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第29話 坂道

ウソップは息を荒げていた。
目の前に広がる坂道には海賊たちが自分を見上げている。
昨日のC(キャプテン)・クロたちの話が現実のものとなっていた。

─── な・・・、何だ、おれが一番のりか・・・。
─── あいつ、おれより先に突っ走ってったハズなのに・・・!!!

ウソップの乱れた呼吸は何も走ってきたからだけではない。目の前の海賊たちに対する緊張からでもあった。
心臓が早鐘のように打ち続ける。
ジャンゴが坂の上のウソップを見上げた。

「・・・てめェはあの時・・・、計画を盗み聞きしてた小僧だな。何のつもりだ?」

ウソップが叫ぶ。

「忠告だ!!!今の内に引き返えさねェと、一億人のおれの部下どもがお前らをつぶすことになる!!!」

その言葉に海賊たちは呆れ返った。

「・・・・・ガキ以下のウソだ・・・」

だがしかし。

「何ィ!?一億人!?す・・・すげぇ」

約1名信じちゃった。

「ウソに決まってんでしょう、船長!」
「何て信じやすい人だ・・・」

手下の海賊たちが慌ててジャンゴに告げた。
その様子に、

「げっ!!ばれたっ!!!」

ウソップは本気でうろたえる。

「あいつも本気でダマせるつもりだったらしい・・・」

海賊たちはため息をついた。

「・・・てめぇよくも、このおれをダマしたな・・・」

ジャンゴが凄む。
その時、海賊の1人がジャンゴに叫んだ。

「ジャンゴ船長、大変です!」
「そうか!まずいな!!」
「いえ、マズくはありません!」

海賊が指差した方向には小船が2艘舫いであった。

「あの妙な船で宝が見つかりました!」

別の1人が船から大きな袋を抱えて下りてくる。

「すげェ額です!4百・・・、いや5百ベリーはありそうです!!!」
「何ィ!?」

ウソップもその様子に驚いていた。

「・・・・・ご、5百万ベリー・・・!?何であいつらの船にそんな大金が・・・!!」

─── そうだ!!!

ウソップは叫んだ。

「それはおれの宝だァ!だが、やるっ!!!」

その言葉に海賊たちも驚いた。

「何!?」
「宝をくれる!?」

「そうだ!その宝に免じてここは一つ、引き換えして下さい!!!」

海賊たちがどよめく。

「な・・・、金でおれ達を買収するつもりか・・・!!」
「人の風上にもおけん奴だ!!」

海賊たちには言われたくない。

「バカか・・・」

ジャンゴが静かに言った。

「この宝は当然いただくが、それでおれ達が引き返す理由はない!」

─── ・・・そ、それはもっともだ!!

ウソップ納得。
ジャンゴは輪っかを取り出し、ゆっくりと左右に揺らし始めた。

「わかったら、ワン・ツー・ジャンゴで”道を空けろ”」

輪っかが揺れる。

「ワン・・・」
「ツー・・・」

「!!」

─── あれは・・・!あの時の飛び道具!?

ルフィが崖下に落ちた時のことを思い出し、ウソップは身構える。


「ジャン・・・」

「バカなこと言ってんじゃないわよ!!!」

ジャンゴが言い切る寸前、ウソップは後頭部にガツンと一撃をくらった。

ナミだった。
彼女が自身の武器の長い棒で思いっきり殴ったのだ。

その様子に海賊たちは再びどよめく。

「!?・・・何だ、あの女は!?」
「─── 船長!道を空けてる場合じゃないでしょ!!」

自分の催眠にがっつりかかってたジャンゴは、手下の声にはっと気づく。

ナミが坂の下の海賊たちに叫んだ。

「その船の宝は私のよ!!!1ベリーたりともあげないわ!しっかり持ってなさい、今取り返してやるから!!!」

そしてウソップにも怒鳴った。

「あんた何勝手にあげてんのよ、私の宝を!」
「痛ェな、そんなこと口で言やあいいだろうが!!」

ウソップは痛そうに頭を押さえている。
そんなウソップに、ナミはしれっとして言った。

「何言ってんの。助けてあげたのに」
「何!?」
「言い忘れたけど、あいつのリングを最後まで見ちゃダメ。あいつは催眠術師なの!」

ナミがジャンゴを指差す。

「催眠・・・」

確かにナミがウソップを殴りつけてなければ、催眠にかかったウソップをすり抜け、あっという間に海賊たちが村に攻め込んでいたことだろう。

「で?ルフィは?一番に走ってったでしょ!?」

ナミがここにいるはずの人物を探して言った。
もう1人は来てる筈ないから。

「さァな」

ウソップがかけたゴーグルに手をやる。

「怖気づいたのか、道にでも迷ってんのか・・・」
「じゃ、道に迷ったのね」

ナミはため息をつく。

「っとにもう!こんな肝心な時に!」

ナミという援軍を得たウソップは、パチンコを構えて言った。

「よし・・・ブチのめせ!おれが援護する!!」
「な・・・?何で私が?」

ナミが言い返す。

「あんな大群相手にできるわけないでしょ。私は弱いのよ!」

ウソップも負けじと言い返す。

「男だからってナメんなよ!おれなんかビビっちまって、足ガクガクなんだぞ!ほら!」
「ホラ見て、私涙ぐんでるっ」
「全然カラカラじゃねェか!」

ギャーギャー騒ぐ二人を、海賊たちは呆れて見ていた。

ジャンゴが叫ぶ。

「あんなのに構ってるヒマはねェ。踏み潰して村へ進め、野郎どもォ!!!」
「ウオオオーッ!!!!」

それを合図に、おのおの武器を手にした海賊たちが猛然と坂道を駆け上っていく。

「来たーっ!!!」

夫婦漫才かましてる場合ではない。
ウソップとナミはようやく現実に気づく。

「そうだっ、まきびし!!!」

ウソップが肩から提げたがま口バッグの中をごそごそと探る。

「何だ!良いもの持ってるじゃない、貸して、貸してっ!!」

そしてウソップから受け取ると、

「これでもくらえっ!!」
「まきびし地獄っ!!!」

2人は駆け上がってくる海賊たちめがけ、ぶちまけた。







さてその頃、南の海岸(元いた場所)では。

ツルルルルルルッ・・・ドスン!!!

「う・・・!」

もう何度目になるだろうか。
何度駆け上がっても、そのつど滑り落ちていく。
坂の下で大の字になるゾロは、未だ油の坂を駆け上がれずにいた。

「ハァハァ・・・。畜生ォ、ナミのヤロー許さねェ・・・!!!」

─── しょうがねェ。最後の手段だ・・・。

「こんな油の坂くらい・・・!」

腰の刀を2本抜き、両手に構える。

「うおおおおおおおお!!!」

刀を地面に突き刺しながら猛然と駆け上る。

「おっしゃ、抜けたァ!!!!」

やっとのことで坂を上りきったゾロは、辺りを見回して叫んだ。

「北の海岸ってのはどっちだ!!!」

危険。



さらにその頃ルフィは。

「北へまっすぐ!北へまっすぐ!」

まだ走り続けていた。
はた、と止まる。
目の前には切り立った岩山。行き止まりだ。

「・・・北ってどっちだァ!!!」

そしてまた、走り始めた。







そして舞台は戻って、北の海岸。

「いてェ!!!」
「あだーっ!!!」

「よし!かかった!!!」

2人が撒いたまきびしが、みごとに成功したのである。
目の前には、まきびしを踏んでもがく海賊たち。

「今だ!必殺”鉛星”っ!!!」

ウソップがパチンコを構え、鉛の玉を打ち込んでいく。

「うご!!!」

それはもがく海賊に寸分違わず命中していった。

「やるじゃないっ!その調子で頑張って。私はひとまず休戦するから」

ナミが笑顔でウソップの肩をぽんと叩く。

「まだ戦ってもいねェのにか!?」

ウソップは思わず大声を上げる。

「あっ!!!」

振り向いたナミは、何かに気づいた。

「どうした!」

ウソップは鉛の玉を打ち込みながら訊ねると、ナミはゆっくり振り返って言った。

「まきびしが後ろにもっ!!!」
「あほか、お前!まいたんだろ!!!」

その時、海賊の1人がウソップの背後から襲い掛かってきた。

「てめェら邪魔だァ!そこをどけェ!!!」

「!!?」

ゴキッ!!!

ウソップは後頭部にもろに一撃を食らってしまった。
その場に崩れ落ちる。
それを見て海賊たちは笑いながら坂を上る。

「へっ、おれ達を本気でくい止められると思ってんのか!?」
「行くぜ、みんな。キャプテン・クロが待ってる!!」
「おお!」

邪魔者はいない。
海賊たちはウソップの横をすり抜けていったが、そのうちの1人が腰の飾り紐を掴まれた。

「ん?な・・・何だコイツ!!!」

倒れこみながらも、ウソップは海賊の服を掴んで離さない。

「手を離せ、この野郎ォ!!!」

海賊が武器でウソップを殴りつける。
だがウソップは手を離さない。

「この坂道・・・」

ウソップは血を流しながら怒鳴った。

「お前らを通す訳にはいかねェ・・・。おれはいつも通りウソをついただけなんだから!村ではいつも通りの一日が始まるだけなんだから!!!」

「クソガキ、黙れ!!!」

別の海賊が刃をウソップに向ける。

ガンッ!!!

間一髪、ナミが棒でその海賊を叩きのめした。
しかしまた別の海賊がナミを襲う。
棒で応戦したが、坂の両側にそびえる岩の壁に、簡単に吹っ飛ばされてしまった。

「い・・・たァ・・・!!!」

あまりの痛みに、ナミは立ち上がることができない。

「こいつら、ブッ殺してやる・・・」

海賊たちが2人に刃を向ける。

坂の下ではジャンゴがしばらくその様子を見ていたが、とうとうシビレを切らして怒鳴った。

「おいてめェら!!そんな奴らに構ってねェで、さっさと村を襲え!!!これはキャプテン・クロの計画だということを忘れたか!!あの男の計画を乱すようなことがあったら、おれ達は全員殺されちまうぞ!!わかってんのか、バカヤロウどもっ!!!」

ジャンゴの言葉に、海賊たちは怯えた。
こんなことをしている場合ではない。

「急げ、村へ!!!」

海賊たちが走り出す。
ウソップの横をどんどんすり抜けていく。

「畜生、待て・・・」

ウソップはよろよろと体を起こす。

「待て!村へ行くな!!!」

駆け抜ける海賊の服を掴んで引き止める。

「うるせェ、邪魔だァ!!!」

ウソップは蹴り飛ばされ、坂を転がる。

「やめてくれ、頼むからっ!!みんなを殺さないでくれェえ!!!」

その時だった。
ウソップの横を駆け抜けて行ったはずの海賊たちが、吹っ飛ばされて自分の方へ戻ってくる。

「うっぎゃああああ!!!」

ウソップは目を疑った。
吹っ飛ばされた海賊たちは、自分をも飛び越えて坂の下に転がっていく。

「やっと来た」

ナミは呆れたように息をついた。

坂の一番下まで転がって行った海賊たちは、怯えながら口々に叫ぶ。

「何なんですか、ジャンゴ船長・・・」
「この村にあんなのがいるなんて・・・、聞いてません!!!」

海賊たちが見上げる坂の上、そこには2人の男が立っていた。

刀を担いだゾロが言う。

「何だ今の手ごたえのねェのは」

ルフィが答える。

「知るか!これじゃ気が晴れねェ!!」

そして2人は怒鳴った。

「ナミてめェ!よくもおれを足蹴にしやがったな!!!」
「ウソップこの野郎!北ってどっちか、ちゃんと言っとけぇ!!!」

「・・・何だ、あいつら・・・」

ジャンゴは坂の上を見上げてつぶやいた。
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