第19話 悪魔の実
「うがっ!!!」
ルフィの怒りが込められた渾身の蹴りが、バギーの体にキレイに入った。
ルフィは地面に転がった麦わら帽子に目をやる。
「ちきしょう、おれの宝をあんなにしやがって!!」
帽子には無残にも、ナイフで刻まれた跡がくっきりと残っていた。
「つばまで吐きかけやがったな!!」
そして馬乗りになり、バギーの服で帽子の汚れをごしごしと力いっぱいふき取る。
「うべ!うべべっ!!きたねェ、やべろっ!!」
「お前のつばだろうが!!」
ルフィはバギーのほっぺたをギリギリとつかんで怒鳴った。
「お前とシャンクスが同志なんて、二度と言うんじゃねェっ!!」
「いででで・・・。けっ、てめェとシャンクスがどういうつながりなのかは知らんがな。おれがあいつをどう言おうが、おれの勝手だ!!!」
ルフィに乗っかられて身動きの取れないバギーは、またもや手を飛ばそうとうごめかす。
「これでもくらえ!!バ~ラ~バ~ラ~・・・」
「分解すんな!!!」
「んぼ!!!」
分解する寸前、ルフィのチョップがバギーの顔面に入った。
「・・・・・おい・・・、もしかして船長少し押され気味じゃねェか?」
瓦礫の中の手下がつぶやく。
「ば、ばかな事言うな!バギー船長が負けるか。船長の本当の恐さはこれからだ!・・・のはずだ!!」
「・・・・・!」
物陰から戦況を見つめていたナミも、我に返った。
「─── いかんいかん、見とれてたわ。私は早く小屋の宝を盗んで逃げなきゃ!」
さてその頃、避難所では町民達が不安な時間を過ごしていた。
「─── やっぱりおかしい!こんなに長く町長が帰ってこないなんて・・・」
次第に町民達が騒ぎ始める。
「あやつめ・・・、町民達に心配をかけおって・・・」
1人の年配の町民がため息をついた。
「やっぱり町で何か起こってるのよ」
「ああ・・・、さっきから大砲の爆音だって何発も聞こえるしな・・・」
若い町民達の不安の声に、年配の町民が覚悟を決めて言った。
「・・・よし、わしが町へ行って来る。みんなはここで待て!」
「一人で行かせる訳にはいきません!」
若い町民が言う。
「おれも行きますよ!」
「バカモン!町におるのは海賊だぞ。卑劣と名高いバギー一味だ!」
「だからこそ一緒に行くんです!!」
年配の町民が振り向くと、他の町民達が揃っていた。
男性も女性も、年配の者も若い者も、みんなが手に武器を携えている。
「町長一人の身も守れずに、何が町民でしょうか!」
別の町民が言う。
「止めてもムダですよ。全て自発的な行動ですから!」
「・・・・・!」
年配の町民はため息をついた。
「勝手にせいっ!!」
「・・・行こうぜみんな!!」
町民達はときの声を上げた。
「─── おれは今まで生きてきて、あいつほど怒りをおぼえた男はいねェ!!」
バギーはゆっくりと立ち上がりながら、叫んだ。
「あいつはこのおれから、莫大な財宝を奪いやがったんだ!!!」
「!」
「あいつだけは、おれは許さねぇ ───」
そしてバギーは話し始めた。
自分とシャンクスとの間に起きた出来事を。
─── それは今から20年以上前のこと。
とある海賊船の甲板では、しょっちゅう騒ぎが起こっていた。
「おお、またケンカだあ!」
「はっはっは、やれやれェ!どっちも負けんな!!」
海賊達がけしかける。
その真ん中では2人の男がつかみ合いのけんかをしていた。
「─── 北極だ!!」
「南極だ!!」
一人の男はニット帽に真っ赤な丸い鼻、そう若かりし頃のバギー。
そしてもう一人の男は・・・、赤い髪に麦わら帽子がトレードマークの、そうこちらも若かりし頃のシャンクスだ。
「まだ言うかコラ!」
「おォ、何度でも言うぜ!おれが正しいんだ!!」
殴りあう2人の周りでは、仲間の海賊達がにやにやしながらみつめている。
「いい加減にしろ!ケンカばっかりしやがって、てめェらは!!」
見かねて、副船長が2人をゲンコツで止めた。
「北極と南極のどっちが寒いかなんて、どうでもいいだろう!そんなに知りたきゃ、両方行って確かめりゃ済む事だ。頭冷やせ、バカヤロウ!」
ケンカの理由は至極単純なこと。
歳も近く、同じ海賊見習いである2人は何かにつけて張り合ってはケンカしていたのだ。
そして、ある日のこと。
「北北東から敵船が来るぞ!!」
船の見張り台に立っていた仲間の一人が叫ぶ。
「よォし、向かえうて!!」
「戦闘だ!!!」
その声に、海賊達は戦闘体制に入る。バギーとシャンクスも例外ではない。
「嬉しそうだな、バギー」
張り切るバギーに、シャンクスが笑って言った。
「ったりめェだ!!敵船は宝箱みてェなモンだからな。奪ってナンボの海賊だ!!」
「・・・まァ、一理あるけどな」
シャンクスが敵船を見やって、剣を構える。
「一理どころじゃねェ!それが全てだ!!」
バギーは、彼の持論を展開した。
「甘ェ甘ェ!!てめェもこの船の海賊達も、宝に対しちゃおっとりしたことばかり言いやがる。海賊ってモンをわかっちゃいねェんだ!!」
そして戦闘が始まる。
海賊達は敵船に次々と乗り込んでいく。
あちらこちらで聞こえる雄たけび、悲鳴、武器を打ち合う音・・・。
騒然とした中、バギーはあるものを見つけた。
「ん!?これは・・・!!」
それは海底に沈められた、巨万の富を記す地図だった。
「た・・・たたた・・・た、宝の地図・・・・・!!」
バギーは興奮で体の震えが止まらなかった。
─── だ・・・だだ、誰も見てねェな。がははははは、これを独り占めしない手はねェ。
─── やったぞ!!これでおれの人生は、ド派手と決まった!!!
地図を懐に隠し、人知れずガッツポーズを決めるバギーであった。
その日の夜 ───。
「はっはっはっはっは!!今日も快勝だった!!!」
「飲め飲め!騒げ!歌え!!」
昼間の戦闘に勝利した海賊達は、戦勝を祝い、当然のように宴を開いていた。
しかしバギーは宴の輪に加わらず、1人甲板にいた。
昼間、こっそり奪った地図を見つめ、期待に胸を膨らませる。
そこへ、酒瓶を片手にシャンクスがやってきた。
「おいバギー、一緒に騒がねぇのか?面白い戦利品もあるぞ!」
─── 戦利品!?バ、バレたのか???
「せ・・・せ・・・戦利品って・・・、おれは別に何もとってねェぞ!!何も知らねェ!!」
「?何言ってんだ、お前」
焦るバギーに、シャンクスは首をかしげる。
─── バレてない・・・。
バギーはそっと胸をなでおろした。
そんなことは全然気づいていない様子でそばの椅子に腰を下ろしたシャンクスに、バギーは言った。
「─── おれ達はいずれ、この船を下りることになるよな」
「まァな、自立はするつもりだよ」
シャンクスは言う。
「おれは自分の船を持ったら、時間をかけて世界を見てまわろうと思ってる。もちろん海賊としてだ」
そんなシャンクスに、バギーは笑って言った。
「へへっ!相変わらずバカな事言ってやがる」
「あんだと!?」
「おれはてめェの戦闘の腕だけは買ってんだ。その甘ったれた考え方さえなきゃ、部下にしてやってもよかったんだがな」
「お前の部下だと!?ふざけんな!!」
シャンクスが酒をあおる。
「考え方が違うから、別々の道を好きに行きゃいいんだ。それが海賊だ!」
「はっはっはっは!!てめェが海賊を語るのかよ・・・。だがそうなりゃ、おれ達が後に海で会う時は殺し合いだぜ!?」
「ああ、それも海賊だな」
「・・・わかんねぇ野郎だ・・・」
笑うシャンクスに、バギーは納得がいかないようだった。
「─── ところで、お前さっき面白ェ戦利品がどうとか言ってたな」
バギーはさっきから気になっていた話に戻した。
「ああ・・・、”悪魔の実”があったんだ」
シャンクスも思い出したように言う。
「悪魔の実ってのは海の悪魔の化身だって聞いたことがある。食っちまったら”悪魔の能力”と引き換えに海に嫌われちまうんだとよ。船長が、誰か食いたきゃ食っていいって言ってたぜ」
シャンクスが笑う。
「がははははは、そんなもんで万年カナヅチになっちゃかなわねぇな」
バギーも笑う。
─── こえーこえー、そんなモンを食う奴は相当のバカだな。
─── 海底にだって財宝はたくさん眠ってるってのに、泳げねェんじゃ取りにも行けねェ!
という本音は必死で隠して。
・・・あんまり隠れてはないが。
しかし、シャンクスは気づかなかったようだ。
「しかし・・・、あんなへんてこな実が売れば1億ベリーにもなるとは」
「なァに、ほんとかそりゃあ!!!」
がっつり食いつくバギー。
─── 一億といやぁ、A級の宝箱10個でも足りねェ破格!!
─── 財宝の女神がおれに微笑んでるとしか思えねェ!!!
「─── 海賊見習いバギー!悪魔の実を食わせていただきます!!」
翌朝、船の甲板で仲間達に宣言しているバギーの姿があった。
「だははははは、いいねェ若いってのは後先考えねェで!!」
「いいぞバギー、見直した!!」
海賊達がはやし立てる中、バギーは実を一口で口に入れた。
「おおーっ食ったァー!!!」
どよめき後の一瞬の沈黙。
「・・・どうだ、バギー。体に変化はあるか?」
海賊達の問いに、
「いや・・・、別に・・・」
と、バギー。
「何だ、ニセ者なんじゃねェのか?」
「だいたい悪魔の実なんて、噂でしか知らねぇからな」
不思議がる海賊達の中で、真相を知っているのはもちろんバギーだけだった。
─── くくくくっ、その通り!今食ったのはおれが工作したニセ物の実だ。夜のうちにすり替えたんだ!
しばらくして、物陰で高笑いするバギーの姿があった。
右手に宝の地図、左手にぐるぐる模様の悪魔の実をがっしり掴んで。
「─── ハデにうまくいった!!もう、見習いなんてやってられねェ、バレねェ内に船を下りよう。この実を売り払った金とこの地図の財宝があれば、今すぐにでも最強の海賊団を結成して、さらに宝を奪って・・・」
「おいバギー、こんなとこで何やってんだ?」
不意に声をかけられた。シャンクスだ。
バギーは慌てて地図を懐にしまい、悪魔の実を口の中に隠した。
─── な・・・、何だコイツか。おどかしやがって・・・。
「?何て顔してんだよ」
バギーのただならない雰囲気に、シャンクスはいぶかる。
「盗み食いは程々にしろよ。コックさんに怒られるぜ」
シャンクスは勝手に盗み食いだと勘違いしたようだ。すたすたと行ってしまう。
─── あ・・危ねェ、危ねぇ・・・。
ほっとした時だった。
「あ、そういえばさっき船長が・・・」
「!!!」
行ってしまった筈のシャンクスが急に戻ってきた。
思わずバギーは口の中の悪魔の実を・・・、飲み込んでしまった!!!
「ああああああああああああ」
─── 食べた!食べてしまった悪魔の実!!!おれの1億ベリー!!!
「て・・・てててめェ、おれの・・・おれの、おれはああああああああ!!!」
バギーはシャンクスの胸倉を掴む。
シャンクスはそんなバギーを不思議そうに見つめたままだ。
ふと、シャンクスが気づいた。
「何だ、あの紙切れ」
振り向くと、海へ向かってひらひらと舞い落ちる紙切れ1枚。
宝の、地図だ。
「あああああ、おれの地図!!!」
バギーは地図を追って、すぐさま海へ飛び込んだ。
シャンクスが止めるのも聞かずに。
異変はすぐに現れた。
つい昨日まで出来た事が出来ない。
─── 何だ・・・、体がうまく動かねェ・・・。
何とか海上に頭を出す。
しかし、泳げない。
「ぶはっ・・・ばび!!・・・ばぼ・・・!!助けば・・・!!」
「おいお前、何やってんだ。泳ぎは得意だろ!?」
シャンクスが船の上から叫ぶ。
「何だ、何事だシャンクス」
「ん!?あいつ何やってんだ」
騒ぎを聞きつけて、他の海賊たちもやってきた。
シャンクスは自分が昨日の夜言ったことを思い出した。
”悪魔の実ってのは海の悪魔の化身だって聞いたことがある。食っちまったら”悪魔の能力”と引き換えに海に嫌われちまうんだとよ。”
─── まさか、海に嫌われるって言うのは。
「今助ける!!」
シャンクスは海に飛び込んだ。
「─── そしておれは!1億ベリーの実を食い!カナヅチになり!!海底に沈む巨万の富を逃した!!!」
バギーが憎々しげに語り終わった。
「へー。シャンクスが助けてくれたのか」
とルフィ。
あれだけの話を聞いての感想がこれだ。
「おれが言いてェのはそこじゃねェだろ!!!」
気持はわかる。
「あいつのお陰で、おれの人生計画は一気に10年の遅れをとったんだ!」
バギーは上半身のみ、空中に浮かび上がらせた。
「そしておれはフッ切れた!海中がダメなら海上の全ての財宝をおれのものにしてやるとな。このバラバラの能力で!!!」
そしてバギーは空から見つけた。
小屋からこっそり出てくる人影を。
「─── だから、おれの財宝に手をかける奴は、どんな虫ケラだろうと絶対に・・・!」
バギーは狙いを定める。
「あ」
ルフィも気づいた。
「生かしちゃおかん!!!」
バギーは猛スピードで、小屋から出てきたナミに向かって行った。
ルフィの怒りが込められた渾身の蹴りが、バギーの体にキレイに入った。
ルフィは地面に転がった麦わら帽子に目をやる。
「ちきしょう、おれの宝をあんなにしやがって!!」
帽子には無残にも、ナイフで刻まれた跡がくっきりと残っていた。
「つばまで吐きかけやがったな!!」
そして馬乗りになり、バギーの服で帽子の汚れをごしごしと力いっぱいふき取る。
「うべ!うべべっ!!きたねェ、やべろっ!!」
「お前のつばだろうが!!」
ルフィはバギーのほっぺたをギリギリとつかんで怒鳴った。
「お前とシャンクスが同志なんて、二度と言うんじゃねェっ!!」
「いででで・・・。けっ、てめェとシャンクスがどういうつながりなのかは知らんがな。おれがあいつをどう言おうが、おれの勝手だ!!!」
ルフィに乗っかられて身動きの取れないバギーは、またもや手を飛ばそうとうごめかす。
「これでもくらえ!!バ~ラ~バ~ラ~・・・」
「分解すんな!!!」
「んぼ!!!」
分解する寸前、ルフィのチョップがバギーの顔面に入った。
「・・・・・おい・・・、もしかして船長少し押され気味じゃねェか?」
瓦礫の中の手下がつぶやく。
「ば、ばかな事言うな!バギー船長が負けるか。船長の本当の恐さはこれからだ!・・・のはずだ!!」
「・・・・・!」
物陰から戦況を見つめていたナミも、我に返った。
「─── いかんいかん、見とれてたわ。私は早く小屋の宝を盗んで逃げなきゃ!」
さてその頃、避難所では町民達が不安な時間を過ごしていた。
「─── やっぱりおかしい!こんなに長く町長が帰ってこないなんて・・・」
次第に町民達が騒ぎ始める。
「あやつめ・・・、町民達に心配をかけおって・・・」
1人の年配の町民がため息をついた。
「やっぱり町で何か起こってるのよ」
「ああ・・・、さっきから大砲の爆音だって何発も聞こえるしな・・・」
若い町民達の不安の声に、年配の町民が覚悟を決めて言った。
「・・・よし、わしが町へ行って来る。みんなはここで待て!」
「一人で行かせる訳にはいきません!」
若い町民が言う。
「おれも行きますよ!」
「バカモン!町におるのは海賊だぞ。卑劣と名高いバギー一味だ!」
「だからこそ一緒に行くんです!!」
年配の町民が振り向くと、他の町民達が揃っていた。
男性も女性も、年配の者も若い者も、みんなが手に武器を携えている。
「町長一人の身も守れずに、何が町民でしょうか!」
別の町民が言う。
「止めてもムダですよ。全て自発的な行動ですから!」
「・・・・・!」
年配の町民はため息をついた。
「勝手にせいっ!!」
「・・・行こうぜみんな!!」
町民達はときの声を上げた。
「─── おれは今まで生きてきて、あいつほど怒りをおぼえた男はいねェ!!」
バギーはゆっくりと立ち上がりながら、叫んだ。
「あいつはこのおれから、莫大な財宝を奪いやがったんだ!!!」
「!」
「あいつだけは、おれは許さねぇ ───」
そしてバギーは話し始めた。
自分とシャンクスとの間に起きた出来事を。
─── それは今から20年以上前のこと。
とある海賊船の甲板では、しょっちゅう騒ぎが起こっていた。
「おお、またケンカだあ!」
「はっはっは、やれやれェ!どっちも負けんな!!」
海賊達がけしかける。
その真ん中では2人の男がつかみ合いのけんかをしていた。
「─── 北極だ!!」
「南極だ!!」
一人の男はニット帽に真っ赤な丸い鼻、そう若かりし頃のバギー。
そしてもう一人の男は・・・、赤い髪に麦わら帽子がトレードマークの、そうこちらも若かりし頃のシャンクスだ。
「まだ言うかコラ!」
「おォ、何度でも言うぜ!おれが正しいんだ!!」
殴りあう2人の周りでは、仲間の海賊達がにやにやしながらみつめている。
「いい加減にしろ!ケンカばっかりしやがって、てめェらは!!」
見かねて、副船長が2人をゲンコツで止めた。
「北極と南極のどっちが寒いかなんて、どうでもいいだろう!そんなに知りたきゃ、両方行って確かめりゃ済む事だ。頭冷やせ、バカヤロウ!」
ケンカの理由は至極単純なこと。
歳も近く、同じ海賊見習いである2人は何かにつけて張り合ってはケンカしていたのだ。
そして、ある日のこと。
「北北東から敵船が来るぞ!!」
船の見張り台に立っていた仲間の一人が叫ぶ。
「よォし、向かえうて!!」
「戦闘だ!!!」
その声に、海賊達は戦闘体制に入る。バギーとシャンクスも例外ではない。
「嬉しそうだな、バギー」
張り切るバギーに、シャンクスが笑って言った。
「ったりめェだ!!敵船は宝箱みてェなモンだからな。奪ってナンボの海賊だ!!」
「・・・まァ、一理あるけどな」
シャンクスが敵船を見やって、剣を構える。
「一理どころじゃねェ!それが全てだ!!」
バギーは、彼の持論を展開した。
「甘ェ甘ェ!!てめェもこの船の海賊達も、宝に対しちゃおっとりしたことばかり言いやがる。海賊ってモンをわかっちゃいねェんだ!!」
そして戦闘が始まる。
海賊達は敵船に次々と乗り込んでいく。
あちらこちらで聞こえる雄たけび、悲鳴、武器を打ち合う音・・・。
騒然とした中、バギーはあるものを見つけた。
「ん!?これは・・・!!」
それは海底に沈められた、巨万の富を記す地図だった。
「た・・・たたた・・・た、宝の地図・・・・・!!」
バギーは興奮で体の震えが止まらなかった。
─── だ・・・だだ、誰も見てねェな。がははははは、これを独り占めしない手はねェ。
─── やったぞ!!これでおれの人生は、ド派手と決まった!!!
地図を懐に隠し、人知れずガッツポーズを決めるバギーであった。
その日の夜 ───。
「はっはっはっはっは!!今日も快勝だった!!!」
「飲め飲め!騒げ!歌え!!」
昼間の戦闘に勝利した海賊達は、戦勝を祝い、当然のように宴を開いていた。
しかしバギーは宴の輪に加わらず、1人甲板にいた。
昼間、こっそり奪った地図を見つめ、期待に胸を膨らませる。
そこへ、酒瓶を片手にシャンクスがやってきた。
「おいバギー、一緒に騒がねぇのか?面白い戦利品もあるぞ!」
─── 戦利品!?バ、バレたのか???
「せ・・・せ・・・戦利品って・・・、おれは別に何もとってねェぞ!!何も知らねェ!!」
「?何言ってんだ、お前」
焦るバギーに、シャンクスは首をかしげる。
─── バレてない・・・。
バギーはそっと胸をなでおろした。
そんなことは全然気づいていない様子でそばの椅子に腰を下ろしたシャンクスに、バギーは言った。
「─── おれ達はいずれ、この船を下りることになるよな」
「まァな、自立はするつもりだよ」
シャンクスは言う。
「おれは自分の船を持ったら、時間をかけて世界を見てまわろうと思ってる。もちろん海賊としてだ」
そんなシャンクスに、バギーは笑って言った。
「へへっ!相変わらずバカな事言ってやがる」
「あんだと!?」
「おれはてめェの戦闘の腕だけは買ってんだ。その甘ったれた考え方さえなきゃ、部下にしてやってもよかったんだがな」
「お前の部下だと!?ふざけんな!!」
シャンクスが酒をあおる。
「考え方が違うから、別々の道を好きに行きゃいいんだ。それが海賊だ!」
「はっはっはっは!!てめェが海賊を語るのかよ・・・。だがそうなりゃ、おれ達が後に海で会う時は殺し合いだぜ!?」
「ああ、それも海賊だな」
「・・・わかんねぇ野郎だ・・・」
笑うシャンクスに、バギーは納得がいかないようだった。
「─── ところで、お前さっき面白ェ戦利品がどうとか言ってたな」
バギーはさっきから気になっていた話に戻した。
「ああ・・・、”悪魔の実”があったんだ」
シャンクスも思い出したように言う。
「悪魔の実ってのは海の悪魔の化身だって聞いたことがある。食っちまったら”悪魔の能力”と引き換えに海に嫌われちまうんだとよ。船長が、誰か食いたきゃ食っていいって言ってたぜ」
シャンクスが笑う。
「がははははは、そんなもんで万年カナヅチになっちゃかなわねぇな」
バギーも笑う。
─── こえーこえー、そんなモンを食う奴は相当のバカだな。
─── 海底にだって財宝はたくさん眠ってるってのに、泳げねェんじゃ取りにも行けねェ!
という本音は必死で隠して。
・・・あんまり隠れてはないが。
しかし、シャンクスは気づかなかったようだ。
「しかし・・・、あんなへんてこな実が売れば1億ベリーにもなるとは」
「なァに、ほんとかそりゃあ!!!」
がっつり食いつくバギー。
─── 一億といやぁ、A級の宝箱10個でも足りねェ破格!!
─── 財宝の女神がおれに微笑んでるとしか思えねェ!!!
「─── 海賊見習いバギー!悪魔の実を食わせていただきます!!」
翌朝、船の甲板で仲間達に宣言しているバギーの姿があった。
「だははははは、いいねェ若いってのは後先考えねェで!!」
「いいぞバギー、見直した!!」
海賊達がはやし立てる中、バギーは実を一口で口に入れた。
「おおーっ食ったァー!!!」
どよめき後の一瞬の沈黙。
「・・・どうだ、バギー。体に変化はあるか?」
海賊達の問いに、
「いや・・・、別に・・・」
と、バギー。
「何だ、ニセ者なんじゃねェのか?」
「だいたい悪魔の実なんて、噂でしか知らねぇからな」
不思議がる海賊達の中で、真相を知っているのはもちろんバギーだけだった。
─── くくくくっ、その通り!今食ったのはおれが工作したニセ物の実だ。夜のうちにすり替えたんだ!
しばらくして、物陰で高笑いするバギーの姿があった。
右手に宝の地図、左手にぐるぐる模様の悪魔の実をがっしり掴んで。
「─── ハデにうまくいった!!もう、見習いなんてやってられねェ、バレねェ内に船を下りよう。この実を売り払った金とこの地図の財宝があれば、今すぐにでも最強の海賊団を結成して、さらに宝を奪って・・・」
「おいバギー、こんなとこで何やってんだ?」
不意に声をかけられた。シャンクスだ。
バギーは慌てて地図を懐にしまい、悪魔の実を口の中に隠した。
─── な・・・、何だコイツか。おどかしやがって・・・。
「?何て顔してんだよ」
バギーのただならない雰囲気に、シャンクスはいぶかる。
「盗み食いは程々にしろよ。コックさんに怒られるぜ」
シャンクスは勝手に盗み食いだと勘違いしたようだ。すたすたと行ってしまう。
─── あ・・危ねェ、危ねぇ・・・。
ほっとした時だった。
「あ、そういえばさっき船長が・・・」
「!!!」
行ってしまった筈のシャンクスが急に戻ってきた。
思わずバギーは口の中の悪魔の実を・・・、飲み込んでしまった!!!
「ああああああああああああ」
─── 食べた!食べてしまった悪魔の実!!!おれの1億ベリー!!!
「て・・・てててめェ、おれの・・・おれの、おれはああああああああ!!!」
バギーはシャンクスの胸倉を掴む。
シャンクスはそんなバギーを不思議そうに見つめたままだ。
ふと、シャンクスが気づいた。
「何だ、あの紙切れ」
振り向くと、海へ向かってひらひらと舞い落ちる紙切れ1枚。
宝の、地図だ。
「あああああ、おれの地図!!!」
バギーは地図を追って、すぐさま海へ飛び込んだ。
シャンクスが止めるのも聞かずに。
異変はすぐに現れた。
つい昨日まで出来た事が出来ない。
─── 何だ・・・、体がうまく動かねェ・・・。
何とか海上に頭を出す。
しかし、泳げない。
「ぶはっ・・・ばび!!・・・ばぼ・・・!!助けば・・・!!」
「おいお前、何やってんだ。泳ぎは得意だろ!?」
シャンクスが船の上から叫ぶ。
「何だ、何事だシャンクス」
「ん!?あいつ何やってんだ」
騒ぎを聞きつけて、他の海賊たちもやってきた。
シャンクスは自分が昨日の夜言ったことを思い出した。
”悪魔の実ってのは海の悪魔の化身だって聞いたことがある。食っちまったら”悪魔の能力”と引き換えに海に嫌われちまうんだとよ。”
─── まさか、海に嫌われるって言うのは。
「今助ける!!」
シャンクスは海に飛び込んだ。
「─── そしておれは!1億ベリーの実を食い!カナヅチになり!!海底に沈む巨万の富を逃した!!!」
バギーが憎々しげに語り終わった。
「へー。シャンクスが助けてくれたのか」
とルフィ。
あれだけの話を聞いての感想がこれだ。
「おれが言いてェのはそこじゃねェだろ!!!」
気持はわかる。
「あいつのお陰で、おれの人生計画は一気に10年の遅れをとったんだ!」
バギーは上半身のみ、空中に浮かび上がらせた。
「そしておれはフッ切れた!海中がダメなら海上の全ての財宝をおれのものにしてやるとな。このバラバラの能力で!!!」
そしてバギーは空から見つけた。
小屋からこっそり出てくる人影を。
「─── だから、おれの財宝に手をかける奴は、どんな虫ケラだろうと絶対に・・・!」
バギーは狙いを定める。
「あ」
ルフィも気づいた。
「生かしちゃおかん!!!」
バギーは猛スピードで、小屋から出てきたナミに向かって行った。
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