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第35話 ネオ坂道

海賊たちがどよめく。

「何だ今の!!?」
「こいつ、こんな位置から・・・!!」
「C(キャプテン)・クロをぶっ飛ばしたっ・・・!!?」

坂の上では、ルフィの一撃をくらったクロが大の字で倒れている。
しかし、のびているわけではない。視線は坂の下に向いていた。

海賊たちが怯える。

「完全にC・クロを怒らせちまった・・・!!」
「おれ達ァ、一体どうなっちまうんだよ・・・!」

その時、声が響いた。

今だァあああーっ!!!

「えっ」
「あっ!!!」

カヤとウソップは目を疑う。
どこに隠れていたのか、にんじんとピーマン、たまねぎの3人がクロに突っ込んで行った。

「ウソップ海賊団、参上っ!!!」
「覚悟しろ、このやろう羊っ!!!」
「羊、このやろおーっ!!!」

3人は手にしたスコップやバット、フライパンでクロに襲い掛かる。

「お前ら、どうして・・・!!!」
「あなたたち、来ちゃダメだって・・!」

ウソップとカヤの声も聞こえちゃいない。
3人は力の限りクロを殴りつけた。

「せえばいだ、せえばい!!!」
「村の平和をみだす海賊め!!!」
「くたばれ、ちきしょう!!!」

海賊たちがうろたえる。

「うわああ、あのガキども何て事をォ!!!」

「・・・・・!!!」

ジャンゴは声も出ない。

ウソップが慌てて怒鳴りつけた。

「もうよせお前ら!やめろ!」

「何のつもりだ、あのチビ達」

ゾロもその様子を見て呆れていた。

「よし!このへんでかんべんしてやろう・・・」

気の済むまで殴りつけた3人はようやくクロから離れた。
クロはさっきと同じ体勢のまま、動かない。

3人はウソップに口々に言った。

「・・・やっぱりだ!キャプテンは戦ってた!」
「何で言ってくれなかったんですか。汗くさいじゃないですかっ!」
「違うよ!水くさいじゃないですか!」

ウソップが怒鳴る。

「何くさくてもいいっ!とにかくお前らこっから離れろ!逃げるんだ!」

しかし3人は言い張った。

「いやです、キャプテン!」
「そうだ!おれ達だって戦います!!」
「逃げるなんてウソップ海賊団の名おれです!」

その時、3人の背後でクロが静かに立ち上がった。
メガネのズレを直すと、レンズが割れてパラパラと落ちる。
その無言の迫力に、3人は腰を抜かした。

「ううわああーっ!!!」

「馬鹿野郎、早く逃げろ!」

ウソップが叫ぶ。
しかし、クロは何も言わず3人の横を通り過ぎる。

「え・・・」
「な・・・、何だ?知らんぷりか・・・?」

クロはウソップの前まで来ると、黙ったまま彼を思いっきり蹴りつけた。

「う!!」

「キャプテン!!」

3人が叫ぶ。

クロが坂の下に目をやり、ようやく声を出した。

「少々効いた・・・。ずいぶん奇っ怪な技を使うもんだ。・・・貴様、”悪魔の実”の能力者だな・・・!」

ルフィがにっと笑う。

「そうだ”ゴムゴムの実”を食った!ゴム人間だ!!」

海賊たちがどよめいた。

「何ィ!!?悪魔の実ィ!!?」
「やべェじゃねェか、本当にあんのかそんなもん!!」

「やっぱ変だと思ったぜ。あいつ変だよなァ!!?」

ジャンゴはそれを聞いて納得する部分があったようだ。
て言うか、”変”に反応しすぎ。

「─── 成程ゴム人間か。腕が伸びて見えたのはどうやら錯覚じゃなかったらしい。だが、おれのチャクラムをくらって立ってられるのはどういう理屈だ!?」

・・・き、気合かなあ?

クロが大声を上げる。

「ジャンゴ!!!」
「お・・・おう!」
「その小僧はおれが殺る。お前にはカヤお嬢様を任せる。計画通り遺書を書かせて・・・殺せ」

カヤが青ざめる。
そしてクロは振り返って続けた。

「それに・・・アリを3匹。目障りだ」
「引き受けた」

ジャンゴが静かに了解した。
しかしそれを遮る男が坂の途中にいた。

「止まれ」

ゾロは刀をかざす。

「こっから先は通す訳にはいかねェことになってんだが」

「ブゥーチ!!!」
「ヌッフーン!!」

叫ぶジャンゴにブチが答える。
今だ催眠がかかったままのブチは、ゾロに突っ込んで行った。

「シャアアーッ!」

「キャット・ザ・・・」

飛び上がるブチをゾロは見上げた。

「まずい、あれかっ!!」

フンジャッタ!!!!

ボコオン!!

ゾロは間一髪避けたが、ブチが踏みつけたところから地面にひびが入っていく。

「うあっ」

ウソップが地面の割れ目に足を取られる。
3人組が目の前の出来事に恐れをなして叫ぶ。

「地面が割れたあ~~~~~っ!」

「くそっ!さっきと桁違いだ!!!」

ゾロはその威力に少し怯んだ。
その間にもどんどんひび割れは進んで行き、坂の横の崖の一部が崩れていく。

「ぎゃああああ~~~~~っ!!!」

海賊たちが大慌てで非難する。
クロはそれを見つめ、吐き捨てるように言った。

「加減知らずが・・・」

坂の下ではルフィが感嘆の声を上げる。

「すーげーっ!なんだあいつっ!!」

そうこうしている間に、ブチがカギヅメをゾロに向け襲い掛かっていく。

「シャアーッ」

ズドォォン!!

もう一方の崖の壁面に、ゾロは叩きつけられた。
・・・ように見えたが、ここも間一髪で刀で圧しとどめていた。

「てめェはおれに一度敗けてんだろうが・・・。邪魔を、するなっ!!!」

ゾロは力任せにブチを跳ね返した。







ウソップは必死で身体を起こしていた。
クロに蹴られたダメージで、立ち上がる事ができない。

─── 畜生ォ・・・!頭がフラフラで立ち上がれねェ・・・!あいつを止めなきゃいけねェのに・・・!

ジャンゴはスタスタと坂道を登る。
ゾロがブチの相手をしている為、彼を止めるものはいない。
ウソップは叫んだ。

「ウソップ海賊団っ!!!」

「はいっ、キャプテン!!」

3人は思わず整列する。
しかし、彼らにはウソップの言動の予想がついていた。
3人は怖いのを隠して、指示が下る前に訴える。

「い・・・言っときますけど・・・、おれ達は逃げませんよ!」
「キャプテンをそんな目にあわされて、逃げられるもんか!」
「キャプテンの敵を取るんです!」

しかし、ウソップは言った。

「カヤを守れ」

3人は黙り込んだ。

「!」

「・・・ウソップさん・・・」

カヤも驚く。
ウソップは静かに続けた。

「最も重要な仕事をお前たちに任せる!カヤを連れてここを無事に離れろ!!!」

「できないとは言わせないぞ!これはキャプテン命令だ!!!」

3人が返事する。

「は・・・!はい、キャプテン!!!」

それを聞いていたゾロは感心していた。

─── 上手いこと口が回るもんだな。結局、逃げろってことじゃねェのか。

カヤに駆け寄る3人に、ジャンゴがつぶやいた。

「バカが・・・、おれから逃げられるわけがねェだろ」

チャクラムを2つ取り出す。
それを知らない3人はカヤの手を引いて林の中に向かう。

「カヤさん、急いでっ!」
「林に入れば、僕らの庭みたいなもんだ!」

「ええ・・・」

カヤはウソップを振り返りながら走り始める。
自分がここにいれば彼の足手まといになる。でも、心配で仕方がないのだ。

「逃がすか!」

チャクラムを回すジャンゴに、ウソップが叫んだ。

必殺”鉛星”っ!!!

倒れこんだ体勢のまま、パチンコから鉛玉を放つ。
ジャンゴはそれをモロに背中にくらい、前のめりに倒れこんだ。

「へへへっ、ザマァ見ろ」

ウソップはにやりと笑う。
パチンコなら、外さない。

「こ!・・・こんの野郎めェ・・・!」

怒り狂ったジャンゴがウソップに迫る。
しかしクロが怒鳴った。

「ジャンゴ!さっさと追わねェか!」
「わ・・・わかってる!」

その声に我に返ったジャンゴは慌てて3人とカヤの後を追って林の中に入って行った。
クロが冷たく言い放つ。

「無駄なことだ、カヤの体の弱さはおれが一番よく知ってる・・・。ジャンゴからは逃げられん!!加勢に行きたきゃ行けばいい。ただし・・・、この坂道を生きて通ることができたらな!」

坂の上ではクロとブチが凄む。

「・・・くそ、これじゃ立場が逆転だ・・・!」

悔しがるウソップに、ルフィとゾロが不敵に言った。

「任せとけ」
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第34話 執事クラハドール

「何だっ!?」

ルフィは目を覚ました。
何かが、ほっぺたの上に乗っかってる。
と、言うか・・・踏んづけられてる。

そして、当の踏んづけたナミはジャンゴのチャクラムに狙われていた。

「真っ2つになれっ!!!」
「きゃああ!」

ギュルルル・・・。

目の前に迫るチャクラム。

「あれは・・・チャクラムっ!!?ただの催眠の道具じゃなかったのか!!」

ウソップが頭を抱える。だが、彼には何もできずただ見てるしかない。
しかし、残念ながらそんな状況はまったくわからない男が1人。

「お前かナミィ!!!」

ルフィが立ち上がる。・・・ナミと飛んでくるチャクラムの間に。

「よくも顔フンづけやがっ・・・」

ざくっ!!

それは・・・、キレイにルフィの後頭部に刺さった。

「!!!?」
「ルフィ!!!」

ルフィはゆっくりと前のめりに倒れていく。
ジャンゴは目を疑った。

「な!!・・・あいつ、まだ生きて・・・!!!」

ゾロも息を呑む。

「何て間の悪ィ奴、と言うか・・・いい奴と言うか・・・!!!」

ウソップは驚きすぎて声も出ない。
クロは、その男に見覚えがあった。

「あいつは・・・・・!?」

─── 崖から落ちて死んだ筈じゃあ・・・!!!

倒れこんでいくルフィはギリッと奥歯を噛むと、大きく一歩踏み出した。

「バカな!踏みとどまったっ!!!」

ジャンゴが叫ぶ。
ルフィは頭に刺さったチャクラムを抜いた。

「・・・何にしてもこれで・・・」

それを見て、ゾロは安心したようにつぶやいた。
しかし、安心できないのは海賊の皆さん。

「・・・あ」
「あ・・・!!!」
あいつが復活したァ~~~っ!!!

いっ・・・てェ~~~~~っ!!!

海賊たちと同じくらいの声量で、ルフィが叫ぶ。
そりゃ、痛いでしょ。

海賊たちはおののいた。

「まずいっ・・・!これじゃ」
「5分以内には・・・!!!」

ルフィは涙目でナミに怒鳴りつけた。

「いてェな、コノォ!!!」
「私じゃないわよ!!」

それだけ言うと、ナミは崩れ落ちるように座り込んだ。
ルフィが気づく。

「・・・お前、肩ケガしたのか」
「何でもない、平気・・・。とりあえず私のやれることはやったわ、後は任せる!」

そしてナミは力強くルフィに笑いかけた。

「この戦い・・・、絶対に負けるわけにはいかないものね!!」
「お前・・・」

ナミは力強くこぶしを握る。

「宝のために!!!」

ですよね。

「んん!結果オーライ!それがお前だ!」

ルフィも納得。

「─── なんだ、わる執事も来てるよ・・・」

ようやくルフィは坂道を見上げた。

「皆殺しまで・・・後3分」

クロが腕時計を確認する。

「そんな・・・無茶だ・・・!」
「ジャンゴ船長とブチさんと言えど、たった3分であいつらを仕留めるなんて・・・!!!」

海賊たちが叫ぶ。

ジャンゴがブチに大声で指示した。

「ブチ!考えてる暇はねェぞ。お前はあのハラマキを殺れ!!」
「ヌン」
「おれが麦わらの小僧を・・・!!」

その時、クロの背後に人影が。

「!」

「クラハドール!!!もうやめて!!!」

「!!!」

そこには息を切らせて立つ、カヤの姿があった。







ウソップが叫ぶ。

「カヤ!お前・・・、何しに・・・!!!」

ジャンゴも叫ぶ。

「オイ、あいつは屋敷の娘じゃねェか!あれは計画の最終目的だぜ・・・!?」

海賊達もどよめいた。

「じゃあ・・・村へ行く必要ねェのか!?」
「あの女殺しゃあいいんだよな・・・」

クロは振り返り、静かに言った。

「これは驚いた・・・、お嬢様なぜここへ・・・?」
「─── メリーから全部聞いたわ」

カヤも息を整えながら言った。

「・・・ほう、あの男まだ息がありましたか」

表情が冷たく変わる。

「ちゃんと・・・殺したつもりでしたが・・・」
「・・・・・!!?」

─── 違う・・・!本当に・・・クラハドールじゃない・・・!!!

「・・・ごめんなさい、ウソップさん・・・!!」

カヤは言った。

「謝っても許してもらえないだろうけど・・・、私、どうしても信じられなくって・・・!クラハドールが海賊だなんて・・・」
「そんなことはどうでもいいっ!!何でここへ来たんだ、おれは逃げろって言ったんだ!!!お前は命を狙われてるんだぞ!!!」

ウソップが怒鳴る。
しかしカヤはひるまなかった。

「あなたは戦ってるじゃない!!!」

カヤは言う。

「私達はウソップさんにあんな酷い仕打ちをしたのに!そんなに傷だらけになって戦ってるじゃない」
「おれはだから・・・!ゆ!勇敢なる海の・・・」

「クラハドール!!」

ウソップの言葉が終わる前に、カヤはクロに告げた。

「私の財産が欲しいのなら全部あげる!だからこの村から出て行って!!!」
「─── 違いますね、お嬢様」

クロはメガネのズレを直す。

「・・・金もそうだが、もう1つ私は”平穏”が欲しいのです」

クロは続けた。

「ここで3年をかけて培った村人からの信頼はすでに、なんとも笑えて居心地がいいものになった。その”平穏”とあなたの”財産”を手に入れて初めて計画は成功する。・・・つまり、村に海賊が攻め入る事故と、遺書を残しあなたが死ぬことは絶対なのです」
「!!」

ウソップが叫ぶ。

「逃げろ、カヤ!そいつにゃ何言っても無駄なんだ!お前の知ってる執事じゃないんだぞ!!!」

しかしカヤはコートの内ポケットからあるものを取り出して、クロに向けた。
父親の形見の、銃だ。

「村から出て行って!!!」

震える腕で、銃を構える。
しかし、クロはそんなものは気にも留めない様子でゆっくりと話し始めた。

「なるほど・・・、この3年であなたもだいぶ立派になられたものだ・・・」
「!?」
「覚えていますか?3年間いろんな事がありましたね。あなたがまだ両親を亡くし床に伏せる前から、ずいぶん長く同じ時を過ごしました。一緒に船に乗ったり、町まで出かけたり・・・。あなたが熱を出せばつきっきりで看病を・・・。共に苦しみ、共に喜び、笑い・・・、私はあなたに尽くしてきました」

「夢見るお嬢様にさんざんつきあったのも、それに耐えたことも・・・」

「全ては貴様を殺す、今日の日のためっ!!!」

冷徹な目でクロはカヤをにらむ。
カヤはこらえきれずに涙を流していた。

「野郎・・・」

ウソップの怒りはもう、頂点まで来ていた。

「かつてはキャプテン・クロを名乗ったこのおれが、ハナッたれ小娘相手にニコニコへりくだって、心ならずもご機嫌取ってきたわけだ・・・。わかるか?この屈辱の日々・・・」

カヤの手から銃が落ちる。
本当は1パーセントもないかもしれない望みに懸けていた。
クラハドールが改心してくれるかもしれない望み。
でも・・・、それは本当にもう叶わない・・・。

クロォオオおーっ!!!!

ウソップは猛然とクロに飛びかかって行った。
カヤはただ、それを見ているだけしかできなかった。

─── ウソップさん・・・!!?

しかし、ウソップの決死の行動もクロには通じない。
音もなくそれを避ける。

「ウソップ君・・・、そういえば君には・・・殴られた恨みがあったな・・・」
「!!?」

クロの目が光る。

「思いっきり殴ってくれたよな・・・!」

ウソップに襲い掛かろうとしたその時だった。

ドゴォ!!!

轟音とともに、クロが吹っ飛ぶ。

「な・・・何だ!!?C(キャプテン)・クロがブッ飛んだ!!!」

ジャンゴが叫ぶ。

「殴られるのがそんなに嫌なら、あと100発ぶち込んでやる!!!」

ルフィのパンチがクロの顔面にキレイにヒットしたのだ。
坂の下で彼はこぶしを構えてにっと笑う。
戦闘準備は万端だ。

第33話 音無き男

キャプテン・クロは静かに、だが迫力のある声で言った。

「まさかこんなガキ共に足留めくってるとは・・・、クロネコ海賊団も落ちたもんだな。・・・えェ!!?ジャンゴ!!!」
「だ・・・だがよ!あんた、あの時その小僧ほっといても問題ねェって・・・、そう言ったじゃねェかよ!!」

ジャンゴが怯える。

「・・・ああ、言ったな・・・」

クロの目が光る。

「言ったがどうした・・・!問題はないはずだ。こいつがおれ達に立ち向かってくることくらい、容易に想像できていた。ただ、てめェらの軟弱さは計算外だ。言い訳は聞く気はない」

「な・・・軟弱だと、おれ達が・・・」
「・・・言ってくれるぜ、C(キャプテン)・クロ・・・」

その言葉を聞き流すことはできなかった。
ブチとシャムの表情が変わる。

「確かに、あんたは強かった」

クロがその言葉に反応する。

「何が言いたい」

「おい!やめねェか、ブチ!シャム!」

ジャンゴが焦って止める。

「だがそりゃ、3年前の話だ・・・!あんたがこの村でのんびりやってる間、おれ達は遊んでたわけじゃねェ!」
「おおともよ。いくつもの町を襲い、いくつもの海賊団を海に沈めてきた・・・!!」

「・・・仲間われか・・・!?」

ウソップは唖然として成り行きを見つめていた。

「・・・・・?」

ナミも肩の傷を押さえながら、同じように坂の上を見上げる。

「計画通りに進めなかっただけで、やすやすと殺されるようなおれ達じゃねェ!!」
「ブランク3年のあんたが、現役の、しかもこの”ニャーバン・兄弟”に勝てるかってことだ!!」

その言葉に、他の海賊たちも思い直し始めた。

「それは言えてるかもしれねェ・・・」
「あの2人が組めば、ジャンゴ船長だって勝てやしねェんだ・・・」
「実質、今ウチの”最強”はあのコンビ・・・」

「・・・・・」

クロは黙ったままメガネのズレを直す。

「あんたはもうおれ達のキャプテンじゃねェんだ!!」
「黙って殺されるくらいなら、殺してやる!!!」

そう叫ぶと、ブチとシャムは猛然とクロに突っ込んで行った。

「シャアアア!!!」

2人のカギヅメがクロに襲いかかる。
しかし、斬り裂いたのはクロが持っていたかばんだけ。本体は、いない。

「誰を、殺すだと?」

クロの声が、ブチとシャム2人の後ろから静かに響いた。

「・・・!?いつの間に背後へ・・・」

ウソップは成り行きをずっと見つめていたハズだが・・・、クロがいつ攻撃を避けたのかわからなかった。

「・・・・・!!」
「でた・・・、ぬ!”抜き足”!!」

坂の下の海賊たちが怯える。

「・・・何だ、あの武器は」

ゾロの視線の先には、武器を構えたクロの姿があった。
彼の武器は”ニャーバン・兄弟”のカギヅメの武器に似ているが、より鋭く長い爪が伸びている。

「・・・・・」

何かを期待しているのか、それとも諦めているのか、ジャンゴは黙って戦況を見つめている。
その後ろで、ナミはジャンゴに悟られないようゆっくりと身体を起こした。

「回り込まれたか!!」

ブチとシャムの2人が後ろを振り向く。
しかし、そこにはもうクロはいなかった。

「え?」
「い・・・いねェぞ・・・」

「お前らの言うことは正論だな」

クロが後ろから両腕で2人の肩を抱く。
またしても、目に見えない速さでの移動だった。

「いっ!!!」
「ヒィ!!!」

2人が怯える。

「いまひとつ体にナマリを感じるよ」

クロはそう言いながら、両親指から伸びている爪の切っ先をブチとシャムに向けた。

「確かにおれはもうお前らのキャプテンじゃねェが・・・、計画の依頼人だ・・・!実行できなきゃ殺すまで!!」

「あの”ニャーバン・兄弟”が捕まるところなんて初めて見た・・・!!」

海賊たちが息を呑んだ。
その後ろでナミも同様だった。

─── ・・・!刀1本とはいえ、ゾロを圧してたやつらがまるで子供扱い・・・!!!

「何を期待してやがる、てめェら・・・」

ジャンゴが吐き捨てるように言った。

「あの男の”抜き足”は無音の移動術。暗殺者50人集めても、気配を感じる間もなく殺される。おれ達はこの計画から逃れられやしねェんだ。それに・・・」

ジャンゴが続ける。

「3年ぶりに会ってあのクセを見たときはゾッとしたぜ。”猫の手”で自分の顔を傷つけねェための、あの男の奇妙なメガネの上げ方・・・。まだ戦いを忘れてねェ証拠だ・・・!!」

クロの爪の切っ先がブチの首に突き刺さる。

「いでェっ!!!いで・・・」
「3年もじっとしてるうちに、おれは少し温厚になったようだ・・・」

クロの声が冷たく響く。

「5分やろう。5分でこの場を片付けられねェようなら・・・、てめェら1人残らずおれの手で殺してやる」

「!!!!」
「死にたくねェよォーっ!!!」

その言葉に、海賊たちが叫ぶ。

「5分・・・」

”ニャーバン・兄弟”が息を呑む。

「ケッ・・・」

ゾロが毒づく。

「畜生ォっ!!こんな奴が3年も同じ村に住んでたなんて・・・!!!」

ウソップが叫ぶ。

「5分・・・。5分ありゃあ何とかなる!!」

ジャンゴも自身に言い聞かせるようにつぶやいた。

その後ろで、ナミが少しづつ後ずさる。
ジャンゴの意識は今自分に向いていない。
そう気づいたナミは、その隙にそっと移動した。

”ニャーバン・兄弟”が叫ぶ。

「あいつだ!あいつさえブッ殺せば!!!おれ達はこの坂道を抜けられるんだ!!!」
「そうさ、さっきまでおれらが圧してた相手だ!」
「たいして強かねェ!5秒で切りさいてやる!!!」

その時だった。

「ゾロ!!」

ナミが叫ぶ。

「刀っ!!」

ナミはゾロの刀を2本とも高々と蹴り上げた。

「てめェは・・・!!おれの刀まで足蹴に・・・!!」

それは寸分違わず、ゾロの元に飛んでいく。
ナミがにっと笑う。

「・・・お礼は?」
「あァ・・・」

─── 助かった・・・!!

「ありがとう!!」

ゾロが刀をがっちりと掴む。

そのゾロに”ニャーバン・兄弟”が襲い掛かっていった。さっきとは表情がまるで違う。
彼らも自身の命がかかっている。必死であった。

「シャアアアーッ!!」
「無駄だ無駄だ!刀3本使っても、実力は同じだ!!!」

「わかってねェな・・・」

ゾロが静かに言った。

「”刀3本使うこと”と”3刀流”とじゃ意味が違う」

「シャアアーッ」

”ニャーバン・兄弟”のカギヅメがゾロに襲い掛かる。
ゾロは1本を口に構え、残りの2本を肩に背負うように構えた。

虎・・・

狩り!!!!

ガシュッ!!!

一瞬の斬撃。
斬られた二人は声もなく坂道を転がっていく。

「い・・・!一撃っ!!!」
「あの”ニャーバン・兄弟”を!!!」

海賊たちがどよめく。

ゾロは刀の切っ先をクロに向けた。

「心配すんな・・・5分も待たなくてもお前らは1人残らず、おれが始末してやる」
「やってみろ」

クロがメガネのズレを直す。
その表情は往年の海賊、キャプテン・クロそのものだった。

「─── ハァ・・・ハァ・・・あいつ・・・。くそ・・・、ブ・・・ブッ殺してやる!」

ゾロの背後でよろよろとブチが起き上がる。
虫の息だが、意識が飛ぶまでには至らなかった。

そして叫ぶ。

「せ・・・船長っ!ジャンゴ船長、催眠をかけてくれ!」

「生きてるぞ、ツメが甘いな・・・」

クロが冷たく言い放った。
ゾロも振り返る。

─── タフな脂肪のおかげで助かったか・・・。

「!」

ぬ゛っフーン!!!

ゾロに斬られて虫の息だった筈のブチが、復活している。
目つきもこれまでと違う。

「まさか・・・!また催眠か!?」

ゾロは焦った。

─── あいつは厄介だ・・・!ただでさえ地面にヒビを入れる奴なのに、パワーアップしたらどうなっちまうんだ!





「ん?」

ジャンゴは気づいた。
後ろにいたはずのナミが船の方に向かって走っていく。

─── チャンス!今のうちにあいつを起こさなきゃ!ったく、こんな大変な時に何のんびり寝てんのよ!!

「今度は何する気だ、小ざかしい女め!死ね!!」

ジャンゴがナミに向け、チャクラムを飛ばす。

「みんな大ケガして戦ってるってゆうのに、コイツったら!!」

ナミは船首の下敷きになって眠りこけているルフィの顔を思いっきり踏んづけた。

「起きろォ!!!」
「ぶっ!?」

チャクラムがナミに襲い掛かる。
それに気づいたゾロが叫ぶ。

「ナミ危ない!よけろっ!!!」
「え」

振り返ったナミの視線上に、猛スピードで自分の元へ飛んでくるチャクラムがあった。

第32話 大凶

「まずい、刀取られちゃった!!」

形勢逆転とはこのことである。
相手を圧していたはずだった。
だが今は、刀3本のうち2本を取られてしまっている。

ゾロは静かに言った。

「その刀を返せ・・・!」
「返す?刀ならてめェで持ってんじゃねェか」

シャムはにやりと笑う。
そして背負っていたゾロの刀2本を下ろすと、

「そうだ、戦う前にこの荷物・・・」
「・・・・・」
「邪魔だな、こりゃ・・・」

坂の下に、まるでゴミを捨てるかのように放り投げた。

「!」

ゾロの表情が変わる。
刀は乾いた音を立てて、坂の下まで転がっていった。

シャムが舌なめずりする。

「さーて、これで身軽に・・・」
「他人の刀(もの)は大切に扱うもんだぜ!!!」

もう手加減しない。
ゾロは猛然とシャムに向かっていった。

ズバッ!!!

ゾロの刀がシャムの胴をぶった斬る。

「!」
「強ェ!!!」

坂の上の2人は、あらためてゾロの強さを実感したようだ。

「!」
「・・・おれの出番か・・・」

坂の下のジャンゴとブチも同様に感じたようだ。
シャムを切り捨てたゾロは、そのまま坂の下の刀に駆け寄った。

「野郎・・・おれの刀をよくも!!!」

しかし背後から声が響いた。

「何を斬ったんだい!?」
「!!?」

シャムが目にも止まらぬ速さで背後からゾロの両腕を掴み、背中に乗る。

「残念おれは、ネコ背なのさ!」
「・・・何だと!?」

ゾロは反動で前にのめりながらシャムを振り返る。
斬ったはずの腹の部分には傷一つついていない。
ネコ背が過ぎて、何もしていなくても前かがみになっているのと同じなのだ。

「あいつ・・、腹はスカスカだったのか!」

ウソップも唖然として言った。

シャムが叫ぶ。

「やれブチ!!出番だ!!!」
「がってん、シャム!」

シャムの声に、ブチがゾロへ飛び掛る。

「ぐ!!」

ゾロはシャムに押さえ込まれて動けない。
ブチは空高く飛び上がった。

「猫殺っ!キャット・ザ・・・」

ナミが叫ぶ。

「危ないっ!!!」

フンジャッタ!!!

ドゴォォォン!!!

「うわ!」

ブチが振り下ろした脚は、地面をえぐるほどの衝撃。
ゾロはかろうじて避けた。

「!!?地面にヒビが・・・!!!」
「すごい!」

ウソップとナミは、ただただ驚くばかりだ。

「くっ・・・!」

ゾロは衝撃で後ずさる。
シャムはゾロを振り返って悔しがった。

「畜生、逃がしたか!」
「おい、しっかり押さえてろ、シャム!」

ブチがシャムを叱りつけた。

「わりィわりィ、あんにゃろ思ったよりバカ力でよ!」

「・・・・・!!!」

紙一重で避けたゾロは、冷や汗をかいた。

─── 危なかった・・・!冗談じゃねェぜ、あんなの一発でも食らったら全身の骨がコナゴナになっちまう・・・!!!

「今度は逃がさねェ」
「おおともよ」

ブチとシャムの2人がゾロへ構える。

「・・・一刀流はあんまし得意じゃねェんだが」

ゾロも、刀を構えた。

「いくぜブチ!!」
「よしきたシャム!!」

2人が猛然と襲い掛かる。

「ネコ柳大行進!!!」

2人のカギヅメが目にも止まらない速さで襲ってくる。

「シャシャシャシャシャシャ」
「シャシャシャシャシャシャ」

「・・・・・!!」

ゾロは刀でそれを受け流しているが、防戦一方だった。

「やばい!ゾロが押されてる」

ナミはふとウソップを見た。ウソップはパチンコを構えている。

「何する気!?」
「2人相手に攻撃を受けっぱなしじゃ、拉致があかねェよ。援護する」

そう言って、パチンコを思いっきり引き絞る。

「くらえ”鉛星”っ!!」

パチンコから放たれた鉛玉が寸分違わずブチへ・・・のはずだった。

ドゴンッ!!

鉛玉はゾロの左肩に命中する。

「・・・・・!!え!!?」

ウソップは目を疑った。

「すきありィ!!!」

鉛玉を食らったせいで体勢を崩したゾロに、ブチとシャムが突っ込む。

「うわ!!!」

避けるのも間に合わず、カギヅメの攻撃を腹にまともに食らってしまった。
しかしもんどりうって倒れたが、すぐさま体勢を整える。

「味方に攻撃してどうすんのよ!!!」

ナミが怒鳴る。

「い・・・いや、違う・・・!」

ウソップは言った。

「あいつ・・今、自分から当たりに行った様な・・・!」
「自分から・・・!?」

─── ウソでしょ!?

ナミはゾロを見た。
ゾロが怒鳴る。

「バカ野郎、ウソップ!!死にてェのか!!!」

ナミは気づいた。

「・・・もしかして、こっちが助けられたんじゃないの・・・?」
「え!?」
「だって、パチンコなんて撃ち込んだら、多分あの2人組標的を私達に変えて襲ってくるわ」
「!」
「そしたら・・・私達どうなってたと思う?」
「あいつ・・・、そんなこと考えてる場合かよ・・・!」

ウソップは驚きを隠せなかった。

ゾロは今だ2人の攻撃をかわしているが、それでもどんどん圧され始めていた。

─── くそ・・・、せめてあと1本刀があれば・・・!!!

「・・・でも、このままじゃまずい・・・」

ナミが意を決して言った。

「私が刀を取りにいくわ!ゾロに渡せば必ず勝ってくれるはず!」
「だったらおれがっ!」

─── 女の子にそんなことはさせられない!

「無理しないの、あんたはフラフラでしょ!?」

そう言うとナミは坂道を駆け下りる。

「おい!!」

ウソップがナミを止める。しかし彼女はゾロの横も通り抜け一直線に刀のところへ走っていった。

「あいつ何を・・・!?」

ゾロもナミの行動に気づく。

「・・・・・!」

その様子をジャンゴは黙って見つめている。

「これさえ渡せば!!」

もう少しで刀に手が届く。

ズバッ!!

「!!?」
「刀に何の用だ」

そう簡単に刀を渡すわけには行かない。
ジャンゴはナミの肩を手にした輪っか・・・チャクラムで斬り裂いた。

「きゃあ!」

ナミはその勢いで坂の下まで転げ落ちていく。

「野郎ォ!!!」

ウソップが怒鳴る。

─── 唯一の希望が・・・!!!

しかし、今の彼には何もできなかった。







ふと、坂の上を見上げていたジャンゴの表情が変わった。
見る見るうちに、怯えたものに変わっていく。

「・・・あ・・・!!あ・・・いや!これは・・・その、事情があってよ・・・!!!」

ウソップも振り返った。

「え・・・」

坂の下の海賊たちも、その男を見上げる。

「キ・・・キャ・・・キャプテン・・・クロ・・・!!」
「・・・こ・・・殺される・・・」

そう、そこにはクラハドール・・・、いや、キャプテン・クロがたたずんでいたのだ。

─── 最悪だ・・・!何てタイミングで現れやがるんだ!!!

ウソップが真っ青になる。

キャプテン・クロは静かに言った。

「─── もうとうに夜は明けきってるのになかなか計画が進まねェと思ったら・・・」

何だこのザマはァ!!!!

第31話 真実

海賊たちが襲ってくる。
剣や銃、たくさんの武器を構えた男たちが、私の前に次々と現れる。
逃げても逃げても、後からどんどん湧き出るように増えていく。
声が聞こえる。

”てめェら、よくもおれをコケにしてくれたな!!”
”海賊の血を引くことをバカにしてくれたな!!”

男の顔が変わる。・・・ウソップさんの顔に。

”殺してやる!!!”

ウソップさんが私の腕を掴む。

”やめて!ウソップさん!!!”

”殺してやるーっ!!!”

”きゃあああーっ!!!”



「─── はっ!!!」

カヤはそこで目を覚ました。
胸を押さえてゆっくりと起き上がる。
ここはいつもと変わらない、カヤの部屋。
夜は明けきってはいたが、まだずいぶんと早い時刻であった。

「はぁ・・・はぁ・・・!」

動悸はなかなか治まってはくれない。

「・・・!わからない・・」

軽く咳き込む。

「ウソップさんが・・・、あんな行動をとるなんて・・・」

悪夢を見るほど、昨日のウソップの行動が彼女の頭から離れない。
彼女は気を紛らわす為部屋を出て、クラハドールの居室へ向かった。

「─── クラハドール?」

ドアをノックする。

「クラハドールはいる?」

ふと、気づいた。
ドアが開いている。
胸騒ぎがする。
カヤはそっとドアを開いた。
そこで彼女が見たものは、血まみれで倒れるメリーの姿だった。
あまりの衝撃に、すぐには声が出ない。

「─── メ・・・メリーっ!!!!」

カヤは慌ててメリーに駆け寄る。

「どうしたの!?何があったの!?目を開けてメリーっ!!死んじゃやだ!!!」

しばらくして、

「う・・・!ガハッ!!!」

ようやくメリーが息を吹き返した。
むせながら身体を仰向けにする。

「メリー・・・」
「ご・・・お・・・お嬢様・・・、良かった、ご無事で・・・!!!」

メリーが喘ぎながら答える。

「!?・・・私は無事よ。何言ってるの・・・!?あなたが・・・」

メリーはカヤの言葉を遮って言った。メリーの目から涙が流れる。

「クラハドール!!!」
「あいつに・・・やられました・・・!!!」
「!!?え・・・!?」
「あいつは・・・海賊です!!!」
「そんな・・・ウソでしょ!?」

カヤの脳裏には、クラハドールの言葉が響いていた。

”万が一!お嬢様の身に何かあっては!私は世話になったご主人に顔向けできないのです!!”

─── 彼はああ言っていたのに・・・。でも、メリーがこんな姿になっているのは紛れもない事実!

「─── じゃ、じゃあ昨日・・、ウソップさんが言ってたことは!!!」
「ええ・・・、今思えば・・・、彼は1人この事実を知り必死に我々を助けようとしていたのです・・・。それなのに・・・」

「我々は誰一人、彼の言葉を聞き入れようとしなかった!」

ウソップの言葉が蘇る。

"明日になれば全部真実がわかる!とにかく今は逃げろ!言うことを聞いてくれ!!!”

「何と皮肉なことでしょう・・・。我々は本物の悪党をかばい・・・、あの勇敢な若者を、村人の為に決死の覚悟で駆け回る若者を、追い立ててしまったのです・・・!!!」
「私・・・、彼になんてことを・・・!!!」

カヤの瞳から大粒の涙が後から後からこぼれていく。

「ガハッ」

何とかメリーは身体を起こした。

「誰か来て!誰か!!メリーが!!!」

カヤが廊下に向かって叫ぶ。
しかし、メリーがそれを止めた。

「ムダです・・・!屋敷の者は全員昨日から休暇を取ってます」
「そんな!じゃあ私・・・」

─── どうすればいいの!このままじゃメリーが・・・

「取り乱してはいけません!」

メリーが苦しい息の下から、カヤを諭すように言った。

「まだ事件は起こっていない・・・!冷静に・・・、あなたが今すべきことを考えるのです。・・・さっき、クラハドールが屋敷を出て行くところを見ました。昨日の・・・彼の言葉が本当だということは、きっと仲間の海賊を呼びに行ったのでしょう。我々だけでなく、村の人達も危ないということです。」

メリーは続けた。

「クラハドールの目的がこの屋敷と財産ならば、そんなもの全てあげてしまいなさい!命をはって守るようなものじゃない!!」
「はい・・・!」

カヤは涙をぬぐった。

「酷な事に・・、クラハドールを止められるのは、あなただけなのです!・・・やれますか・・・?これは責任ではありません・・・!!」

メリーが苦しげに息を荒く吐く。

「わかってる」

涙を目にいっぱい溜めながら、カヤははっきりと言い切った。

「私だって・・・、逃げちゃいけない事態くらいわかるつもり!!クラハドールと話をつけに行くわ・・・!!!」







「え?屋敷の羊が海岸へ!?」

その頃、ウソップ海賊団は村の小道に集合していた。
しかしにんじんは木にもたれて、かなり眠そうだ。

「おい、にんじん!寝るなよ」

ピーマンが言う。

「だってまだ寝てる時間だよ、いつもは」

そう言ってにんじんは大あくび。

「今日は寝てる場合じゃないんだよ。大変かもしれないんだぞ」

たまねぎも言う。

「ぼくはやっぱり海賊は攻めてくると思うんだ!キャプテンはうそだって言ったけど、それがウソだと思うんだ!!」

たまねぎの意見にピーマンも同意する。

「それはおれも考えた」
「じつはおれもー」

にんじんも続く。

「昨日のキャプテンは、やっぱりなんか変だった」

ふと、たまねぎが道の向こうから来る人物に気がついた。

「あれは・・・」
「カヤさんだ・・・!!!」

道の向こうから、カヤがゆっくりと歩いてくる。
具合が悪いのだろう、呼吸が少し荒い。

「カヤさんが1人で外を出歩くなんて・・・」
「何かある・・・。絶対なんかあるんだよ!!!」

ウソップ海賊団の3人の考えは徐々に確信に変わっていった。







一方、北の海岸では、ジャンゴが海賊船に向かって叫んでいた。

「下りて来いっ!!!”ニャーバン・兄弟”!!!」

「今さら何が飛び出すんだ・・?」

ゾロが訝った。
倒れこんでいる海賊たちは、期待に目を輝かせる。
そしてルフィは、今だ船首に下敷きになったまま眠りこけていた。

船から声がする。

「ありゃ!船長が呼んでるぜ、おれ達を」
「何!?まだ村へ行ってなかったのかい。何やってんだ海岸で」
「─── おい見ろ、みんなやられちまってるよ」
「おだやかじゃねーなーっ!・・・行くのか?」
「ま、そりゃ行くけどもっ!!」

船から男たちが飛び降りる。

「─── 来たか、”ニャーバン・兄弟”」

ジャンゴの声に2人が答えた。

「およびで、ジャンゴ船長」
「およびで」

1人は細身で背中が丸い男。猫のような爪のついた手袋をつけ、胸には蝶ネクタイ、半ズボンを穿いているのが、シャム。そして太った身体に首元に鈴をつけ、コタツ布団をマントのようにまとっているのがブチ。この男も爪のついた手袋をはめている。
2人共猫耳を頭につけていた。

その様子を坂の上で見ていたナミが驚く。

「なに、あれ・・・」
「すげェ・・・。あの高さから着地した・・・。猫みてェだ」

ウソップも息を呑んだ。

ジャンゴがニャーバン・兄弟の二人に告げる。

「ブチ、シャム、おれ達はこの坂道をどうあっても通らなきゃならねェんだが、見てのとおり邪魔がいる!あれを消せ!!」

それを受けて、二人が答える。

「そ・・・そんな、ムリっすよォ僕たちには。なァ、ブチ」
「ああ、あいつ強そうだぜ、まじで!!」

怯える二人に、坂の上の3人も驚いていた。
ウソップとナミは呆れて言った。

「な・・・!何だあいつら、切り札じゃなかったのか!?」
「完全にびびってる・・・!!」

ゾロも拍子抜けしている。

ニャーバン・兄弟は続ける。

「だいたいぼくらはただの船の番人なんだから」
「そうそう、こんな戦いの場にかり出されても」

ジャンゴが業を煮やして怒鳴った。

「シャム!さっさと行かねェか!!!」
「え!?ぼくですかぁ!?」

シャムがありえないと言うように頭を抱える。

「急げ!!」

ジャンゴがさらに怒鳴る。

「わかりましたよ、行きますよっ!!」

シャムがしぶしぶ向かう。

「べそかいちゃった・・・!」

ナミが唖然とする。

「どういうつもり!?あんな奴戦わせるなんて・・・」

シャムがどたどたとゾロに突進する。

「おいお前、覚悟しろー!このカギヅメでひっカクぞー!」
「・・・!あれをおれにどうしろっつうんだよ・・・!!!」

ゾロが困ったようにシャムを見る。

「お前っ!止まらねぇと斬るぞっ!!」

シャムの目が光る。

「斬れるもんならな・・・」
「なに・・・!?」

突進してくるシャムのスピードが格段に上がり、カギヅメでゾロに襲い掛かる。
寸でで、ゾロは刀でそれを受けた。

「こいつ・・・!?」
「貴様おれを今見くびってたろ・・・!!!」

シャムはゾロから離れると、不敵な笑みを浮かべた。

「だがよく受けたな!おれは今ネコをかぶっていたのに!!!」

「まさかあいつ・・・、弱くねェのか!!?」

ウソップが叫ぶ。
ナミが気づいた。

「ゾロ!?刀は!?」

その言葉にゾロも気づいた。
あるはずの場所に手をやる。

「え・・・ないっ!!」

手にした刀以外、2本の刀が鞘ごと腰から消えている。

「まァ、てめェもちったァやるようだが、クロネコ海賊団”ニャーバン・兄弟”のシャムを甘くみねェこった・・・」

シャムがニヤリと笑った。背中にはゾロの2本の刀を背負って。

「何か失くしたのかい?おれは知らねェがな・・・」

坂の下ではジャンゴとブチが笑う。

「出たか」
「ネコババ」

─── あの野郎・・・、おれの刀を・・・!!!

ゾロはシャムが背負う自身の刀を見つめ、ショックを隠せなかった。