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第24話 偽れぬもの

ここはのんびりとしたシロップ村。
その村を大急ぎで駆け抜ける3人の姿があった。
ウソップ海賊団である。

「おい、たまねぎ!本当にこの店に海賊たちは入ったんだな」

めし屋の陰に隠れるようにしながら、ピーマンが言った。

「うん、ぼく見たんだ」

たまねぎがごくりとつばを飲み込む。

「キャプテンが海賊達にここへ連れ込まれるところを」

そしておもちゃのナイフを振りかざす。

「ぼくらで助けなきゃ!」

「でも本物の海賊は野蛮なんだぞ、喰われちゃうかも・・・」

にんじんは不安そうだ。

「ばか、人を喰うのは”鬼ババ”だ!覚悟を決めろよ、にんじん!」

ピーマンが奮い立たせる。

「この戦いは”ウソップ海賊団”けっせい以来のそうぜつな戦いになりそうだ!」

そして3人は意を決して店の中に飛び込んでいった。

「ウソップ海賊団、参上っ!!!」

「ん?」

ルフィたちは食後のコーヒーを飲んでいたところだった。

「なに、あれ・・・」
「さー、何だろうな・・・」

ナミとルフィが不思議がる。

3人はテーブルに座っているはずの人を探した。いない。

「・・・!おい、キャプテンがいないぞ・・・」
「まさか・・・、やられちゃったのかな・・・!」

3人は揃ってナイフを振りかざして叫んだ。

「お・・、おい海賊達っ!われらが船長キャプテン・ウソップをどこへやった!キャプテンを返せ!!!」

ルフィが言った。

「はーっ、うまかった!肉っ!!!」

・・・食事の感想でした。
しかし、3人は純粋で・・・。

「!!」
「え・・・にく・・・って!?」
「まさか・・・、キャプテン・・・!!」

ナミがぷっと笑う。

「お前らのキャプテンならな・・・」

ゾロが静かに話し出した。

「な・・・何だ!何をした・・・!」

怯える3人に、ゾロはにやりと笑う。

「喰っちまった」

「ぎいやああああ、鬼ババァ~~~~~っ!!!」
「何で私を見てんのよ!」

ナミが怒鳴る。
3人の海賊たちは、ついに泡を吹いて気絶してしまった。

「あんたがバカなこと言うから!」

ナミの怒りの矛先はゾロへ。
ゾロはただ大笑いするだけだった。





しばらくして、気がついた3人はようやくウソップの行方を知ることができた。

「時間?」
「ああ・・・そう言ってさっき店から出てったぜ」

ゾロの言葉に、ピーマンは合点がいったようだ。

「あ、そうか。キャプテン屋敷へ行く時間だったんだ」
「屋敷って、病弱そうな女の子がいるって言う?」

ナミが尋ねる。

「うん」
と、にんじん。

「何しにいったんだよ」

ルフィの問いに、にんじんは笑顔で答えた。

「うそつきに!」

「ダメじゃねェか」

しかしピーマンとたまねぎも言った。

「ダメじゃないんだ、立派なんだ!な!」
「うん!立派だ!」

「ん?」

ルフィは3人の真意をつかめずにいた。







一方その頃、村はずれの屋敷では。

「ウソップに会いたいですと・・・?またそんな事を・・・」

この屋敷の主がつぶやいた言葉をいさめる執事の姿があった。

年の頃は30代半ばくらいだろう。細身の長身。執事という職業からか気難しそうな顔つきで、銀縁のメガネをかけている。黒い髪をきっちりと整髪料で固め黒いスーツをかっちりと着こなしている。スーツの柄は・・・、ちょっと珍しい柄ではあるが。
私はあんまり着たくない。て言うか絶対。

「いいでしょ?お話がしたいの」

彼女はもう何度となく、この執事クラハドールに同じことを言い続けている。

「いけません!何度も言ってるハズです」

クラハドールもまた、何度となく言い続けていることを再び彼女に告げた。

「あの男はこの村一番の大ボラ吹き。あんな男とお話になっては、お嬢様に悪影響が及びます」
「ケチ!」

彼女が少女のように拗ねる。

彼女・・・この屋敷の主であるカヤは、年は15.6歳くらいだろう。
色白で、はかなげな美少女。
両親の急死により、この屋敷の主となった。
元々体は弱い方だったのが、両親の死のせいでより一層ベッドから離れられない日々が続いている。
クラハドールは、そのカヤの面倒をずっと見続けているのだ。

「ええ、ケチで結構!何と言われましても、ダメなものはダメです」

クラハドールはカヤの薬の準備をしながら言った。

「体の弱いお嬢様にとって、ウソップのホラ話は刺激が強すぎます」
「平気よ、私は」
「聞きわけてください。私は亡くなられたご両親から固く申し付けられているのです。カヤお嬢様をしっかりお守りするようにと・・・!」

そう言って、クラハドールはメガネのズレを手のひらでクイッと直した。

「そのために門番まで立てて。万全を期しているのですから」

カヤは黙りこくっている。

「全てはお嬢様の為でございますっ!」

クラハドールは両手のひらでメガネのズレを直す。

「・・・うん・・・、わかってる・・・」

カヤの声は沈んでいた。

「わかっていただければ結構。お薬はここへ置いておきますので、ちゃんとお飲みください」

そう告げて、クラハドールは部屋を出て行った。





しばらくして、屋敷の1階にあるカヤの部屋の窓をノックする音が聞こえた。
カヤが窓の外を覗くと、彼女が心待ちにしていた顔がそこにあった。

「ウソップさん!」

カヤは嬉しそうな声を出した。

「よお、相変わらず元気ねェな」

カヤの部屋の横にある木を背に、ウソップは座り込んでいた。

「ごめんなさい、本当はちゃんとお客として迎えたいのにクラハドールがどうしても許してくれなくって・・・。悪い人じゃないのよ」
「なに、おれは庭の方がいいね。その堅苦しい家じゃ、息が詰まっちまう」

ウソップは笑って言った。

「何たっておれは、勇敢なる海の戦士だからな!」

「それで今日は、どんな冒険のお話?」

カヤがわくわくしながら聞く。

「ああ・・・、今日はそうだな。おれが5歳の時に、南海に住む巨大な金魚と戦った時の話だ・・・」
「金魚?」
「まず驚いたのは、あのフンのでかさと長さだ。おれはてっきり大陸だと思って上陸しちまったのさ・・・」

昼下がりの穏やかな午後。
ウソップの壮大なホラ話と、カヤの本当に楽しそうに笑う声は途絶えることなく続いていた。







「─── なんだ、あいつ偉いじゃん」

3人の海賊団からウソップの話を聞いたルフィは感心して言った。
ナミも言う。

「へー、じゃあお嬢様を元気づける為に1年前からずっとウソつきに通ってるんだ」
「うん」

にんじんが嬉しそうに言う。

「おれはキャプテンのそんな”おせっかい”なところが好きなんだ」

ピーマンも言う。

「おれは”しきり屋”なとこが好きだ」
「ぼくは”ホラ吹き”なとこが好き!」

たまねぎも続いた。

「とりあえず慕われてんだな・・・」

苦笑いしながらゾロは言った。

「もしかして、もうお嬢様元気なのか?」

ルフィの問いに、にんじんが答えた。

「うん、だいぶね。キャプテンのおかげで!」

その言葉を聞いて、ルフィは決断しなおした。

「よし!じゃあやっぱり、屋敷に船を貰いに行こう!!」
「だめよ!さっき諦めるって言ったじゃない!」

ナミが止めたが、聞くわけがない。
ルフィは海賊団に案内をしてもらい、カヤの屋敷へ向かった。







村を通り抜けると、目の前にそびえるのは大きく立派なお屋敷。
確かにのんびりした村とここでは、場違い、という言葉が一番しっくり来る。
重厚な、年代ものの大きな屋敷の周囲には高い塀がめぐらされ、大きな鉄の門は固く閉じられていた。

「こんにちはーっ、船くださーい!」

そんな屋敷にもひるむことなく、ルフィが元気よく叫ぶ。
そして叫んだや否や、

「さあ、入ろう」

門をよじ登って行った。

「・・・挨拶した意味あんのか・・・」

その様子を、海賊団たちは唖然と見つめる。

「ああ、止めてもムダなのね・・・」
「ムダだな。付き合うしかねェだろ」

その後ろでは、ナミとゾロがため息をついていた。





ウソップの話はまだ続いていた。
カヤの笑い声が響く。

「あははははは・・・、で、その金魚はどうしたの?」
「その時切り身にして小人の国へ運んだが、未だに喰い切れてないらしい。そしてまたもや手柄を立てたおれを、人は称えこう呼んだ」

「キャープテーン!!!」

「そう・・・、キャプテ・・・げっ!お前ら!」

ウソップが声をした方に目をやると、ウソップ海賊団の面々、そしてめし屋で別れた海賊達がそこにいた。

「お前ら何しに来たんだ」

「この人が連れて行けって・・・」

ピーマンがルフィを指す。

「誰?」

カヤも窓から首を伸ばした。

「あ!お前がお嬢様か!」

ルフィがそれに気づく。

ウソップはルフィの肩を抱いて、カヤに紹介を始めた。

「あー、こいつらはおれの噂を聞きつけ遠路はるばるやってきた、新しいウソップ海賊団の一員だ!」
「ああ!!・・・いや、違うぞおれは!」

つられて言ったが、軌道修正は早かった。

「頼みがあるんだよ!」
「頼み?私に?」

カヤは笑顔で答える。

「ああ!おれ達はさ、でっかい船が欲しいん・・・」

「君たち、そこで何をしてる!!!」

ルフィの言葉をかき消すように、怒鳴り声が響いた。

クラハドールであった。

侵入者がいる、との報告に彼は見回りに来ていたのである。
門番達は昼休みであった為、難なく侵入者を許してしまったのだが。

「困るね、勝手に屋敷に入ってもらっては!!!」

クラハドールはつかつかと歩み寄る。
まずい人物に見つかったと、ウソップは慌てて顔を背けた。

「あのね、クラハドール。この人達は・・・」
「今は結構!理由なら後でキッチリ聞かせていただきます!!」

カヤは慌てて言い繕ったが、クラハドールは聞く耳を持たなかった。

「さあ、君達帰ってくれたまえ。それとも何か言いたい事があるかね?」

その言葉にルフィは素直に言った。

「あのさ、おれ船が欲しいんだけど」
「ダメだ」

即答。
ルフィは落ち込む。

クラハドールはその中にある人物がいることに気づいた。

「君は・・・、ウソップ君だね」

ウソップは恐る恐る、顔をクラハドールのほうに向ける。
カヤは何も言えずにただ、黙りこくっていた。

「君の噂はよく聞いてるよ。村で評判だからね」
「あ・・・ああ、ありがとう。あんたもおれをキャプテン・ウソップと呼んでくれてもいいぜ。おれを称えるあまりにな」
「・・・門番が君をちょくちょくこの屋敷で見かけるというのだが、何か用があるのかね?」

クラハドールは手のひらでメガネのズレを直す。

「ああ・・・!それはあれだ・・・。おれはこの屋敷に伝説のモグラが入っていくのを見たんだ!で、そいつを探しに・・・」

ウソップの必死の言い訳に、クラハドールは冷たく笑った。

「フフ・・・、よくもそうくるくると舌が回るもんだね。君の父上の話も聞いているぞ」
「何!?」

父上と聞いて、ウソップの顔色が変わった。

「君は所詮ウス汚い海賊の息子だ。何をやろうと驚きはしないが、うちのお嬢様に近づくのだけはやめてくれないか!」

クラハドールの言葉に、ルフィたちは驚く。

「あいつの父ちゃん、海賊なのか!」
「・・・ウス汚いだと・・・!?」

ウソップの顔に怒りの表情が浮かぶ。

「君とお嬢様とでは住む世界が違うんだ。目的は金か?いくら欲しい」
「言いすぎよ、クラハドール!!ウソップさんに謝って!!!」

カヤが大声で怒鳴る。
しかし、クラハドールはどこ吹く風。

「この野蛮な男に何を謝る事があるのです、お嬢様。私は真実を述べているだけなのです」

そしてさらにウソップに言い放つ。

「君には同情するよ・・・。恨んでいることだろう、君ら家族を捨てて村を飛び出した”財宝狂いのバカ親父を”を」
「クラハドール!!!」
「てめェ、それ以上親父をバカにするな!!」

ウソップが叫んだ。

「・・・何をムリに熱くなっているんだ、君も賢くないな。こういう時こそ得意のウソをつけばいいのに・・・。本当は親父は旅の商人だとか、実は血がつながってないとか・・・」

とうとうウソップの堪忍袋の尾が切れた。

「うるせェ!!!!」

バキッ!!!

ウソップの怒りがクラハドールの顔面をぶっ飛ばす。

「う・・・く!」

クラハドールはようやく体を起こした。

「ほ・・・、ほら見ろ、すぐに暴力だ。親父が親父なら、息子も息子というわけだ・・・!」
「黙れ!!!」

ウソップが叫ぶ。

「おれは親父が海賊であることを誇りに思ってる!!!勇敢な海の戦士であることを誇りに思ってる!!!お前の言うとおりおれはホラ吹きだがな、おれが海賊の血を引いているその誇りだけは!!!偽るわけにはいかねェんだ!!!おれは海賊の息子だ!!!」

ホラ吹きウソップの、偽りのない言葉であった。

その言葉を聞いて、ルフィはふと思い出した。

「・・・そうかあいつ・・・!思い出した・・・!!!」
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