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第29話 坂道

ウソップは息を荒げていた。
目の前に広がる坂道には海賊たちが自分を見上げている。
昨日のC(キャプテン)・クロたちの話が現実のものとなっていた。

─── な・・・、何だ、おれが一番のりか・・・。
─── あいつ、おれより先に突っ走ってったハズなのに・・・!!!

ウソップの乱れた呼吸は何も走ってきたからだけではない。目の前の海賊たちに対する緊張からでもあった。
心臓が早鐘のように打ち続ける。
ジャンゴが坂の上のウソップを見上げた。

「・・・てめェはあの時・・・、計画を盗み聞きしてた小僧だな。何のつもりだ?」

ウソップが叫ぶ。

「忠告だ!!!今の内に引き返えさねェと、一億人のおれの部下どもがお前らをつぶすことになる!!!」

その言葉に海賊たちは呆れ返った。

「・・・・・ガキ以下のウソだ・・・」

だがしかし。

「何ィ!?一億人!?す・・・すげぇ」

約1名信じちゃった。

「ウソに決まってんでしょう、船長!」
「何て信じやすい人だ・・・」

手下の海賊たちが慌ててジャンゴに告げた。
その様子に、

「げっ!!ばれたっ!!!」

ウソップは本気でうろたえる。

「あいつも本気でダマせるつもりだったらしい・・・」

海賊たちはため息をついた。

「・・・てめぇよくも、このおれをダマしたな・・・」

ジャンゴが凄む。
その時、海賊の1人がジャンゴに叫んだ。

「ジャンゴ船長、大変です!」
「そうか!まずいな!!」
「いえ、マズくはありません!」

海賊が指差した方向には小船が2艘舫いであった。

「あの妙な船で宝が見つかりました!」

別の1人が船から大きな袋を抱えて下りてくる。

「すげェ額です!4百・・・、いや5百ベリーはありそうです!!!」
「何ィ!?」

ウソップもその様子に驚いていた。

「・・・・・ご、5百万ベリー・・・!?何であいつらの船にそんな大金が・・・!!」

─── そうだ!!!

ウソップは叫んだ。

「それはおれの宝だァ!だが、やるっ!!!」

その言葉に海賊たちも驚いた。

「何!?」
「宝をくれる!?」

「そうだ!その宝に免じてここは一つ、引き換えして下さい!!!」

海賊たちがどよめく。

「な・・・、金でおれ達を買収するつもりか・・・!!」
「人の風上にもおけん奴だ!!」

海賊たちには言われたくない。

「バカか・・・」

ジャンゴが静かに言った。

「この宝は当然いただくが、それでおれ達が引き返す理由はない!」

─── ・・・そ、それはもっともだ!!

ウソップ納得。
ジャンゴは輪っかを取り出し、ゆっくりと左右に揺らし始めた。

「わかったら、ワン・ツー・ジャンゴで”道を空けろ”」

輪っかが揺れる。

「ワン・・・」
「ツー・・・」

「!!」

─── あれは・・・!あの時の飛び道具!?

ルフィが崖下に落ちた時のことを思い出し、ウソップは身構える。


「ジャン・・・」

「バカなこと言ってんじゃないわよ!!!」

ジャンゴが言い切る寸前、ウソップは後頭部にガツンと一撃をくらった。

ナミだった。
彼女が自身の武器の長い棒で思いっきり殴ったのだ。

その様子に海賊たちは再びどよめく。

「!?・・・何だ、あの女は!?」
「─── 船長!道を空けてる場合じゃないでしょ!!」

自分の催眠にがっつりかかってたジャンゴは、手下の声にはっと気づく。

ナミが坂の下の海賊たちに叫んだ。

「その船の宝は私のよ!!!1ベリーたりともあげないわ!しっかり持ってなさい、今取り返してやるから!!!」

そしてウソップにも怒鳴った。

「あんた何勝手にあげてんのよ、私の宝を!」
「痛ェな、そんなこと口で言やあいいだろうが!!」

ウソップは痛そうに頭を押さえている。
そんなウソップに、ナミはしれっとして言った。

「何言ってんの。助けてあげたのに」
「何!?」
「言い忘れたけど、あいつのリングを最後まで見ちゃダメ。あいつは催眠術師なの!」

ナミがジャンゴを指差す。

「催眠・・・」

確かにナミがウソップを殴りつけてなければ、催眠にかかったウソップをすり抜け、あっという間に海賊たちが村に攻め込んでいたことだろう。

「で?ルフィは?一番に走ってったでしょ!?」

ナミがここにいるはずの人物を探して言った。
もう1人は来てる筈ないから。

「さァな」

ウソップがかけたゴーグルに手をやる。

「怖気づいたのか、道にでも迷ってんのか・・・」
「じゃ、道に迷ったのね」

ナミはため息をつく。

「っとにもう!こんな肝心な時に!」

ナミという援軍を得たウソップは、パチンコを構えて言った。

「よし・・・ブチのめせ!おれが援護する!!」
「な・・・?何で私が?」

ナミが言い返す。

「あんな大群相手にできるわけないでしょ。私は弱いのよ!」

ウソップも負けじと言い返す。

「男だからってナメんなよ!おれなんかビビっちまって、足ガクガクなんだぞ!ほら!」
「ホラ見て、私涙ぐんでるっ」
「全然カラカラじゃねェか!」

ギャーギャー騒ぐ二人を、海賊たちは呆れて見ていた。

ジャンゴが叫ぶ。

「あんなのに構ってるヒマはねェ。踏み潰して村へ進め、野郎どもォ!!!」
「ウオオオーッ!!!!」

それを合図に、おのおの武器を手にした海賊たちが猛然と坂道を駆け上っていく。

「来たーっ!!!」

夫婦漫才かましてる場合ではない。
ウソップとナミはようやく現実に気づく。

「そうだっ、まきびし!!!」

ウソップが肩から提げたがま口バッグの中をごそごそと探る。

「何だ!良いもの持ってるじゃない、貸して、貸してっ!!」

そしてウソップから受け取ると、

「これでもくらえっ!!」
「まきびし地獄っ!!!」

2人は駆け上がってくる海賊たちめがけ、ぶちまけた。







さてその頃、南の海岸(元いた場所)では。

ツルルルルルルッ・・・ドスン!!!

「う・・・!」

もう何度目になるだろうか。
何度駆け上がっても、そのつど滑り落ちていく。
坂の下で大の字になるゾロは、未だ油の坂を駆け上がれずにいた。

「ハァハァ・・・。畜生ォ、ナミのヤロー許さねェ・・・!!!」

─── しょうがねェ。最後の手段だ・・・。

「こんな油の坂くらい・・・!」

腰の刀を2本抜き、両手に構える。

「うおおおおおおおお!!!」

刀を地面に突き刺しながら猛然と駆け上る。

「おっしゃ、抜けたァ!!!!」

やっとのことで坂を上りきったゾロは、辺りを見回して叫んだ。

「北の海岸ってのはどっちだ!!!」

危険。



さらにその頃ルフィは。

「北へまっすぐ!北へまっすぐ!」

まだ走り続けていた。
はた、と止まる。
目の前には切り立った岩山。行き止まりだ。

「・・・北ってどっちだァ!!!」

そしてまた、走り始めた。







そして舞台は戻って、北の海岸。

「いてェ!!!」
「あだーっ!!!」

「よし!かかった!!!」

2人が撒いたまきびしが、みごとに成功したのである。
目の前には、まきびしを踏んでもがく海賊たち。

「今だ!必殺”鉛星”っ!!!」

ウソップがパチンコを構え、鉛の玉を打ち込んでいく。

「うご!!!」

それはもがく海賊に寸分違わず命中していった。

「やるじゃないっ!その調子で頑張って。私はひとまず休戦するから」

ナミが笑顔でウソップの肩をぽんと叩く。

「まだ戦ってもいねェのにか!?」

ウソップは思わず大声を上げる。

「あっ!!!」

振り向いたナミは、何かに気づいた。

「どうした!」

ウソップは鉛の玉を打ち込みながら訊ねると、ナミはゆっくり振り返って言った。

「まきびしが後ろにもっ!!!」
「あほか、お前!まいたんだろ!!!」

その時、海賊の1人がウソップの背後から襲い掛かってきた。

「てめェら邪魔だァ!そこをどけェ!!!」

「!!?」

ゴキッ!!!

ウソップは後頭部にもろに一撃を食らってしまった。
その場に崩れ落ちる。
それを見て海賊たちは笑いながら坂を上る。

「へっ、おれ達を本気でくい止められると思ってんのか!?」
「行くぜ、みんな。キャプテン・クロが待ってる!!」
「おお!」

邪魔者はいない。
海賊たちはウソップの横をすり抜けていったが、そのうちの1人が腰の飾り紐を掴まれた。

「ん?な・・・何だコイツ!!!」

倒れこみながらも、ウソップは海賊の服を掴んで離さない。

「手を離せ、この野郎ォ!!!」

海賊が武器でウソップを殴りつける。
だがウソップは手を離さない。

「この坂道・・・」

ウソップは血を流しながら怒鳴った。

「お前らを通す訳にはいかねェ・・・。おれはいつも通りウソをついただけなんだから!村ではいつも通りの一日が始まるだけなんだから!!!」

「クソガキ、黙れ!!!」

別の海賊が刃をウソップに向ける。

ガンッ!!!

間一髪、ナミが棒でその海賊を叩きのめした。
しかしまた別の海賊がナミを襲う。
棒で応戦したが、坂の両側にそびえる岩の壁に、簡単に吹っ飛ばされてしまった。

「い・・・たァ・・・!!!」

あまりの痛みに、ナミは立ち上がることができない。

「こいつら、ブッ殺してやる・・・」

海賊たちが2人に刃を向ける。

坂の下ではジャンゴがしばらくその様子を見ていたが、とうとうシビレを切らして怒鳴った。

「おいてめェら!!そんな奴らに構ってねェで、さっさと村を襲え!!!これはキャプテン・クロの計画だということを忘れたか!!あの男の計画を乱すようなことがあったら、おれ達は全員殺されちまうぞ!!わかってんのか、バカヤロウどもっ!!!」

ジャンゴの言葉に、海賊たちは怯えた。
こんなことをしている場合ではない。

「急げ、村へ!!!」

海賊たちが走り出す。
ウソップの横をどんどんすり抜けていく。

「畜生、待て・・・」

ウソップはよろよろと体を起こす。

「待て!村へ行くな!!!」

駆け抜ける海賊の服を掴んで引き止める。

「うるせェ、邪魔だァ!!!」

ウソップは蹴り飛ばされ、坂を転がる。

「やめてくれ、頼むからっ!!みんなを殺さないでくれェえ!!!」

その時だった。
ウソップの横を駆け抜けて行ったはずの海賊たちが、吹っ飛ばされて自分の方へ戻ってくる。

「うっぎゃああああ!!!」

ウソップは目を疑った。
吹っ飛ばされた海賊たちは、自分をも飛び越えて坂の下に転がっていく。

「やっと来た」

ナミは呆れたように息をついた。

坂の一番下まで転がって行った海賊たちは、怯えながら口々に叫ぶ。

「何なんですか、ジャンゴ船長・・・」
「この村にあんなのがいるなんて・・・、聞いてません!!!」

海賊たちが見上げる坂の上、そこには2人の男が立っていた。

刀を担いだゾロが言う。

「何だ今の手ごたえのねェのは」

ルフィが答える。

「知るか!これじゃ気が晴れねェ!!」

そして2人は怒鳴った。

「ナミてめェ!よくもおれを足蹴にしやがったな!!!」
「ウソップこの野郎!北ってどっちか、ちゃんと言っとけぇ!!!」

「・・・何だ、あいつら・・・」

ジャンゴは坂の上を見上げてつぶやいた。
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第28話 三日月

「お前ら・・・、一緒に戦ってくれるのか?」

ウソップは耳を疑った。

─── 今日初めて会った奴らが・・・。

「な・・・何で・・・」
「だって、敵は大勢いるんだろ?」

ルフィがこぶしを握り締めながら言う。

「恐ェって顔に書いてあるぜ」

ゾロも言った。
その横でナミもうなずく。

ウソップは反論した。

「お!おれが恐がってるだと!?バカ言え!大勢だろうと何だろうと、おれは平気だ!!!なぜならおれは、勇敢なる海の戦士キャプテン・ウソップだからだ!!!」

しかし、体は正直である。
威勢のいい言葉とは裏腹に、膝の震えが止まらない。
それに気づいたウソップは、必死で震えを止めようと膝を殴りつけた。

「く・・・くそっ!・・・見世物じゃねェぞ!相手はC(キャプテン)・クロの海賊団、恐ェもんは恐ェんだ!それがどうした!!おれは同情なら受ける気はねェ。てめェら帰れ!帰れ帰れ!!」

ゾロは真顔で言った。

「笑ってやしねェだろ?立派だと思うから手を貸すんだ」

ルフィも言う。

「同情なんかで命懸けるか!」

「う・・・、お、お前ら・・・!」

ウソップは思わずべそをかいた。





「─── この海岸から奴らは攻めてくる」

ウソップが辺りの地形の説明を始めた。

「だが、ここから村へ入るルートはこの坂道1本だけだ。あとは絶壁!」

ウソップが指差した方には急な坂道が村の方まで続いている。

「つまり、この坂道を死守できれば村が襲われることはねェ!」

ルフィが笑いながら言った。

「そうか、簡単だな」
「口で言うのはな!あとは戦力次第・・・。お前ら、何ができる?」

ウソップの問いに、3人が答えた。

「斬る」
「伸びる」
「盗む」

そして、ウソップが続く。

「隠れる」

「お前は戦えよ!!!」

3人が揃ってツッこんだ。







空には三日月がうすい光を放っている。
その頃、カヤの屋敷では。

「─── お嬢様は?」
「もうお休みです。だいぶお疲れのようで・・・」
「・・・しかし、私が隣町へ行ってる間にそんなことが・・・」

夜遅くに屋敷へ戻ってきたクラハドールは、メリーの報告を聞きながらネクタイをゆっくりと緩めた。

「あのウソップという若者にも困ったものだ」
「ええ・・・、よりによってあなたが海賊だと言い出すんですから・・・」

メリーが苦笑しながら言った。

「フフ・・・、そうですね」

クラハドールはメリーに背を向けながらほくそ笑む。

ふと、彼は窓辺に置かれた小さな包みに気がついた。

「ん?これは?」
「ああ、それは・・・」

メリーが答える。

「お嬢様からあなたへのプレゼントのようです。なんでも明日はあなたがこの屋敷へ来てちょうど3年目になるとかで、記念日というやつですね」
「記念日・・・」

クラハドールは自身が今かけているメガネのズレを直しながら、包みの中から真新しいメガネを取り出した。

「あなたの今のメガネはよくズレる様なので、なんとお嬢様が設計して特注なさった品なんですよ!ホントにもー、よく気のつく優しい方だ・・・」

メリーは昼間のカヤの様子を思い出し、笑顔がほころんだ。

「記念日というなら確かに・・・、明日は記念日だ」

クラハドールは窓から外を眺める。メガネの奥がキラリと光った。

「え?」
「今夜は三日月ですね・・・」

クラハドールが空を見上げる。

「こんな夜は胸が高鳴るというか・・・、血が騒ぐというか・・・」

そしてメガネの入った包みを足元に落とすと、そうするのが当然かのように思いっきり踏み潰した。

「な!!」

メリーは突然の出来事に慌てて大声を上げる。

「ク・・・クラハドールさん!?あんた、お嬢様のプレゼントに何を!!!」
「プレゼントなら受け取りますよ。・・・だがこんな物ではなく・・・、この屋敷丸ごとだ・・・!」

振り返ったクラハドールの表情はもうこの屋敷の有能な執事ではない。海賊C・クロそのものであった。

「え・・・・・・!!?え・・・・・!!?」

クラハドールの豹変に、メリーは戸惑う。
クラハドール、いやC・クロはそんなメリーにゆっくりと近づく。
まるで獲物を追い詰めるように。

「もう芝居を続ける意味はあるまい。あと数時間で事故は起きるのだから」

ギラリと光を放つ刃物。

「実に長かったよ、3年間は・・・」

「!お嬢様、逃げ・・・・・!!!」

C・クロが風のようにメリーを襲う。
彼が過ぎ去った後には、メリーが血まみれで倒れているのみだった。







島の沖合いに、1隻の海賊船が停泊していた。
海賊旗は、黒猫の顔に交差する骨。
クロネコ海賊団の船である。

船は襲撃を待ちわびていた。

「ジャンゴ船長!」

海賊の1人が船長室のドアを叩く。

「じきに夜明けです!起きて下さい!!」

しばらくして船長室のドアが開き、ジャンゴが後ろ向きで現れた。

「あ、船長おはようございます」
「おはようございます」

手下たちの朝の挨拶に、ジャンゴは答える。

「バカヤロウ、”おはよう”ってのは朝日とともに言うのがおれのポリシーだ。まだ月も落ちねェ真夜中だぜ」
「そ・・そりゃ失礼を!」

慌てる手下たちを尻目に、ジャンゴはツィ・・・とムーンウォーク。
そして静かに振り返って一言。

「野郎ども、おはよう」

ポリシーはどこ行った。
しかしこれが、現クロネコ海賊団船長”1・2のジャンゴ”なのである。

そしてその言葉を合図に、

「出航だァ!!!」
「オオオーッ!!!」

海賊たちは鬨の声を上げたのである。







「よし完璧だ!」

ウソップの目の前に広がる坂道には、彼によってある仕掛けが施されていた。

「これで奴らはもう、この坂道を登れない!ここに敷きつめられた大量の油によってな。奴らがこの坂でツルツル滑ってもがいてるスキにブチのめす作戦だ。とにかく何が何でも、この1本の坂道は守り抜く!」
「逆に自分達が滑り落ちなきゃいいけどね。アリ地獄に飛び込むようなものだもん」

ナミが坂を見下ろしながら言った。
ルフィも油をちょんちょんと足先でつつきながら言う。

「お前、よくこんなチョコザイなこと思いつくなー」
「そりゃそうだ!おれはチョコザイさとパチンコの腕にかけては、絶対の自信を持ってる!!」

ウソップは胸を張った。

次第に夜が明ける。

「夜明けだ」
「来るぞ・・・」

それぞれの想いを乗せ、水平線からゆっくりと朝日は昇る。







「海岸に着いたぞォーっ!!!」

島の海岸に猫の船首の大きな船が着けられる。
クロネコ海賊団がとうとう島に到着したのだ。

「上陸だ、野郎どもォ!村を荒らして屋敷を目指せ!!!」
「うおおおーっ!!!」

ジャンゴの声に、手下たちが答える。
ふと、1人の手下が気づいた。

「船長!妙な船が2艘ありますが・・・」
「ほっとけ、宝船でもあるめェし」

・・・あり?ジャンゴが見逃した船2艘って・・・。





その頃、ルフィたちは。

「来ねェなァ・・・、朝なのに・・・」
「寝坊でもしてんじゃねェのか?」

未だ来ない海賊たちを待ちわびていた。

しばらくして、気づいたのはナミだった。

「─── あのさ、気のせいかしら。北の方でオーって声が聞こえるの・・・」
「北!?」

ウソップがハッとする。

「うん、やっぱり聞こえるわ」

ナミが耳を澄ます。
ウソップは焦って頭を抱えた。

「き・・・北にも上陸地点がある・・・!まさか・・」

「おい、どうした!?」
「海岸間違えたのか、もしかして!!」

ルフィとゾロが揃って言う。

「だってよ、あいつらこの海岸で密会してたから、てっきり!!」

ムリもないけど!

「急ごう!村に入っちまうぞ、どこだそれ!」

ルフィが焦って言った。

「ここからまっすぐ北へ向かって走れば3分で着く。地形はここと変わらねェから、坂道で食い止められりゃいいんだが!」

ナミがもう1つ気づいた。

「まずいっ!北の海岸ってったら、私達の船がある場所だ!船の宝が取られちゃうっ!!」

そりゃ一大事。

「20秒でそこ行くぞ!!!」

ルフィは猛然と突っ走って行く。

「ちっきしょお、せっかくの油作戦が台無しだ!」

ウソップも後を追いかける。

「急がな・・・!」

ツルン!

ナミがお宝の為に走り出した時だった。撒いてある油に足をとられてしまったのだ。
いらんところで油作戦が功を奏してしまった。

「きゃああ!助けて、落ちる!!」

ナミの叫び声にゾロが振り返る。

「おいナミ、何やってんだ」

ナミの手がゾロのシャツを寸でで掴んだ。

「うわあああっ!!手ェ放せ、バカ!!」

べちゃっ!!

ナミが思いっきりゾロを引っ張る。
当然、ゾロもナミと一緒に滑っていく。

「あ、ごめん・・・。・・・!しめたっ、ありがとゾロ」

とっさの判断で、ナミは滑っていくゾロを踏み台に油のトラップから抜け出すことに成功した。

「うががががっ!!」

踏み台にされた反動で、ゾロは坂の一番下まで滑り落ちてしまった。

「あ・・・」

ナミはそんなゾロを、一瞬申し訳なさそうに見つめたが、

「わるいっ!宝が危ないの!!何とか這い上がってぇ・・・」

優しい言葉を残し、走り去った。

「あの女、殺す!!」

ゾロの悲しい叫びがあたりに響いた。







ウソップは走る。

「村には絶対入らせねェ!!・・・!しかし、あいつ足速ェな、もう姿が見えねェ」

先に走って行ったルフィは、ウソップからはもう見えない。



ルフィは走る。
「北へまっすぐ!北へまっすぐ!」



ナミも走る。
「私の宝に手ェ出したら許さないから!」







北の海岸の坂道では、クロネコ海賊団が雄たけびを上げて駆け上っていた。

「ぎゃーっはっはっはっはっは!!!」
「暴れてやるぜ!!!」

その時だった。

「うわっ!!」
「ぐお」

海賊達がなぎ倒されていく。

「坂の上に誰かいるぞ!」

ジャンゴはその誰かの姿を確認した。

「!!てめェは・・・」

そこには石つぶてとパチンコを手に息を切らす、ウソップの姿があった。

「おれの名はキャプテン・ウソップ!お前らをず~~~っとここで待っていた!た・・・戦いの準備は万端だ!死にたくなきゃさっさと引き返せ!!!」



その時ゾロは。

「くっそーっ、どうすりゃいいんだ登れねェ!!!」

油と格闘中だった。
さすが、ウソップ。超強力トラップ。



その時ルフィは。

「あれ?村に出ちまったぞ!?おっかしいなー、北ってゆうから寒そうな方角に走ってきたのにっ!!」

・・・迷ってた。
北=寒いが、ルフィの常識。

第27話 筋

「お嬢様!」

村はずれの屋敷では羊のような頭をした執事のメリーが、カヤにあるものを届けていた。

「となり町のメガネ屋に特注なさってた品受け取ってきましたが、こちらでよろしいんで?」
「うん、バッチリ!ありがとう」

カヤが笑顔で受け取る。

「ゴメンね、となり町まで走らせて」
「いえいえいつでも、何なりと」

メリーも笑顔で答える。

「プレゼントですね、喜びますよクラハドールさん」
「うん!明日はね、クラハドールがこの屋敷に来てちょうど3年目なの。彼にはいつもお世話になってるから!」

そう言ってカヤは、メリーから受け取った品を愛おしそうに見つめた。







その頃、村では必死に村人達に訴えるウソップの姿があった。

「みんなちゃんと話を聞いてくれよ!本当に明日の朝、海賊が攻めてくるんだ!!!」

しかし普段の行いが行いなだけに、村人達は箒やデッキブラシを手に猛然とウソップに向かって行く。

「お前の話をいちいち真に受けてたら、おれ達ァ何百回村を逃げ出さなきゃならねェんだ!!」
「今度こそ本当なんだ!!!」

しかし、届かない。

「今度こそ、とっ捕まえてやる!!」
「くそ!!」

埒が明かない。
ウソップは一目散に逃げ出した。







その頃、海岸では。

「え ─── っ!!!」
「カヤさんが殺される!?」
「村も襲われるって本当なの!?麦わらの兄ちゃん」

真実を知らされた海賊団の3人組の驚きの声が響き渡っていた。

「ああ、そう言ってた。間違いねェ!」

ルフィは崖下に座り込んで言った。

ゾロが言う。

「・・・それで、何でお前はここで寝てたんだよ」
「それがなー、おれは崖の上にいたと思うんだよなー」

ルフィは首をかしげた。

3人組が騒ぎ始める。

「やっぱり、あの羊悪党だったんだ!」
「どーりで感じわるいハズだっ!」
「催眠術師もグルだったんだ!!」

合点がいったようにナミが言う。

「そうか・・・、それであんた達のキャプテンあんなすごい形相で走ってったのね、村の方へ。よかったじゃない、先に情報が入ってさ。逃げれば済むもの。敵もマヌケよね!」
「そうか!」

3人組がまた騒ぎ始めた。

「それもそうだ!じゃ、おれ達も早く逃げなきゃ!」
「そうだ!!大事な物全部整理して!」
「貯金箱とおやつと・・・。船の模型とそれから・・・!」

「急げっ!!!」

あっという間に3人は村へ走り去って行った。

そしてルフィも気づく。

「やばいっ!食料早く買いこまねぇと、肉屋も逃げちまう!!」

それは一大事。







村人達をまいたウソップは、カヤの屋敷へ再び潜り込んだ。

─── カヤだけでも、守らなきゃ。

ウソップはカヤがいるはずの部屋の窓を、力の限りに叩く。
窓の音に気づいたカヤは目を疑った。

「ウソップさん!」

─── あんなにひどいことをしてしまったのに、ウソップさんが目の前にいてくれている。

「よかった、もう来てくれないのかと・・・」

ほっとするカヤの言葉が終わらないうちに、ウソップが叫んだ。

「逃げるんだ、カヤ!殺されるぞ!!」
「・・・え?どうしたの?」

カヤは戸惑って言った。
彼の雰囲気がいつもと違う。
そして続く彼の言葉に、さらに驚かされる。

「お前はダマされてたんだ!あの執事は海賊だったんだ!!」
「ちょ・・・ちょっと待って。何の冗談?クラハドールがどうしたの・・・!?」
「冗談じゃない、ちゃんとこの耳で聞いたんだ。あいつが海岸で仲間とおちあって話してたことを!!」

ウソップは必死にカヤに訴える。

「あの執事は、この屋敷の財産を狙って忍び込んだ海賊だったんだ!3年前からずっと、執事のフリをしてお前の財産を狙ってた!!」
「・・・!?何言ってるの、ウソップさん・・・!?」

カヤの表情が引きつる。

「そして明日の夜明けに仲間の海賊達が押し寄せて、お前を殺すと言ってた!!」
「・・・!!」
「あいつはとんでもねェ悪党だったんだ!!早く逃げろ!!」

「いい加減にして下さいっ!」

カヤが叫んだ。肩が震えている。

「見損なったわ、ウソップさん!」
「な・・・」

思いがけないカヤの反応に、ウソップは絶句する。

「そんな仕返しはやめて・・・。さっきのあなたのお父さんの件なら、彼も言い過ぎたと言ってました。私もそう思う・・・。だからって今度はそんなウソで彼に仕返しするの!!?あなたはそんな人じゃないと思ってた!!」

さらにカヤは続ける。

「あなたのウソにはいつでも夢があってバカバカしくて、本当に楽しいから、私あなたのつくウソが大好きだったのに!!どうしてそんな事言うの!!?ひどいよ、ウソップさん!!!」
「ち・・・違う!!!」

ウソップはうろたえる。
カヤは目に涙を溜めて言った。

「最低よ!!」
「違うんだ、おれは別にあの執事に仕返ししようなんて・・・」

「─── お嬢様、どうかなさいましたか!?」

騒ぎを聞きつけた執事のメリーがカヤの部屋に駆け込んできた。
同じく、潜り込んだウソップに気づいた門番達がウソップを取り押さえる。

「ご心配なく、ネズミは外へ放り出しておきます」
「うわ!おい、やめろ放せ、まだ話が済んでねェ!!」

ウソップは掴まれた腕を振りほどくと、門番の腕に噛みついた。

「放せ、畜生ォ!!!」
「ぎゃあああ!!」

カヤは目の前の光景が信じられなかった。

─── ウソップさんがこんなことするなんて・・・。

「こいつっ!!」

門番が銃を抜いた。

「止まれ!!」

ウソップはかばんからパチンコを出すと、銃を向けられた門番めがけて構える。

「うるせェ、邪魔するな!!」
「ぐお!!」

パチンコから放たれた石が門番に命中する。
さらに別の門番が銃を向ける。

「貴様っ!!」

「やめて、ウソップさんっ!!」

しかしウソップはカヤの声を無視し、門番に石つぶてを炸裂させた。

「ああ・・・、何て事だ。門番を2人とも・・・」

カヤの横で、メリーが頭を抱える。
ウソップはカヤの方へ向き直って、再び叫んだ。

「カヤ、とにかくおれを信じろ!この村から逃げるんだ、あの執事が帰ってくる前に!!」
「どうしたの・・・!?ウソップさんじゃないみたい・・・!!」

カヤは泣いていた。

「─── いたぞ、ウソップだ!!」
「屋敷の中に潜り込んでやがったか!」

そうこうしている内に、まいたはずの村人達が続々とウソップに追いついてきた。

「しまった!村のみんなだ!」

─── 時間がない。
─── カヤだけでも守りたい!

ウソップはカヤの腕を掴んだ。

「こうなったら力ずくでも連れて行くぞ」
「あ!!やめて、放して!!」

カヤはウソップから逃れようともがく。

「明日になれば全部真実がわかる!とにかく今は逃げろ!言うことを聞いてくれ!!!」

パン!

乾いた音が響く。

カヤがウソップを力の限りに平手で殴ったのだ。

「・・・とんでもない悪党は・・・、あなたじゃない!!!」

カヤが泣きながら叫ぶ。

「お嬢様から離れろォーっ!!!」

メリーがウソップに向け銃を構える。

「ダメっ!!!」

ウソップが逃げ出す。
それに向かって、メリーは発砲した。

「当たったらどうするの!!」

カヤは慌ててメリーを怒鳴りつける。

「しかし・・・、あいつはお嬢様を・・・」

メリー自身も自分の行動に動揺していた。

「ウソップが逃げた!」
「このやろう、待てーっ!!」

村人達が再びウソップを追いかける。

「みなさん、奴を捕まえてくださいっ!!」

メリーが村人達へ叫ぶ。

「奴は暴行犯だっ!!!」

「暴行だと・・・!!」
「そこまで堕ちたか、ウソップ!!」

村人達がさらにウソップを追いまくる。
ウソップは逃げながら、左腕を押さえていた。

「くそ・・・!左手にくらった・・・」

血が滴り落ちる。

「・・・!!何で誰も信じねェんだ・・・!!!」





日も暮れる頃、村のはずれをとぼとぼと歩くウソップの姿があった。
村人はもう追いかけてはこない。
逃げ足の速い彼が村人をまいたのか、村人達が彼を追いかけるのを諦めたのか。
彼はただ、1人だった。

”明日の朝だジャンゴ・・・、夜明けとともに村を襲え”

クラハドール・・・、キャプテン・クロの声が蘇る。
ウソップは村を振り返った。
村は、いつも通り平和である。
明日の朝に惨劇が起こることを知らずに。

─── おれはただ、村のみんなを助けたかっただけなのに。
─── カヤを守りたかっただけなのに。
─── 大事な村を守りたかっただけなのに。

でも、言葉は届かない。
自分は無力だ。

ウソップの目から、涙がこぼれた。







「あ!キャプテン!!!」

声に振り向く。
滲む視線の向こうにウソップ海賊団達の姿があった。
ウソップは慌てて涙を拭く。
そして、ことさら明るく声をかけた。

「・・・よお!お前らか!!」

そして1人の人物に目を止める。

─── ウソ・・・、こいつ・・・!!

「げっ!お前っ生きてたのか!!」 

ウソップは本気で驚いた。

─── 確か崖下に落ちて死んだはずだ。あの高さだぞ!!!

「生きてた?ああ、さっき起きたんだ」

ルフィは飄々と答える。

「そんな事より、キャプテン!話は聞きましたよ!海賊達のこと、早くみんなに話さなきゃ!」

ピーマンが勢い込んで言った。

「みんなに・・・!」

ウソップは負傷した腕をそっと後ろに隠すと、笑い出した。

「いつものウソに決まってんだろ!あの執事の野郎、ムカついたんで海賊に仕立ててやろうと思ったんだ!!」

「ん?」

ルフィが不思議そうな顔をする。

海賊団が騒ぎ出した。

「えーっ、ウソだったんですか!?」
「なーんだ、せっかく大事件だと思ったのに」
「くっそー、麦わらの兄ちゃんもキャプテンのさしがねか!」

ひとしきり騒ぐと、3人は真顔で言った。

「・・・でもおれ、ちょっとキャプテンをけいべつするよ」
「おれもけいべつする!」
「ぼくもだ!いくらあの執事がやな奴でも、キャプテンは人を傷つけるようなウソ、絶対つかない男だと思ってた・・・」

3人は振り返らずにその場を去って行く。

「帰ろうぜ!」
「うん、晩ごはんの時間だ」
「おかずは何かなー」

帰って行く3人の後姿を、ウソップは寂しそうに見つめていた。







その夜。
クラハドールとジャンゴが密談を交わしていた海岸には、ルフィたちとウソップがいた。
ウソップが静かに言った。

「─── おれはウソつきだからよ。ハナっから信じてもらえるわけなかったんだ。おれが甘かった!」
「甘かったって言っても事実は事実。海賊は本当に来ちゃうんでしょう?」

ナミが言う。

「ああ、間違いなくやってくる。でもみんなはウソだと思ってる!明日もまた、いつも通り平和な一日が来ると思ってる・・・!」

ウソップは力を込めて言った。

「だからおれは、この海岸で海賊どもを迎え撃ち!この一件をウソにする!!それがウソつきとして、おれの通すべき筋ってもんだ!!!」

ウソップは負傷した左腕を握り締めた。

「・・・腕に銃弾ブチ込まれようともよ・・・、ホウキ持って追いかけ回されようともよ・・・!ここはおれの育った村だ!おれはこの村が大好きだ!みんなを守りたい・・・」

こらえきれずに泣き出す。

「こんな・・・わけもわからねェうちに・・・みんなを殺されてたまるかよ・・・!!!」

ゾロがため息をついて言った。

「とんだお人よしだぜ、子分まで突き放して1人出陣とは・・・!」
「よし、おれ達も加勢する」

ルフィはそう言って、準備運動とばかりに腕を伸ばした。

「言っとくけど、宝は全部私の物よ!」

ナミも宣言する。

「え・・・」

ウソップは信じられない思いで、それを聞いていた。

第26話 キャプテン・クロの一計

海岸沿いの崖の下、クラハドールとジャンゴの密談は続いていた。

「─── 暗殺なんて聞こえの悪い言い方はよせ、ジャンゴ」
「ああ、そうだった。事故・・・!事故だったよな”キャプテン・クロ”」
「キャプテン・クロか・・・」

クラハドールが手のひらでメガネのズレを直す。

「3年前に捨てた名だ。その呼び方もやめろ。今はお前が船長のハズだ」

崖の上ではルフィとウソップが、隠れながら崖の下の2人の会話に耳を済ませていた。

「・・・おい、あいつら何言ってんだ?」

ルフィの問いに、ウソップが焦りながら言った。

「・・・そんなことはおれが聞きてェよ。でも待てよ・・・、キャプテン・クロって名は知ってる!計算された略奪を繰り返すことで有名だった海賊だ・・・!でも、あいつは・・・3年前に海軍に捕まって処刑されたと聞いたぞ・・・!」

崖下の密談は続いている。

ジャンゴが言う。

「─── しかし、あんときゃびびったぜ」
「ん?」
「あんたが急に海賊をやめると言い出した時だ。あっという間に部下を自分の身代わりに仕立て上げ、世間的にキャプテン・クロは処刑された!そしてこの村で突然船を下りて、3年後にこの村へまた静かに上陸しろときたもんだ」

ジャンゴは話しながら、傍の手ごろな岩へ腰を下ろした。

「まァ、今まであんたの言うことを聞いて間違ったためしはねェから協力はさせてもらうが、分け前は高くつくぜ?」
「ああ、計画が成功すればちゃんとくれてやる」

クラハドールは冷たい表情で言った。

「殺しならまかせとけ!」

ジャンゴは自信ありげだった。

そんな彼に、クラハドールは釘を刺すように言う。

「だが、殺せばいいって問題じゃない。カヤお嬢様は不運な事故で命を落とすんだ。そこを間違えるな。どうもお前は、まだこの計画をはっきり飲み込んでないらしい」

クラハドールがため息をつく。

「バカを言え、計画なら完全に飲み込んでるぜ」

ジャンゴが言い返す。

「要するに、おれはあんたの合図で野郎どもと村へ攻め込み、お嬢様を仕留めりゃいいんだろ?そしてあんたがお嬢様の遺産を相続する」
「バカが・・・頭のまわらねェ野郎だ!他人のおれがどうやってカヤの遺産を相続するんだ」
「頑張って相続する!」
「頑張ってどうにかなるか!ここが一番大切なんだ!」

クラハドールはゆっくりとジャンゴに言い聞かせた。

「殺す前に!お前の得意の催眠術でカヤに遺書を書かせるんだ。”執事クラハドールに私の財産を全て譲る”とな!!」

クラハドールは言葉を続ける。

「それでおれへの莫大な財産の相続は成立する・・・、ごく自然にだ。おれは3年という月日をかけて周りの人間から信頼を得て、そんな遺書が残っていてもおかしくない状況を作り上げた!」
「・・・そのために3年も執事をね。おれなら一気に襲って、奪って終わりだがな」
「・・・それじゃ野蛮な海賊に逆戻りだ。金は手に入るが政府に追われ続ける。おれはただ政府に追われることなく、大金を手にしたい。つまり、平和主義者なのさ」

クラハドールはにやりと笑う。

「ハハハハ、とんだ平和主義者がいたもんだぜ」

ジャンゴも笑った。

「てめェの平和の為に、金持ちの一家が皆殺しにされるんだからな」
「おいおい、皆殺しとは何だ」

クラハドールが心外だ、とばかりに言う。

「カヤの両親が死んだのは、ありゃマジだぜ。おれも計算外だった」
「まァいい・・・、そんなことはいい・・・」

ジャンゴの表情が変わる。その表情は残虐な海賊そのものだった。

「とにかくさっさと合図を出してくれ。おれ達の船が近くの沖に停泊してから、もう1週間になる。いい加減奴らのシビレが切れる頃だ」

崖の上では、話を知ってしまったウソップがうろたえていた。

「・・・えらい事だ・・・!えらい事聞いちまった・・・!!!」
「おい、何なんだ。なんかやばそうだな」

しれっと言うルフィにも、ウソップは別の意味で驚く。

─── お前ずっと聞いてたんじゃねェのか!!

でもそんなことよりあいつらだ。
ウソップは震えながら視線を崖下に戻した。

─── やばすぎるぜ。本物だ、あいつら!!
─── ずっと狙ってやがったんだ。カヤの屋敷の財産をずっと3年前から!
─── そしてあの執事は・・・、キャプテン・クロ!生きてたんだ・・・!!
─── おれは大変な奴を殴っちまった・・・!殺される!!!

「カヤも殺される!!村も襲われる、やべェ・・・マジでやべェ・・・!!!」

頭を抱えるウソップの横で、ルフィはすっくと立ち上がった。

「・・・おい!立つな、見つかるぞ」

ウソップは慌ててルフィを押さえる。
しかしルフィは大声を上げた。

「おい、お前ら!!!お嬢様を殺すな!!!」

「誰だ・・・!!!」

崖下の2人が見上げる。
ウソップは焦ってルフィの腕を引っ張った。

「ばかやろう、見つかっちまったじゃねェか!早く隠れろ、殺されるぞ!!」

「・・・・・やあ、これは・・・ウソップ君じゃありませんか・・・」

2人のうちの1人に気づき、クラハドールが静かに言い放つ。

「うわあああっ!おれまで見つかっちまった!!!」

「何か・・・聞こえたかね?」

クラハドールの迫力に、ウソップは慌てて言った。

「い・・・いや、え!?何のことだろう!おれは今ここへ来たばかりだから、当然何も・・・」
「全部聞いた」
「おいっ!!」

素直に答えるルフィに、ウソップは思わずツッコんだ。

「聞かれたか・・・」

ジャンゴはため息をついて、おもむろに輪っかを取り出した。

「仕方ねェな・・・、おいお前らこの輪をよく見るんだ」

そして輪っかをゆっくりと揺らし始める。

「なんだ」

ルフィは言われたとおり輪っかをじっと見つめる。

「や・・・やばいぜ飛び道具だ!殺される!!」

ウソップが怯える。

「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる。ワーン・・・ツー・・・」
「隠れろ!やられるぞ!!」

ウソップは頭を抱えてうずくまった。
そして。

「ジャンゴ」

その言葉の瞬間、ルフィの体は前方に揺れた。催眠が効いてしまったのだ。
かけた当のジャンゴも眠ってしまっているが。
ルフィの体はそのまま崖の方に倒れ・・・崖下に墜落してしまった。

「おい!お前っ!!大丈夫か!!?」

ウソップが崖下を覗き込むと、ルフィは頭から突っ込んだ形で倒れていた。

「あーあー、殺すつもりはなかったんだがな・・・。頭からイッたか・・・この高さじゃ助からねェ」

自身の催眠が冷め切れないジャンゴは、少しボーっとしたまま言った。

「・・・くそォ!殺しやがった、あのやろう!!!」

崖の上ではウソップが頭を抱える。

「もう一匹をどうする。殺しとくか」
「必要ない。あいつがどう騒ごうと無駄な事だ」

ジャンゴの言葉に、クラハドールは冷たく言い放った。

「明日の朝だ、ジャンゴ・・・。夜明けとともに村を襲え。村の民家も適度に荒らして、あくまで事故を装いカヤお嬢様を殺すんだ」

そしてウソップを見上げる。

「聞いたとおりだ、ウソップ君・・・。君が何を聞こうとも、私の計画に何ら影響はない」
「くそ・・・くそっ!!!・・・うわあああああああ!!!」

ウソップは猛スピードで逃げ出した。

「大丈夫なのか?」
「当然だ。おれの計画は狂わない」

ジャンゴの言葉に、クラハドールはほくそ笑んだ。







「大変だっ!大変だっ!大変だ!!!」

ウソップは村に向かって走っていた。

「殺される・・・!おれが育ったこの村のみんなが殺される!!カヤが殺される!!おれはみんな大好きなのに!!この村が好きなのに!!!」

走りながら、ウソップは思い出していた。
カヤと初めて会った日のことを。



”誰!?あなた・・・”

─── カヤは最初はオレのことを胡散臭げに見てたっけ

”おれはウソップ!勇敢なる海の戦士だ。最近お前、不幸らしいな。おれが元気の出る話をしてやるよ!”
”大きなお世話です、帰って下さい。人を呼びますよっ!”
”まァ、気にすんな!おれはおせっかいなんだ!”

─── カヤを助けなきゃ!みんなを助けなきゃ!!!



ウソップは村へ走る。
ウソップ海賊団や、ゾロたちにも気づかず一目散に駆けていった。

「・・・何だ、ルフィは一緒じゃなかったのか・・・」

ウソップが走り去っていった後を見ながら、ゾロはつぶやいた。
ナミも言う。

「まだ怒ってんのかしら、お父さんバカにされたこと」
「さァな」

「違う!今の顔は違う!!」

にんじんが言い切った。
他の2人も言う。

「うん!何かあったんだ、今海岸で!」
「あんなに血相変えてどうしたんだろう!」

「・・・おい、その海岸へはどう行けばいい」

ウソップの様子に、ルフィの事も気になる。
ゾロは3人に尋ねた。が。

「なんかさー、事件のにおいがしないか!?」
「うん、さっきの催眠術師もあっちへ行ってたしな!」
「うんうん!ウソップ海賊団出動かなァ!」

「・・・わかったから、どう行きゃいいんだ」

楽しそうな3人に、ゾロはため息をついた。







「─── 大変だーっ!みんな大変だ ─── っ!!海賊が攻めてくるぞォ ─── っ!!」

その頃、村にたどり着いたウソップは声の限りに叫んでいた。

「明日の朝、この村に海賊が攻めてくるんだ!みんな、逃げろォ ─── っ!!!」

─── これはいつものホラじゃない。本当のことなんだ!!!

ウソップは必死になって叫んだ。だが。

「─── またか、あのホラ吹き坊主っ!!」
「ほっとけほっとけ、本当に来るわけでもなし」
「またか!昼メシ時にまで・・・。最近少し、度が過ぎるぞあいつ・・・」

続々と村人達が家から出てきた。しかし、逃げるためではない。

「おいウソップ!いい加減にしろ!!」
「今日という今日はもう許さんぞ!!」

村人達はみんな、一様にウソップに対して怒りを露にしている。

「ち・・・違うよ!違うんだ、今回は本当なんだ!!!」

ウソップが怯む。

「いつもそう言ってるだろうが!!」
「この辺で本当にお仕置きしといた方がよさそうだ!!」

村人の1人が腕まくりをする。

「いつも言ってるのは冗談だけど、これは本当なんだ信じてくれよ」

ウソップの言葉に、

「あんたがお屋敷のクラハドールさんくらい誠実なら信じるけどねェ」

1人のおばさんがため息をついた。

”君が何を聞こうとも、私の計画に何ら影響はない”

─── あいつが言ってたのはこういうことだったのか!

「ちくしょう・・・!」

ウソップは必死で叫んだ。

「信じてくれよ!!!早く逃げなきゃ、本当にみんな殺されちまうんだ!!!」

自分の必死の訴えが届かず、悪人の言葉が届く。
自業自得とはいえ、ウソップはショックを隠せなかった。







島の沖合い、岩場の陰にクラハドール、いやキャプテン・クロの海賊船が潜んでいた。
海賊旗は黒い猫の顔の後ろに黒い骨が交差している。
海賊たちを前に、キャプテン・クロは静かに言った。

「野郎ども・・・、よく来てくれた。実に3年ぶりだな。この計画が成功した暁には、てめェらには充分な分け前を用意するつもりだ」

そしてにやりと笑う。

「明日の夜明けは、存分に村をブチ壊せ!!!」
「うおおーっ!!!キャプテン・クロ万歳ーっ!!!」

キャプテン・クロの言葉に、海賊たちは奮い立った。







その頃屋敷では。

「ねえ、クラハドールは?」
「となり町へ出かけると言ってました」
「そう」

何も知らずにクラハドールを気にするカヤ。



そして海岸では・・・。
ルフィが頭から突っ込んだ体制のまま、眠り続けていた。

第25話 ウソ800

シロップ村の大富豪カヤの屋敷の庭では、この屋敷の執事クラハドールと村の若者ウソップが対峙していた。
その後ろではウソップ海賊団の面々、そしてルフィたち、屋敷の窓辺ではこの屋敷の主人であるカヤがその様子を見守っていた。

「海賊が・・・”勇敢なる海の戦士”か・・・!ずいぶんとねじまがった言い回しがあるもんだね・・・」

クラハドールが手のひらでメガネのズレを直す。

「だが・・・、否めない。野蛮な血の証拠が君だ・・・!」

ウソップはクラハドールを睨む。

「好き放題にホラを吹いてまわり、頭にくればすぐに暴力・・・。あげくの果ては、財産目当てにお嬢様に近づく・・・!」

クラハドールはようやく立ち上がり、ズボンの土ぼこりをはたいた。

「何だと、おれは・・・!」
「何かたくらみがあるという理由など、君の父親が海賊であることで充分だ!!!」
「てめェ、まだ言うのか!!!」

ウソップがクラハドールの胸倉を掴み、こぶしを固める。

「やめて、ウソップさん!!!もう、これ以上暴力は・・・!!!」

カヤが叫んだ。
その声に、ウソップはこぶしを止めた。

「悪い人じゃないんです、クラハドールは・・・」

カヤはうつむく。

「ただ、私のためを思って過剰になっているだけなの・・・」

クラハドールは胸倉を掴んでいたウソップの手をはたいた。

「出て行きたまえ・・・」

そして怒鳴る。

「ここは君のような野蛮な男の来るところではない!二度とこの屋敷へは近づくな!!」

「・・・ああ、わかったよ。言われなくても出てってやる・・・。もう二度とここへは来ねェ!!!」

ウソップはきびすを返し、スタスタと屋敷を後にしていった。
その後姿は、少し寂しさがにじんでいた。

「ウソップさん・・・」

カヤには彼を止める事はできない。

海賊団たちが叫んだ。

「このヤロー、羊っ!!キャプテンはそんな男じゃないぞ!!」
「そうだ!っばーか!!」
「ばーか!」
「ばーか!!」

・・・一人多い。

「何でお前も一緒になってんだ」

ゾロがルフィを小突いた。

そんな海賊団+ルフィを、クラハドールは睨みつける。

「ぎゃああああああ!」
「やるか、このっ」

おびえる海賊団に、臨戦態勢のルフィ。

「君達も、さっさと出て行きたまえ!!!」

クラハドールは再度怒鳴った。







しばらくして。
カヤは再びベッドにもぐりこんでいた。
咳がひっきりなしに出る。しかしそれを周りに気づかせない為、彼女は枕で音をかき消していた。
ドアがノックされ、ワゴンを引いたクラハドールが部屋に入ってきた。

「お食事です、お嬢様・・・」
「・・・いらない」

咳き込みながら、カヤは言った。

「食べたくない、おいしくないんだもん」

クラハドールはため息をついた。

「そんな事言っては、コックが腹を立てますよ。お嬢様のお体にあう食事を一生懸命考えてつくっているのですから」

カヤはそれには何も言わず、別の話を切り出した。

「・・・どうしてあんな言い方したの?」

給仕の準備をしていたクラハドールが手を止める。

「それは私だって、クラハドールに黙ってウソップさんと話をしていたのは悪いと思っているわ。だけど、あんな追い返し方ってないじゃない!」
「・・・座っても?」
「どうぞ」

クラハドールはカヤのベッドの端に腰を下ろした。

「・・・もう、3年になりますか。私がこの屋敷へ来た日から・・・。あの日のことは忘れもしません!」

そしてクラハドールは静かに語り始めた。

「・・・当時私はある船で働いていたのですが、ちょっとしたミスを犯しその船を下ろされてしまったのです。路頭に迷い、たどり着いたのがこの村で・・・。当然やる事も金もなく今にも野垂れ死にしそうだった私に、声をかけてくださったのがあなたの父上でした。私にとって、亡きご両親は命の恩人なのです」

カヤは黙って聞いている。

「そしてあなたは私の恩人のご令嬢・・・。私がお嬢様の交友関係にまで口を挟むのは、出すぎたマネだという事は承知の上なのですが・・・」

クラハドールは目を伏せた。

「あのウソップという若者は・・・お世辞にも評判のいいとは言えない人間です。もしも・・・!万が一、お嬢様の身に何かあっては!私は世話になったご主人に顔向けできないのです・・・!!」
「・・・・・」
「先ほどは、しかし・・・さすがに言い過ぎました。私を恨んでおいでですか」
「・・・ううん、そんな事ない・・・」

カヤは口を開いた。優しく言葉をかける。

「私もクラハドールには感謝してるわ。だけど誤解しないで。彼はとてもいい人なの」
「ですが!いい人かどうかは別の話!」

クラハドールは立ち上がった。

「クラハドール!・・・もう、わからず屋!!」

カヤが言い返す。

「ええ、わからず屋で結構っ!!」

そう言って2人は、顔を見合わせて少し笑った。







「ねェ、ルフィどこ行ったの?」
「さあな、キャプテンを追っかけてったんだろ」

カヤの屋敷を後にした後、ゾロたちは村の道端に腰を下ろしていた。

「キャプテンならあそこだ!」

ゾロと同じように腰を下ろしていたにんじんが言う。

「うん海岸だ」

ピーマンが言った。

「なんかあると、とりあえずあそこに行くんだ。行ってみる?」
「いや、いい・・・」

ゾロが答えた。

「・・・それよりあんた達、1人足りないんじゃない?」

木の柵に腰掛けていたナミが言った。

「ああ、たまねぎ」

ピーマンが言う。

「あいつすぐどっかに消えちゃうんだよな」
「うん、そして大騒ぎして現れるんだ」

その時だった。道の向こうから大声を上げて走ってくる人影。

「わあああああああ、たいへんだああああああ!!!」

「あ!たまねぎ」

2人の言ったとおり、大騒ぎしながらたまねぎが現れた。

「大変だーっ!!!う!ううう!後ろ向き男だあ~~~~~っ!!!」

息を切らしながら、ピーマンとにんじんに訴える。

「変な人が後ろ向きで歩いて来るんだよっ」
「うそつけ」
「ほんとだよ!!!あれ見て!!!」

たまねぎの指差す方をみんな見やった。
すると1人の男がこちらのほうへやってくるのが見える。
後ろ向きに。

「オイ、誰だ。このおれを”変な人”と呼ぶのは!おれは変じゃねェ!!!」

くるっと振り返って、その変な男は言った。

黒のジャケットに黒の丈の短いズボン。すそからは白い靴下をのぞかせている。
黒のシルクハットにハート型のサングラス、あごから得体の知れない縞々の物体を生やした細身の変な男は、催眠術師のジャンゴだと名乗った。

「変よ、どう見ても」
「バカを言え、おれはただの通りすがりの催眠術師だ・・・」

ナミの言葉にジャンゴが反論する。
海賊団たちは”催眠術師”と言う言葉に目を輝かせて反応した。

「さ・・・催眠術!?すげえ!!」
「やってみせてくれよ!!」
「うん、やって!!!」

「何!?」

ジャンゴが呆れたように言った。

「バカヤロウ、何でおれが見ず知らずのてめェらに初対面で術を披露しなきゃならねェんだ」

しかし。

「いいか、よくこの輪を見るんだ」

おもむろに輪っかを取り出した。

「やるのか」

ゾロが突っ込む。

「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる」

ジャンゴは海賊団に向かい、輪っかをゆっくりと揺らした。

「いいか、いくぞ・・・。ワーン・・ツー・・」
「・・・・・」

「ジャンゴ」

その瞬間、海賊団はその場に倒れこんだ。熟睡している。
・・・ジャンゴも。

「おい、こいつ何なんだ!!!」

ゾロは再び突っ込んだ。







島の海岸では、胡坐をかき、海をじっと見つめるウソップの姿があった。
何に思いを馳せているのか、それはウソップだけにしか知らないこと。
彼は、思うことがあるときには必ずここに来ていた。

「よっ、ここにいたのか」
「ぶっ!!!」

ウソップの目の前に、急にルフィがあった。
ウソップの傍にあった木の枝に足を引っ掛けて、逆立ちのような状態で下りてきたのである。

「何だてめェか、普通に声かけろバカ!!」

ルフィはすとんと木から下りて言った。

「ヤソップだろ、お前の父ちゃん」
「・・・え・・・!?」

ルフィはウソップの隣に腰を下ろした。

「お前!何でそれを知ってんだ!!」
「子供の頃に会った事があるんだ」
「何!?本当か!?おれの親父にか!?」
「うん」

驚くウソップに、ルフィは笑顔で言った。

「お前と顔そっくりだからさ、なんか懐かしい感じはしてたんだけど。さっきはっきり思い出した」
「い・・・今、どこに!?」
「今はわかんねェ!」

ルフィは言う。

「だけど、今もきっと”赤髪のシャンクス”の船に乗ってるよ!ヤソップは、おれが大好きな海賊船の一員なんだ」

シャンクスたちの話をすると、彼は自然に満面の笑顔になった。

「そ・・・そうか!!」

ウソップが嬉しそうに言った。

「そうか・・・シャンクスの船に・・・。あの”赤髪”のねぇ・・・」

しみじみ言って、気づいた。

「シャンクスだとォ!!?」
「!何だ、シャンクス知ってんのか!?」

ウソップの勢いに、ルフィは若干びびる。

「当たり前だ、そりゃお前大海賊じゃねェか!!!そんなにすげえ船に乗ってんのか、ウチの親父は!!!」

ウソップは驚きを隠せない。

「すげえって言やあ・・・うん、射撃の腕はすごかった。ヤソップが的を外したとこは見たことなかったし・・・」

ルフィはヤソップのことを話し始めた。


─── 遠く離れた場所にあるりんごでも簡単に打ち落とせること。
─── アリの眉間にだってブチ込める、と言う、ヤソップのお決まりのセリフ。
─── 酒を飲むと必ず、何度も何度も彼の息子のことを話していたこと。
─── 海賊旗が呼んでいたから、と言う彼の悲しい決断・・・。


「─── ヤソップは立派な海賊だった!!」
「・・・そうだろう!?」

ルフィのホントに楽しそうな表情に、ウソップは自分が間違ってなかったことを確信した。
そして立ち上がって言った。

「そうなんだ!こんな果てがあるかないかもわからねェ海へ飛び出して、命をはって生きてる親父をおれは誇りに思ってる!それなのにあの執事は親父をバカにした・・・!おれの誇りを踏みにじった!!!」
「うん!あいつはおれもきらいだ!」

ルフィも同意した。

「でもお前、もうお嬢様のところへは行かねェのか?」
「・・・さァな・・・、あの執事が頭でも下げてきやがったら行ってやってもいいけどよ!」

ウソップが強がる。
ルフィは崖の下を指差して言った。

「あの執事がか?」
「そう、あの執事あの執事・・・って、あの執事が何でここにいんだァ!?」

2人は慌てて崖の下を覗き込んだ。どうやら彼らのことは気づかれてないようだ。
2人は耳を澄ます。

「─── おいジャンゴ、この村で目立つ行動は慎めと言ったはずだぞ。村の真ん中で寝てやがって」

クラハドールがジャンゴに言った。2人はどうやら知り合いのようだ。

「ばか言え、おれは全然目立っちゃいねーよ。変でもねェ」

変なの、と言われたのがよっぽど気になるようだ。

「もう1人誰かいるな、変なのが」
「見かけねェ顔だ・・・。誰だ、ありゃ」

崖の上の2人がこそこそと話す。
クラハドールが言った。

「それで・・・、計画の準備は出来てるんだろうな」

ジャンゴが答える。

「ああ、もちろんだ。いつでもイケるぜ、”お嬢様暗殺計画”」

─── 何!!?暗殺だと!!?

ウソップとルフィは耳を疑った。