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第27話 筋

「お嬢様!」

村はずれの屋敷では羊のような頭をした執事のメリーが、カヤにあるものを届けていた。

「となり町のメガネ屋に特注なさってた品受け取ってきましたが、こちらでよろしいんで?」
「うん、バッチリ!ありがとう」

カヤが笑顔で受け取る。

「ゴメンね、となり町まで走らせて」
「いえいえいつでも、何なりと」

メリーも笑顔で答える。

「プレゼントですね、喜びますよクラハドールさん」
「うん!明日はね、クラハドールがこの屋敷に来てちょうど3年目なの。彼にはいつもお世話になってるから!」

そう言ってカヤは、メリーから受け取った品を愛おしそうに見つめた。







その頃、村では必死に村人達に訴えるウソップの姿があった。

「みんなちゃんと話を聞いてくれよ!本当に明日の朝、海賊が攻めてくるんだ!!!」

しかし普段の行いが行いなだけに、村人達は箒やデッキブラシを手に猛然とウソップに向かって行く。

「お前の話をいちいち真に受けてたら、おれ達ァ何百回村を逃げ出さなきゃならねェんだ!!」
「今度こそ本当なんだ!!!」

しかし、届かない。

「今度こそ、とっ捕まえてやる!!」
「くそ!!」

埒が明かない。
ウソップは一目散に逃げ出した。







その頃、海岸では。

「え ─── っ!!!」
「カヤさんが殺される!?」
「村も襲われるって本当なの!?麦わらの兄ちゃん」

真実を知らされた海賊団の3人組の驚きの声が響き渡っていた。

「ああ、そう言ってた。間違いねェ!」

ルフィは崖下に座り込んで言った。

ゾロが言う。

「・・・それで、何でお前はここで寝てたんだよ」
「それがなー、おれは崖の上にいたと思うんだよなー」

ルフィは首をかしげた。

3人組が騒ぎ始める。

「やっぱり、あの羊悪党だったんだ!」
「どーりで感じわるいハズだっ!」
「催眠術師もグルだったんだ!!」

合点がいったようにナミが言う。

「そうか・・・、それであんた達のキャプテンあんなすごい形相で走ってったのね、村の方へ。よかったじゃない、先に情報が入ってさ。逃げれば済むもの。敵もマヌケよね!」
「そうか!」

3人組がまた騒ぎ始めた。

「それもそうだ!じゃ、おれ達も早く逃げなきゃ!」
「そうだ!!大事な物全部整理して!」
「貯金箱とおやつと・・・。船の模型とそれから・・・!」

「急げっ!!!」

あっという間に3人は村へ走り去って行った。

そしてルフィも気づく。

「やばいっ!食料早く買いこまねぇと、肉屋も逃げちまう!!」

それは一大事。







村人達をまいたウソップは、カヤの屋敷へ再び潜り込んだ。

─── カヤだけでも、守らなきゃ。

ウソップはカヤがいるはずの部屋の窓を、力の限りに叩く。
窓の音に気づいたカヤは目を疑った。

「ウソップさん!」

─── あんなにひどいことをしてしまったのに、ウソップさんが目の前にいてくれている。

「よかった、もう来てくれないのかと・・・」

ほっとするカヤの言葉が終わらないうちに、ウソップが叫んだ。

「逃げるんだ、カヤ!殺されるぞ!!」
「・・・え?どうしたの?」

カヤは戸惑って言った。
彼の雰囲気がいつもと違う。
そして続く彼の言葉に、さらに驚かされる。

「お前はダマされてたんだ!あの執事は海賊だったんだ!!」
「ちょ・・・ちょっと待って。何の冗談?クラハドールがどうしたの・・・!?」
「冗談じゃない、ちゃんとこの耳で聞いたんだ。あいつが海岸で仲間とおちあって話してたことを!!」

ウソップは必死にカヤに訴える。

「あの執事は、この屋敷の財産を狙って忍び込んだ海賊だったんだ!3年前からずっと、執事のフリをしてお前の財産を狙ってた!!」
「・・・!?何言ってるの、ウソップさん・・・!?」

カヤの表情が引きつる。

「そして明日の夜明けに仲間の海賊達が押し寄せて、お前を殺すと言ってた!!」
「・・・!!」
「あいつはとんでもねェ悪党だったんだ!!早く逃げろ!!」

「いい加減にして下さいっ!」

カヤが叫んだ。肩が震えている。

「見損なったわ、ウソップさん!」
「な・・・」

思いがけないカヤの反応に、ウソップは絶句する。

「そんな仕返しはやめて・・・。さっきのあなたのお父さんの件なら、彼も言い過ぎたと言ってました。私もそう思う・・・。だからって今度はそんなウソで彼に仕返しするの!!?あなたはそんな人じゃないと思ってた!!」

さらにカヤは続ける。

「あなたのウソにはいつでも夢があってバカバカしくて、本当に楽しいから、私あなたのつくウソが大好きだったのに!!どうしてそんな事言うの!!?ひどいよ、ウソップさん!!!」
「ち・・・違う!!!」

ウソップはうろたえる。
カヤは目に涙を溜めて言った。

「最低よ!!」
「違うんだ、おれは別にあの執事に仕返ししようなんて・・・」

「─── お嬢様、どうかなさいましたか!?」

騒ぎを聞きつけた執事のメリーがカヤの部屋に駆け込んできた。
同じく、潜り込んだウソップに気づいた門番達がウソップを取り押さえる。

「ご心配なく、ネズミは外へ放り出しておきます」
「うわ!おい、やめろ放せ、まだ話が済んでねェ!!」

ウソップは掴まれた腕を振りほどくと、門番の腕に噛みついた。

「放せ、畜生ォ!!!」
「ぎゃあああ!!」

カヤは目の前の光景が信じられなかった。

─── ウソップさんがこんなことするなんて・・・。

「こいつっ!!」

門番が銃を抜いた。

「止まれ!!」

ウソップはかばんからパチンコを出すと、銃を向けられた門番めがけて構える。

「うるせェ、邪魔するな!!」
「ぐお!!」

パチンコから放たれた石が門番に命中する。
さらに別の門番が銃を向ける。

「貴様っ!!」

「やめて、ウソップさんっ!!」

しかしウソップはカヤの声を無視し、門番に石つぶてを炸裂させた。

「ああ・・・、何て事だ。門番を2人とも・・・」

カヤの横で、メリーが頭を抱える。
ウソップはカヤの方へ向き直って、再び叫んだ。

「カヤ、とにかくおれを信じろ!この村から逃げるんだ、あの執事が帰ってくる前に!!」
「どうしたの・・・!?ウソップさんじゃないみたい・・・!!」

カヤは泣いていた。

「─── いたぞ、ウソップだ!!」
「屋敷の中に潜り込んでやがったか!」

そうこうしている内に、まいたはずの村人達が続々とウソップに追いついてきた。

「しまった!村のみんなだ!」

─── 時間がない。
─── カヤだけでも守りたい!

ウソップはカヤの腕を掴んだ。

「こうなったら力ずくでも連れて行くぞ」
「あ!!やめて、放して!!」

カヤはウソップから逃れようともがく。

「明日になれば全部真実がわかる!とにかく今は逃げろ!言うことを聞いてくれ!!!」

パン!

乾いた音が響く。

カヤがウソップを力の限りに平手で殴ったのだ。

「・・・とんでもない悪党は・・・、あなたじゃない!!!」

カヤが泣きながら叫ぶ。

「お嬢様から離れろォーっ!!!」

メリーがウソップに向け銃を構える。

「ダメっ!!!」

ウソップが逃げ出す。
それに向かって、メリーは発砲した。

「当たったらどうするの!!」

カヤは慌ててメリーを怒鳴りつける。

「しかし・・・、あいつはお嬢様を・・・」

メリー自身も自分の行動に動揺していた。

「ウソップが逃げた!」
「このやろう、待てーっ!!」

村人達が再びウソップを追いかける。

「みなさん、奴を捕まえてくださいっ!!」

メリーが村人達へ叫ぶ。

「奴は暴行犯だっ!!!」

「暴行だと・・・!!」
「そこまで堕ちたか、ウソップ!!」

村人達がさらにウソップを追いまくる。
ウソップは逃げながら、左腕を押さえていた。

「くそ・・・!左手にくらった・・・」

血が滴り落ちる。

「・・・!!何で誰も信じねェんだ・・・!!!」





日も暮れる頃、村のはずれをとぼとぼと歩くウソップの姿があった。
村人はもう追いかけてはこない。
逃げ足の速い彼が村人をまいたのか、村人達が彼を追いかけるのを諦めたのか。
彼はただ、1人だった。

”明日の朝だジャンゴ・・・、夜明けとともに村を襲え”

クラハドール・・・、キャプテン・クロの声が蘇る。
ウソップは村を振り返った。
村は、いつも通り平和である。
明日の朝に惨劇が起こることを知らずに。

─── おれはただ、村のみんなを助けたかっただけなのに。
─── カヤを守りたかっただけなのに。
─── 大事な村を守りたかっただけなのに。

でも、言葉は届かない。
自分は無力だ。

ウソップの目から、涙がこぼれた。







「あ!キャプテン!!!」

声に振り向く。
滲む視線の向こうにウソップ海賊団達の姿があった。
ウソップは慌てて涙を拭く。
そして、ことさら明るく声をかけた。

「・・・よお!お前らか!!」

そして1人の人物に目を止める。

─── ウソ・・・、こいつ・・・!!

「げっ!お前っ生きてたのか!!」 

ウソップは本気で驚いた。

─── 確か崖下に落ちて死んだはずだ。あの高さだぞ!!!

「生きてた?ああ、さっき起きたんだ」

ルフィは飄々と答える。

「そんな事より、キャプテン!話は聞きましたよ!海賊達のこと、早くみんなに話さなきゃ!」

ピーマンが勢い込んで言った。

「みんなに・・・!」

ウソップは負傷した腕をそっと後ろに隠すと、笑い出した。

「いつものウソに決まってんだろ!あの執事の野郎、ムカついたんで海賊に仕立ててやろうと思ったんだ!!」

「ん?」

ルフィが不思議そうな顔をする。

海賊団が騒ぎ出した。

「えーっ、ウソだったんですか!?」
「なーんだ、せっかく大事件だと思ったのに」
「くっそー、麦わらの兄ちゃんもキャプテンのさしがねか!」

ひとしきり騒ぐと、3人は真顔で言った。

「・・・でもおれ、ちょっとキャプテンをけいべつするよ」
「おれもけいべつする!」
「ぼくもだ!いくらあの執事がやな奴でも、キャプテンは人を傷つけるようなウソ、絶対つかない男だと思ってた・・・」

3人は振り返らずにその場を去って行く。

「帰ろうぜ!」
「うん、晩ごはんの時間だ」
「おかずは何かなー」

帰って行く3人の後姿を、ウソップは寂しそうに見つめていた。







その夜。
クラハドールとジャンゴが密談を交わしていた海岸には、ルフィたちとウソップがいた。
ウソップが静かに言った。

「─── おれはウソつきだからよ。ハナっから信じてもらえるわけなかったんだ。おれが甘かった!」
「甘かったって言っても事実は事実。海賊は本当に来ちゃうんでしょう?」

ナミが言う。

「ああ、間違いなくやってくる。でもみんなはウソだと思ってる!明日もまた、いつも通り平和な一日が来ると思ってる・・・!」

ウソップは力を込めて言った。

「だからおれは、この海岸で海賊どもを迎え撃ち!この一件をウソにする!!それがウソつきとして、おれの通すべき筋ってもんだ!!!」

ウソップは負傷した左腕を握り締めた。

「・・・腕に銃弾ブチ込まれようともよ・・・、ホウキ持って追いかけ回されようともよ・・・!ここはおれの育った村だ!おれはこの村が大好きだ!みんなを守りたい・・・」

こらえきれずに泣き出す。

「こんな・・・わけもわからねェうちに・・・みんなを殺されてたまるかよ・・・!!!」

ゾロがため息をついて言った。

「とんだお人よしだぜ、子分まで突き放して1人出陣とは・・・!」
「よし、おれ達も加勢する」

ルフィはそう言って、準備運動とばかりに腕を伸ばした。

「言っとくけど、宝は全部私の物よ!」

ナミも宣言する。

「え・・・」

ウソップは信じられない思いで、それを聞いていた。
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