「へ───、宝物か。そりゃ一大事だな。・・・よし!あのバカ息子からおれが刀を奪ってやる!!」
「何?」
「そしておれから刀を返してほしけりゃ、仲間になれ」
「たち悪ィぞ、てめェ!!」

─── ほんっとに、何なんだコイツは!!

「よし!行ってくる!!」
「おい待て!!」

ルフィは止めるゾロを気にも留めず、海軍基地の方へダッシュして行った。

「・・・基地にのり込むつもりかよ・・・。バカか、あいつは・・・!!」

走るルフィの背中に、ゾロは思わずつぶやいた。







そして、その当の海軍基地では屋上に大きな銅像を立てる作業を行っていた。
勿論ここの海軍のトップである、モーガンの銅像である。
その作業を見守るモーガンに、息子のヘルメッポが噛み付いた。

「親父っ!!なんで仕返しに行かねぇんだ!!おれを殴りやがったんだぜ!!?親父にも殴られたことのない、おれの顔を!!!」

そんなヘルメッポに、モーガンは静かに言った。

「・・・・・おれが今までなぜお前を殴らなかったか、わかるか?」
「・・・そりゃあ、親父にとっておれが・・・」
「そうお前が・・・、殴る価値もねェウスラバカ息子だったからよ!!!」

モーガンはそう怒鳴って、ヘルメッポを思いっきり殴り倒した。

「何でおれが貴様のケンカの尻ぬぐいしなきゃならねェんだ。・・・てめェがおれの偉さを利用するのは構わんが、おれが手を下すのは、おれに逆らった奴だけだ!!!」

そしてヘルメッポのあごを掴み、

「勘違いするなよ。てめェが偉いんじゃねェ!!偉いのはてめェの親父!!つまりおれだ」
「・・・・・」

ヘルメッポは怯えて声も出ない。

「・・・そういや」

モーガンは海兵の報告を思い出して言った。

「ネズミが一匹、おれの磔場に侵入したらしいな」
「へ・・・?あ・・・ああ、あのチビのことかい・・・」

ヘルメッポは床にへたり込んで言った。腰が抜けて立てない。

「あいつなら、おれが・・・」
「ちゃんと殺してきたんだろうな」
「は?」

ヘルメッポは父親の言動に慌てる。

「いや・・・、だって殺すって・・・。ありゃまだホントガキだしよ・・・。自分で何したかなんて・・・」

モーガンはそんなヘルメッポを無視し、一人の海兵に命じた。

「おいお前、町へ行って殺して来い。」
「え・・・」
「どんなガキでもおれの命令に背けば反逆者だ!!」

命じられた海兵は、さすがに反論する。

「そ・・・そんな大佐!相手はまだ幼い少女です!!・・・・・!!たとえ大佐の命令でも、私には・・・!!」
「できねェってのか?お前は海軍中尉だろう?・・・中尉は大佐より偉くねェよな・・・ん?」
「は・・・はい」

モーガンが凄んだ。

「だったら貴様はおれにたてつく権利はない!!おれが殺れと言ったら殺れ!!」
「で・・・できません・・・!!!」
「てめェも反逆者だ!!!」

モーガンの右腕の斧が、中尉に振り下ろされた。

「・・・!!なにもそこまで・・・!!」

あまりの光景にヘルメッポも思わずつぶやく。

「ちゅ・・・中尉!!」

周りの他の海兵が慌てて中尉に駆け寄った。
それを尻目に、モーガンは言う。

「まァいい・・・、町民共のみせしめに、後でおれが直々に町へ行くとしよう」

そして右腕の斧を大事そうに抱えるとこう言い放った。

「おれは海兵として、この腕っぷしで大佐にまで登りつめた。いいか・・・、世の中称号が全てだ!!!この基地で最高位の大佐であるこのおれは、最高に優れた人間である、ということだ・・・」

海兵たちをじろりと睨み、

「偉い人間がやることは全て正しい!!!・・・違うかてめェら・・・!?」
「はっ!!その通りであります、大佐!!」

海兵たちは、怯えて従うしかなかった。
モーガンは作業中の銅像を誇らしげに見つめると、

「みろ!!これがおれの権力の象徴だ!!!長い年月をかけて今日完成したばかりの、おれの念願の像だ!!さァ早く像を起こせ!!この基地の頂点におれの偉さを示すんだ!!」

銅像を立てる作業が再開された。







刀を探しにやってきたルフィは、海軍基地の真下までやってきた。

「おかしいなー、海兵が全くいねェ。どっかで会議でもやってんのかな?」

それもそのはず、基地の海兵は全て屋上での銅像設置作業に借り出されているのだ。
そんなこととは知らないルフィは、困ってしまった。

「これじゃ刀どころか、ばか息子の居場所も聞き出せねぇよ・・・」

ふと見上げると、屋上で何かやってる模様。

「ん?なんか上で声がしたかな?・・・行ってみよう!」

屋上へ向け、反動をつけて腕を伸ばす。
屋上の角に手が届いた。

「ゴムゴムの・・・ロケット!!!」

─── その頃、屋上では引き続き設置作業が進められていた。

「引け!!引け!!」

ガチン・・・。

作業中に、誤って像の腕部分が屋上の建物にかすった。
モーガンはそれを見逃さない。

「オイ、ちょっと待て・・・!!!今・・・ぶつけやがったな!?」
「も・・・申し訳ありません、不注意でした」

海兵が慌てて詫びる。

「貴様、おれがこの像の完成をどれだけ待ち望んだと思ってやがる・・・!!早々に傷つけやがって・・・!!」
「申し訳ありません大佐!!責任持って修繕を・・・!!」
「この像はおれ自身だと思え・・・!!キズ一本、汚れの一つでさえ、大佐への反逆だとそう思え!!!思い知れ!!」

海兵に斧を向けた時だった。
地上から、びよんっと飛んでくるものがあった。勿論ルフィだ。

「うわっ、飛びすぎっ」

思った以上に反動がついてしまったらしく、屋上を飛び越えてしまった。

「なんだありゃ」
「下から何か飛んで来・・・」

ルフィは思わず作業中の像に捕まった。

「止まった!」

ルフィは止まったが、さらにその反動で作業中の海兵たちの手が、像を取り巻くロープから離れる。
と、いうことは・・・。

バカッ!!

支えのなくなった銅像はゆっくりと倒れ、屋上の角で真っ二つに割れてしまった。
その様子を、海兵たちとヘルメッポはなすすべもなくただみつめるしかない。
そして長い間待ち続けていた自分の象徴を粉々にされたモーガンは、ショックで声も出ない。
そんな彼らに、ルフィは、

「ご・・・ごめんなさい」

とりあえず素直に謝った。

「あいつを捕まえろ、おれが殺す!!!!」

怒り心頭のモーガンが大声で怒鳴る。

「は・・・、はっ!!只今」

その迫力に、海兵たちはさらに怯えた。
ヘルメッポが叫ぶ。

「親父、こいつ!!おれを殴った奴だよ!!だから言ったろ、ろくな奴じゃねェんだ!!」
「お前、探してたんだよ!!」

ようやく見つけたヘルメッポを引っ張って、ルフィは建物の中へ走って行った。

「はあああああ、離せ貴様。親父、助けてェ!!!」
「追えェ!!」

海兵たちが後を追いかける。
その時、別の海兵が下で何かを見つけた。

「大佐、磔場に誰かいます!!」
「何ィ・・・!!?次から次へ反逆者か!!!皆殺しにしてやる・・・!!」

モーガンの怒りは収まらなかった。






そして、その磔上ではコビーがゾロの元にいた。

「・・・ええ!?ルフィさんが基地の中へ?またムチャクチャなことを・・・!!」

コビーが呆れて言った。

「本当だぜ、何者なんだあいつは」

ゾロも呆れる。
コビーはそんなゾロの縄をほどき始めた。

「おい、いいのか!おれに手を貸せばてめェが殺されるぞ!」

慌ててゾロが言った。

「あなたに捕まる理由はない筈です!!ぼくはこんな海軍見てられない!!」

コビーは言い切った。

「ぼくはきっと正しい海兵になるんです!!ルフィさんが海賊王になるように!!」

その言葉にゾロは心底驚いた。

「何?か・・・海賊王だと・・・!?意味わかって言ってんのか」

コビーが笑う。

「えへへへ・・・、ぼくも驚きましたけど。だけど本気なんです。彼はそういう人です!!」

その時だった。
基地屋上からの銃弾が、コビーを襲った。
ゾロは野獣の目で屋上を見上げた。







─── 一方その頃のルフィ。

「ゾロの刀はどこだ!!」

海兵たちの追っ手も気にせず、ゾロの刀を探す。

「ゆう!!言うから引きずらないでっ!!」

ヘルメッポの弱々しい叫びが基地内の廊下に響いていた。
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第3話 ”海賊狩りのゾロ”登場

仲間集めの真っ最中のルフィと女海賊アルビダの支配を逃れたコビーは、海兵たちのいる町、シェルズタウンに向けてのんびりと海賊達から奪った小船を進めていた。

「魔獣ねーっ」

船の舳先に腰掛け、水平線を見つめながらルフィが言った。
今日も穏やかな快晴。潮風が心地いい。

「そうですよルフィさん」

コビーがズレためがねを治しながら言う。

「ロロノア・ゾロは”海賊狩りのゾロ”という異名を持つ、恐ろしい奴です。血に飢えた野犬のように賞金首をかぎまわり海をさすらう男だと、人の姿を借りた”魔獣”だと、人は言います」
「ふーん」

ルフィが気のないそぶりで言った。

「だから仲間にしようだなんて、バカな考えは捨てた方が・・・」
「でも、別におれは仲間にって決めた訳じゃなくて、もしいい奴だったら・・・」
「悪い奴だから捕まってるんですよ!!」

コビーは必死で止める。

─── この人ホントに、大丈夫かな・・・。

そうこうしている内に、水平線のかなたに目指す島が見えてきていた。







数時間後、2人はシェルズタウンの港に到着した。

「着いた!!海軍基地の町っ!!」

目の前に広がる町に向かい、ルフィが叫ぶ。

「はい!!ついに!!」

コビーも感慨深げだ。

「・・・お前すごいな、コビー」
「え?」
「ちゃんと目的地に着いたよ!」

ルフィが尊敬のまなざしでコビーを見る。

「あたりまえですよ!海に出る者の最低限の能力です!」

コビーが焦って言った。

「ルフィさんだって、毎度漂流してちゃ海賊になんてなれませんよ。せめて航海士を仲間にするとか・・・」
「ああ、そうする!!メシ食おう」

ルフィはずんずん町に向かって歩いて行った。

─── ホントにホントに大丈夫かなあ・・・。

奔放なルフィに、改めてコビーは不安を隠せなかった。





2人は町のメシ屋”FOOD FOO”で念願の食事にありついていた。

「─── じゃ、この町でコビーとはお別れだな!海軍に入って立派な海兵になれよ!」

腹いっぱいのルフィは、丸いおなかを叩きながら言った。

「はい・・・!!ありがとうございます。ルフィさんも立派な海賊になって下さい。・・・いずれは敵同士ですけど」

コビーがべそをかく。
アルビダの支配から救ってくれたルフィと、わかってはいても離れるのは辛かった。

「・・・そういや、基地にいるのかな。あの・・・ゾロって奴」

ガタン!!

ルフィがそういった瞬間、周りにいた客達がいすから転げ落ちた。
そして怯えるようにルフィたちの方を見つめる。

「・・・ここではゾロの名は禁句のようですね・・・」

コビーがルフィにささやいた。でもルフィはあんまり気にしていないようだ。

「・・・さっき張り紙を見たんですけど、ここの基地にはモーガン大佐という人がいて・・・」

ガタガタァン!!

「え!!?」

コビーのその言葉にも、周りの客達はいすから転げ落ちていた。







「─── はっはっはっは、おもしろい店だったなーっ、おれ後でもっかい行こうっ」

店を出たルフィは、今の客達の様子を思い出して腹を抱えて笑っていた。
その横で、コビーは不安そうだった。

「妙ですよ・・・!!ぼく、なんだか不安になってきました・・・。いつ脱走するとは限らないロロノア・ゾロの名に過敏になる気持はわかりますが、なぜ海軍の大佐の名にまで怯えるんでしょうか」
「さあなー、なんかノリで吹っ飛んじゃったんじゃねェか?」

軽く言うルフィに、

「そんなわけないじゃないですか!!・・・ぼくはまじめに言ってるんですよ」

コビーがあきれる。

やがて2人は海軍基地の前にたどり着いた。

「近くで見るとゴッツイなー」
ルフィが感嘆の声を上げる。

それもそのはず、海軍基地の中は大きな建物が連なり、周りをぐるっと頑丈なレンガの塀が取り囲んでいる。
建物のてっぺんにはかもめの紋章が描かれた旗がはためき、鋼鉄の門の扉にも同じようにかもめの紋章が描かれ、”海軍”と書かれていた。
そのものものしさに、コビーは気圧されているようだった。

「行けよ!コビー」

送り出すルフィに、コビーは、

「で・・・、でも、まだその・・・、心の準備が・・・!!さっきの一件もありますし・・・」

かなり怖気づいていた。
そんなコビーを尻目に、ルフィはぴょんっと塀に飛びついた。
そして上から顔を覗かせ、

「魔獣はどこかなァ」

好奇心いっぱいの顔で、辺りを見回した。

「覗いて見えるような所にはいませんよ。きっと奥の独房とか・・・」
「いや!なんかいるぞ向こうに!!ゾロって奴かも」

ルフィはもっと近くに行こうと、塀から降りて駆け出した。
コビーも慌てて後についていく。

「─── ほらあいつ」

そばに見える位置でもう一度塀の上から顔を覗かせ、ルフィが言う。
ルフィの視線の先には、地面から突き出た太いくいにくくりつけられた若い男がいた。
黒い手ぬぐいを頭に巻き、腹まきをしている。手ぬぐいのすそから見える髪の毛は、鮮やかな緑色。そして左の耳には3連のピアス。
ひどくなぐられたのだろう、血だらけではあったが、見るものを震え上がらせる鋭い視線は死んではいなかった。
コビーも恐る恐る顔を覗かせ、その人物の顔を見たとたん腰を抜かして塀から転げ落ちた。

「どうした?」
「く・・・く・・・黒い手ぬぐいに腹まき!!!ほ・・・本物だ、本物のロロノア・ゾロです!!!・・・なんて迫力だろう・・・!!!あれが、ゾロ・・・!!!」

コビーの言葉に、ルフィがつぶやいた。

「あれがそうか・・・。あの縄ほどけば、簡単に逃がせるよな。あれじゃあ」
「バ・・・バカなこと言わないでくださいよ!!!あんな奴逃がしたら町だって無事じゃ済まないし、ルフィさんだって殺そうとしますよ、あいつは!!!」

思わずコビーが叫ぶ。

「おい、お前」

そんな2人に気づいた、”海賊狩りのゾロ”がにやりと笑って言った。

「ちょっとこっち来て、この縄ほどいてくれねェか。もう九日間もこのままだ、さすがにくたばりそうだぜ」
「しゃ・・・!しゃべった・・・!!!」
「おい、あいつ笑ってるぞ」

怯えるコビーの横で、ルフィが感心したように言った。

「礼ならするぜ。その辺の賞金首ぶっ殺しててめェにくれてやる。嘘は言わねェ、約束は守る」
「ダ・・・ダメですよ、ルフィさん、あんな口車に乗っちゃ・・・!!縄を解いたとたんにぼくらを殺して逃げるに決まってるんですからっ!!」

コビーは震えながら訴えたが・・・、

「殺されやしねェよ」

ルフィは笑った。

「おれは強いからね」

「あァ!?」
ゾロがにらむ。

─── こ・・・、この人はもお~~~~~!!

コビーは早々にこの場から立ち去りたかった。

その時、2人の横に突然はしごが立てかけられ、小さな女の子が上ってきた。
そして2人にしーっと、だまらせると、塀を乗り越えこそこそとゾロに近づいて行く。

「あ・・・、ちょっときみ、危ないよ!!」

コビーの叫びにもお構いなしだ。

「ルフィさん止めてくださいよっ!!あの子、殺されちゃいますよ!!」
「自分でやれよ、そうしたいなら」

慌てるコビーに、ルフィもお構いなし。

「・・・おい、なんだてめェ」

女の子に気づいたゾロが凄む。

「殺されてぇのか・・・、消えなチビ!!」
「あのね、私おにぎり作ってきたの!お兄ちゃんずっとこのままでおなか空いてるでしょ?」

ゾロのことを恐がるでもなく、女の子はにっこり笑って言った。

「私初めてだけど、一生懸命作ったから・・・」
「ハラなんかへっちゃいねェ!!そいつ持ってとっとと消えろ!!」
「だけど・・・」
「いらねェっつったろ!!帰れ!!踏み殺すぞガキ!!」

その時だった。

「ロロノア・ゾロォ!!!」

取り囲んでいる塀の扉が開き、海兵たちを従えた男がずかずかと入ってきた。

「イジメはいかんねェ、親父に言うぞ」

ヘルメットのようなおかっぱ頭にケツアゴ、高級なスーツを身にまとい、宝石をちらつかせながら入ってきたこの男、名をヘルメッポ、海軍大佐の息子である。

「また変なのが出たな」

ルフィがつまらなさそうに言う横で、

「あれはきっと海軍の偉い人ですよ・・・、よかったあの子殺されなくて・・・」

コビーがほっとして言った。

「・・・チッ、七光りのバカ息子が・・・」

ゾロがヘルメッポを睨む。

「バカ?こら調子にのるなよ。おれの親父はかのモーガン大佐だぞ!!」

ヘルメッポが嫌味な声で見下したように言った。そして隣の女の子の手にしたおにぎりを見つけると、

「・・・おやおやお嬢ちゃん、おいしそうなおにぎり持って差し入れかい?」
「あ!だめっ!!」

おにぎりを奪い取って一口。しかし。

「ぷへェっ、まずうっ!!く・・・クソ甘ェ!!砂糖が入ってんぞ、こりゃ。塩だろうが、ふつうおにぎりには塩っ」

おにぎりを地面に思いっきり吐き出した。

「だ・・・、だって甘いほうがおいしいと思って・・・!!」
「こんなもん食えるか、ボケっ!!」

そう叫んで、女の子の手に残っていたおにぎりも地面に落とし、ヘルメッポは力いっぱい何度も踏みつける。

「ああっ!!やめてよ!!やめて!!食べられなくなっちゃう!!」

女の子がおにぎりをかばおうとするが、ヘルメッポは踏み続ける。

「ひ・・・ひどい、あの子がせっかく作ったのに・・・!」

あまりのことに、コビーは思わず言った。
ルフィは黙って様子を見ている。

「大丈夫!!アリなら何とか食ってくれるさ。ひえっひえっひえっ」

意地悪そうに笑いながら、ヘルメッポはさらに地面にめり込ませる。

「ああ・・・」

女の子は、もうおにぎりとはいえない、ただの土の塊をただ見つめるだけだった。

「・・・ひどいよ!!!私・・・、一生懸命作ったのに・・・!!!」

涙があとからあとからあふれてくる。
その女の子の様子を見てヘルメッポは、

「あ~あ~、泣くな泣くな!!だからガキは嫌いだぜ」

そして傍の看板を指差すと、

「悪いのはお前なんだぞ?ここになんて書いてあるか読めねェのか。『罪人に肩を入れし者同罪とみなす 海軍大佐モーガン』」
「・・・・・!!」
「おれの親父の恐さくらいは知ってるよな。てめェが大人なら死罪ってとこだ!!」

ヘルメッポは後ろにいた海兵に向かって言った。

「おい、このガキ投げ捨てろ!!」
「・・・は?」

海兵も耳を疑う。
ヘルメッポはそんな海兵の胸倉を掴み、

「塀の外へ投げ飛ばせっつったんだよ!!おれの命令が聞けねェのか!!!親父に言うぞ!!!」
「は・・・はい、只今っ!!」

ヘルメッポの命令に逆らえない海兵は、女の子を思いっきり塀の向こうへ投げ飛ばした。

「いやああ!!」

ドサッ・・・!

飛んできた女の子はルフィががっちりキャッチ。事なきを得た。

「きみ・・・、大丈夫?なんてひどい奴なんだ・・・」

コビーが慌てて女の子の元に駆け寄る。
ルフィは黙ったまま、短パンに付いた土を落とす。しかしその顔は何か言いたげだった。

「─── しかし、しぶとく生きてやがるなてめェは!」

女の子がいなくなった塀の中では、ヘルメッポが呆れたようにゾロに言った。

「ああ・・・、ちゃんと一ヶ月生き延びてやるさ。約束は守れよ・・・!!」

ゾロが睨んだまま言った。

「ひえっひえっひえっ!あー守る!!一ヶ月そのままで生きられたら約束どおり逃がしてやるよ!!・・・せいぜいやってみろ!!」

高笑いを残し、ヘルメッポは海兵たちを引き連れその場を離れて行った。





ふと気づくと、ルフィがゾロの目の前に立っていた。

「・・・なんだ、てめェまだいたのか。ボーッとしてると親父に言いつけられるぜ」
「まァね」

ルフィは笑って言った。

「おれは今一緒に海賊になる仲間を探してるんだ」
「海賊だと?ハン・・・!自分から悪党に成り下がろうってのか。ご苦労なこって・・・」

ゾロが毒づく。

「おれの意志だ!海賊になりたくて何が悪い!!」

ルフィが真顔で言う。
誰にもけなされたくない、彼自身の夢だ。

「・・・で?まさか縄をほどいてやるから、力を貸せだの言い出すんじゃねェだろうな」
「別にまだ誘うつもりはねェよ。お前悪い奴だって評判だからな」
「悪い奴ね・・・。言っとくがそんな条件ならこっちから願い下げだ。おれにはやりてぇ事があるんだ!!お前に逃がしてもらわなくても、おれは自力で生きのびる!!一ヶ月ここに生きたままつったってりゃ助けてやると、あのバカ息子が約束してくれた」

ゾロは輝きを失わない鋭いまなざしで言った。

「なにがなんでも生きのびて、おれはおれのやりたいことを成し遂げる!!!」

そんなゾロに、ルフィが感心して言った。

「・・・・・ふーん、そうか。でもおれなら一週間で餓死する自信あるけどね」

ゾロがにやっと笑う。

「おれとお前じゃ気力が違うんだ。もの好きな仲間探しは他をあたるんだな」
「・・・・・」

その場を離れようとするルフィに、ゾロは思い出したように言った。

「・・・おい、ちょっと待て!」
「ん?」
「それ・・・とってくれねェか?」

ゾロの視線の先には、つい今しがたヘルメッポに踏みつけられたおにぎりの残骸があった。

「・・・食うのかよ、これ。もう、おにぎりじゃなくてドロの塊だぞ?」

ルフィは残骸をつまんで言った。

「いくら腹減ってても、こりゃあ・・・」
「ガタガタぬかすな。黙って食わせろ。落ちてんの全部だ!!」

そう言って口を大きく開ける。
ルフィが口へ放り込むと・・・、

バリバリッ!!ガリッ!!ゴリッ!!

およそ食べ物を食べてるとは思えない音を立てて、ゾロは全て食べきった。
だが、さすがに喘ぐゾロを見てルフィは、

「・・・だから言ったろ、死にてェのか?」
「ゴブッ・・・、あ、あのガキに伝えてくれねェか・・・!」
「・・・?何を?」

あぶら汗を流しながらゾロは言った。

「『うまかった、ごちそうさまでした』・・・ってよ」

ルフィは思わず笑顔になった。







ルフィ達は海軍基地を離れ、女の子を家まで送ることにした。
ゾロの行動の一部始終を女の子に伝えると、顔を輝かせて喜ぶ。

「ほんと!?」
「ああ!一つ残らずバリバリ食ってたよ」
「うれしいっ!」

それを聞いていたコビーが、少し前から感じていた疑問を口にした。

「あの人・・・、本当に噂通りの悪人なんでしょうか・・・」
「違うよ」

女の子が即座に否定する。

「だって、あのお兄ちゃんは何も悪いことしてないもの。町の人達は恐がってたけど・・・。捕まったのだって私を助ける為にモーガン大佐の息子が飼ってた狼を斬っちゃったからなの!それまでは野放しで狼が街を歩き回ってて、みんなすごく困ってて・・・!!」
「じゃあ、ゾロが捕まった理由ってのは・・・、アイツの飼い狼を斬ったってだけのことなのか」

なーんだ、とルフィが言う。

「うん」
「そうか・・・!!」

コビーも思い直したように言った。

「それもそうですよね、彼の気性の恐ろしさはさておき、賞金首を狙う事が罪になるわけありませんからね」

「悪いのはモーガン親子よ!!」

女の子が怒って言った。

「少しでも逆らえばすぐ死刑で、みんなびくびくしてるの」

その時、先ほどの嫌味な声が道の向こうから聞こえてきた。

「ひえっひえっひえっひえっ!!頭が高ェっつってんだろ、親父に言うぞ!!!」

見ると、道の両側に町の人達がひざを付き頭を下げている。店や家の中にいる人達も慌てて道に出て来てそれに倣っている。
そしてその真ん中を、さっきと同じように海兵を従えてヘルメッポが闊歩していた。

「ロロノア・ゾロみてェに磔になりてェか!?三日後にはゾロの奴を公開処刑にする!!みせしめだ、楽しみに待ってろ!!」
「三日後?」

ルフィは聞き逃さなかった。

「一ヶ月の約束はどうしたんだ!!」

ずかずかとヘルメッポの前に出る。

「なにィ?誰だ貴様、どこで聞いた。頭が高ェな」

そう言うと、ヘルメッポは思わず吹き出した。

「そんな約束ギャグに決まってんだろっ!!それを本気にする奴もまた、魔獣的にバカだけどな。ひえっひえっ~~~」

ドガッ!!!!

ルフィの堪忍袋の緒が切れた。
ヘルメッポの胸倉を掴むや否や、グーで思いっきり殴ったのだ。

「ルフィさんっ!!やめてください、落ちついて!!!」

コビーが慌ててルフィを抑えた。

「こいつ、クズだ」
「海軍を敵に回す気ですか!!!!」

ヘルメッポが殴られ、辺りは騒然としている。
そんな中、ルフィは言った。

「決めたぞコビー!!・・・おれはゾロを仲間に引き込む!!!」








 管理人ひとことこめんと
ゾロ初登場。
ゾロはもう、文句なくかっこいいです。
何でしょうね、あのかっこ良さ。反則です。ぞくぞくします。
・・・風邪?(爆)
私の中では3本の指に入る、らぶキャラ❤
あ、ちなみにルフィはごまめです。

第2話 その男”麦わらのルフィ”

「は───、今日もいい天気だねーっ」

広い海を無謀にも小船で旅するこの少年、なんと海賊の一団を作る”仲間集め”の途中なのだ。

少年の名は、”モンキー・D・ルフィ”。

赤いベストに青い短パン、サンダル履きで、幼い日に赤髪海賊団の大頭シャンクスからもらった麦わら帽子がトレードマークの少年。
左目の下には、これも幼い日に自らナイフで付けた傷がついている。

「こんなに気持ちのいい日なのになァ。この船旅はひとまず遭難ってことになるな!!」

オールを抱え、のんびり笑いながら言う。

・・・遭難?

「まさかこんな大渦にのまれるとは、うかつだった」

ルフィを乗せた小船は、気持ちのいい天気とは裏腹に大きな渦に巻き込まれていたのだ。

「助けてほしいけど誰もいないし、まーのまれちまったもんはしょうがないとして・・・、泳げないんだよねーおれ・・・」

これまた状況とは裏腹に、ルフィは焦るそぶりも見せない。
彼はこれでも一応本気で困ってるのだが。
そして彼は気づいた。

「あ!こんな大渦の場合泳げようが泳げまいが、関係ねェか」

泳げてもイミねーよ、とぽんと手を叩く。

「・・・わ!!あーっ」

・・・そんなことをやってる間に、彼は大渦に巻き込まれて行った。







とある島。
名を”ゴート島”という。
ここにはある海賊の船が停泊していた。
横顔のどくろにハートマークの海賊旗である。
船の手すりを指でなぞり、彼女は言った。

「・・・何だい?このホコリは・・・」

海賊の下っ端が慌てて答えた。

「も・・・も!!申し訳ありません!!アルビダ様、船は隅から隅まで掃除したつもりでしたが・・・!!も・・・もう一度やり直しますので・・ど・・どうか・・・!!」
「どうか・・何だい?」

アルビダと呼ばれた彼女の目が光った。

「どうか金棒だけは・・・!いやだ死にたくない~~~っ!!!」

ガンッ!

下っ端はアルビダの金棒に一撃でやられてしまった。

「・・・コビー、この海で一番美しいものは何だい?」

倒れる下っ端を尻目に、そばにいた雑用に尋ねた。

「え・・・えへへへ、もちろんそれは、レディー・アルビダ様です!えへへへへ」

小さくて小太り、メガネをかけた、コビーと呼ばれた少年が愛想笑いで答えた。

「そうさ!!だからアタシは汚いものが大嫌いなのさ!!美しいアタシが乗る船も美しくなきゃねェ!!そうだろう?」

アルビダがコビーにじろりと目をやった。

「お前にはどういう訳か、人一倍海の知識があるから生かしておいてやってるんだ」
「は・・・はい、ありがとうございます」
「それ以外は能がないんだから、とっととクツを磨きな!!」

そう怒鳴って、アルビダはコビーを何度も蹴った。

「は・・・はい、すぐに!」

そんなアルビダに、コビーはなすすべもなくクツ磨き用の布を取り出した。

「ホコリ一つ残すんじゃないよ!!お前達!!!」
「へ・・・!!へいっ!!」

アルビダの恫喝に、海賊達は怯えながら掃除を始めた。
コビーはまだアルビダのクツを磨いている。

「もういいよ!!グズだね、お前は!!」
アルビダがコビーを蹴り飛ばした。

「え・・・えへへへ、す・・・・・すみません」
コビーがへらへら、力なく笑いながら答える。

「謝ってるヒマあったら、便所でも掃除してきな!!」
「えへへ・・・、はい、すぐにアルビダ様!!」

口から血を流しながらも、へらへら笑いはやめなかった。
しかし。

「・・・すぐに・・・」

彼の表情には、悔しさもにじみ出ていた。







島では海賊達が、ぶんどって来たお宝や、その他の荷物を倉庫に片付けている。
そこにコビーが酒樽を転がしながらやって来た。

「なに、酒樽が海岸に流れてきただと?雑用コビー」
海賊の1人が言った。

「は・・・はい、まだ中身も入ってるようなのでどうしたらいいでしょうか・・・」
「そりゃいい!おれ達で飲んじまおう!!」

別の海賊が言った。

「しかし兄弟!もしお頭にバレたらおれ達ァ・・・」
「なァにバレやしねェよ!」

別の海賊もけしかける。

「このことを知ってんのは酒蔵掃除のおれらとヘッポココビーの4人だけだ」
「・・・それもそうだな」

しぶっていた海賊も、仲間の言葉につられて言った。

「わかってんな、コビー・・・」

海賊達がコビーを脅す。

「は・・はい、もちろん!ぼ・・・ぼくは何にも見てません!えへへへ・・・!だ・・だからなぐらないでく・・・」

その時だった。

「あ───っ!!!よく寝た───っ!!!」

「ぬあ!!何だ!!!」

コビーを含めた海賊達は目を疑った。
少年が酒樽から飛び出してきたのだ。

「何とか助かったみたいだなァ。目ェ回って死ぬかと思ったよ!!はっはっはっは!!」

ルフィだった。

彼は酒樽の中に入り、あの大渦から難を逃れたのだった。

「ん?」

彼は周りに気がついた。
いかつい男3人と、小太りな少年が自分を見ている。

「誰だお前ら」
「てめェが誰だ!!!」

海賊たちがツっこむ。

「いったい、どういう状況で樽から人間が出てくんだ!?」

海賊の1人がルフィに迫った時、

「さぼってんじゃないよ!!!」

ドゴォッ!!!

金棒がすごい勢いで飛んできた。
その威力は倉庫を壊し、いかつい男達をぶっ飛ばす。
勢いでルフィの入った樽は、森の奥へと飛ばされてしまった。

「・・・お前達!!!この海で一番美しいものは何だい?」

アルビダが金棒を構えて迫る。

「アルビダ様っ!!も・・・勿論レディー・アルビダ様でございます」

海賊達が怯えて言った。

「そうだよ、そのアタシにたてつこうってのかい?」
「え?・・・え!?と・・・とんでもない、何の事だか・・・!!」

アルビダが怒鳴った。

「とぼけんじゃないよ!!船まで聞こえる大声で「よく寝た」って叫びやがったのはどいつだい!!?」

海賊が思い出す。あいつだ!

「は!そ・・・そうだお頭っ!!侵入者です!!」

別の海賊も言った。

「そう!!今コビーの野郎が変なヤツを連れて来やがって・・・!!」
「何・・・?」

アルビダが海賊達をじろりとにらみながら言った。

「まさかアタシの首を狙った賞金稼ぎじゃないだろうねェ・・・!!・・・コビーめ!!あのガキ裏切りやがったね!!」
「しかしこの辺りで名を聞く賞金稼ぎといやあ・・・」
「バカな!!あの男は今海軍に捕まってると聞いたぞ!!」

そんな海賊達の言葉に、

「本物なら逃げ出すくらいわけないさ。あの悪名高いロロノア・ゾロならね!!」

アルビダはほくそ笑んだ。
悪名高い賞金稼ぎに狙われること、それは自分自身の海賊としての評価の高さを物語っているからだ。







一方、森の中。

「・・・あの・・・、大丈夫ですか?ケガは?ずいぶん吹き飛ばされちゃいましたけど」

コビーは吹き飛ばされたルフィを追って来ていた。
心配そうに言うコビーに、ルフィは笑って言った。

「ああ大丈夫、なんかびっくりしたけどな。おれはルフィ。ここどこだ?」
「この海岸は海賊”金棒のアルビダ”様の休息地です。ぼくはその海賊船の雑用係、コビーといいます」
「ふーんそうか。実はどうでもいいんだけどな、そんなこと」

ルフィは酒樽から抜け出しながら言った。

「はあ・・・」
「小船とかねェかな、おれのやつ渦巻きにのまれちゃって」
「う・・・渦巻き!!?渦巻きに遭ったんですか!?」

驚くコビーに、ルフィはため息をつきながら言った。

「あー、あれはびっくりしたよ。まじで」
「ふつう死ぬんですけどね・・・。こ・・・小船なら、ない事もないですが・・・」

そう言ってコビーは、さらに森の奥にルフィを案内した。
奥の少し広くなったスペースに船?のような代物が置いてある。
かなりボロボロだ。

「なんだこりゃ。棺桶か?」

オブラートに包むことなく、ルフィはストレートにものを言う。

「一応・・・船です。ぼくが造った船です・・・!2年かかってコツコツと・・・」
「2年かけて?で・・・いらねェの?」
「はい・・・いりません」

コビーは船を見つめて言った。

「この船はここから逃げ出したくて造ったんですが、結局ぼくにはそんな勇気ないし・・・どうせ一生雑用の運命なんです。・・・一応・・・本当はやりたい事もあるんですけど・・・」
「じゃ、逃げればいいじゃねェかこれで」

ルフィの言葉に、コビーは激しく首を振って答えた。

「ム・・・ムリですよ、ムリムリ。もしアルビダ様に見つかったらって考えると足がすくんで・・・!!恐くてとても・・・!!!」

そして彼はアルビダの船に乗り込む事になったきっかけを話し始めた。

「・・・そう・・・、あれが運命の日でした。ぼくはただ釣りに行こうとしただけなのに、間違って乗り込んでしまったのが、なんと海賊船!!!・・・あれから2年、殺さないかわりに航海士兼雑用係として働けと・・・!!」

「お前ドジでバカだな───っ」

ルフィが驚いて言った。

「そのうえ根性なさそうだしなー。おれ、お前キライだなー」
「え・・えへえへえへえへへへへへ・・・!!!」

─── そんなはっきり・・・。

笑いながらはっきり言うルフィに、コビーは力なく笑った。

「でも・・・その通りです・・・。ぼくにも樽で海を漂流するくらいの度胸があれば・・・。・・・あの・・・ルフィさんはそこまでして海に出て何をするんですか?」

コビーの言葉に、ルフィは満面の笑顔で答えた。

「おれはさ、海賊王になるんだ!!!」
「え・・・」

その言葉にコビーは本気で驚く。

「か!!!か!!!海賊王ってゆうのはこの世の全てを手に入れたものの称号ですよ!!?」

さらに付け加えた。

「つまり、富と名声と力の”ひとつなぎの大秘宝”・・・あの、「ワンピース」を目指すって事ですよ!!?」

ルフィはその言葉を笑顔で聞いている。

「死にますよ!?世界中の海賊がその宝を狙ってるんです」
「おれも狙う」

当然のように言った。

「・・・ム・・・ムリです!!絶対無理!!ムリムリムリ無理に決まってますよ!!海賊王なんて、この大海賊時代の頂点に立つなんてできるわけないですよ!!ムリムリっ!!」

ルフィの鉄拳がコビーへ飛んだ。

「痛いっ!!!ど・・・どうして殴るんですか!!」
「なんとなくだ!!」
「・・・でもいいや・・・慣れてるから・・・えへへへ・・・」

コビーは自虐的だった。

「─── おれは死んでもいいんだ!」
「え?」

ルフィの言葉にコビーは耳を疑う。
ルフィはかぶっていた麦わら帽子を脱いで、帽子に誓う様に言った。

「おれがなるって決めたんだから、その為に戦って死ぬんなら別にいい」

その姿に、コビーは衝撃を受けた。

─── なんてすごい覚悟だろう・・・!!

「・・・し・・死んでもいい・・・!!?」
「それにおれはやれそうな気がするんだけどなー、やっぱ難しいのかなー」

軽く言うルフィ。しかしコビーは受けた衝撃に涙が止まらなかった。

─── 考えた事もなかった・・・

「・・・ぼくにも・・・やれるでしょうか・・・!!」
「ん?何が?」

コビーは誰にも言ったことのない、自分の胸のうちだけに秘めていた夢をルフィに言った。

「ぼくでも・・・、海軍に入れるでしょうか・・・!!」
「海軍?」
「ルフィさんとは敵ですけど!!海軍に入ってえらくなって、悪い奴を取りしまるのがぼくの夢なんです!!!小さい頃からの!!!」

コビーは心から訴えた。

「やれるでしょうか!!?」
「そんなの知らねぇよ!」

ルフィは笑って答えた。

「いえ!!!やりますよ!!!どうせこのまま雑用で一生を終えるくらいなら!!!海軍に入る為命を懸けてここから逃げ出すんです!!そしてアルビダ様・・・アルビダだって捕まえてやるんです!!」

そう叫んだ時だった。

「誰を捕まえるって!!?コビー!!!」
「うわあ!!!」

コビーを追って来た、アルビダの金棒がコビーの船を直撃した。

「僕の船・・・」

コビーの2年間が、アルビダに抵抗した証が、一瞬にして打ち砕かれた。

「このアタシから逃げられると思ってんのかい!?」

海賊達を引き連れたアルビダが、ルフィをじろりと見て言った。

「そいつかい、お前の雇った賞金稼ぎってのは・・・。ロロノア・ゾロじゃなさそうだねェ・・・最後に聞いてやろうか・・・、この海で一番美しいものは何だい・・・?コビー!!」

アルビダの迫力に恐れをなしたコビーが、おどおどしながら言った。

「・・・!!え・・・えへへ、そ・・・それは勿論・・・」
「誰だ、このイカついおばさん」

ルフィがまたもやストレートに言った。

そうなのだ。アルビダは自分では『一番美しい』と言ってはいるが、実際は体はごつく、そばかすだらけの醜いおばさんなのだ。
その言葉にブチ切れるアルビダ。

「こいつ・・・、何て事・・・!!」

その恐ろしさをよく知っている海賊達は震え上がった。
コビーが慌てて言う。

「ルフィさん!!訂正して下さい!!この方はこの海で一番・・・」

その時、ルフィの言葉がコビーの頭によぎった。

”おれがなるって決めたんだから、それで戦って死ぬんなら別にいい”

「一番・・・、一番イカついクソばばあですっ!!!!」

とうとう言ってしまった。
ルフィが大爆笑する横で、怒り狂ったアルビダがコビーに迫っていた。

「このガキャ───っ!!!!!」
「っアアアア───!!!!!」

─── くいはない!!くいはない!!僕は言ったんだ!!戦った!!夢の為に!!戦ったんだ!!!!

「・・・よく言った、さがってなコビー!!」

ルフィがコビーを押しのけた。

「ル・・・ルフィさん!!」
「同じ事さ!!2人共・・・生かしちゃおかないよ!!!」

そう叫んで、アルビダは金棒をルフィの頭に振り下ろした。
しかし金棒の下で、ルフィがにやりと笑う。

「効かないねえっ!ゴムだから」
「バ・・・、そんなバカな!!!アタシの金棒が」

アルビダがうろたえる。
倉庫や船を一発で破壊するほどの威力なのに!
海賊達も、コビーも目の前の出来事が信じられなかった。
その光景を尻目に、ルフィが反撃する!

「ゴムゴムの・・・、銃(ピストル)・・・!」
「な!!!」

ドウン!!!

ルフィの伸びた腕がキレイにアルビダの顔面に入り、一発でKOした。

「・・・・・!!手が・・・、手がのびたぞ!!!」
「お頭!!!アルビダ様が負けた!!化物だ!!」

うろたえる海賊達に向かってルフィは言った。

「コビーに一隻小船をやれ!こいつは海軍に入るんだ!!黙って行かせろ」
「は・・・はい」

海賊達に異論があるはずがない。

「ししし!」

笑うルフィに、コビーは感謝の涙を流した。







「・・・あのゴムゴムの実を食べただなんて、驚きました」

しばらくしてルフィとコビーの2人は、海賊達からもらった小船の上にいた。
波は穏やか、島での出来事などなかったかのような、船出日和である。

「でも・・・、ルフィさん。”ワンピース”を目指すって事は・・・あの、”偉大なる航路(グランドライン)”へ入るってことですよね・・・!」
「ああ」

コビーが不安げに言った。

「あそこは海賊の墓場とも呼ばれる場所で・・・」
「うん、だから強い仲間がいるんだ」

ルフィはコビーの方を向いて言った。

「これからお前が行く海軍基地に捕まってるって奴」
「ああ・・、ロロノア・ゾロですか?」

コビーも思い出して言った。

「いい奴だったら仲間にしようと思って!」

ルフィがにっこり笑う。

「え───っ!!またムチャクチャな事をぉーっ!!!ムリですよ、ムリムリムリあいつは悪魔のような奴なんですよ!?」

コビーが慌てる。
が、ルフィはどこ吹く風。

「そんなのわかんないだろ」
「ムリっ!!」



船は行く。
海軍基地へ。








 管理人ひとことこめんと
コビー&アルビダ初登場の回です。
登場はこれだけかと思ったら、なんとびっくり後々重要なキャラになるなんて・・・。
読んでるほうも気が抜けないです(笑)。

第1話 ROMANCE DAWN ― 冒険の夜明け ― <後編>

数日後。
元気におつかいに走る、ルフィの姿があった。

「魚くれっ!!魚屋のおっちゃん」
「ようルフィ、近頃一段と楽しそうだな」

ねじり鉢巻を締めた、少しいかつい魚屋のおっちゃんが親しげに声をかけた。

「お前、今回も海賊たちの航海連れてってもらえなかったんだろ?・・・それに一生泳げねェ体になっちまって」
「いいんだ!一生カナヅチでもおれは一生船から落ちない海賊になるから!それよりおれは"ゴムゴムの実”でゴム人間になれたから、その方がずっと嬉しいんだ!!ほら!!」

両側のほっぺたをびよんびよん引っ張りながら言った。

「・・・それがどうした」

大喜びでほっぺたを引っ張り続けるルフィを見かねて、村長が口を挟んだ。

「確かに不思議だし村中面白がっとるが、なんの役に立つんじゃ。体がゴムになったところで!!」

村長の小言は止まらない。

「何度でも言うがなルフィ。お前は絶対海賊にはならせんぞ!!村の汚点になるわい!!あの船長は少しはわかっとるようじゃが、あいつらとは付き合うな!!」

そんな村長にも、ルフィはどこ吹く風だった。





おつかいのあと、ルフィは”PARTYS BAR”でお駄賃のジュースを飲んでいた。

「もう船長さん達が航海に出て長いわね・・・。そろそろさみしくなってきたんじゃない、ルフィ」
マキノが洗い物を片付けながら言った。

「ぜんぜん!おれはまだ許してないんだ、あの山賊の一件!」
口でジュースのコップをごろごろ転がしながら、ルフィが言う。

「おれはシャンクス達をかいかぶってたよ!もっとかっこいい海賊かと思ってたんだ。げんめつしたね」
「そうかしら、私はあんな事されても平気で笑ってられる方がかっこいいと思うわ」
「マキノはわかってねェからな。男にはやらなきゃいけねェ時があるんだ!!」
「そう・・・、ダメね私は」
「うんだめだ」

マキノはにっこりと笑った。

「─── 邪魔するぜェ」

その声に、ルフィは入り口の方を振り返った。

「・・・げ」

ヒグマ率いる、山賊たちだった。

「今日は海賊共はいねェんだな、静かでいい・・・。また通りかかったんで立ち寄ってやったぞ」

そう言って、いすにどっかと座る。

「何ぼーっとしてやがる。おれ達ァ客だぜ!!!酒だ!!!」





「村長さん!!大変っ!!」

マキノが村長の家に駆け込んで来た。

「・・・どうしたんじゃ、マキノ。そんなに慌てて・・・」
「ルフィが山賊達に・・・・・!!!」



─── ”PARTYS BAR”の前では、ルフィが山賊達に取り囲まれていた。

「本当におもしれェ体だな」
「本当だな、殴っても蹴っても効いてないらしい」
「・・・・・!!」

そばの家の窓から、住民がおびえながら覗いていた。

「お・・・おい、おまえルフィを助けに行けよ!!」
「でも・・・相手は山賊だぞ。殺されちまう!!!・・それにこのケンカはルフィの方から仕掛けたらしいじゃねェか!!」

等のルフィは殴られながらも、必死でヒグマに反撃していた。

「くそォ!!!おれにあやまれ!!!この野郎!!!」

殴りかかるが、軽くよけられる。

「ゴム人間とは・・・、なんておかしな生き物がいるんだろうなァ・・・」

そういってヒグマはルフィを引っ張って投げ飛ばした。

「ちくしょう!!!」
「新種発見だ・・・」
「絶対許さねェ!!!」

ルフィはヒグマをにらみつけながら言った。

「見世物小屋にでも売り飛ばしゃあ、結構な金になりそうだな」

ヒグマがにやりと笑った。

「うわああ~~~~っ!!」

ルフィがそばにあった棒切れを掴んでヒグマに殴りかかる。

「しつこいぞ・・・、ガキ」

ヒグマは足でルフィを止めた。そして顔を思いっきり踏みつける。

「人が気持ちよく酒飲んで語らってたってのに・・・、このおれが何かお前の気にさわる事でも言ったかい」
「・・・!!言った!!あやまれ!!ちくしょう!!!」

ルフィは踏みつけられながらも、めいっぱい言い返した。

「足をどけろ!!バカ山賊っ!!」

その時だ。

「その子を放してくれ!!頼む!!」

マキノが連れてきた村長だった。
そして土下座をする。

「ルフィが何をやったかは知らんし、あんた達と争う気もない。失礼でなければ金は払う!!その子を助けてくれ!!」
「村長!」

ルフィが村長に気づいた。

「さすがは年寄りだな、世の渡り方を知ってる」

ヒグマがあごひげに手をやりながら言った。

「だが駄目だ!!もうこいつは助からねェ。なんせこのおれを怒らせたんだからな・・・!!」

そしてルフィを激しく踏みつけると、

「こんな文字通り軟弱なゴム小僧にたてつかれたとあっちゃあ、不愉快極まりねェぜおれは・・・!!」
「悪いのはお前らだ!!!この山ざる!!!」

ルフィが言い返す。

「よし売り飛ばすのはやめだ。やっぱり殺しちまおう、ここで」

ヒグマが腰の剣を抜いた。

「ルフィ!!」
「た・・・頼む!!見逃してくれっ!!」

マキノと村長が同時に叫ぶ。

「─── 港に誰も迎えがないんで、何事かと思えば・・・」

2人の間を割って、男がゆっくりとルフィの元に近づいてきた。
シャンクスだった。

「いつかの山賊じゃないか。・・・ルフィ!お前のパンチは銃のように強いんじゃなかったのか?」
「・・・・・!!・・・!!うるせェ!!」
「海賊ゥ・・・、まだいたのかこの村に。ずっと村の拭き掃除でもしてたのか?」

ヒグマが憎々しげに言う。

「何しに来たか知らんが、ケガせんうちに逃げ出しな。それ以上近づくと撃ち殺すぜ、腰ヌケ」

それでもシャンクスは顔色1つ変えずに、ルフィの元へ近づく。
山賊の1人がシャンクスに銃を向けた。

「てめェ、聞こえなかったのか!?それ以上近づくな。頭吹き飛ばすぞ、ハハハハハ!!」

周りの山賊も笑う。

「・・・銃を抜いたからには命を懸けろよ」

シャンクスが言った。

「あァ?何言ってやがる」
「そいつは脅しの道具じゃねェって言ったんだ・・・」

その瞬間、山賊は頭を打ちぬかれた。
いつも肉を食っている、ラッキー・ルウだ。

「な・・・!!」

山賊も、マキノも村長も、そしてルフィも驚いて声が出ない。

「・・・や、やりやがったな、てめェ」
「なんて事・・・、なんて卑怯な奴らだ!!!」

「・・・卑怯?」
ベン・ベックマンが言った。

「甘ェ事言ってんじゃねェ。聖者でも相手にしてるつもりか」

「お前らの目の前にいるのは、海賊だぜ」
シャンクスもにやりと笑って言う。

「・・・うるせェ!!だいたいおれ達はてめェらに用はねェぞ」

山賊の一人が怒鳴る。

「いいか山賊・・・」

シャンクスが静かに言った。

「おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、つばを吐きかけられようがたいていのことは笑って見過ごしてやる。・・・だがな!」

鬼の形相に変わった。

「どんな理由があろうと!!おれは友達を傷つける奴は許さない!!!!」

「シャンクス・・・」
ヒグマの足の下でルフィはつぶやいた。

そんなシャンクスに、ヒグマは大笑いしながら言う。

「はっはっはっはっ、許さねェだと!?海にプカプカ浮いてヘラヘラやってる海賊が山賊様にたてつくとは笑わせる!!!ブッ殺しちまえ野郎共!!!」
「うおおおっ!!死ね───っ!!」

山賊が襲い掛かってくる。

「おれがやろう・・・、充分だ」

ベン・ベックマンが愛用の長銃を取り出した。
一番最初に襲い掛かってきた山賊の眉間に咥えていたタバコを押し付けて倒すと、長銃を野球バットのようにして、残りの山賊たちを全て打ち返した。

「うぬぼれるなよ、山賊・・・!!」

長銃をただ1人残ったヒグマに構え、再度タバコに火をつける。

「ウチと一戦やりたきゃ、軍艦でも引っぱってくるんだな」

「つええ・・・」
「すごい・・・」

踏まれたままのルフィや、マキノ、村長は目の前の出来事にただただ驚くことしかできなかった。

「・・・や!!!待てよ・・・仕掛けてきたのはこのガキだぜ」

ヒグマがうろたえる。

「どの道賞金首だろう」

シャンクスがゆっくりと近づく。

「ちっ」

恐怖を感じたヒグマは煙幕を焚きその場を逃げ出した。

「煙幕だ!!!」
海賊たちがひるむ。

「来いガキ!!」
「うわっ!!くそ!!はなせ、はなせェ!!!」

煙幕の煙が消えると、そこにヒグマとルフィの姿は跡形もなかった。

「ルフィ!!」

今度はシャンクスが頭を抱えてうろたえる。

「し!し!しまった!!油断してた!!ルフィが!!どうしよう、みんな!!」

「うろたえんじゃねェ!!お頭、この野郎っ!!みんなで探しゃあすぐ見つかる!!」
ラッキー・ルウが一喝した。

「・・・ったく、この人は・・・」
苦笑いしながらベン・ベックマンがつぶやいた。







「─── はっはっはっはっ!!!まんまと逃げてやったぜ。まさか山賊が海へ逃げたとは思うまい!!」

海賊達から逃げたヒグマと連れてこられたルフィは海上の小さなボートにいた。

「・・・さて、てめェは人質として一応連れて来たが、もう用なしだ!おれを怒らせた奴は過去56人みんな殺してきた」

ルフィがヒグマをにらみつける。

「お前が死んじまえ!!」

渾身の力でパンチを放ったが、軽くよけられてしまった。

「あばよ」

そんなルフィを鼻で笑い、ヒグマはボートからルフィを蹴り落とした。

「・・・!!!くそ!!くそ!!あいつら!クズのくせに・・・!!一発もなぐれなかった・・・!!畜生!!!」

落とされながら必死に叫ぶ。

「畜生ぉ!!!」





─── 落とされながら、ルフィはこの事件の発端を思い出していた。

「─── はっはっはっはっは!!あの時の海賊共の顔見たかよ?酒ぶっかけられても文句1つ言えねェで!!情けねェ奴らだ!!はっはっはっはっは!!」

ヒグマが馬鹿にしたように仲間の山賊たちに言う。
それを聞いて周りも同じように笑う。

「おれァ、ああいう腰ヌケ見るとムカムカしてくんだ。よっぽど殺してやろうかと思ったぜ」

ヒグマは酒を飲みながら言った。

「海賊なんてあんなモンだ。カッコばっかで・・・」

「やめろ!!!」

山賊たちの話に耐え切れず、思わずルフィが怒鳴った。

「ああ!?」

いたのに初めて気づいたとばかりに、ヒグマがルフィの方を見る。

「シャンクス達をバカにするなよ!!!腰ヌケなんかじゃないぞ!!!」
「やめなさい、ルフィ!」

マキノが慌てて止めるが、ルフィの怒りは収まらなかった。
相手がどんなに恐ろしい相手だってそんなの気にならない。
大好きなシャンクス達のことをバカにされて、我慢できるわけがなかった。

「シャンクス達をバカにするなよ!!!」





─── ルフィは泳げない。

もともとカナヅチだったが、悪魔の実を、ゴムゴムの実を食べてしまった為二度と泳ぐことはできないのだ。
海に落とされもがくルフィを、ヒグマは大笑いしながら見つめていた。
その時、もがきながらルフィは見た。
ヒグマの後ろに迫る巨大な影を。うなり声を。
そして。

「ぎゃああああああ───っ!!!」

それは、一口でヒグマの乗ったボートを噛み砕いた。

「うわあああ・・がば・・・ば!!!」

その巨大な魚の化け物、近海の主は次の標的をルフィに定めたようだ。

「ば・・・だれか助けば・・・!!!」

近海の主がヒグマを噛み砕いた大きな口を開け、ルフィに迫る。

「うわああああああああ」

食べられた、と思った瞬間、ルフィは誰かに抱きとめられていた。

シャンクスだった。

シャンクスは主をにらみつけながら言った。

「失せろ」

その迫力に近海の主も怯える。
そして怯えたまま、海へ戻って行った・・・。





シャンクスに助けられたルフィは、しがみついたまま涙が止まらない。
しゃくりあげるルフィに、シャンクスは優しく言った。

「恩にきるよ、ルフィ。マキノさんから全部聞いたぞ。・・・おれ達のために戦ってくれてたんだな」
「ひっく・・・!!えぐ・・・!!」
「おい泣くな。男だろ?」
「・・・だってよ・・・!!・・・ジャングズ・・・・・!!!・・・・・!!!」

ルフィが叫んだ。

「腕が!!!!!」

近海の主からルフィを助けた瞬間、彼は左腕をもぎ取られていたのだ。

「安いもんだ、腕の1本くらい・・・。無事で良かった」
「・・・・・う・・・・・!!!うわあああああああああ!!!」



シャンクスが航海に連れて行ってくれない理由。
海の過酷さ。
己の非力さ。
なによりシャンクスという男の偉大さを、ルフィは知った。
こんな男にいつかなりたいと、心から思った。







何日か経ったある日。

「この船出でもうこの村へは帰ってこないって、本当!?」

ルフィは今しがた聞いたばかりの噂をシャンクスに確かめていた。
港では海賊たちが出港準備を進めている。

「ああ、随分長い拠点だった。ついにお別れだな」

シャンクスが仲間達の出港準備を見つめながら言った。
左腕の傷は、マントで隠している。

「悲しいだろ」
「うん、まあ悲しいけどね」

意外とさらっとルフィは言った。

「もう連れてけなんて言わねえよ!自分でなる事にしたんだ、海賊には」
「どうせ連れてってやんねーよー」

シャンクスが舌を出す。

「お前なんかが海賊になれるか!!!」
「なる!!!」

ルフィがむきになって言い返す。こればっかりは譲れない。

「おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!!世界一の財宝みつけて!!!海賊王になってやる!!!」

ルフィの宣言に、海賊たちが微笑む。

「ほう・・・!!おれ達を超えるのか」

シャンクスも微笑む。

「・・・じゃあ・・・」

自分がかぶっていた麦わら帽子をルフィにかぶせて言った。

「この帽子を、お前に預ける」
「!」
「おれの大切な帽子だ」

かぶせてもらった瞬間、我慢していた涙があふれる。

「いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」

そう言ってシャンクスは、ルフィに背中を向け船へと歩いていった。

「・・・あいつは大きくなるぜ」
ベン・ベックマンがシャンクスに言う。

「ああ・・・、なんせおれのガキの頃にそっくりだ」
シャンクスが笑った。

「碇を上げろォ!!!帆をはれ!!!出発だ!!!」



こうして、シャンクス率いる赤髪海賊団はフーシャ村を後にしていった。
そして、少年の冒険は10年後のこの場所から始まる。







10年後。
港では小さな小さなボートの船出を見送る村民の姿があった。

「とうとう行っちゃいましたね、村長。さみしくなるわ」

マキノが海のかなたを見つめ、笑って言う。

「村のハジじゃ、海賊になろうなんぞ!」

憤慨する村長も、心なしかさびしそうだ。

「本気で行っちまうとはなー」

魚屋のおっちゃんも笑顔で見送った。





「─── やー、今日は船出日和だなー」

空は快晴。波も穏やかだ。
村民達の視線のかなた、17歳になったルフィが小さなボートをのんびり漕いでいた。
が、突如うなり声を上げてルフィの前に立ちふさがる巨大な影があった。
10年前にシャンクスの左腕を奪った、あの近海の主だ。

「わっ」

10年前と同じように、ルフィに狙いを付ける。

「出たか、近海の主!!相手が悪かったな」

ルフィがにやりと笑う。

「10年鍛えたおれの技を見ろ!!」

ぐわ───っと口を広げる近海の主に対し、ルフィは右腕を構えて叫んだ。

「ゴムゴムの・・・・・銃(ピストル)!!!!」

彼の腕がぐわーんと伸び、10年前では怯えることしかできなかった近海の主を一撃で倒した。
伸びた腕がばちんと戻り、にっと笑ってルフィは言った。

「思い知ったか、魚め!!」

シャンクスの左腕の敵をとった瞬間だった。
だが彼の視線は、もう次へ向いている。

「んん・・・!!まずは仲間集めだ。10人は欲しいなァ!!そして海賊旗!!」

彼のまなざしは希望に満ちていた。
そして、海へ、彼自身へ宣言した。

「よっしゃいくぞ!!!海賊王におれはなる!!!!」



まだ見ぬ彼の仲間達を巻き込まんと、小さな船は海をゆく。
かくして大いなる旅は始まったのだ!!!







 管理人ひとことこめんと
全てはここから始まりましたねー。長いので勝手に前編後編に分けましたけど、いかがだったでしょーか・・・。
このお話は・・・、内容はちょっと変わりますが読みきりでも描かれてますね。
でも、シャンクスとルフィのお話はまんまその通り。
尾田先生にとっても、このお話は大事なんだろうなとホント思います。
私も大好き☆

第1話 ROMANCE DAWN ― 冒険の夜明け ― <前編>

富・名声・力
かつて、この世の全てを手に入れた男。

“海賊王”ゴールド・ロジャー

彼の死に際に放った一言は、
全世界の人々を海へ駆り立てた。

『おれの財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ・・・。探してみろ。この世の全てをそこに置いてきた』


世は
大海賊時代を迎える ───


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




ここは東の海(イーストブルー)の辺境にある、フーシャ村。
小さく、のどかな港村。
東から吹く風が心地いい、なんとも平和な村である。
この村には1年ほど前から海賊船が停泊していた。
その海賊船の船首の上に、小さな男の子が立っている。

彼の名は”モンキー・D・ルフィ”。

この村で暮らす7歳の少年である。
停泊している海賊たちに憧れ、しばしば彼らの元に遊びに来ていた。





「おいルフィ、何する気だ?」

船首の上のルフィに、海賊たちが声をかける。

「ふん」

ルフィはナイフを片手に叫んだ。

「おれは遊び半分なんかじゃない!!もう、あったまきた!!証拠を見せてやる!!!」
「だっはっは、おう!やってみろ。何するか知らねえがな!」
「またルフィが面白れぇことやってるよ」

海賊たちがニヤニヤしながら、ルフィを眺める。

「ようし見てろ・・・、ふんっ!!!」

なんと、持っていたナイフを目の下にぶっ刺したのだ。

「いっっってェ~~~~~~~っ!!!」

予想外の行動に、海賊たちも驚いた。

「な!!!」
「バッ、バカ!!!野郎、何やってんだァ!!?」
「いて───よ───っ!!」

海賊たちは慌ててルフィを船首から引きずり下ろした。







「─── 野郎共乾杯だ!!!ルフィの根性とおれ達の大いなる旅に!!!」

ここは村の酒場”PARTYS BAR”。
若い女店主マキノが切り盛りする酒場だ。
海賊たちはここでしょっちゅう宴を開いていた。

「がははは、飲め飲め」
「酒!酒、酒足りねェよ」
「バカ、その肉はオレんだ!!」
「うるせェ!おれが食う」
「おい、よせ。酒の上のケンカは見苦しいぞ!!」

わいわいがやがや、海賊たちは騒がしい。

そんな中、ルフィはちょこんといすに腰掛けていた。

「─── あー、いたくなかった」
「うそつけ!!バカな事すんじゃねェ!!」

涙目で強がるルフィに、赤毛で麦わら帽子をかぶった、左目に3本の傷のある男が怒鳴った。
この海賊団の頭、”赤髪のシャンクス”である。

「おれはケガだってぜんぜん恐くないんだ!!連れてってくれよ、次の航海!!おれだって海賊になりたいんだよ!!!!」

ルフィが目を輝かせて言う。
そんなルフィに、シャンクスは笑いながら言った。

「お前なんかが海賊になれるか!!カナヅチは海賊にとって致命的だぜ!!」
「カナヅチでも船から落ちなきゃいいじゃないか!!」

ルフィが必死で言い返す。

「それに戦ってもおれは強いんだ。ちゃんときたえてるから、おれのパンチは銃のように強いんだ!!!」
「銃?へーそう」
「なんだその言い方はァ!!」

シャンクスの適当な物言いに、ルフィがキレる。
そんな2人を見て周りの海賊たちが口々に言った。

「─── おうおうルフィ!なんだかごきげんナナメだな」
「楽しくいこうぜ何事も!」
「そう!海賊は楽しいぜェ」
「海は広いし大きいし!!いろんな島を冒険するんだ」
「何より自由!!」

そんな海賊たちを、ルフィは憧れのまなざしで見つめる。

「お前達、バカな事吹き込むなよ」

シャンクスがたしなめた。

「だって本当の事だもんなー」
「なー」
「お頭、いいじゃねェか。一度くらい連れて行ってやっても」
「おれもそう思うぜ」

海賊たちの心強い言葉に、ルフィは期待を込めた。が。

「じゃあ、かわりに誰か船を下りろ」
「・・・さあ話は終わりだ。飲もう!!」

シャンクスの言葉に、当然海賊たちの翻意も早かった。

「味方じゃないのかよ!!」

ルフィが憤慨する。

「要するにお前はガキすぎるんだ。せめて、あと10歳年とったら考えてやるよ」
「このケチシャンクスめ!!言わせておけば!!おれはガキじゃないっ!!」
「まァおこるな。ジュースでも飲め」
「うわ!ありがとう!」

もらったジュースを素直に飲むルフィ。
その姿を見て・・・、

「ほらガキだ!おもしれえ!!」

シャンクスは涙を流して大笑いした。

「きたねえぞ!!」

ルフィは怒ってシャンクスのそばを離れた。
手にはしっかりとジュースのコップをにぎって。





「ふうっ!!もう疲れた。今日は顔に大ケガまでして頼んだのに!!」
「─── ルフィ、お頭の気持も少しはくんでやれよ」
「副船長!」

副船長と呼ばれた男の名は”ベン・ベックマン”。
長い黒髪を後ろで束ね、たばこをくゆらしている。

「シャンクスの気持?」
「そうさ・・・。あれでも一応海賊の一統を率いるお頭だ。海賊になることの楽しさも知ってりゃ、その反対の過酷さや危険だって一番身にしみてわかってる」
「?」
「わかるか?別にお前の海賊になりたいって心意気を踏みにじりたい訳じゃねェのさ」

ベン・ベックマンが諭すように言った。

「わかんないね!!シャンクスはおれをバカにして遊んでるだけなんだ」

「カナヅチ」
ぷぷっとシャンクスがルフィの方を向いて笑う。

「ほら!!!」
ルフィがむくれた。

「相変わらず楽しそうですね、船長さん」

にこやかに笑いながら言ったのは、この店の店主、マキノ。
看板娘も兼ねる、美人の店主だ。

「ああ、こいつをからかうのはおれの楽しみなんだ」

ほらあんな事言ってる、とシャンクスの方を指差すルフィ。

「・・・確かに楽しんでるな」
と、ベン・ベックマン。

「・・・ルフィ、あなたも何か食べてく?」

マキノが裏から持ってきたビールの樽を抱えながら言った。

「ああ、じゃあ”宝払い”で食う」
「でたな”宝払い”」

シャンクスがにやりと笑って言った。

「お前そりゃサギだぜ。」
「違う!!ちゃんとおれは海賊になって、宝を見つけたら金を払いに来るんだ!!」

ルフィが、心外だ!とばかりにテーブルをどん、とやった。

「ふふふ!期待して待ってるわ」
マキノが笑う。

「しししし」
ルフィも笑った。





「─── シャンクス」
ルフィが肉をかみ切りながら言った。

「なんだ」
シャンクスも食べながら答える。

「あとどれくらいこの村にいるの?」
「そうだなァ・・・、この村を拠点に旅してもう1年以上経つからな・・・。あと2・3回航海したらこの村を離れてずっと北へ向かおうと思ってる」
「ふーん・・・。あと2・3回かァ・・・」

ルフィがぼんやり考える。
それを見ながら、マキノが小さなため息をついた。

「おれ、それまでに泳ぎの練習するよ!」
「そりゃいい事だな!勝手にがんばれ」

バキ!!

その時、酒場のドアが蹴破られた。
海賊たちが入り口の方を見やる。

「邪魔するぜェ・・・」

ガラの悪い男たちがゆっくりと店の中に入ってきた。

「ほほう・・・、これが海賊って輩かい・・・。初めて見たぜ。間抜けた面してやがる」

そしてカウンターのマキノの前で止まった。

「おれ達は山賊だ」

このあたりの山に出没する山賊の棟梁の”ヒグマ”だった。
額には十字の傷。腰に剣をぶら下げ、あごひげに手をやりながら言った。

「 ─── が、別に店を荒らしにきた訳じゃねェ。酒を売ってくれ。樽で10個ほど」
「ごめんなさい、お酒は今ちょうど切らしているんです」

マキノが少しおびえながら言った。

「んん?」
ヒグマが店を見渡す。

「おかしな話だな、海賊共が何か飲んでる様だが・・・。ありゃ水か?」
「ですから、今でてるお酒で全部なので・・・」

その会話に気づいて、シャンクスが口を挟んだ。

「これは悪いことをしたなァ。おれ達が店の酒飲み尽くしちまったみたいで・・・。すまん」

そして手元にあった酒瓶を差し出し、

「これで良かったらやるよ。まだ栓もあけてない」

それを受け取ったヒグマは、何も言わずに酒瓶をシャンクスの頭めがけて振り下ろした。
酒瓶が砕け、酒まみれになるシャンクス。

「おい貴様、このおれを誰だと思ってる。ナメたマネするんじゃねェ・・・。ビン1本じゃ寝酒にもなりゃしねェぜ」
「あーあー・・・、床がびしょびしょだ」

ヒグマの言葉を聞いていないのか、シャンクスは床を見つめて言った。

「これを見ろ」

ヒグマが手配書を掲げた。
そこにはヒグマ自身の写真が載っていた。つまり、自分の手配書だ。

「八百万ベリーがおれの首にかかってる。第一級のおたずね者ってわけだ。56人殺したのさ。てめェのように生意気な奴をな」

そして、その手配書を強調するようにひらひらさせる。

「わかったら・・・、今後気をつけろ。もっとも山と海じゃもう遭う事もなかろうがな」

シャンクスが床に落ちた酒瓶の破片を拾う。

「・・・悪かったなァ、マキノさん。ぞうきんあるか?」
「あ・・・、いえ、私がやりますそれは・・・」

その瞬間、ヒグマが腰にぶら下げていた剣を振り回した。

ガシャァン!!!

カウンターにあった飲み残しのグラスや皿が音を立てて砕け散る。

「掃除が好きらしいな・・・。これくらいの方がやりがいがあるだろう・・・!!!」

シャンクスはさらにびしょぬれになった。

「じゃあな、腰ヌケ共。酒がねェんじゃ話にならねェ、別の町へ行くぜ」

山賊たちは小ばかにした目つきで海賊たちを眺め、店を出て行った。





「船長さん大丈夫ですか!?ケガは?」

マキノがシャンクスに駆け寄った。

「あ───大丈夫、問題ない」

そう言うと、シャンクスはこらえきれずに吹き出した。

「っだ───っはっはっは!!なんてざまだお頭!!」
「はでにやられたなァ」

海賊たちも大笑いする。

「はっはっはっはっは!!」

シャンクスもおかしそうに笑う。

大爆笑の中、1人だけ怒ってるものがいた。
ルフィだ。

「なんで笑ってんだよ!!!」
「ん?」

シャンクスが笑うのをやめて、ルフィを見た。

「あんなのかっこ悪いじゃないか!!!なんで戦わないんだよ、いくらあいつらが大勢で強そうでも!!あんな事されて笑ってるなんて男じゃないぞ!!!海賊じゃないっ!!!」
「・・・・・きもちはわからんでもないが」

シャンクスは麦わら帽子に手をやり、笑って言った。

「ただ酒をかけられただけだ。怒るほどのことじゃないだろう?」
「しるかっ!!もう知らん、弱虫がうつる!!」
「おい待てよ、ルフィ・・・」

そう言ってシャンクスはその場を離れようとするルフィの腕を掴んだ。
ルフィはそれでもずんずん進む。
・・・進む?
その様子を見ていた海賊たち全員が飲んでいた酒を吹き出した。

「手が伸びた・・・!!!こりゃあ・・・」

シャンクスが焦る。

「まさかお前!!!」

海賊たちが叫ぶ。

「何だこれああ───!!」

ルフィも自分の身体の変化に気づき、同じように叫んだ。

「ないっ!!」

太っちょで丸いゴーグルをかけ、いつも肉を食っているラッキー・ルウが、小さな宝箱を開けて大声を上げた。

「敵船から奪ったゴムゴムの実が!!!!」

そして渦巻き模様の実の絵が描かれたスケッチブックを開いて言った。

「ルフィ、お前まさかこんな実食ったんじゃ・・・・・?」
「・・・うん、デザートに・・・・・まずかったけど・・・」
「ゴムゴムの実はなあ!!!」

シャンクスがルフィの肩を掴んで怒鳴った。

「悪魔の実とも呼ばれる海の秘宝なんだ!!!」
「!」
「食えば全身ゴム人間!!!そして一生泳げない体になっちまうんだ!!!!」
「え───っ!!!うそ───!!」
「バカ野郎ォ───っ!!!」



知らなかったとはいえ、もう後の祭り。
これがゴム人間ルフィの誕生だった。