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第13話 宝物

「うおお!!」
ブードルの叫ぶ声がする。

ルフィは声がする方に目をやった。

「何で生きとるんじゃ、小童!」
「何で生きてんのよ、あんた!!」

様子を見に来たブードルとナミは、ピンピンしている彼に度肝を抜かれた。

「生きてちゃわりいのか」
ルフィが不思議そうに言う。

「だって、家一軒貫通するほど吹き飛ばされて、ピンピンしてるのって変よ!!」

ナミが破壊された家を指す。
もう、家とは呼べない、ただの瓦礫の山と化したものがそこにあった。

「変でいいよ」
めんどくさい、とルフィが言う。

「─── しかしお前ら、この町へ来た目的は何じゃ!なぜあんな海賊と関わる!!」

ブードルの問いに、

「目的ならさっき決めた!”偉大なる航路(グランドライン)”の海図と、航海士を得る事だ!!」

ルフィは、にやっと笑って答えた。







その頃、ペットフード屋の前では、シュシュが自身の体の何倍もあるライオンのリッチー相手に威嚇し続けていた。
その様子をモージはリッチーの上から呆れながら眺めていた。

「何なんだ、この犬は・・・、おれ達を店に入れない気なのか?」

シュシュは吼え続けている。

「まさか、こんなちっぽけな店の番犬ってわけじゃねェよなァ・・・」

吠え掛かるシュシュに業を煮やしたリッチーは、前足で軽くシュシュをなぎ倒す。
吹っ飛ばされたシュシュは、店に入ろうとするリッチーに必死で噛み付く。
彼の脳裏に、彼の主人であるおじいさんとの思い出が蘇ってきた。

─── 店が完成した日の事。
─── なかなか売れなくて困っていた日の事。
─── たくさん売れて、一緒に喜んだ日の事。
─── 商品を食べてしまって怒られた日の事。
─── 自分を自慢だと言ってくれた日の事。
そして、病院に行ったまま、二度と帰ってこなかった事・・・。

ライオンに犬がかなうわけない。
でもシュシュは、何度吹っ飛ばされても果敢に挑んでいったのである。
店を、おじいさんとの思い出を守る為に。



「─── 畜生あの犬、おれにまで噛みつきやがって・・・。あーあー、血が出てる」

しばらくの後、ペットフード屋から出てくるモージとリッチーがいた。
リッチーはお目当てのエサをバリバリと喰らっている。

「このおれに番犬立てるとは、いい度胸してるぜあの店の主人も」

そして一人と一匹は店を後にしていった。







「─── おれ、ちょっとゾロのところに行ってくる。あの着ぐるみ男、ゾロ捜してたみてェだから」
「バカよせ!!今度こそライオンに食われるぞ!!」

しかし、ブードルが止めるのも聞かず、ルフィはまるで散歩にでも行くかのようにペットフード屋へ戻っていった。
角を曲がると、シュシュの吼える声が聞こえてくる。

ルフィは見た。

ペットフード屋が業火に包まれている。
シュシュはそれに向かって吼え続けているのだ。
ルフィの脳裏に、ブードルの言葉が蘇ってきた。

”きっとこの店は、シュシュにとって宝なんじゃ”
”大好きだった主人の形見だから、それを守り続けているのだと、わしは思う”

ルフィは見た。

シュシュが吼えながら、大粒の涙を流しているのを。

ルフィは道の向こうを見やった。
男がまたがったライオンの後姿が微かに見える。
ルフィはそれに向かって猛然と飛び出していった。







一仕事終え、のんびりと酒場の方に戻っていたモージは、突然目の前に現れた男に驚きを隠せなかった。

「・・・、てめェは・・・、オイ・・・!!てめェはさっき・・確かに、殺した筈だろう!!?」

─── ありえない!あの一撃で吹っ飛ばしたはずなのに!!!

だが、ルフィはけろっとして言った。

「あれくらいじゃ死なないね。おれはゴム人間なんだから」
「ごむ人間?悪運の強さは認めるが、多少頭は打ったか・・・。バカな事は言い出すし」

それならば、とモージはリッチーから飛び降りながら命じた。

「またおれの前に現れるってのもバカだ!!頭を噛み砕いてやれっ!!!」
リッチーがうなり声を上げてルフィに襲い掛かる。

「ライオンなんかに、おれが殺せるかっ!!」

ルフィは反動をつけて腕を交差していく。
二本の腕が絡まっていき、1本の長い鞭のようにリッチーの方へ伸びていく。

「な!!何だそりゃ!!!手が・・・」

モージが叫ぶ。

ゴムゴムの・・・槌ィ!!!

ドゴォン!

ルフィの絡まった手はリッチーの顔面を掴むと、そのまま地面に叩き付けた。
腕の絡まりが戻っていく勢いも合わさって、威力も倍増である。

「!!?リッチー・・・!??」

リッチーは叩きつけられ、さかさまの状態で顔面が地面にめり込んでいる。
モージは目の前の事態が信じられなかった。

「なんだ!!・・・お前・・・、何なんだ!!!」

「おれは昔、ゴムゴムの実を食った・・・!!!」
ルフィはゆっくりと立ち上がる。

「ゴムゴムの実・・・!!?まさか、お前・・・バギー船長と同じ”悪魔の実”の能力者・・・!!」

能力者相手に勝ち目はない。
同じ能力者であるバギーの側近であるが故、能力者の恐ろしさは誰よりもわかっている。
そんなモージの決断は早かった。

「よ・・・、よしっ!お前にな、好きなだけ宝をやろう!そ・・・、それとな、ここはひとつ穏便に謝ろうと思う。ごめん!!!」
「もう、謝んなくていいよ。今さら何しようと、あの犬の宝は戻らねェんだから」

ルフィは顔を上げる。その表情は怒りに満ちていた。

だからおれはお前を、ぶっ飛ばしに来たんだ!!!!

ルフィの腕がモージへ伸びる。

「思い知れ」
「あ・・・あああおい!!!やめてくれェああああ!!!!」

伸びた腕が、モージの胸倉を掴んだまま元の状態へ縮んでいく。

「助け・・・!!!」

ガン!!

ルフィの怒りを込めた鉄拳が、キレイにモージの顔面に入った。







すっかり燃え尽きてしまったペットフード店の前では、シュシュは残骸となってしまった自身の宝物を見つめていた。
悲しいのか、悔しいのか。
表情だけでは、彼の気持ちはくみ取れなかった。
その様子を、ブードルとナミが見つめている。

「どいつもこいつも・・・、海賊なんてみんな同じよ・・・!!」
ナミが吐き捨てるように言った。

「人の大切なものを、平気で奪って!!!」

ブードルはそれを黙って聞いている。
そこへ、ルフィが戻ってきた。

「!あら、海賊生きてたの・・・!」
それに気づいたナミが言う。

「てっきり、ライオンに食べられちゃったのかと思ったわ」
「おい、何言い出すんじゃ」

ブードルが驚く。
ナミの怒りが爆発した。

「あんた!海賊の仲間集めて町を襲いだす前に、ここで殺してやろうか!!!」
「おいやめんか、娘っ!!」

今にも殴りかかりそうなナミを、ブードルは慌てて抑えた。

「お前なんかにおれがやられるか」
ルフィはベーっと舌を出す。

「何っ!!?よーし、やったろうじゃないの!!」
「やめろっちゅーんじゃ、何なんじゃお前らはっ!!」

しかしルフィは、そんな二人を気にも留めず、すたすたとシュシュの傍に行く。
そして、目の前にくしゃっと崩れた箱を一つ置いた。
それは、もう商品としての価値はなくなったが、まぎれもなく店に置いてあったペットフードの箱だった。

「これしか取り返せなかった!あと全部食っちまいやがってよ!」

ルフィは笑いながら、シュシュの横に座り込む。
その様子を見ながら、ナミは振り上げた拳を下ろした。

─── あいつ・・・、あのライオンと戦ってきたんだ・・・。あの犬の為に・・・!!

「よくやったよお前は!よく戦った。まぁ、見ちゃいねェけどな。大体わかる!」

シュシュはペットフードの箱を咥えると、すたすたと歩き出した。
そしてルフィのほうを振り向き、

「ワン!!」
と一つ吼える。

まるでお礼を言うかのようだ。

「おう!!お前も頑張れよ!!」
ルフィもそれに答える。

その様子を見て、ナミは自分の間違いを悟った。







そしてその頃、酒場では。

「モージがやられた!!?」

早くもバギーに伝わっていた。

「”特製バギー玉”ありったけ用意しろ!!!茶番は終わりだ、この町ごと吹き飛ばす!全て消し飛ばしてやる!!!」

バギーは声高らかに宣言した。
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