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第26話 キャプテン・クロの一計

海岸沿いの崖の下、クラハドールとジャンゴの密談は続いていた。

「─── 暗殺なんて聞こえの悪い言い方はよせ、ジャンゴ」
「ああ、そうだった。事故・・・!事故だったよな”キャプテン・クロ”」
「キャプテン・クロか・・・」

クラハドールが手のひらでメガネのズレを直す。

「3年前に捨てた名だ。その呼び方もやめろ。今はお前が船長のハズだ」

崖の上ではルフィとウソップが、隠れながら崖の下の2人の会話に耳を済ませていた。

「・・・おい、あいつら何言ってんだ?」

ルフィの問いに、ウソップが焦りながら言った。

「・・・そんなことはおれが聞きてェよ。でも待てよ・・・、キャプテン・クロって名は知ってる!計算された略奪を繰り返すことで有名だった海賊だ・・・!でも、あいつは・・・3年前に海軍に捕まって処刑されたと聞いたぞ・・・!」

崖下の密談は続いている。

ジャンゴが言う。

「─── しかし、あんときゃびびったぜ」
「ん?」
「あんたが急に海賊をやめると言い出した時だ。あっという間に部下を自分の身代わりに仕立て上げ、世間的にキャプテン・クロは処刑された!そしてこの村で突然船を下りて、3年後にこの村へまた静かに上陸しろときたもんだ」

ジャンゴは話しながら、傍の手ごろな岩へ腰を下ろした。

「まァ、今まであんたの言うことを聞いて間違ったためしはねェから協力はさせてもらうが、分け前は高くつくぜ?」
「ああ、計画が成功すればちゃんとくれてやる」

クラハドールは冷たい表情で言った。

「殺しならまかせとけ!」

ジャンゴは自信ありげだった。

そんな彼に、クラハドールは釘を刺すように言う。

「だが、殺せばいいって問題じゃない。カヤお嬢様は不運な事故で命を落とすんだ。そこを間違えるな。どうもお前は、まだこの計画をはっきり飲み込んでないらしい」

クラハドールがため息をつく。

「バカを言え、計画なら完全に飲み込んでるぜ」

ジャンゴが言い返す。

「要するに、おれはあんたの合図で野郎どもと村へ攻め込み、お嬢様を仕留めりゃいいんだろ?そしてあんたがお嬢様の遺産を相続する」
「バカが・・・頭のまわらねェ野郎だ!他人のおれがどうやってカヤの遺産を相続するんだ」
「頑張って相続する!」
「頑張ってどうにかなるか!ここが一番大切なんだ!」

クラハドールはゆっくりとジャンゴに言い聞かせた。

「殺す前に!お前の得意の催眠術でカヤに遺書を書かせるんだ。”執事クラハドールに私の財産を全て譲る”とな!!」

クラハドールは言葉を続ける。

「それでおれへの莫大な財産の相続は成立する・・・、ごく自然にだ。おれは3年という月日をかけて周りの人間から信頼を得て、そんな遺書が残っていてもおかしくない状況を作り上げた!」
「・・・そのために3年も執事をね。おれなら一気に襲って、奪って終わりだがな」
「・・・それじゃ野蛮な海賊に逆戻りだ。金は手に入るが政府に追われ続ける。おれはただ政府に追われることなく、大金を手にしたい。つまり、平和主義者なのさ」

クラハドールはにやりと笑う。

「ハハハハ、とんだ平和主義者がいたもんだぜ」

ジャンゴも笑った。

「てめェの平和の為に、金持ちの一家が皆殺しにされるんだからな」
「おいおい、皆殺しとは何だ」

クラハドールが心外だ、とばかりに言う。

「カヤの両親が死んだのは、ありゃマジだぜ。おれも計算外だった」
「まァいい・・・、そんなことはいい・・・」

ジャンゴの表情が変わる。その表情は残虐な海賊そのものだった。

「とにかくさっさと合図を出してくれ。おれ達の船が近くの沖に停泊してから、もう1週間になる。いい加減奴らのシビレが切れる頃だ」

崖の上では、話を知ってしまったウソップがうろたえていた。

「・・・えらい事だ・・・!えらい事聞いちまった・・・!!!」
「おい、何なんだ。なんかやばそうだな」

しれっと言うルフィにも、ウソップは別の意味で驚く。

─── お前ずっと聞いてたんじゃねェのか!!

でもそんなことよりあいつらだ。
ウソップは震えながら視線を崖下に戻した。

─── やばすぎるぜ。本物だ、あいつら!!
─── ずっと狙ってやがったんだ。カヤの屋敷の財産をずっと3年前から!
─── そしてあの執事は・・・、キャプテン・クロ!生きてたんだ・・・!!
─── おれは大変な奴を殴っちまった・・・!殺される!!!

「カヤも殺される!!村も襲われる、やべェ・・・マジでやべェ・・・!!!」

頭を抱えるウソップの横で、ルフィはすっくと立ち上がった。

「・・・おい!立つな、見つかるぞ」

ウソップは慌ててルフィを押さえる。
しかしルフィは大声を上げた。

「おい、お前ら!!!お嬢様を殺すな!!!」

「誰だ・・・!!!」

崖下の2人が見上げる。
ウソップは焦ってルフィの腕を引っ張った。

「ばかやろう、見つかっちまったじゃねェか!早く隠れろ、殺されるぞ!!」

「・・・・・やあ、これは・・・ウソップ君じゃありませんか・・・」

2人のうちの1人に気づき、クラハドールが静かに言い放つ。

「うわあああっ!おれまで見つかっちまった!!!」

「何か・・・聞こえたかね?」

クラハドールの迫力に、ウソップは慌てて言った。

「い・・・いや、え!?何のことだろう!おれは今ここへ来たばかりだから、当然何も・・・」
「全部聞いた」
「おいっ!!」

素直に答えるルフィに、ウソップは思わずツッコんだ。

「聞かれたか・・・」

ジャンゴはため息をついて、おもむろに輪っかを取り出した。

「仕方ねェな・・・、おいお前らこの輪をよく見るんだ」

そして輪っかをゆっくりと揺らし始める。

「なんだ」

ルフィは言われたとおり輪っかをじっと見つめる。

「や・・・やばいぜ飛び道具だ!殺される!!」

ウソップが怯える。

「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる。ワーン・・・ツー・・・」
「隠れろ!やられるぞ!!」

ウソップは頭を抱えてうずくまった。
そして。

「ジャンゴ」

その言葉の瞬間、ルフィの体は前方に揺れた。催眠が効いてしまったのだ。
かけた当のジャンゴも眠ってしまっているが。
ルフィの体はそのまま崖の方に倒れ・・・崖下に墜落してしまった。

「おい!お前っ!!大丈夫か!!?」

ウソップが崖下を覗き込むと、ルフィは頭から突っ込んだ形で倒れていた。

「あーあー、殺すつもりはなかったんだがな・・・。頭からイッたか・・・この高さじゃ助からねェ」

自身の催眠が冷め切れないジャンゴは、少しボーっとしたまま言った。

「・・・くそォ!殺しやがった、あのやろう!!!」

崖の上ではウソップが頭を抱える。

「もう一匹をどうする。殺しとくか」
「必要ない。あいつがどう騒ごうと無駄な事だ」

ジャンゴの言葉に、クラハドールは冷たく言い放った。

「明日の朝だ、ジャンゴ・・・。夜明けとともに村を襲え。村の民家も適度に荒らして、あくまで事故を装いカヤお嬢様を殺すんだ」

そしてウソップを見上げる。

「聞いたとおりだ、ウソップ君・・・。君が何を聞こうとも、私の計画に何ら影響はない」
「くそ・・・くそっ!!!・・・うわあああああああ!!!」

ウソップは猛スピードで逃げ出した。

「大丈夫なのか?」
「当然だ。おれの計画は狂わない」

ジャンゴの言葉に、クラハドールはほくそ笑んだ。







「大変だっ!大変だっ!大変だ!!!」

ウソップは村に向かって走っていた。

「殺される・・・!おれが育ったこの村のみんなが殺される!!カヤが殺される!!おれはみんな大好きなのに!!この村が好きなのに!!!」

走りながら、ウソップは思い出していた。
カヤと初めて会った日のことを。



”誰!?あなた・・・”

─── カヤは最初はオレのことを胡散臭げに見てたっけ

”おれはウソップ!勇敢なる海の戦士だ。最近お前、不幸らしいな。おれが元気の出る話をしてやるよ!”
”大きなお世話です、帰って下さい。人を呼びますよっ!”
”まァ、気にすんな!おれはおせっかいなんだ!”

─── カヤを助けなきゃ!みんなを助けなきゃ!!!



ウソップは村へ走る。
ウソップ海賊団や、ゾロたちにも気づかず一目散に駆けていった。

「・・・何だ、ルフィは一緒じゃなかったのか・・・」

ウソップが走り去っていった後を見ながら、ゾロはつぶやいた。
ナミも言う。

「まだ怒ってんのかしら、お父さんバカにされたこと」
「さァな」

「違う!今の顔は違う!!」

にんじんが言い切った。
他の2人も言う。

「うん!何かあったんだ、今海岸で!」
「あんなに血相変えてどうしたんだろう!」

「・・・おい、その海岸へはどう行けばいい」

ウソップの様子に、ルフィの事も気になる。
ゾロは3人に尋ねた。が。

「なんかさー、事件のにおいがしないか!?」
「うん、さっきの催眠術師もあっちへ行ってたしな!」
「うんうん!ウソップ海賊団出動かなァ!」

「・・・わかったから、どう行きゃいいんだ」

楽しそうな3人に、ゾロはため息をついた。







「─── 大変だーっ!みんな大変だ ─── っ!!海賊が攻めてくるぞォ ─── っ!!」

その頃、村にたどり着いたウソップは声の限りに叫んでいた。

「明日の朝、この村に海賊が攻めてくるんだ!みんな、逃げろォ ─── っ!!!」

─── これはいつものホラじゃない。本当のことなんだ!!!

ウソップは必死になって叫んだ。だが。

「─── またか、あのホラ吹き坊主っ!!」
「ほっとけほっとけ、本当に来るわけでもなし」
「またか!昼メシ時にまで・・・。最近少し、度が過ぎるぞあいつ・・・」

続々と村人達が家から出てきた。しかし、逃げるためではない。

「おいウソップ!いい加減にしろ!!」
「今日という今日はもう許さんぞ!!」

村人達はみんな、一様にウソップに対して怒りを露にしている。

「ち・・・違うよ!違うんだ、今回は本当なんだ!!!」

ウソップが怯む。

「いつもそう言ってるだろうが!!」
「この辺で本当にお仕置きしといた方がよさそうだ!!」

村人の1人が腕まくりをする。

「いつも言ってるのは冗談だけど、これは本当なんだ信じてくれよ」

ウソップの言葉に、

「あんたがお屋敷のクラハドールさんくらい誠実なら信じるけどねェ」

1人のおばさんがため息をついた。

”君が何を聞こうとも、私の計画に何ら影響はない”

─── あいつが言ってたのはこういうことだったのか!

「ちくしょう・・・!」

ウソップは必死で叫んだ。

「信じてくれよ!!!早く逃げなきゃ、本当にみんな殺されちまうんだ!!!」

自分の必死の訴えが届かず、悪人の言葉が届く。
自業自得とはいえ、ウソップはショックを隠せなかった。







島の沖合い、岩場の陰にクラハドール、いやキャプテン・クロの海賊船が潜んでいた。
海賊旗は黒い猫の顔の後ろに黒い骨が交差している。
海賊たちを前に、キャプテン・クロは静かに言った。

「野郎ども・・・、よく来てくれた。実に3年ぶりだな。この計画が成功した暁には、てめェらには充分な分け前を用意するつもりだ」

そしてにやりと笑う。

「明日の夜明けは、存分に村をブチ壊せ!!!」
「うおおーっ!!!キャプテン・クロ万歳ーっ!!!」

キャプテン・クロの言葉に、海賊たちは奮い立った。







その頃屋敷では。

「ねえ、クラハドールは?」
「となり町へ出かけると言ってました」
「そう」

何も知らずにクラハドールを気にするカヤ。



そして海岸では・・・。
ルフィが頭から突っ込んだ体制のまま、眠り続けていた。
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