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第12話 犬

ルフィ・ゾロ・ナミに逃げられたバギーは、怒り心頭で手下たちに怒鳴っていた。

「このバギー一味!!旗揚げ以来、奪いに奪ってハデに名を上げて来た!!たかだか3人の泥棒なんぞにナメられていいのか!!?」

「いけません!」
手下たちが声をそろえる。

「声が小せェ、もう一回!!」
いけません!!!
うるせェ!!!

バギーが不敵に笑う。

「奴らには海賊の一団を敵に回す事の恐ろしさを教える必要がある!!ここで一発、”猛ショー”だ!!!」

その言葉を受けて、手下たちの間を割り一人の男と一匹のライオンが、のしのしとゆっくり入ってきた。

「─── お呼びで?バギー船長」

バギー一味の副船長、”猛獣使いのモージ”だ。
うなり声を上げる獰猛なライオンにまたがるその男は、胸を隠すくらいしかない短い丈の白い袖なしの毛皮を着ている。
そして、特筆すべきところは着ている毛皮と同じ色の、小さな耳のついた着ぐるみをかぶっている事だ。

「おおおっ!!モージさんだ!!」
「モージさんの猛獣ショーだ!!!」

手下たちが騒ぐ中、彼は静かに言った。

「ロロノア・ゾロの首、私がとっても?」
「構わん」

バギーはにやりと笑った。







その頃、バギーたちの酒場から逃げ切ったゾロは、町の中を、ルフィが入った檻を引きずっていた。

「─── もうだいぶ酒場から離れた。とりあえず、すぐには追っちゃ来ねェだろう」

だいぶ息を荒げていた。出血も未だ続いている。
ルフィも必死で鉄格子に噛み付いているが、頑丈な鉄格子はびくともしてなかった。

「しかし、いったん退いたはいいが、この檻は厄介だな・・・」
「そうなんだ、これが開かねェとあいつが来ても何もできねェよ!!」

そうこうしている内に、とうとうゾロは力尽きて倒れた。

「・・・もうダメだ、血が足りねェ。これ以上は歩けん・・・!!」

ふと、感じる視線。
うつ伏せで倒れていたゾロが、横に目をやると、そこには一匹の白い犬が鎮座していた。

「・・・なんだこの犬は・・・!!」
「犬?あ、犬だ」

ゾロの言葉に、ルフィもその犬に気づく。
檻をその犬の前まで引っ張ってもらい、まじまじと犬を見つめた。

「・・・これ何だ、犬か?本当に。おい、ゾロ。こいつ全然動かねェよ」

一軒の家の前に鎮座したまま、ほんとにその犬は動かない。

「知るか・・・、そんなもん犬の勝手だ。とにかく今は、お前がその檻から出る事を考えろ」
ゾロは傷口を手でかばいながら、家の柱に寄りかかった。

「死んでんのかな」

ルフィがその犬の両目を指でどすっと突く。
瞬間、その犬に顔をがぶっと噛み付かれた。

「痛え!!何すんだ、犬っ!!」

そして犬と同レベルで、ぼかすかとケンカをおっぱじめた。

「てめェ、今の事態わかってんのか!!?」
ゾロが怒鳴る。血もさらに吹き出る。

「犬め!!」
「くそ・・・、血が足りねェ!!」

二人は同時に倒れこんだ。
そんな二人を誰かが見下ろしていた。

「・・・あんた達一体何やってんの、二人して・・・。こんな道端で寝てたら、バギーに見つかっちゃうわよ!」

ナミだった。

「よォ、航海士」
ルフィとゾロが同時に声をかける。

「誰がよ!!!」
反論するナミ。

「・・・一応、お礼をしに来ただけよ。助けてもらったからね」
「礼?」

ルフィの前に、何かが放り投げられた。

「あ、鍵!!!檻の鍵盗って来てくれたのか」
「まァね・・・、我ながらバカだったと思うわ。他に海図も宝も何一つ盗めなかったもの。そのお陰で」

ナミがため息をつく。

「は───っ!!ホント、どうしようかと思ってたんだ、この檻!!」
ルフィが安堵のため息をつく。

「・・・は・・・、これで一応逃げた苦労が報われるな」
ゾロも息をついた。

が。
その鍵にルフィが手を伸ばすより先に、白い犬が鍵を咥える。
そしてゴクンと飲み込む。あっという間の出来事だった。

「このいぬゥ!!!吐け、今飲んだのエサじゃねェぞ!!!」

我に返ったルフィが、犬を引っつかんで吐かせようとする。
ギャーギャー騒ぐ中、一人の男が3人と1匹の傍にやってきた。

「くらっ!!小童ども!!シュシュをいじめるんじゃねェっ!!!」

「シュシュ?」
「誰だ、おっさん」

ゾロの言葉に、その男は答えた。

「わしか、わしはこの町の長、さながらの町長じゃ!」

オレンジの町の町長、ブードルだった。
白髪で丸いメガネをかけた老人。格好は勇ましく、年代ものの鎧を身につけ槍を抱えていた。

傷だらけのゾロを見かねて、隣の家に連れて行く。

「─── ゾロは?」
家から出てきたブードルに、ルフィは尋ねた。

「休ませてきた。隣はわしの家じゃ。避難所に行けば医者がおると言うとるのに、寝りゃ治ると言って聞かんのじゃ。すごい出血だとゆうのに!!」

「この犬、シュシュって名前なの?」
ナミが尋ねた。

「ああ」
ブードルが答える。

「こいつここで何やってんだ?」
「店番さ。わしはエサさながらをやりに来ただけさながらなんじゃ」

ルフィの問いに答えながら、ブードルはエサにがっつくシュシュの傍に座り込んだ。

「あ!本当。よく見たらここ、お店なんだ。・・・ペットフード屋さんか・・・」
ナミが店を見上げた。

ブードルはシュシュを見守りながら、この店について語り始めた。

「─── この店の主人は、わしの親友のじじいでな。この店は10年ほど前、そいつとシュシュが一緒に開いた店なんだ。二人にとっては思い出がたくさん詰まった、大切な店じゃ。わしも好きだがね。・・・・・この傷をみろ。きっと海賊と戦って、店を守ったのだ」

「だけど!いくら大切でも、海賊相手に店番させることないじゃない。店の主人はみんなと非難してるんでしょ?」
ナミが憤慨する。

「いや・・・、奴はもう病気で死んじまったよ。・・・三ヶ月前にな、病院に行ったっきり。奴は入院する前に、シュシュに店番を頼んで行ったんじゃよ」
「もしかして、それからずっとおじいさんの帰りを待ってるの?」
「・・・みんなそう言うがね・・・。わしは違うと思う」

ブードルはパイプをくゆらせる。

「シュシュは頭のいい犬だから、主人が死んだことくらいとうに知っておるだろう」
「じゃ、どうして店番なんて・・・」
「きっとこの店は、シュシュにとって宝なんじゃ。大好きだった主人の形見だから、それを守り続けとるのだと、わしは思う」

ブードルは煙を吐き出しながら苦笑いした。

「困ったもんよ。わしが何度非難させようとしても、一歩たりともここを動こうとせんのだ。ほっときゃ、餓死しても居続けるつもりらしい」

ナミはそんなシュシュを見つめて優しい顔になった。





その時だった。

グオオオオオ・・・!!!!

猛獣の雄たけびが、がらんとした町に響き渡る。

「な・・・何、この雄たけび・・・!!」
「こ・・・、こりゃあいつじゃ!!”猛獣使いのモージ”じゃ!!」

そう叫ぶや否や、ナミとブードルの二人はルフィとシュシュを残して一目散に逃げていった。
ルフィはため息をつく。

「あーあ、なんか来ちまったよ。鍵返せよ、お前ェ」

「見つけたぜェ、まず一人・・・。おれはバギー一味、猛獣使いのモージだ」
ライオンの雄たけびとともにルフィの目の前に現れたのは、”猛獣使いのモージ”であった。

ルフィはモージをじっと見つめる。

「フハハハ・・・、仲間に置き去りにされたのか?不憫だなァ、せっかく逃げ出したのに・・・」
ルフィの檻に、モージが迫ってきた。

「バギー船長はかなりお怒りだぜェ・・・。えらい事しちまったなァ、お前ら」
「なんだお前、へんな着ぐるみかぶって」

ルフィの関心はそこだったようだ。

「何っ・・・!!!失敬だぞ貴様ァ!!これは、おれの髪の毛だ!!」
「じゃあ、なおさら変だな」
「やかましいわァ!!!」

そうなのだ。
着ぐるみに見えるが、実際はモージの本当の髪の毛なのだ。
船長のバギーの鼻といい、モージの髪の毛といい、この一味には身体的に珍しい者が揃ってるようだ。

「てんめェ、その檻に入ってるからって安心してんじゃねェのか。まず、おれの怖さを知らんらしい・・・」

その様子を、ナミとブードルは建物の陰から窺っていた。

「あいつ、なんか挑発してるんじゃないの・・・」
「バカか、あいつは・・・」

それに気づかないモージは、自慢げにルフィに言い放った。

「言っとくが、この世におれに操れない動物はいないんだぜ。例えばそこにいる犬にしてもだ」
モージはライオンから下りると、シュシュに手を差し出した。

「お手」

ガブ

「あああっ!!」

ライオンの上に戻る。

「お前は所詮名もないコソ泥だ」
「犬は」

確かに。

しかし、モージはそれを無視して言った。

「貴様の命に興味はない。ロロノア・ゾロの居場所を言え」
「いやだ」

即答でルフィは断る。
それを聞くや否や、モージはライオンに命じた。

「やれ!!リッチー!!!」

ライオンが檻に飛び掛る。その衝撃で、檻がぶっ壊れた。

「鉄の檻が!!!」
「まずい!あの小童殺されるぞ!!!」

ナミとブードルが叫ぶ。

「やった、檻が開いた!!!」
ようやく檻から開放されたルフィは、早くも戦闘体制だ。

ドゴオオオ!!

しかし、次のリッチーの一撃で、家を一軒潰すほどの勢いで吹っ飛ばされてしまった。
その跡を見て、モージがほくそ笑む。

「即死だ!おれに歯向かうからそうなる。・・・よし、リッチー、ロロノア・ゾロを探しに行こう。奴を殺して名を上げるんだ」

しかしリッチーはそれには動かず、鼻を引く引くさせてシュシュの方へゆっくりと歩いていった。

「なるほど・・・、ここはペットフード店か。しょうがねェ奴だ、てっとり早く済ませろよ、食事は」

シュシュは、向かってくるリッチーに対してうなり声を上げて威嚇した。





「─── あー、びっくりした。裏の通りまで吹き飛んじまったよ」

リッチーに吹っ飛ばされたルフィは、むくっと起き上がった。
ゴム人間であるルフィは、これくらいはなんともない。

「でも窮屈な檻から出られた!!よォし、これからあいつら全員ぶっ飛ばして、泥棒ナミに航海士やってもらうぞ!!!」

ルフィはにっと笑って、こぶしを固めた。
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