第25話 ウソ800
シロップ村の大富豪カヤの屋敷の庭では、この屋敷の執事クラハドールと村の若者ウソップが対峙していた。
その後ろではウソップ海賊団の面々、そしてルフィたち、屋敷の窓辺ではこの屋敷の主人であるカヤがその様子を見守っていた。
「海賊が・・・”勇敢なる海の戦士”か・・・!ずいぶんとねじまがった言い回しがあるもんだね・・・」
クラハドールが手のひらでメガネのズレを直す。
「だが・・・、否めない。野蛮な血の証拠が君だ・・・!」
ウソップはクラハドールを睨む。
「好き放題にホラを吹いてまわり、頭にくればすぐに暴力・・・。あげくの果ては、財産目当てにお嬢様に近づく・・・!」
クラハドールはようやく立ち上がり、ズボンの土ぼこりをはたいた。
「何だと、おれは・・・!」
「何かたくらみがあるという理由など、君の父親が海賊であることで充分だ!!!」
「てめェ、まだ言うのか!!!」
ウソップがクラハドールの胸倉を掴み、こぶしを固める。
「やめて、ウソップさん!!!もう、これ以上暴力は・・・!!!」
カヤが叫んだ。
その声に、ウソップはこぶしを止めた。
「悪い人じゃないんです、クラハドールは・・・」
カヤはうつむく。
「ただ、私のためを思って過剰になっているだけなの・・・」
クラハドールは胸倉を掴んでいたウソップの手をはたいた。
「出て行きたまえ・・・」
そして怒鳴る。
「ここは君のような野蛮な男の来るところではない!二度とこの屋敷へは近づくな!!」
「・・・ああ、わかったよ。言われなくても出てってやる・・・。もう二度とここへは来ねェ!!!」
ウソップはきびすを返し、スタスタと屋敷を後にしていった。
その後姿は、少し寂しさがにじんでいた。
「ウソップさん・・・」
カヤには彼を止める事はできない。
海賊団たちが叫んだ。
「このヤロー、羊っ!!キャプテンはそんな男じゃないぞ!!」
「そうだ!っばーか!!」
「ばーか!」
「ばーか!!」
・・・一人多い。
「何でお前も一緒になってんだ」
ゾロがルフィを小突いた。
そんな海賊団+ルフィを、クラハドールは睨みつける。
「ぎゃああああああ!」
「やるか、このっ」
おびえる海賊団に、臨戦態勢のルフィ。
「君達も、さっさと出て行きたまえ!!!」
クラハドールは再度怒鳴った。
しばらくして。
カヤは再びベッドにもぐりこんでいた。
咳がひっきりなしに出る。しかしそれを周りに気づかせない為、彼女は枕で音をかき消していた。
ドアがノックされ、ワゴンを引いたクラハドールが部屋に入ってきた。
「お食事です、お嬢様・・・」
「・・・いらない」
咳き込みながら、カヤは言った。
「食べたくない、おいしくないんだもん」
クラハドールはため息をついた。
「そんな事言っては、コックが腹を立てますよ。お嬢様のお体にあう食事を一生懸命考えてつくっているのですから」
カヤはそれには何も言わず、別の話を切り出した。
「・・・どうしてあんな言い方したの?」
給仕の準備をしていたクラハドールが手を止める。
「それは私だって、クラハドールに黙ってウソップさんと話をしていたのは悪いと思っているわ。だけど、あんな追い返し方ってないじゃない!」
「・・・座っても?」
「どうぞ」
クラハドールはカヤのベッドの端に腰を下ろした。
「・・・もう、3年になりますか。私がこの屋敷へ来た日から・・・。あの日のことは忘れもしません!」
そしてクラハドールは静かに語り始めた。
「・・・当時私はある船で働いていたのですが、ちょっとしたミスを犯しその船を下ろされてしまったのです。路頭に迷い、たどり着いたのがこの村で・・・。当然やる事も金もなく今にも野垂れ死にしそうだった私に、声をかけてくださったのがあなたの父上でした。私にとって、亡きご両親は命の恩人なのです」
カヤは黙って聞いている。
「そしてあなたは私の恩人のご令嬢・・・。私がお嬢様の交友関係にまで口を挟むのは、出すぎたマネだという事は承知の上なのですが・・・」
クラハドールは目を伏せた。
「あのウソップという若者は・・・お世辞にも評判のいいとは言えない人間です。もしも・・・!万が一、お嬢様の身に何かあっては!私は世話になったご主人に顔向けできないのです・・・!!」
「・・・・・」
「先ほどは、しかし・・・さすがに言い過ぎました。私を恨んでおいでですか」
「・・・ううん、そんな事ない・・・」
カヤは口を開いた。優しく言葉をかける。
「私もクラハドールには感謝してるわ。だけど誤解しないで。彼はとてもいい人なの」
「ですが!いい人かどうかは別の話!」
クラハドールは立ち上がった。
「クラハドール!・・・もう、わからず屋!!」
カヤが言い返す。
「ええ、わからず屋で結構っ!!」
そう言って2人は、顔を見合わせて少し笑った。
「ねェ、ルフィどこ行ったの?」
「さあな、キャプテンを追っかけてったんだろ」
カヤの屋敷を後にした後、ゾロたちは村の道端に腰を下ろしていた。
「キャプテンならあそこだ!」
ゾロと同じように腰を下ろしていたにんじんが言う。
「うん海岸だ」
ピーマンが言った。
「なんかあると、とりあえずあそこに行くんだ。行ってみる?」
「いや、いい・・・」
ゾロが答えた。
「・・・それよりあんた達、1人足りないんじゃない?」
木の柵に腰掛けていたナミが言った。
「ああ、たまねぎ」
ピーマンが言う。
「あいつすぐどっかに消えちゃうんだよな」
「うん、そして大騒ぎして現れるんだ」
その時だった。道の向こうから大声を上げて走ってくる人影。
「わあああああああ、たいへんだああああああ!!!」
「あ!たまねぎ」
2人の言ったとおり、大騒ぎしながらたまねぎが現れた。
「大変だーっ!!!う!ううう!後ろ向き男だあ~~~~~っ!!!」
息を切らしながら、ピーマンとにんじんに訴える。
「変な人が後ろ向きで歩いて来るんだよっ」
「うそつけ」
「ほんとだよ!!!あれ見て!!!」
たまねぎの指差す方をみんな見やった。
すると1人の男がこちらのほうへやってくるのが見える。
後ろ向きに。
「オイ、誰だ。このおれを”変な人”と呼ぶのは!おれは変じゃねェ!!!」
くるっと振り返って、その変な男は言った。
黒のジャケットに黒の丈の短いズボン。すそからは白い靴下をのぞかせている。
黒のシルクハットにハート型のサングラス、あごから得体の知れない縞々の物体を生やした細身の変な男は、催眠術師のジャンゴだと名乗った。
「変よ、どう見ても」
「バカを言え、おれはただの通りすがりの催眠術師だ・・・」
ナミの言葉にジャンゴが反論する。
海賊団たちは”催眠術師”と言う言葉に目を輝かせて反応した。
「さ・・・催眠術!?すげえ!!」
「やってみせてくれよ!!」
「うん、やって!!!」
「何!?」
ジャンゴが呆れたように言った。
「バカヤロウ、何でおれが見ず知らずのてめェらに初対面で術を披露しなきゃならねェんだ」
しかし。
「いいか、よくこの輪を見るんだ」
おもむろに輪っかを取り出した。
「やるのか」
ゾロが突っ込む。
「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる」
ジャンゴは海賊団に向かい、輪っかをゆっくりと揺らした。
「いいか、いくぞ・・・。ワーン・・ツー・・」
「・・・・・」
「ジャンゴ」
その瞬間、海賊団はその場に倒れこんだ。熟睡している。
・・・ジャンゴも。
「おい、こいつ何なんだ!!!」
ゾロは再び突っ込んだ。
島の海岸では、胡坐をかき、海をじっと見つめるウソップの姿があった。
何に思いを馳せているのか、それはウソップだけにしか知らないこと。
彼は、思うことがあるときには必ずここに来ていた。
「よっ、ここにいたのか」
「ぶっ!!!」
ウソップの目の前に、急にルフィがあった。
ウソップの傍にあった木の枝に足を引っ掛けて、逆立ちのような状態で下りてきたのである。
「何だてめェか、普通に声かけろバカ!!」
ルフィはすとんと木から下りて言った。
「ヤソップだろ、お前の父ちゃん」
「・・・え・・・!?」
ルフィはウソップの隣に腰を下ろした。
「お前!何でそれを知ってんだ!!」
「子供の頃に会った事があるんだ」
「何!?本当か!?おれの親父にか!?」
「うん」
驚くウソップに、ルフィは笑顔で言った。
「お前と顔そっくりだからさ、なんか懐かしい感じはしてたんだけど。さっきはっきり思い出した」
「い・・・今、どこに!?」
「今はわかんねェ!」
ルフィは言う。
「だけど、今もきっと”赤髪のシャンクス”の船に乗ってるよ!ヤソップは、おれが大好きな海賊船の一員なんだ」
シャンクスたちの話をすると、彼は自然に満面の笑顔になった。
「そ・・・そうか!!」
ウソップが嬉しそうに言った。
「そうか・・・シャンクスの船に・・・。あの”赤髪”のねぇ・・・」
しみじみ言って、気づいた。
「シャンクスだとォ!!?」
「!何だ、シャンクス知ってんのか!?」
ウソップの勢いに、ルフィは若干びびる。
「当たり前だ、そりゃお前大海賊じゃねェか!!!そんなにすげえ船に乗ってんのか、ウチの親父は!!!」
ウソップは驚きを隠せない。
「すげえって言やあ・・・うん、射撃の腕はすごかった。ヤソップが的を外したとこは見たことなかったし・・・」
ルフィはヤソップのことを話し始めた。
─── 遠く離れた場所にあるりんごでも簡単に打ち落とせること。
─── アリの眉間にだってブチ込める、と言う、ヤソップのお決まりのセリフ。
─── 酒を飲むと必ず、何度も何度も彼の息子のことを話していたこと。
─── 海賊旗が呼んでいたから、と言う彼の悲しい決断・・・。
「─── ヤソップは立派な海賊だった!!」
「・・・そうだろう!?」
ルフィのホントに楽しそうな表情に、ウソップは自分が間違ってなかったことを確信した。
そして立ち上がって言った。
「そうなんだ!こんな果てがあるかないかもわからねェ海へ飛び出して、命をはって生きてる親父をおれは誇りに思ってる!それなのにあの執事は親父をバカにした・・・!おれの誇りを踏みにじった!!!」
「うん!あいつはおれもきらいだ!」
ルフィも同意した。
「でもお前、もうお嬢様のところへは行かねェのか?」
「・・・さァな・・・、あの執事が頭でも下げてきやがったら行ってやってもいいけどよ!」
ウソップが強がる。
ルフィは崖の下を指差して言った。
「あの執事がか?」
「そう、あの執事あの執事・・・って、あの執事が何でここにいんだァ!?」
2人は慌てて崖の下を覗き込んだ。どうやら彼らのことは気づかれてないようだ。
2人は耳を澄ます。
「─── おいジャンゴ、この村で目立つ行動は慎めと言ったはずだぞ。村の真ん中で寝てやがって」
クラハドールがジャンゴに言った。2人はどうやら知り合いのようだ。
「ばか言え、おれは全然目立っちゃいねーよ。変でもねェ」
変なの、と言われたのがよっぽど気になるようだ。
「もう1人誰かいるな、変なのが」
「見かけねェ顔だ・・・。誰だ、ありゃ」
崖の上の2人がこそこそと話す。
クラハドールが言った。
「それで・・・、計画の準備は出来てるんだろうな」
ジャンゴが答える。
「ああ、もちろんだ。いつでもイケるぜ、”お嬢様暗殺計画”」
─── 何!!?暗殺だと!!?
ウソップとルフィは耳を疑った。
その後ろではウソップ海賊団の面々、そしてルフィたち、屋敷の窓辺ではこの屋敷の主人であるカヤがその様子を見守っていた。
「海賊が・・・”勇敢なる海の戦士”か・・・!ずいぶんとねじまがった言い回しがあるもんだね・・・」
クラハドールが手のひらでメガネのズレを直す。
「だが・・・、否めない。野蛮な血の証拠が君だ・・・!」
ウソップはクラハドールを睨む。
「好き放題にホラを吹いてまわり、頭にくればすぐに暴力・・・。あげくの果ては、財産目当てにお嬢様に近づく・・・!」
クラハドールはようやく立ち上がり、ズボンの土ぼこりをはたいた。
「何だと、おれは・・・!」
「何かたくらみがあるという理由など、君の父親が海賊であることで充分だ!!!」
「てめェ、まだ言うのか!!!」
ウソップがクラハドールの胸倉を掴み、こぶしを固める。
「やめて、ウソップさん!!!もう、これ以上暴力は・・・!!!」
カヤが叫んだ。
その声に、ウソップはこぶしを止めた。
「悪い人じゃないんです、クラハドールは・・・」
カヤはうつむく。
「ただ、私のためを思って過剰になっているだけなの・・・」
クラハドールは胸倉を掴んでいたウソップの手をはたいた。
「出て行きたまえ・・・」
そして怒鳴る。
「ここは君のような野蛮な男の来るところではない!二度とこの屋敷へは近づくな!!」
「・・・ああ、わかったよ。言われなくても出てってやる・・・。もう二度とここへは来ねェ!!!」
ウソップはきびすを返し、スタスタと屋敷を後にしていった。
その後姿は、少し寂しさがにじんでいた。
「ウソップさん・・・」
カヤには彼を止める事はできない。
海賊団たちが叫んだ。
「このヤロー、羊っ!!キャプテンはそんな男じゃないぞ!!」
「そうだ!っばーか!!」
「ばーか!」
「ばーか!!」
・・・一人多い。
「何でお前も一緒になってんだ」
ゾロがルフィを小突いた。
そんな海賊団+ルフィを、クラハドールは睨みつける。
「ぎゃああああああ!」
「やるか、このっ」
おびえる海賊団に、臨戦態勢のルフィ。
「君達も、さっさと出て行きたまえ!!!」
クラハドールは再度怒鳴った。
しばらくして。
カヤは再びベッドにもぐりこんでいた。
咳がひっきりなしに出る。しかしそれを周りに気づかせない為、彼女は枕で音をかき消していた。
ドアがノックされ、ワゴンを引いたクラハドールが部屋に入ってきた。
「お食事です、お嬢様・・・」
「・・・いらない」
咳き込みながら、カヤは言った。
「食べたくない、おいしくないんだもん」
クラハドールはため息をついた。
「そんな事言っては、コックが腹を立てますよ。お嬢様のお体にあう食事を一生懸命考えてつくっているのですから」
カヤはそれには何も言わず、別の話を切り出した。
「・・・どうしてあんな言い方したの?」
給仕の準備をしていたクラハドールが手を止める。
「それは私だって、クラハドールに黙ってウソップさんと話をしていたのは悪いと思っているわ。だけど、あんな追い返し方ってないじゃない!」
「・・・座っても?」
「どうぞ」
クラハドールはカヤのベッドの端に腰を下ろした。
「・・・もう、3年になりますか。私がこの屋敷へ来た日から・・・。あの日のことは忘れもしません!」
そしてクラハドールは静かに語り始めた。
「・・・当時私はある船で働いていたのですが、ちょっとしたミスを犯しその船を下ろされてしまったのです。路頭に迷い、たどり着いたのがこの村で・・・。当然やる事も金もなく今にも野垂れ死にしそうだった私に、声をかけてくださったのがあなたの父上でした。私にとって、亡きご両親は命の恩人なのです」
カヤは黙って聞いている。
「そしてあなたは私の恩人のご令嬢・・・。私がお嬢様の交友関係にまで口を挟むのは、出すぎたマネだという事は承知の上なのですが・・・」
クラハドールは目を伏せた。
「あのウソップという若者は・・・お世辞にも評判のいいとは言えない人間です。もしも・・・!万が一、お嬢様の身に何かあっては!私は世話になったご主人に顔向けできないのです・・・!!」
「・・・・・」
「先ほどは、しかし・・・さすがに言い過ぎました。私を恨んでおいでですか」
「・・・ううん、そんな事ない・・・」
カヤは口を開いた。優しく言葉をかける。
「私もクラハドールには感謝してるわ。だけど誤解しないで。彼はとてもいい人なの」
「ですが!いい人かどうかは別の話!」
クラハドールは立ち上がった。
「クラハドール!・・・もう、わからず屋!!」
カヤが言い返す。
「ええ、わからず屋で結構っ!!」
そう言って2人は、顔を見合わせて少し笑った。
「ねェ、ルフィどこ行ったの?」
「さあな、キャプテンを追っかけてったんだろ」
カヤの屋敷を後にした後、ゾロたちは村の道端に腰を下ろしていた。
「キャプテンならあそこだ!」
ゾロと同じように腰を下ろしていたにんじんが言う。
「うん海岸だ」
ピーマンが言った。
「なんかあると、とりあえずあそこに行くんだ。行ってみる?」
「いや、いい・・・」
ゾロが答えた。
「・・・それよりあんた達、1人足りないんじゃない?」
木の柵に腰掛けていたナミが言った。
「ああ、たまねぎ」
ピーマンが言う。
「あいつすぐどっかに消えちゃうんだよな」
「うん、そして大騒ぎして現れるんだ」
その時だった。道の向こうから大声を上げて走ってくる人影。
「わあああああああ、たいへんだああああああ!!!」
「あ!たまねぎ」
2人の言ったとおり、大騒ぎしながらたまねぎが現れた。
「大変だーっ!!!う!ううう!後ろ向き男だあ~~~~~っ!!!」
息を切らしながら、ピーマンとにんじんに訴える。
「変な人が後ろ向きで歩いて来るんだよっ」
「うそつけ」
「ほんとだよ!!!あれ見て!!!」
たまねぎの指差す方をみんな見やった。
すると1人の男がこちらのほうへやってくるのが見える。
後ろ向きに。
「オイ、誰だ。このおれを”変な人”と呼ぶのは!おれは変じゃねェ!!!」
くるっと振り返って、その変な男は言った。
黒のジャケットに黒の丈の短いズボン。すそからは白い靴下をのぞかせている。
黒のシルクハットにハート型のサングラス、あごから得体の知れない縞々の物体を生やした細身の変な男は、催眠術師のジャンゴだと名乗った。
「変よ、どう見ても」
「バカを言え、おれはただの通りすがりの催眠術師だ・・・」
ナミの言葉にジャンゴが反論する。
海賊団たちは”催眠術師”と言う言葉に目を輝かせて反応した。
「さ・・・催眠術!?すげえ!!」
「やってみせてくれよ!!」
「うん、やって!!!」
「何!?」
ジャンゴが呆れたように言った。
「バカヤロウ、何でおれが見ず知らずのてめェらに初対面で術を披露しなきゃならねェんだ」
しかし。
「いいか、よくこの輪を見るんだ」
おもむろに輪っかを取り出した。
「やるのか」
ゾロが突っ込む。
「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる」
ジャンゴは海賊団に向かい、輪っかをゆっくりと揺らした。
「いいか、いくぞ・・・。ワーン・・ツー・・」
「・・・・・」
「ジャンゴ」
その瞬間、海賊団はその場に倒れこんだ。熟睡している。
・・・ジャンゴも。
「おい、こいつ何なんだ!!!」
ゾロは再び突っ込んだ。
島の海岸では、胡坐をかき、海をじっと見つめるウソップの姿があった。
何に思いを馳せているのか、それはウソップだけにしか知らないこと。
彼は、思うことがあるときには必ずここに来ていた。
「よっ、ここにいたのか」
「ぶっ!!!」
ウソップの目の前に、急にルフィがあった。
ウソップの傍にあった木の枝に足を引っ掛けて、逆立ちのような状態で下りてきたのである。
「何だてめェか、普通に声かけろバカ!!」
ルフィはすとんと木から下りて言った。
「ヤソップだろ、お前の父ちゃん」
「・・・え・・・!?」
ルフィはウソップの隣に腰を下ろした。
「お前!何でそれを知ってんだ!!」
「子供の頃に会った事があるんだ」
「何!?本当か!?おれの親父にか!?」
「うん」
驚くウソップに、ルフィは笑顔で言った。
「お前と顔そっくりだからさ、なんか懐かしい感じはしてたんだけど。さっきはっきり思い出した」
「い・・・今、どこに!?」
「今はわかんねェ!」
ルフィは言う。
「だけど、今もきっと”赤髪のシャンクス”の船に乗ってるよ!ヤソップは、おれが大好きな海賊船の一員なんだ」
シャンクスたちの話をすると、彼は自然に満面の笑顔になった。
「そ・・・そうか!!」
ウソップが嬉しそうに言った。
「そうか・・・シャンクスの船に・・・。あの”赤髪”のねぇ・・・」
しみじみ言って、気づいた。
「シャンクスだとォ!!?」
「!何だ、シャンクス知ってんのか!?」
ウソップの勢いに、ルフィは若干びびる。
「当たり前だ、そりゃお前大海賊じゃねェか!!!そんなにすげえ船に乗ってんのか、ウチの親父は!!!」
ウソップは驚きを隠せない。
「すげえって言やあ・・・うん、射撃の腕はすごかった。ヤソップが的を外したとこは見たことなかったし・・・」
ルフィはヤソップのことを話し始めた。
─── 遠く離れた場所にあるりんごでも簡単に打ち落とせること。
─── アリの眉間にだってブチ込める、と言う、ヤソップのお決まりのセリフ。
─── 酒を飲むと必ず、何度も何度も彼の息子のことを話していたこと。
─── 海賊旗が呼んでいたから、と言う彼の悲しい決断・・・。
「─── ヤソップは立派な海賊だった!!」
「・・・そうだろう!?」
ルフィのホントに楽しそうな表情に、ウソップは自分が間違ってなかったことを確信した。
そして立ち上がって言った。
「そうなんだ!こんな果てがあるかないかもわからねェ海へ飛び出して、命をはって生きてる親父をおれは誇りに思ってる!それなのにあの執事は親父をバカにした・・・!おれの誇りを踏みにじった!!!」
「うん!あいつはおれもきらいだ!」
ルフィも同意した。
「でもお前、もうお嬢様のところへは行かねェのか?」
「・・・さァな・・・、あの執事が頭でも下げてきやがったら行ってやってもいいけどよ!」
ウソップが強がる。
ルフィは崖の下を指差して言った。
「あの執事がか?」
「そう、あの執事あの執事・・・って、あの執事が何でここにいんだァ!?」
2人は慌てて崖の下を覗き込んだ。どうやら彼らのことは気づかれてないようだ。
2人は耳を澄ます。
「─── おいジャンゴ、この村で目立つ行動は慎めと言ったはずだぞ。村の真ん中で寝てやがって」
クラハドールがジャンゴに言った。2人はどうやら知り合いのようだ。
「ばか言え、おれは全然目立っちゃいねーよ。変でもねェ」
変なの、と言われたのがよっぽど気になるようだ。
「もう1人誰かいるな、変なのが」
「見かけねェ顔だ・・・。誰だ、ありゃ」
崖の上の2人がこそこそと話す。
クラハドールが言った。
「それで・・・、計画の準備は出来てるんだろうな」
ジャンゴが答える。
「ああ、もちろんだ。いつでもイケるぜ、”お嬢様暗殺計画”」
─── 何!!?暗殺だと!!?
ウソップとルフィは耳を疑った。
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第24話 偽れぬもの
ここはのんびりとしたシロップ村。
その村を大急ぎで駆け抜ける3人の姿があった。
ウソップ海賊団である。
「おい、たまねぎ!本当にこの店に海賊たちは入ったんだな」
めし屋の陰に隠れるようにしながら、ピーマンが言った。
「うん、ぼく見たんだ」
たまねぎがごくりとつばを飲み込む。
「キャプテンが海賊達にここへ連れ込まれるところを」
そしておもちゃのナイフを振りかざす。
「ぼくらで助けなきゃ!」
「でも本物の海賊は野蛮なんだぞ、喰われちゃうかも・・・」
にんじんは不安そうだ。
「ばか、人を喰うのは”鬼ババ”だ!覚悟を決めろよ、にんじん!」
ピーマンが奮い立たせる。
「この戦いは”ウソップ海賊団”けっせい以来のそうぜつな戦いになりそうだ!」
そして3人は意を決して店の中に飛び込んでいった。
「ウソップ海賊団、参上っ!!!」
「ん?」
ルフィたちは食後のコーヒーを飲んでいたところだった。
「なに、あれ・・・」
「さー、何だろうな・・・」
ナミとルフィが不思議がる。
3人はテーブルに座っているはずの人を探した。いない。
「・・・!おい、キャプテンがいないぞ・・・」
「まさか・・・、やられちゃったのかな・・・!」
3人は揃ってナイフを振りかざして叫んだ。
「お・・、おい海賊達っ!われらが船長キャプテン・ウソップをどこへやった!キャプテンを返せ!!!」
ルフィが言った。
「はーっ、うまかった!肉っ!!!」
・・・食事の感想でした。
しかし、3人は純粋で・・・。
「!!」
「え・・・にく・・・って!?」
「まさか・・・、キャプテン・・・!!」
ナミがぷっと笑う。
「お前らのキャプテンならな・・・」
ゾロが静かに話し出した。
「な・・・何だ!何をした・・・!」
怯える3人に、ゾロはにやりと笑う。
「喰っちまった」
「ぎいやああああ、鬼ババァ~~~~~っ!!!」
「何で私を見てんのよ!」
ナミが怒鳴る。
3人の海賊たちは、ついに泡を吹いて気絶してしまった。
「あんたがバカなこと言うから!」
ナミの怒りの矛先はゾロへ。
ゾロはただ大笑いするだけだった。
しばらくして、気がついた3人はようやくウソップの行方を知ることができた。
「時間?」
「ああ・・・そう言ってさっき店から出てったぜ」
ゾロの言葉に、ピーマンは合点がいったようだ。
「あ、そうか。キャプテン屋敷へ行く時間だったんだ」
「屋敷って、病弱そうな女の子がいるって言う?」
ナミが尋ねる。
「うん」
と、にんじん。
「何しにいったんだよ」
ルフィの問いに、にんじんは笑顔で答えた。
「うそつきに!」
「ダメじゃねェか」
しかしピーマンとたまねぎも言った。
「ダメじゃないんだ、立派なんだ!な!」
「うん!立派だ!」
「ん?」
ルフィは3人の真意をつかめずにいた。
一方その頃、村はずれの屋敷では。
「ウソップに会いたいですと・・・?またそんな事を・・・」
この屋敷の主がつぶやいた言葉をいさめる執事の姿があった。
年の頃は30代半ばくらいだろう。細身の長身。執事という職業からか気難しそうな顔つきで、銀縁のメガネをかけている。黒い髪をきっちりと整髪料で固め黒いスーツをかっちりと着こなしている。スーツの柄は・・・、ちょっと珍しい柄ではあるが。
私はあんまり着たくない。て言うか絶対。
「いいでしょ?お話がしたいの」
彼女はもう何度となく、この執事クラハドールに同じことを言い続けている。
「いけません!何度も言ってるハズです」
クラハドールもまた、何度となく言い続けていることを再び彼女に告げた。
「あの男はこの村一番の大ボラ吹き。あんな男とお話になっては、お嬢様に悪影響が及びます」
「ケチ!」
彼女が少女のように拗ねる。
彼女・・・この屋敷の主であるカヤは、年は15.6歳くらいだろう。
色白で、はかなげな美少女。
両親の急死により、この屋敷の主となった。
元々体は弱い方だったのが、両親の死のせいでより一層ベッドから離れられない日々が続いている。
クラハドールは、そのカヤの面倒をずっと見続けているのだ。
「ええ、ケチで結構!何と言われましても、ダメなものはダメです」
クラハドールはカヤの薬の準備をしながら言った。
「体の弱いお嬢様にとって、ウソップのホラ話は刺激が強すぎます」
「平気よ、私は」
「聞きわけてください。私は亡くなられたご両親から固く申し付けられているのです。カヤお嬢様をしっかりお守りするようにと・・・!」
そう言って、クラハドールはメガネのズレを手のひらでクイッと直した。
「そのために門番まで立てて。万全を期しているのですから」
カヤは黙りこくっている。
「全てはお嬢様の為でございますっ!」
クラハドールは両手のひらでメガネのズレを直す。
「・・・うん・・・、わかってる・・・」
カヤの声は沈んでいた。
「わかっていただければ結構。お薬はここへ置いておきますので、ちゃんとお飲みください」
そう告げて、クラハドールは部屋を出て行った。
しばらくして、屋敷の1階にあるカヤの部屋の窓をノックする音が聞こえた。
カヤが窓の外を覗くと、彼女が心待ちにしていた顔がそこにあった。
「ウソップさん!」
カヤは嬉しそうな声を出した。
「よお、相変わらず元気ねェな」
カヤの部屋の横にある木を背に、ウソップは座り込んでいた。
「ごめんなさい、本当はちゃんとお客として迎えたいのにクラハドールがどうしても許してくれなくって・・・。悪い人じゃないのよ」
「なに、おれは庭の方がいいね。その堅苦しい家じゃ、息が詰まっちまう」
ウソップは笑って言った。
「何たっておれは、勇敢なる海の戦士だからな!」
「それで今日は、どんな冒険のお話?」
カヤがわくわくしながら聞く。
「ああ・・・、今日はそうだな。おれが5歳の時に、南海に住む巨大な金魚と戦った時の話だ・・・」
「金魚?」
「まず驚いたのは、あのフンのでかさと長さだ。おれはてっきり大陸だと思って上陸しちまったのさ・・・」
昼下がりの穏やかな午後。
ウソップの壮大なホラ話と、カヤの本当に楽しそうに笑う声は途絶えることなく続いていた。
「─── なんだ、あいつ偉いじゃん」
3人の海賊団からウソップの話を聞いたルフィは感心して言った。
ナミも言う。
「へー、じゃあお嬢様を元気づける為に1年前からずっとウソつきに通ってるんだ」
「うん」
にんじんが嬉しそうに言う。
「おれはキャプテンのそんな”おせっかい”なところが好きなんだ」
ピーマンも言う。
「おれは”しきり屋”なとこが好きだ」
「ぼくは”ホラ吹き”なとこが好き!」
たまねぎも続いた。
「とりあえず慕われてんだな・・・」
苦笑いしながらゾロは言った。
「もしかして、もうお嬢様元気なのか?」
ルフィの問いに、にんじんが答えた。
「うん、だいぶね。キャプテンのおかげで!」
その言葉を聞いて、ルフィは決断しなおした。
「よし!じゃあやっぱり、屋敷に船を貰いに行こう!!」
「だめよ!さっき諦めるって言ったじゃない!」
ナミが止めたが、聞くわけがない。
ルフィは海賊団に案内をしてもらい、カヤの屋敷へ向かった。
村を通り抜けると、目の前にそびえるのは大きく立派なお屋敷。
確かにのんびりした村とここでは、場違い、という言葉が一番しっくり来る。
重厚な、年代ものの大きな屋敷の周囲には高い塀がめぐらされ、大きな鉄の門は固く閉じられていた。
「こんにちはーっ、船くださーい!」
そんな屋敷にもひるむことなく、ルフィが元気よく叫ぶ。
そして叫んだや否や、
「さあ、入ろう」
門をよじ登って行った。
「・・・挨拶した意味あんのか・・・」
その様子を、海賊団たちは唖然と見つめる。
「ああ、止めてもムダなのね・・・」
「ムダだな。付き合うしかねェだろ」
その後ろでは、ナミとゾロがため息をついていた。
ウソップの話はまだ続いていた。
カヤの笑い声が響く。
「あははははは・・・、で、その金魚はどうしたの?」
「その時切り身にして小人の国へ運んだが、未だに喰い切れてないらしい。そしてまたもや手柄を立てたおれを、人は称えこう呼んだ」
「キャープテーン!!!」
「そう・・・、キャプテ・・・げっ!お前ら!」
ウソップが声をした方に目をやると、ウソップ海賊団の面々、そしてめし屋で別れた海賊達がそこにいた。
「お前ら何しに来たんだ」
「この人が連れて行けって・・・」
ピーマンがルフィを指す。
「誰?」
カヤも窓から首を伸ばした。
「あ!お前がお嬢様か!」
ルフィがそれに気づく。
ウソップはルフィの肩を抱いて、カヤに紹介を始めた。
「あー、こいつらはおれの噂を聞きつけ遠路はるばるやってきた、新しいウソップ海賊団の一員だ!」
「ああ!!・・・いや、違うぞおれは!」
つられて言ったが、軌道修正は早かった。
「頼みがあるんだよ!」
「頼み?私に?」
カヤは笑顔で答える。
「ああ!おれ達はさ、でっかい船が欲しいん・・・」
「君たち、そこで何をしてる!!!」
ルフィの言葉をかき消すように、怒鳴り声が響いた。
クラハドールであった。
侵入者がいる、との報告に彼は見回りに来ていたのである。
門番達は昼休みであった為、難なく侵入者を許してしまったのだが。
「困るね、勝手に屋敷に入ってもらっては!!!」
クラハドールはつかつかと歩み寄る。
まずい人物に見つかったと、ウソップは慌てて顔を背けた。
「あのね、クラハドール。この人達は・・・」
「今は結構!理由なら後でキッチリ聞かせていただきます!!」
カヤは慌てて言い繕ったが、クラハドールは聞く耳を持たなかった。
「さあ、君達帰ってくれたまえ。それとも何か言いたい事があるかね?」
その言葉にルフィは素直に言った。
「あのさ、おれ船が欲しいんだけど」
「ダメだ」
即答。
ルフィは落ち込む。
クラハドールはその中にある人物がいることに気づいた。
「君は・・・、ウソップ君だね」
ウソップは恐る恐る、顔をクラハドールのほうに向ける。
カヤは何も言えずにただ、黙りこくっていた。
「君の噂はよく聞いてるよ。村で評判だからね」
「あ・・・ああ、ありがとう。あんたもおれをキャプテン・ウソップと呼んでくれてもいいぜ。おれを称えるあまりにな」
「・・・門番が君をちょくちょくこの屋敷で見かけるというのだが、何か用があるのかね?」
クラハドールは手のひらでメガネのズレを直す。
「ああ・・・!それはあれだ・・・。おれはこの屋敷に伝説のモグラが入っていくのを見たんだ!で、そいつを探しに・・・」
ウソップの必死の言い訳に、クラハドールは冷たく笑った。
「フフ・・・、よくもそうくるくると舌が回るもんだね。君の父上の話も聞いているぞ」
「何!?」
父上と聞いて、ウソップの顔色が変わった。
「君は所詮ウス汚い海賊の息子だ。何をやろうと驚きはしないが、うちのお嬢様に近づくのだけはやめてくれないか!」
クラハドールの言葉に、ルフィたちは驚く。
「あいつの父ちゃん、海賊なのか!」
「・・・ウス汚いだと・・・!?」
ウソップの顔に怒りの表情が浮かぶ。
「君とお嬢様とでは住む世界が違うんだ。目的は金か?いくら欲しい」
「言いすぎよ、クラハドール!!ウソップさんに謝って!!!」
カヤが大声で怒鳴る。
しかし、クラハドールはどこ吹く風。
「この野蛮な男に何を謝る事があるのです、お嬢様。私は真実を述べているだけなのです」
そしてさらにウソップに言い放つ。
「君には同情するよ・・・。恨んでいることだろう、君ら家族を捨てて村を飛び出した”財宝狂いのバカ親父を”を」
「クラハドール!!!」
「てめェ、それ以上親父をバカにするな!!」
ウソップが叫んだ。
「・・・何をムリに熱くなっているんだ、君も賢くないな。こういう時こそ得意のウソをつけばいいのに・・・。本当は親父は旅の商人だとか、実は血がつながってないとか・・・」
とうとうウソップの堪忍袋の尾が切れた。
「うるせェ!!!!」
バキッ!!!
ウソップの怒りがクラハドールの顔面をぶっ飛ばす。
「う・・・く!」
クラハドールはようやく体を起こした。
「ほ・・・、ほら見ろ、すぐに暴力だ。親父が親父なら、息子も息子というわけだ・・・!」
「黙れ!!!」
ウソップが叫ぶ。
「おれは親父が海賊であることを誇りに思ってる!!!勇敢な海の戦士であることを誇りに思ってる!!!お前の言うとおりおれはホラ吹きだがな、おれが海賊の血を引いているその誇りだけは!!!偽るわけにはいかねェんだ!!!おれは海賊の息子だ!!!」
ホラ吹きウソップの、偽りのない言葉であった。
その言葉を聞いて、ルフィはふと思い出した。
「・・・そうかあいつ・・・!思い出した・・・!!!」
その村を大急ぎで駆け抜ける3人の姿があった。
ウソップ海賊団である。
「おい、たまねぎ!本当にこの店に海賊たちは入ったんだな」
めし屋の陰に隠れるようにしながら、ピーマンが言った。
「うん、ぼく見たんだ」
たまねぎがごくりとつばを飲み込む。
「キャプテンが海賊達にここへ連れ込まれるところを」
そしておもちゃのナイフを振りかざす。
「ぼくらで助けなきゃ!」
「でも本物の海賊は野蛮なんだぞ、喰われちゃうかも・・・」
にんじんは不安そうだ。
「ばか、人を喰うのは”鬼ババ”だ!覚悟を決めろよ、にんじん!」
ピーマンが奮い立たせる。
「この戦いは”ウソップ海賊団”けっせい以来のそうぜつな戦いになりそうだ!」
そして3人は意を決して店の中に飛び込んでいった。
「ウソップ海賊団、参上っ!!!」
「ん?」
ルフィたちは食後のコーヒーを飲んでいたところだった。
「なに、あれ・・・」
「さー、何だろうな・・・」
ナミとルフィが不思議がる。
3人はテーブルに座っているはずの人を探した。いない。
「・・・!おい、キャプテンがいないぞ・・・」
「まさか・・・、やられちゃったのかな・・・!」
3人は揃ってナイフを振りかざして叫んだ。
「お・・、おい海賊達っ!われらが船長キャプテン・ウソップをどこへやった!キャプテンを返せ!!!」
ルフィが言った。
「はーっ、うまかった!肉っ!!!」
・・・食事の感想でした。
しかし、3人は純粋で・・・。
「!!」
「え・・・にく・・・って!?」
「まさか・・・、キャプテン・・・!!」
ナミがぷっと笑う。
「お前らのキャプテンならな・・・」
ゾロが静かに話し出した。
「な・・・何だ!何をした・・・!」
怯える3人に、ゾロはにやりと笑う。
「喰っちまった」
「ぎいやああああ、鬼ババァ~~~~~っ!!!」
「何で私を見てんのよ!」
ナミが怒鳴る。
3人の海賊たちは、ついに泡を吹いて気絶してしまった。
「あんたがバカなこと言うから!」
ナミの怒りの矛先はゾロへ。
ゾロはただ大笑いするだけだった。
しばらくして、気がついた3人はようやくウソップの行方を知ることができた。
「時間?」
「ああ・・・そう言ってさっき店から出てったぜ」
ゾロの言葉に、ピーマンは合点がいったようだ。
「あ、そうか。キャプテン屋敷へ行く時間だったんだ」
「屋敷って、病弱そうな女の子がいるって言う?」
ナミが尋ねる。
「うん」
と、にんじん。
「何しにいったんだよ」
ルフィの問いに、にんじんは笑顔で答えた。
「うそつきに!」
「ダメじゃねェか」
しかしピーマンとたまねぎも言った。
「ダメじゃないんだ、立派なんだ!な!」
「うん!立派だ!」
「ん?」
ルフィは3人の真意をつかめずにいた。
一方その頃、村はずれの屋敷では。
「ウソップに会いたいですと・・・?またそんな事を・・・」
この屋敷の主がつぶやいた言葉をいさめる執事の姿があった。
年の頃は30代半ばくらいだろう。細身の長身。執事という職業からか気難しそうな顔つきで、銀縁のメガネをかけている。黒い髪をきっちりと整髪料で固め黒いスーツをかっちりと着こなしている。スーツの柄は・・・、ちょっと珍しい柄ではあるが。
私はあんまり着たくない。て言うか絶対。
「いいでしょ?お話がしたいの」
彼女はもう何度となく、この執事クラハドールに同じことを言い続けている。
「いけません!何度も言ってるハズです」
クラハドールもまた、何度となく言い続けていることを再び彼女に告げた。
「あの男はこの村一番の大ボラ吹き。あんな男とお話になっては、お嬢様に悪影響が及びます」
「ケチ!」
彼女が少女のように拗ねる。
彼女・・・この屋敷の主であるカヤは、年は15.6歳くらいだろう。
色白で、はかなげな美少女。
両親の急死により、この屋敷の主となった。
元々体は弱い方だったのが、両親の死のせいでより一層ベッドから離れられない日々が続いている。
クラハドールは、そのカヤの面倒をずっと見続けているのだ。
「ええ、ケチで結構!何と言われましても、ダメなものはダメです」
クラハドールはカヤの薬の準備をしながら言った。
「体の弱いお嬢様にとって、ウソップのホラ話は刺激が強すぎます」
「平気よ、私は」
「聞きわけてください。私は亡くなられたご両親から固く申し付けられているのです。カヤお嬢様をしっかりお守りするようにと・・・!」
そう言って、クラハドールはメガネのズレを手のひらでクイッと直した。
「そのために門番まで立てて。万全を期しているのですから」
カヤは黙りこくっている。
「全てはお嬢様の為でございますっ!」
クラハドールは両手のひらでメガネのズレを直す。
「・・・うん・・・、わかってる・・・」
カヤの声は沈んでいた。
「わかっていただければ結構。お薬はここへ置いておきますので、ちゃんとお飲みください」
そう告げて、クラハドールは部屋を出て行った。
しばらくして、屋敷の1階にあるカヤの部屋の窓をノックする音が聞こえた。
カヤが窓の外を覗くと、彼女が心待ちにしていた顔がそこにあった。
「ウソップさん!」
カヤは嬉しそうな声を出した。
「よお、相変わらず元気ねェな」
カヤの部屋の横にある木を背に、ウソップは座り込んでいた。
「ごめんなさい、本当はちゃんとお客として迎えたいのにクラハドールがどうしても許してくれなくって・・・。悪い人じゃないのよ」
「なに、おれは庭の方がいいね。その堅苦しい家じゃ、息が詰まっちまう」
ウソップは笑って言った。
「何たっておれは、勇敢なる海の戦士だからな!」
「それで今日は、どんな冒険のお話?」
カヤがわくわくしながら聞く。
「ああ・・・、今日はそうだな。おれが5歳の時に、南海に住む巨大な金魚と戦った時の話だ・・・」
「金魚?」
「まず驚いたのは、あのフンのでかさと長さだ。おれはてっきり大陸だと思って上陸しちまったのさ・・・」
昼下がりの穏やかな午後。
ウソップの壮大なホラ話と、カヤの本当に楽しそうに笑う声は途絶えることなく続いていた。
「─── なんだ、あいつ偉いじゃん」
3人の海賊団からウソップの話を聞いたルフィは感心して言った。
ナミも言う。
「へー、じゃあお嬢様を元気づける為に1年前からずっとウソつきに通ってるんだ」
「うん」
にんじんが嬉しそうに言う。
「おれはキャプテンのそんな”おせっかい”なところが好きなんだ」
ピーマンも言う。
「おれは”しきり屋”なとこが好きだ」
「ぼくは”ホラ吹き”なとこが好き!」
たまねぎも続いた。
「とりあえず慕われてんだな・・・」
苦笑いしながらゾロは言った。
「もしかして、もうお嬢様元気なのか?」
ルフィの問いに、にんじんが答えた。
「うん、だいぶね。キャプテンのおかげで!」
その言葉を聞いて、ルフィは決断しなおした。
「よし!じゃあやっぱり、屋敷に船を貰いに行こう!!」
「だめよ!さっき諦めるって言ったじゃない!」
ナミが止めたが、聞くわけがない。
ルフィは海賊団に案内をしてもらい、カヤの屋敷へ向かった。
村を通り抜けると、目の前にそびえるのは大きく立派なお屋敷。
確かにのんびりした村とここでは、場違い、という言葉が一番しっくり来る。
重厚な、年代ものの大きな屋敷の周囲には高い塀がめぐらされ、大きな鉄の門は固く閉じられていた。
「こんにちはーっ、船くださーい!」
そんな屋敷にもひるむことなく、ルフィが元気よく叫ぶ。
そして叫んだや否や、
「さあ、入ろう」
門をよじ登って行った。
「・・・挨拶した意味あんのか・・・」
その様子を、海賊団たちは唖然と見つめる。
「ああ、止めてもムダなのね・・・」
「ムダだな。付き合うしかねェだろ」
その後ろでは、ナミとゾロがため息をついていた。
ウソップの話はまだ続いていた。
カヤの笑い声が響く。
「あははははは・・・、で、その金魚はどうしたの?」
「その時切り身にして小人の国へ運んだが、未だに喰い切れてないらしい。そしてまたもや手柄を立てたおれを、人は称えこう呼んだ」
「キャープテーン!!!」
「そう・・・、キャプテ・・・げっ!お前ら!」
ウソップが声をした方に目をやると、ウソップ海賊団の面々、そしてめし屋で別れた海賊達がそこにいた。
「お前ら何しに来たんだ」
「この人が連れて行けって・・・」
ピーマンがルフィを指す。
「誰?」
カヤも窓から首を伸ばした。
「あ!お前がお嬢様か!」
ルフィがそれに気づく。
ウソップはルフィの肩を抱いて、カヤに紹介を始めた。
「あー、こいつらはおれの噂を聞きつけ遠路はるばるやってきた、新しいウソップ海賊団の一員だ!」
「ああ!!・・・いや、違うぞおれは!」
つられて言ったが、軌道修正は早かった。
「頼みがあるんだよ!」
「頼み?私に?」
カヤは笑顔で答える。
「ああ!おれ達はさ、でっかい船が欲しいん・・・」
「君たち、そこで何をしてる!!!」
ルフィの言葉をかき消すように、怒鳴り声が響いた。
クラハドールであった。
侵入者がいる、との報告に彼は見回りに来ていたのである。
門番達は昼休みであった為、難なく侵入者を許してしまったのだが。
「困るね、勝手に屋敷に入ってもらっては!!!」
クラハドールはつかつかと歩み寄る。
まずい人物に見つかったと、ウソップは慌てて顔を背けた。
「あのね、クラハドール。この人達は・・・」
「今は結構!理由なら後でキッチリ聞かせていただきます!!」
カヤは慌てて言い繕ったが、クラハドールは聞く耳を持たなかった。
「さあ、君達帰ってくれたまえ。それとも何か言いたい事があるかね?」
その言葉にルフィは素直に言った。
「あのさ、おれ船が欲しいんだけど」
「ダメだ」
即答。
ルフィは落ち込む。
クラハドールはその中にある人物がいることに気づいた。
「君は・・・、ウソップ君だね」
ウソップは恐る恐る、顔をクラハドールのほうに向ける。
カヤは何も言えずにただ、黙りこくっていた。
「君の噂はよく聞いてるよ。村で評判だからね」
「あ・・・ああ、ありがとう。あんたもおれをキャプテン・ウソップと呼んでくれてもいいぜ。おれを称えるあまりにな」
「・・・門番が君をちょくちょくこの屋敷で見かけるというのだが、何か用があるのかね?」
クラハドールは手のひらでメガネのズレを直す。
「ああ・・・!それはあれだ・・・。おれはこの屋敷に伝説のモグラが入っていくのを見たんだ!で、そいつを探しに・・・」
ウソップの必死の言い訳に、クラハドールは冷たく笑った。
「フフ・・・、よくもそうくるくると舌が回るもんだね。君の父上の話も聞いているぞ」
「何!?」
父上と聞いて、ウソップの顔色が変わった。
「君は所詮ウス汚い海賊の息子だ。何をやろうと驚きはしないが、うちのお嬢様に近づくのだけはやめてくれないか!」
クラハドールの言葉に、ルフィたちは驚く。
「あいつの父ちゃん、海賊なのか!」
「・・・ウス汚いだと・・・!?」
ウソップの顔に怒りの表情が浮かぶ。
「君とお嬢様とでは住む世界が違うんだ。目的は金か?いくら欲しい」
「言いすぎよ、クラハドール!!ウソップさんに謝って!!!」
カヤが大声で怒鳴る。
しかし、クラハドールはどこ吹く風。
「この野蛮な男に何を謝る事があるのです、お嬢様。私は真実を述べているだけなのです」
そしてさらにウソップに言い放つ。
「君には同情するよ・・・。恨んでいることだろう、君ら家族を捨てて村を飛び出した”財宝狂いのバカ親父を”を」
「クラハドール!!!」
「てめェ、それ以上親父をバカにするな!!」
ウソップが叫んだ。
「・・・何をムリに熱くなっているんだ、君も賢くないな。こういう時こそ得意のウソをつけばいいのに・・・。本当は親父は旅の商人だとか、実は血がつながってないとか・・・」
とうとうウソップの堪忍袋の尾が切れた。
「うるせェ!!!!」
バキッ!!!
ウソップの怒りがクラハドールの顔面をぶっ飛ばす。
「う・・・く!」
クラハドールはようやく体を起こした。
「ほ・・・、ほら見ろ、すぐに暴力だ。親父が親父なら、息子も息子というわけだ・・・!」
「黙れ!!!」
ウソップが叫ぶ。
「おれは親父が海賊であることを誇りに思ってる!!!勇敢な海の戦士であることを誇りに思ってる!!!お前の言うとおりおれはホラ吹きだがな、おれが海賊の血を引いているその誇りだけは!!!偽るわけにはいかねェんだ!!!おれは海賊の息子だ!!!」
ホラ吹きウソップの、偽りのない言葉であった。
その言葉を聞いて、ルフィはふと思い出した。
「・・・そうかあいつ・・・!思い出した・・・!!!」
第23話 キャプテン・ウソップ登場
「無謀だわ」
穏やかな海。相変わらずののんびりした航海の中、ナミがおもむろに言った。
「何が?」
ルフィが船の舳先にちょこんと腰掛けたまま言った。
舳先は彼の特等席なのである。
「このまま”偉大なる航路(グランドライン)”へ入ること!」
のんきなルフィに、ナミは少し呆れて言った。
「確かにな!」
ルフィが同意する。
「この前たわしのおっさんから果物いっぱい貰ったけど、やっぱ肉がないと力が」
「食糧の事言ってんじゃないわよ!」
残念、ちょっとずれてた。
ゾロも船に寝そべったまま言う。
「このまま酒が飲めねェってのもなんかつれェしな」
「飲食から頭を離せっ!!!」
ナミはのんきな二人に言って聞かせた。
「私達の向かってる”偉大なる航路”は世界で最も危険な場所なのよ。その上ワンピースを求める強力な海賊達がうごめいてる。当然強力な船に乗ってね。船員の頭数にしても、この船の装備のなさにしても、とても無事でいられるとは思えないわ」
「で?何すんだ?」
ルフィが尋ねる。
「”準備”するの!先をしっかり考えてね。ここから少し南へ行けば村があるわ。ひとまずそこへ!しっかりした船が手に入ればベストなんだけど・・・」
「肉を食うぞ!!!」
ナミは大きなため息をついた。
さて、当のルフィたちが向かっている島。
東の海の辺境に位置する島だが、ここには小さな村があった。
村の名前は、シロップ村。平和でのどかな村である。
その村の外れ、海に向かう岸壁に一人の若者が立っていた。
「嗚呼、今日も・・・あっちの海から朗らかに一日が始まる!」
彼の名前はウソップ。村に住む若者である。
癖の強い肩までの黒い髪をバンダナでまとめている。
茶色のオーバーオールに、飾り帯。肩からがま口型バッグをナナメがけにしている。
しかし彼の一番の特徴は、その長い鼻であった。ピノキオ並である。
そしてこの村のいつもの朝が始まる。
「─── 大変だーっ!!」
ウソップが大声を上げながら村を駆け抜ける。
「みんな大変だ ─── っ!!海賊が攻めてきたぞ ─── っ!!!海賊だ、海賊 ───っ!!!逃げろ ─── っ!!!」
「何!?海賊だと!!?」
村人がウソップの声に窓から顔を出す。
「かいぞくだーっ!!!」
「お!ウソップが騒いでる。そろそろ仕事の時間だな」
のんびりとコーヒーを飲む村人。
「たーいへーんだーっ」
「よくやるよなあいつも」
新聞を読みながら、苦笑いする村人。
そしてウソップは叫ぶ。
「ウソだーっ!わっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
ガン!
ウソップに向かって鍋が飛んできた。
「このホラ吹きボーズ!今日こそはとっちめてやるぞ!」
それが合図のように、家々から村人達が出てくる。
「おお、きたきたきた!」
ウソップの期待通りのようだ。
そして。
「待てこのクソガキーッ!!!」
「わーっはっはっは、追いついてみろォ!!!」
追いかける村人達、逃げるウソップ。
「─── くそっ!また逃げられた」
しばらくして、村のはずれで毒づく村人達の姿があった。
「まったく人騒がせなガキだ!見つけたらただじゃおかねェぞ」
「一体どこ行きやがった!」
そんな村人達の様子を、ウソップは木の上から覗いていた。
心底おかしそうに笑う。
「ぷっくっくっくっくっくっくっ!今日も村中1人残らずだまされたな」
そう、これがこの村の朝の風物詩なのだ。
毎朝、ウソップは大声を上げて村中を駆け回る。
そんなウソップを、村人達は追い立てまわす。
この騒ぎがこの村にとってなくてはならない、朝の始まりなのだ。
「はー、今日もいい事をした!この退屈な村に、刺激という風を送り込んでやった!」
ウソップは木の上でのんびり伸びをする。
「─── いた!」
木の上でのんびり風に吹かれていると、下の方で声がした。
「ん?・・・おお!お前らか!!」
見下ろすと、男の子が2人。
「おはようございます!キャプテン・ウソップ」
「ウソップ海賊団、参上しました!!」
村の少年、ピーマンとにんじんである。
ピーマンは緑色の髪でモミアゲが少し長い。頭のてっぺんの髪の毛がそれこそピーマンのヘタのようにぴょこんと立っている。
にんじんは赤いニット帽をかぶって、帽子の天辺から髪の毛をのぞかせている。
2人共、ウソップとおそろいの飾り帯をしていて、手にはおもちゃのナイフを握っていた。
ウソップはするっと木から降りる。
「ピーマン、にんじん、お前ら2人だけか?たまねぎはどうした」
「まだ寝てんじゃないかな。なァ」
にんじんがピーマンと顔を見合わせる。
「うん、多分な」
「まったくしょーがねェな」
ウソップがそう言った時、道の向こうから大声を上げて少年が走ってきた。
「わあああああああ、たいへんだあああああ」
「あ!たまねぎ」
「何騒いでんだ?あいつ」
にんじんとピーマンが言う。
たまねぎと呼ばれた少年は、黄色い髪の毛で四角いメガネをかけている。
頭の天辺はほんとのたまねぎのようにつんつん立っている。
そのたまねぎが、べそをかきながら走ってきた。
「大変だ ─── っ!!!か!かかか、海賊がきた~~~~~っ!!!」
そして息を切らせてウソップに訴える。
「本当なんです!今この目で見てきました。ドクロマークをつけた船が、北の海岸から・・・」
ウソップ、ピーマン、にんじんの3人は声をあわせて言った。
「うそだろ」
「ほんとだよ!!」
たまねぎは怯えながら言う。
「あれはたしか・・・、”道化のバギー”のマーク!!!」
「ほんとなのか!?」
ウソップはようやく信じたようだ。
「本当ですよ、やばいっす!」
「・・・いかんっ!おやつの時間だ!!」
「逃げるなっ!」
恐れをなして走り去ろうとするウソップを、少年達は慌てて止めた。
「おれは実は”おやつを食わねば死んでしまう病”なんだ」
「ウソつけ!!!」
少年達は口々に言った。
「キャプテンは本物の海賊になりたいんじゃないんですか!?」
「海賊が海賊にびびってどうするんですか!」
「そうですよ、たった3人の海賊に!」
最後の言葉をウソップは聞き逃さなかった。
「なに・・?3人!!?本船じゃないのか?」
「いえ・・・、ちっちゃい船が2艘」
たまねぎの言葉に、
「よし!出動だ、ウソップ海賊団!!村の平和を守るため!!」
ウソップは高らかに宣言する。
「さァ、行くぞ!ついて来い!!」
そして勢いよく走っていく。
ゲンキンなものである。
そんなウソップのことを少年達はよく知っているが、3人とも嬉しそうに後をついていった。
「あったなー、ホントに島が!」
ルフィたちは今、島の海岸に船を着けたところだった。
海岸からは奥に向かって一本の坂道が通っている。
その両側は切り立った崖になっていた。
「何言ってんの。当然でしょ、地図のとおり進んだんだから」
一足先に船から下りたナミが言う。
「この奥に村があんのか?」
ルフィが道の向こうを指差した。
「うん、小さな村みたいだけど」
ナミが地図を見ながら言った。
そんな彼らを崖の上から見つめる目。
ウソップ海賊団である。
「おい、たまねぎ!あれか?お前の言う海賊ってのは・・・」
ウソップが海岸の3人から眼を離さずに言った。
「はいっ!帆に海賊マークを見ました!」
たまねぎが元気よく答える。
しかしあとの2人は半信半疑だった。
「ぜんぜん怖そうじゃねェ」
「おれもそう思う」
ウソップは黙ったまま3人を観察している。
海岸ではゾロが伸びをしながら船から下りてきたところだった。
「ふーっ、久しぶりに地面に下りた」
「お前ずっと寝てたもんな」
ルフィが笑う。
「ところでさっきから気になってたんだが」
ゾロが崖の方を見て言った。
「あいつら何だ」
ウソップ海賊団、ゾロにはがっつりバレていた。
その瞬間。
「うわああああ、見つかったァ~~~~~!!!」
ウソップ以外の3人があっという間に逃げていく。
「おいお前ら!逃げるな!」
ウソップの叫びも届かない。
彼は恐る恐る海岸の3人へ振り向いた。
じっと自分の方を見ている。
彼は開き直って3人の傍へ向かうと、仁王立ちで言った。
「おれはこの村に君臨する大海賊団を率いるウソップ!人々はおれを称え、さらに称え”我が船長”キャプテン・ウソップと呼ぶ!!!」
さらに続ける。
「この村を攻めようと考えているなら、やめておけ!このおれの八千万の部下共が黙っちゃいないからだ!」
ナミが口を開いた。
「ウソでしょ」
「ゲッ、ばれた!」
ウソップが焦る。
「ほら、ばれたって言った」
「ばれたって言っちまったァ~っ!おのれ策士め!!」
「はっはっはっはっはっは、お前面白ェなーっ!!」
「おいてめェ、おれをコケにするな!」
大笑いするルフィに、ウソップが真面目な顔で言った。
「おれは誇り高き男なんだ!その誇りの高さゆえ、人がおれを”ホコリのウソップ”と呼ぶ程にな!!」
しばらくして。
なぜか意気投合したルフィたちとウソップは、村のめし屋にいた。
とりあえず何をおいても腹ごしらえである。
「何?仲間を!?」
ウソップが、肉をかぶりつくルフィに言った。
「仲間とでかい船か」
「ああそうなんだ」
骨付き肉にかぶりつくルフィは幸せそうだ。
「はーっ、そりゃ大冒険だな」
ウソップが少しうらやましそうに言う。
「まァ、大帆船ってわけにゃいかねェが、船があるとすりゃこの村で持ってんのはあそこしかねェな」
「あそこって?」
ナミが尋ねる。
「この村に場違いな大富豪の屋敷が一軒たってる。その主だ。だが主といっても、まだいたいけな少女だがな。病弱で・・・寝たきりの娘さ」
「え・・・、どうしてそんな娘がでっかいお屋敷の主な・・・」
「おばさん!肉追加!!」
「おれも酒っ!!」
ナミの言葉をかき消すようにルフィとゾロが注文を出す。
「てめェら話聞いてんのか!!?」
ウソップが怒鳴った。
気を取り直して。
「・・・もう1年くらい前になるかな。かわいそうに病気で両親を失っちまったのさ。残されたのは莫大な遺産と、でっかい屋敷と、十数人の執事達・・・。どんなに金があって贅沢できようと、こんなに不幸な状況はねェよ」
そう言ってウソップはため息をついた。
ナミはしばらく考えていたが、
「やめ!」
そう言ってテーブルをぽんと叩いた。
「この村で船のことは諦めましょ。また別の町か村をあたればいいわ」
ルフィも笑う。
「そうだな、急ぐ旅でもねェし。肉食ったし。いっぱい買い込んでいこう!」
「・・・ところでお前ら」
ウソップがルフィに話しかける。
「仲間を探してると言ってたな・・・」
「うん、誰かいるか?」
「おれが船長になってやってもいいぜ!」
「ごめんなさい」
3人が即答する。
「はえェな、おい!!!」
ウソップも驚く早さだった。
このシロップ村には、村はずれに大きなお屋敷がある。
その屋敷の窓は開いていて、心地よい風がカーテンを揺らしていた。
その窓辺に、女の子が一人座っている。
「ねェ、クラハドール?」
クラハドールと呼ばれた執事は、その女の子の傍に近づいた。
「何ですか?カヤお嬢様」
「わたし、ウソップさんに会いたい・・・」
その女の子、カヤは静かに、だがはっきりとそうつぶやいた。
管理人ひとことこめんと
ウソップ登場。
この人は、麦わらの一味の中で唯一の“普通の人”だと思ってます。
頑丈さと射撃の腕は他の人達並ですがw。
いつまでも普通の人であってほしいなー。
下手に強くなってほしくないなー。
穏やかな海。相変わらずののんびりした航海の中、ナミがおもむろに言った。
「何が?」
ルフィが船の舳先にちょこんと腰掛けたまま言った。
舳先は彼の特等席なのである。
「このまま”偉大なる航路(グランドライン)”へ入ること!」
のんきなルフィに、ナミは少し呆れて言った。
「確かにな!」
ルフィが同意する。
「この前たわしのおっさんから果物いっぱい貰ったけど、やっぱ肉がないと力が」
「食糧の事言ってんじゃないわよ!」
残念、ちょっとずれてた。
ゾロも船に寝そべったまま言う。
「このまま酒が飲めねェってのもなんかつれェしな」
「飲食から頭を離せっ!!!」
ナミはのんきな二人に言って聞かせた。
「私達の向かってる”偉大なる航路”は世界で最も危険な場所なのよ。その上ワンピースを求める強力な海賊達がうごめいてる。当然強力な船に乗ってね。船員の頭数にしても、この船の装備のなさにしても、とても無事でいられるとは思えないわ」
「で?何すんだ?」
ルフィが尋ねる。
「”準備”するの!先をしっかり考えてね。ここから少し南へ行けば村があるわ。ひとまずそこへ!しっかりした船が手に入ればベストなんだけど・・・」
「肉を食うぞ!!!」
ナミは大きなため息をついた。
さて、当のルフィたちが向かっている島。
東の海の辺境に位置する島だが、ここには小さな村があった。
村の名前は、シロップ村。平和でのどかな村である。
その村の外れ、海に向かう岸壁に一人の若者が立っていた。
「嗚呼、今日も・・・あっちの海から朗らかに一日が始まる!」
彼の名前はウソップ。村に住む若者である。
癖の強い肩までの黒い髪をバンダナでまとめている。
茶色のオーバーオールに、飾り帯。肩からがま口型バッグをナナメがけにしている。
しかし彼の一番の特徴は、その長い鼻であった。ピノキオ並である。
そしてこの村のいつもの朝が始まる。
「─── 大変だーっ!!」
ウソップが大声を上げながら村を駆け抜ける。
「みんな大変だ ─── っ!!海賊が攻めてきたぞ ─── っ!!!海賊だ、海賊 ───っ!!!逃げろ ─── っ!!!」
「何!?海賊だと!!?」
村人がウソップの声に窓から顔を出す。
「かいぞくだーっ!!!」
「お!ウソップが騒いでる。そろそろ仕事の時間だな」
のんびりとコーヒーを飲む村人。
「たーいへーんだーっ」
「よくやるよなあいつも」
新聞を読みながら、苦笑いする村人。
そしてウソップは叫ぶ。
「ウソだーっ!わっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
ガン!
ウソップに向かって鍋が飛んできた。
「このホラ吹きボーズ!今日こそはとっちめてやるぞ!」
それが合図のように、家々から村人達が出てくる。
「おお、きたきたきた!」
ウソップの期待通りのようだ。
そして。
「待てこのクソガキーッ!!!」
「わーっはっはっは、追いついてみろォ!!!」
追いかける村人達、逃げるウソップ。
「─── くそっ!また逃げられた」
しばらくして、村のはずれで毒づく村人達の姿があった。
「まったく人騒がせなガキだ!見つけたらただじゃおかねェぞ」
「一体どこ行きやがった!」
そんな村人達の様子を、ウソップは木の上から覗いていた。
心底おかしそうに笑う。
「ぷっくっくっくっくっくっくっ!今日も村中1人残らずだまされたな」
そう、これがこの村の朝の風物詩なのだ。
毎朝、ウソップは大声を上げて村中を駆け回る。
そんなウソップを、村人達は追い立てまわす。
この騒ぎがこの村にとってなくてはならない、朝の始まりなのだ。
「はー、今日もいい事をした!この退屈な村に、刺激という風を送り込んでやった!」
ウソップは木の上でのんびり伸びをする。
「─── いた!」
木の上でのんびり風に吹かれていると、下の方で声がした。
「ん?・・・おお!お前らか!!」
見下ろすと、男の子が2人。
「おはようございます!キャプテン・ウソップ」
「ウソップ海賊団、参上しました!!」
村の少年、ピーマンとにんじんである。
ピーマンは緑色の髪でモミアゲが少し長い。頭のてっぺんの髪の毛がそれこそピーマンのヘタのようにぴょこんと立っている。
にんじんは赤いニット帽をかぶって、帽子の天辺から髪の毛をのぞかせている。
2人共、ウソップとおそろいの飾り帯をしていて、手にはおもちゃのナイフを握っていた。
ウソップはするっと木から降りる。
「ピーマン、にんじん、お前ら2人だけか?たまねぎはどうした」
「まだ寝てんじゃないかな。なァ」
にんじんがピーマンと顔を見合わせる。
「うん、多分な」
「まったくしょーがねェな」
ウソップがそう言った時、道の向こうから大声を上げて少年が走ってきた。
「わあああああああ、たいへんだあああああ」
「あ!たまねぎ」
「何騒いでんだ?あいつ」
にんじんとピーマンが言う。
たまねぎと呼ばれた少年は、黄色い髪の毛で四角いメガネをかけている。
頭の天辺はほんとのたまねぎのようにつんつん立っている。
そのたまねぎが、べそをかきながら走ってきた。
「大変だ ─── っ!!!か!かかか、海賊がきた~~~~~っ!!!」
そして息を切らせてウソップに訴える。
「本当なんです!今この目で見てきました。ドクロマークをつけた船が、北の海岸から・・・」
ウソップ、ピーマン、にんじんの3人は声をあわせて言った。
「うそだろ」
「ほんとだよ!!」
たまねぎは怯えながら言う。
「あれはたしか・・・、”道化のバギー”のマーク!!!」
「ほんとなのか!?」
ウソップはようやく信じたようだ。
「本当ですよ、やばいっす!」
「・・・いかんっ!おやつの時間だ!!」
「逃げるなっ!」
恐れをなして走り去ろうとするウソップを、少年達は慌てて止めた。
「おれは実は”おやつを食わねば死んでしまう病”なんだ」
「ウソつけ!!!」
少年達は口々に言った。
「キャプテンは本物の海賊になりたいんじゃないんですか!?」
「海賊が海賊にびびってどうするんですか!」
「そうですよ、たった3人の海賊に!」
最後の言葉をウソップは聞き逃さなかった。
「なに・・?3人!!?本船じゃないのか?」
「いえ・・・、ちっちゃい船が2艘」
たまねぎの言葉に、
「よし!出動だ、ウソップ海賊団!!村の平和を守るため!!」
ウソップは高らかに宣言する。
「さァ、行くぞ!ついて来い!!」
そして勢いよく走っていく。
ゲンキンなものである。
そんなウソップのことを少年達はよく知っているが、3人とも嬉しそうに後をついていった。
「あったなー、ホントに島が!」
ルフィたちは今、島の海岸に船を着けたところだった。
海岸からは奥に向かって一本の坂道が通っている。
その両側は切り立った崖になっていた。
「何言ってんの。当然でしょ、地図のとおり進んだんだから」
一足先に船から下りたナミが言う。
「この奥に村があんのか?」
ルフィが道の向こうを指差した。
「うん、小さな村みたいだけど」
ナミが地図を見ながら言った。
そんな彼らを崖の上から見つめる目。
ウソップ海賊団である。
「おい、たまねぎ!あれか?お前の言う海賊ってのは・・・」
ウソップが海岸の3人から眼を離さずに言った。
「はいっ!帆に海賊マークを見ました!」
たまねぎが元気よく答える。
しかしあとの2人は半信半疑だった。
「ぜんぜん怖そうじゃねェ」
「おれもそう思う」
ウソップは黙ったまま3人を観察している。
海岸ではゾロが伸びをしながら船から下りてきたところだった。
「ふーっ、久しぶりに地面に下りた」
「お前ずっと寝てたもんな」
ルフィが笑う。
「ところでさっきから気になってたんだが」
ゾロが崖の方を見て言った。
「あいつら何だ」
ウソップ海賊団、ゾロにはがっつりバレていた。
その瞬間。
「うわああああ、見つかったァ~~~~~!!!」
ウソップ以外の3人があっという間に逃げていく。
「おいお前ら!逃げるな!」
ウソップの叫びも届かない。
彼は恐る恐る海岸の3人へ振り向いた。
じっと自分の方を見ている。
彼は開き直って3人の傍へ向かうと、仁王立ちで言った。
「おれはこの村に君臨する大海賊団を率いるウソップ!人々はおれを称え、さらに称え”我が船長”キャプテン・ウソップと呼ぶ!!!」
さらに続ける。
「この村を攻めようと考えているなら、やめておけ!このおれの八千万の部下共が黙っちゃいないからだ!」
ナミが口を開いた。
「ウソでしょ」
「ゲッ、ばれた!」
ウソップが焦る。
「ほら、ばれたって言った」
「ばれたって言っちまったァ~っ!おのれ策士め!!」
「はっはっはっはっはっは、お前面白ェなーっ!!」
「おいてめェ、おれをコケにするな!」
大笑いするルフィに、ウソップが真面目な顔で言った。
「おれは誇り高き男なんだ!その誇りの高さゆえ、人がおれを”ホコリのウソップ”と呼ぶ程にな!!」
しばらくして。
なぜか意気投合したルフィたちとウソップは、村のめし屋にいた。
とりあえず何をおいても腹ごしらえである。
「何?仲間を!?」
ウソップが、肉をかぶりつくルフィに言った。
「仲間とでかい船か」
「ああそうなんだ」
骨付き肉にかぶりつくルフィは幸せそうだ。
「はーっ、そりゃ大冒険だな」
ウソップが少しうらやましそうに言う。
「まァ、大帆船ってわけにゃいかねェが、船があるとすりゃこの村で持ってんのはあそこしかねェな」
「あそこって?」
ナミが尋ねる。
「この村に場違いな大富豪の屋敷が一軒たってる。その主だ。だが主といっても、まだいたいけな少女だがな。病弱で・・・寝たきりの娘さ」
「え・・・、どうしてそんな娘がでっかいお屋敷の主な・・・」
「おばさん!肉追加!!」
「おれも酒っ!!」
ナミの言葉をかき消すようにルフィとゾロが注文を出す。
「てめェら話聞いてんのか!!?」
ウソップが怒鳴った。
気を取り直して。
「・・・もう1年くらい前になるかな。かわいそうに病気で両親を失っちまったのさ。残されたのは莫大な遺産と、でっかい屋敷と、十数人の執事達・・・。どんなに金があって贅沢できようと、こんなに不幸な状況はねェよ」
そう言ってウソップはため息をついた。
ナミはしばらく考えていたが、
「やめ!」
そう言ってテーブルをぽんと叩いた。
「この村で船のことは諦めましょ。また別の町か村をあたればいいわ」
ルフィも笑う。
「そうだな、急ぐ旅でもねェし。肉食ったし。いっぱい買い込んでいこう!」
「・・・ところでお前ら」
ウソップがルフィに話しかける。
「仲間を探してると言ってたな・・・」
「うん、誰かいるか?」
「おれが船長になってやってもいいぜ!」
「ごめんなさい」
3人が即答する。
「はえェな、おい!!!」
ウソップも驚く早さだった。
このシロップ村には、村はずれに大きなお屋敷がある。
その屋敷の窓は開いていて、心地よい風がカーテンを揺らしていた。
その窓辺に、女の子が一人座っている。
「ねェ、クラハドール?」
クラハドールと呼ばれた執事は、その女の子の傍に近づいた。
「何ですか?カヤお嬢様」
「わたし、ウソップさんに会いたい・・・」
その女の子、カヤは静かに、だがはっきりとそうつぶやいた。

ウソップ登場。
この人は、麦わらの一味の中で唯一の“普通の人”だと思ってます。
頑丈さと射撃の腕は他の人達並ですがw。
いつまでも普通の人であってほしいなー。
下手に強くなってほしくないなー。
第22話 あんたが珍獣
のんびりと次の島へ向かう、船2艘。
天候は穏やか。今日もまた絶好の航海日和である。
「なおった ─── っ!!!」
ルフィは麦わら帽子を片手に、こぶしを空に突き上げた。
バギーに傷をつけられた帽子を、ナミが繕ってくれたのだ。
「応急処置よ、穴を塞いだだけ」
ナミが裁縫セットを片付けながら言う。
「強くつついたりしない限り大丈夫だと思うけど」
「いやーわかんねェわかんねェ、ありがとう」
言われた端から、ルフィは帽子をつつきまくる。
「あんなにボロボロの帽子をここまでなお・・・、あ」
・・・穴開けちゃった。
「人の話をちゃんと聞けェ!!」
「ぎゃあああああ」
ナミがルフィの眉間を針で刺す。
「針で刺すなよ、痛ェだろ!」
「殴っても効かないから、刺すしかないでしょ!?」
「ああ、そりゃそうか!」
ルフィ納得。
これだけ騒ぐ中、ぐーすか寝ていたゾロがようやく目を覚ました。
「・・・お前らうるせェな、眠れねェじゃねェか。おれはハラも減ってんだ・・・」
ゾロが隣の舟のナミに言う。
「おい、何か食糧わけてくれよ」
「・・・だいたいあんた達おかしいわよ。航海する気ホントにあんの!?食糧も水も持ってないなんて!海をナメてるとしか思えないわ。よく今まで生きてられたわね」
「まあ、なんとかな」
ゾロはナミからもらったパンをぱくついた。
「ん!なんか見えるぞ!おい、島だ!!」
ルフィが前方を見つめ、騒ぎ出す。
その声を受けて、ナミは双眼鏡を取り出した。
「─── ああ、あれはダメね。無人島よ、行くだけムダ。進路はこのまま・・・って、待て!!!」
そこに島があるなら上陸する。ルフィ達は島に向けて漕ぎ出していた。
「仲間になってくれる奴いるかなァ」
「食糧でも積めりゃ上出来だな!ナミの言う事は一理あるぜ。おれ達には明日の心配が足りねェらしい」
「─── んもう!!!」
ナミは慌てて、二人の後を追っていった。
「孤島に着いたぞ!!!」
しばらくの後、ルフィたちは島の岸辺に碇を下ろしていた。
「何にもねェ島だなァ!森だけか?」
ルフィの目の前に広がるのは、森、岩山。
およそ、人が住んでるとは思えなかった。
「だから言ったのに無人島だって。仲間探すのに、こんなとこ来てどうすんのよ」
ナミが船を下りながら言う。
「おい、ゾロ。下りて来いよ!」
ルフィが舟を振り返って言った。しかしゾロは下りてこない。
ふと見ると、再びぐーすか眠っていた。
「寝かしといてあげなさいよ。あれでもケガ人なのよ?」
連れ出しそうなルフィを、ナミは引っ張って止めた。
「そりゃそうだな、よし行こう!」
ルフィはくるっと方向を変えて森へ向かう。
「森の奥に民家があるかも」
「何もないってば、猛獣か化物ならいるかもね」
ナミがルフィの後を追う。
「ん?」
「え!?」
その時だった。不思議な動物がルフィの傍を通り過ぎる。
見た目はどう見てもキツネ。しかし、トサカがある。
そして泣き声は、
「コケッコッコー」
である。
「なに、あれ」
ナミはその不思議な動物の後姿から目が離せなかった。
「おい、見ろよ!」
ルフィがさらに不思議な動物を捕まえた。
「変わったウサギだ!」
ルフィが捕まえたそれは、ウサギのような耳のある・・・ヘビ。
「ほ・・・、本当だ、変わってる・・・。だけどそれ、変わったヘビだと思うけど」
「じゃ、あのライオンは?」
「あれは・・・」
ルフィが指差す方にいた動物は、ライオンのようなたてがみのある・・・、
「ブタでしょ!?変わったブタ」
ガルル・・・と唸りながら、そのブタは行ってしまった。
「なんか、この森・・変・・・!」
ナミが頭を抱えた時、どこからか『声』が響いてきた。
”それ以上、踏み込むな!!”
「ん?」
「え!?な、何、今の声。あんた誰よ!!」
ナミは思わず大声を出す。
”え?おれ?おれはこの森の番人さ・・・!”
「森の番人?」
ルフィも尋ねる。
”そうとも。命惜しくば、即刻この場を立ち去れい!”
その『声』は、いかめしく響く。
”お前はあれだろ、海賊”
不意に『声』が尋ねる。
「そうだ」
「何で森の番人がそんなこと聞くの?」
”やはり海賊か・・・”
その『声』は言った。
”いいか、あと一歩でも森へ踏み込んでみろ!その瞬間!貴様は森の裁きを受け、その身を滅ぼすことになるのか?”
「・・・知るか。何でおれに聞くんだ」
ねえ。
「何なの一体・・・」
ナミは得体の知れないそれに、少し怯えているようだ。
「なんかコイツ変だな」
ルフィは辺りを見回す。
”何だと、この!麦わら坊主!!”
『声』が言い返す。
「どこにいるのよ!出て来いっ!」
ナミも強がる。
「どっかその辺に・・・」
ルフィが森へ入っていこうとすると、その『声』は叫んだ。
”オイッ、踏み入るなと言った筈だ!!森の裁きを受けろォ!!!”
ズドォン!
「きゃあ!!!」
ナミが悲鳴を上げる。
どこからともなく、ルフィに向かって発射されたのだ。
しかし、ルフィはゴムである。
「ふんっ!!」
弾の威力を吸収すると、勢いよく跳ね返した。
”・・・!?ええ!!?”
『声』も今の光景が信じられないようだ。
ナミが息を整えながら言った。
「・・・おっどろいたー、今の銃でしょ?その体、銃も効かないのね・・・」
「ああ、でもびっくりするからいやだ!」
ルフィが心底嫌そうな顔をした。
”お・・・お前、何だ!!”
『声』が焦ったように言う。
ルフィは再び辺りを見回した。
「こっちから銃弾飛んできたな」
ナミもその方向を見た。
「見て、ピストルが落ちてる!」
発射直後だろう、まだうっすらけむりを上げるピストルがそこにあった。
そしてその傍に、大きな黒いもしゃもしゃした物が生えた箱が一つ。
「何だこれ」
「めちゃくちゃ怪しいわね・・・」
2人はじっとそれを見つめた。
すると、
「あっ、動いた!!」
それは急に走り出した。
しかし、少しも進まないうちに木に激突する。
「くらっ!早く起こせェ!!!」
それは地面に転がったまま箱から足をばたつかせているが、どうやら起き上がれないようだ。
「に、人間だわ・・・」
そう、それは人だったのだ。
黒いもしゃもしゃしたものは、彼の髪の毛。
箱に詰まったおじさんが、そこに転がっていたのだ。
「起こせってんだ!」
じたばたしながら、彼は叫ぶ。
「こけたのにいばってる・・・」
「おもしれぇ、たわしか?たわし人間」
ナミは引き、ルフィは笑った。
「ゴムゴムの実か・・・。”悪魔の実”だろう。噂に聞いたことはあったが、それを食った奴は初めて見たぜ」
箱に詰まった男、島の住人ガイモンが言った。
ルフィたちは森の中から、海岸沿いに場所を移していた。
「おれも宝箱に詰まった人間初めて見たよ。箱入り息子なのか?」
「ああ・・・小さな頃から大切に育てられて・・・って、あほかお前!」
ガイモンさん、ノリ突っ込み。
「はまっちまったんだよ!抜けねェんだ!!この島にたった一人、延々20年この姿だ!わかるかお前らにこの切なさが!!!」
「え!?に・・・20年もたった一人でこの島にいるの?」
ナミがあまりの年数の長さに驚く。
「ああ・・・、20年だ・・・」
しみじみ言うガイモンに、ルフィが言った。
「ばかみてェ」
「ブッ殺すぞ、てめェ!!!」
気持はわかる。
気を取り直して、ガイモンが話し出した。
「20年てのァ・・・長いもんだ。髪の毛もひげもこの通り伸びっぱなしでボサボサ。まゆ毛までつながっちまった。現にこうやって、まともに人間と会話するのも20年ぶりだ」
そう言って息をつくガイモンを、ルフィはおもむろに引っ張り始めた。
「痛い痛い、何しやがる!!!」
「抜けねェなァ・・・」
「やめろやめろ、首が抜ける!!」
ようやくルフィが離れた。
「無茶すんじゃねェ!長年の運動不足もあって、今じゃこの宝箱はおれの体にミラクルフィットしてやがんだ!抜けやしねェし、壊そうとすりゃおれの体がイカレちまう!」
ぷんすか怒りまくるガイモンに、ナミが尋ねた。
「でもさ・・・、どうしてこの島へ来たの?」
「・・・お前、さっき海賊だと言ってたな」
ガイモンがルフィに言う。
「ああ、まだ3人だけどな」
「おれも昔、海賊だった」
「へェ!」
「あれはいい!宝探しの冒険には命を懸けても惜しくねェ、楽しいんだ。・・・何か宝の地図でも持ってんのか?」
「”偉大なる航路(グランドライン)”の海図なら持ってる」
ルフィはにっこり笑って言った。
「おれは”ワンピース”を目指すんだ!」
「なに・・・っ、ワンピースだと!!?」
ガイモンが驚く。
「まさか本気で”偉大なる航路”へ入るつもりか!?」
ルフィとガイモンは海図を広げた。
「で?どれが”偉大なる航路”だ?」
「さあ・・・、たわしのおっさんは知らねェのか?」
「おれは海図はさっぱりわからん!」
「なんだ、そうか」
「・・・海賊達の会話じゃないわ・・・」
大笑いするルフィとガイモンに、ナミはため息をついた。
そして、2人から海図を奪い取ると説明を始める。
「いーい?レッドラインは知ってるわよね?」
「ああ、海を割る大陸の名だろう」
ガイモンが答えた。
「そう!この世界に海は2つある!そして、その世界の海を真っ二つに両断する巨大な大陸を”赤い土の大陸(レッドライン)”と呼ぶの」
さらにナミは説明する。
「その中心といわれる町から”赤い土の大陸”に対して、直角に世界を一周する航路こそが、”偉大なる航路”!史上にもそれを制したのは、海賊王ゴールド・ロジャーただ1人!もっとも危険な航路だと言われてるわ」
「要するに、そのラインのどっかに必ず”ワンピース”はあるんだから、世界一周旅行って事か」
ルフィが言うと、
「ばか言え!そんなに容易い場所じゃねェ!」
ガイモンがたしなめる。
「少なくとも”海賊の墓場”って異名はホントらしいからな・・・」
少し怯えながら、ガイモンは続けた。
「以前”偉大なる航路”から逃げ帰ったって海賊を見た事があるが、まるで死人みてェに戦意を失っちまって、そりゃ見るに忍びねェ顔してやがったよ。何か相当恐ろしいことでもあったのか、恐ろしい海賊に遭ったのか、化物にでも出くわしたか・・・。誰一人口を開こうとはしねェが・・・、その姿は充分”偉大なる航路”の凄まじさを物語ってた」
ナミがごくりとつばを飲み込む。
「その上”ワンピース”のありかに至っては、もうお手上げだ。噂が噂をよんで、何が真実だかわかりゃしねェ。大海賊時代が幕開けして20余年・・・、すでにその宝は伝説になりつつあるのさ。わかるか?”ワンピース”なんてものは夢のまた夢って事だ」
「そうかなァ」
ルフィがこの男特有の気楽さで言った。
「なんとかなるだろ」
「ムリムリ!せいぜい稼ぐだけ稼いで逃げ出すってのが、一番利口なのよ!」
ナミも言うが、
「見つかるだろ、おれ運もいいんだ!」
ルフィはどこ吹く風で、にっと笑った。
「・・・別にいいけど、どこからそんな自信が沸くわけ?」
ナミは呆れた。
「おれがなぜこの島をずっと離れないかと言うとだな!!!」
その2人のやり取りを見ていたガイモンが、突然叫んだ。
「おお、どうしたおっさん」
「未練だ。あきらめきれねェんだ」
「何を?」
ルフィが尋ねる。
ガイモンが語り始めた。
「おれは20年前のあの時、海賊としてこの島へ上陸していた。この島に”財宝”が眠るとある地図に記されていたからだ ───」
「─── この島はもう探すだけ無駄だな!上陸して3週間、総勢200人で見つかったのはこの壊れたカラの宝箱1コだけだ!」
そう言って、海賊団の船長は空の箱を蹴飛ばした。
地図のとおりにこの島にやってきたが、成果はさんさんたるものであった。
「船へ引き上げろ、野郎共!!」
「おお!!」
宝がない、となると決断も早い。
こんな島に用はない、とばかりに海賊たちはすばやく撤収作業に入っていた。
そんな中、一方を見つめる男がいた。
若き日のガイモンである。
今と比べて髪の毛のボリュームが小さい。つながったまゆ毛は同じだが。
ていうか、昔もまゆ毛つながってたんやん。
「おい、何してるガイモン。先に行くぜ」
「ああ・・・」
しかし、彼はその場を離れなかった。
「・・・そういや、あの大岩の前にこの3週間ずっと船長がいたんだよなァ。誰か探したのか?あそこ・・・」
そしてゆっくりと大岩によじ登っていった。
やっとのことので登りきった大岩の頂上で見たものに、彼は目を疑った。
「こ・・・こんな所に!み、見つけた!!」
そこには宝箱が5つ並んでいたのである。
「おォい、みん・・・!!!」
彼が仲間の方を向いた時だった。
掴んでいた岩の一部が崩れ、彼はまっさかさまに落ちて行った。
「─── その時だ。箱にハマったのは・・・。気絶から立ち直ると、仲間達はもう海の彼方にいた。財宝を独り占めできると思ったけどよ、箱にハマったままじゃ登れねェし、第一抜けねェし・・・」
「・・・それから20年間誰も来なかったのか?」
語り終わったガイモンに、ルフィが尋ねた。
「いや・・・来たさ、幾度となく。財宝狙いの海賊共がな・・・。全て追い払ってやった!”森の裁き”でな」
そしてガイモンは遠い目をしながら言った。
「目について離れねェのさ。あの時確かに大岩の上で見た財宝が!ただこの箱にハマっちまったが為に!おれは20年間財宝を守り続けてきた、あれはおれのだ!!!」
「うん、間違いねェ!そりゃおっさんのだ!!」
ガイモンの心の叫びに、ルフィは深くうなずいた。
ナミも賛同する。
「わかったわ、ガイモンさん!その宝、あなたの代わりに取ってあげるっ!」
「何、本当か!?よかった!お前らに話して本当によかった!」
ルフィが言った。
「・・・お前海賊専門の泥棒だったよな、たしか」
「バカな事言うな!私だって場くらいわきまえるわよっ!!」
ナミは思わず怒鳴った。
日ごろの行いですね。
しばらくして、ルフィ、ナミ、ガイモンの3人は大岩の前にたどり着いていた。
「ここがそうだ。おれも久しぶりだ・・・、ここへ来るのは」
ガイモンが感慨深げに岩を見上げる。
「でも何で、今までにこうやって頼まなかったんだよ、人に」
ルフィが言うと、
「誰も信用できなかった、それだけだ。少なくともおれの姿を見て、おれと話そうなんて奴はいなかった」
ガイモンはずっと悔しかったのだ。
目の前にお宝があるのに、取りにいけなかった自分が。
だから悔しくて、この岩に近づけなかった。
だが。
「ついにこの時が来たか!今日はいい日だ!!」
ようやく、この目で確かめられるのだ。
ナミがルフィの肩を叩いて言った。
「よし、行けっ」
「おれが行くのか」
「私が登れる訳ないでしょ、こんな大岩」
そりゃそうだ。
「頼むぞ、麦わら!!」
「よし・・・」
ガイモンの声援を受け、ルフィは一気に大岩の一番上まで手を伸ばした。
端を掴むと、びよーんと一気に飛び上がる。
「やった!」
そして少し経って、箱を抱えたルフィが顔を出した。
「あったぞ、宝箱!5個!!」
それを聞いたガイモンが期待に目を輝かせる。
「よっしゃでかした!ここへ落としてくれ、それを!おれに当たらんようにな、わっはっはっはっは・・・」
「いやだ」
ガイモンの笑い声をさえぎるように、ルフィは言った。
心なしか、顔が引きつっている。
「なに!?」
「な・・・、何バカな事言ってんのよ!冗談やめて、早く落としなさいよ!それ全部、こっちへ渡して!!!」
「いやだね、渡したくねェ!」
ナミの声にも、ルフィは聞かない。
「あんた、いい加減に・・・」
「いいんだ!もういい!渡したくないんなら!!」
ガイモンがナミを止める。
「いい訳ないじゃない!どうしてそんなこと言えるの?あの宝は・・・」
しかしガイモンは、ルフィを見上げて言った。
「麦わら!・・・お前は、いい奴だなァ・・・」
その目には涙が浮かんでいる。
「うすうすな・・・、もしかしたらってな・・・、思ってたんだ。・・・なるべく、考えないようにしてたんだが・・・」
ルフィは箱を抱えて座り込む。
「ないんだろう、中身が・・・」
ガイモンはこらえきれずに泣き出した。
「・・・うん、全部空っぽだ」
ルフィが静かに言う。
「宝の地図が存在する財宝には・・・、よくあることなんだ。地図を手に入れた時には、宝はすでに奪われた後だってことは・・・」
ガイモンがしゃくりあげる。
「そんな・・・、20年も守り続けた宝がただの箱だったなんて・・・」
ナミもショックだ。
しかし、そんな雰囲気を追い払うようにルフィは笑った。
「だっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!まァ、くよくよすんなよ、おっさん!20年でおれ達が来てよかったよ!あと30年遅かったら死んでたかもな!」
「麦わら・・・」
つられてガイモンも笑う。
「これだけバカみちまったら、後は”ワンピース”しかねェよ。おれともう一回海賊やろう!!」
「お前・・・、おれを誘ってくれるのか・・・!!!」
ルフィの言葉が本当に嬉しかった。
「─── 本当に、この島に残るのか?おっさん」
ルフィが残念そうに言った。
ガイモンはルフィたちを浜辺で見送っていた。
「ああ、誘ってくれて嬉しかったぜ。宝はなくなったが、”森の番人”は続けてぇんだ」
「どうして?」
ナミが尋ねる。
「あの森にはな、珍しい動物がたくさん住んでるんだ」
「ああ!変なヘビとか・・・ブタとかね」
「この島に来る奴らは、宝よりむしろ珍獣を狙う方が多かった。さすがに20年居りゃ動物達にも愛着がわく。あいつらを見捨てるわけにはいかねェ」
ルフィが言った。
「おっさんも珍獣だもんな」
「ブッ殺すぞ!」
・・・気を取り直して。
「それにな、宝がなくなって気が楽になった。おれは改めてこの島でのんびりやるさ!」
「そうか!残念だな、おっさん面白ェのに」
「お前には必ずいい仲間が集まる!”ワンピース”はお前が見つけて、世界を買っちまえ!」
「ああ、そうする!じゃあな!!」
二つの船を見送るガイモンの後ろには、珍獣たちが勢ぞろいして一緒に見送っていた。
船は再び、”偉大なる航路”へ進路を向ける ───
天候は穏やか。今日もまた絶好の航海日和である。
「なおった ─── っ!!!」
ルフィは麦わら帽子を片手に、こぶしを空に突き上げた。
バギーに傷をつけられた帽子を、ナミが繕ってくれたのだ。
「応急処置よ、穴を塞いだだけ」
ナミが裁縫セットを片付けながら言う。
「強くつついたりしない限り大丈夫だと思うけど」
「いやーわかんねェわかんねェ、ありがとう」
言われた端から、ルフィは帽子をつつきまくる。
「あんなにボロボロの帽子をここまでなお・・・、あ」
・・・穴開けちゃった。
「人の話をちゃんと聞けェ!!」
「ぎゃあああああ」
ナミがルフィの眉間を針で刺す。
「針で刺すなよ、痛ェだろ!」
「殴っても効かないから、刺すしかないでしょ!?」
「ああ、そりゃそうか!」
ルフィ納得。
これだけ騒ぐ中、ぐーすか寝ていたゾロがようやく目を覚ました。
「・・・お前らうるせェな、眠れねェじゃねェか。おれはハラも減ってんだ・・・」
ゾロが隣の舟のナミに言う。
「おい、何か食糧わけてくれよ」
「・・・だいたいあんた達おかしいわよ。航海する気ホントにあんの!?食糧も水も持ってないなんて!海をナメてるとしか思えないわ。よく今まで生きてられたわね」
「まあ、なんとかな」
ゾロはナミからもらったパンをぱくついた。
「ん!なんか見えるぞ!おい、島だ!!」
ルフィが前方を見つめ、騒ぎ出す。
その声を受けて、ナミは双眼鏡を取り出した。
「─── ああ、あれはダメね。無人島よ、行くだけムダ。進路はこのまま・・・って、待て!!!」
そこに島があるなら上陸する。ルフィ達は島に向けて漕ぎ出していた。
「仲間になってくれる奴いるかなァ」
「食糧でも積めりゃ上出来だな!ナミの言う事は一理あるぜ。おれ達には明日の心配が足りねェらしい」
「─── んもう!!!」
ナミは慌てて、二人の後を追っていった。
「孤島に着いたぞ!!!」
しばらくの後、ルフィたちは島の岸辺に碇を下ろしていた。
「何にもねェ島だなァ!森だけか?」
ルフィの目の前に広がるのは、森、岩山。
およそ、人が住んでるとは思えなかった。
「だから言ったのに無人島だって。仲間探すのに、こんなとこ来てどうすんのよ」
ナミが船を下りながら言う。
「おい、ゾロ。下りて来いよ!」
ルフィが舟を振り返って言った。しかしゾロは下りてこない。
ふと見ると、再びぐーすか眠っていた。
「寝かしといてあげなさいよ。あれでもケガ人なのよ?」
連れ出しそうなルフィを、ナミは引っ張って止めた。
「そりゃそうだな、よし行こう!」
ルフィはくるっと方向を変えて森へ向かう。
「森の奥に民家があるかも」
「何もないってば、猛獣か化物ならいるかもね」
ナミがルフィの後を追う。
「ん?」
「え!?」
その時だった。不思議な動物がルフィの傍を通り過ぎる。
見た目はどう見てもキツネ。しかし、トサカがある。
そして泣き声は、
「コケッコッコー」
である。
「なに、あれ」
ナミはその不思議な動物の後姿から目が離せなかった。
「おい、見ろよ!」
ルフィがさらに不思議な動物を捕まえた。
「変わったウサギだ!」
ルフィが捕まえたそれは、ウサギのような耳のある・・・ヘビ。
「ほ・・・、本当だ、変わってる・・・。だけどそれ、変わったヘビだと思うけど」
「じゃ、あのライオンは?」
「あれは・・・」
ルフィが指差す方にいた動物は、ライオンのようなたてがみのある・・・、
「ブタでしょ!?変わったブタ」
ガルル・・・と唸りながら、そのブタは行ってしまった。
「なんか、この森・・変・・・!」
ナミが頭を抱えた時、どこからか『声』が響いてきた。
”それ以上、踏み込むな!!”
「ん?」
「え!?な、何、今の声。あんた誰よ!!」
ナミは思わず大声を出す。
”え?おれ?おれはこの森の番人さ・・・!”
「森の番人?」
ルフィも尋ねる。
”そうとも。命惜しくば、即刻この場を立ち去れい!”
その『声』は、いかめしく響く。
”お前はあれだろ、海賊”
不意に『声』が尋ねる。
「そうだ」
「何で森の番人がそんなこと聞くの?」
”やはり海賊か・・・”
その『声』は言った。
”いいか、あと一歩でも森へ踏み込んでみろ!その瞬間!貴様は森の裁きを受け、その身を滅ぼすことになるのか?”
「・・・知るか。何でおれに聞くんだ」
ねえ。
「何なの一体・・・」
ナミは得体の知れないそれに、少し怯えているようだ。
「なんかコイツ変だな」
ルフィは辺りを見回す。
”何だと、この!麦わら坊主!!”
『声』が言い返す。
「どこにいるのよ!出て来いっ!」
ナミも強がる。
「どっかその辺に・・・」
ルフィが森へ入っていこうとすると、その『声』は叫んだ。
”オイッ、踏み入るなと言った筈だ!!森の裁きを受けろォ!!!”
ズドォン!
「きゃあ!!!」
ナミが悲鳴を上げる。
どこからともなく、ルフィに向かって発射されたのだ。
しかし、ルフィはゴムである。
「ふんっ!!」
弾の威力を吸収すると、勢いよく跳ね返した。
”・・・!?ええ!!?”
『声』も今の光景が信じられないようだ。
ナミが息を整えながら言った。
「・・・おっどろいたー、今の銃でしょ?その体、銃も効かないのね・・・」
「ああ、でもびっくりするからいやだ!」
ルフィが心底嫌そうな顔をした。
”お・・・お前、何だ!!”
『声』が焦ったように言う。
ルフィは再び辺りを見回した。
「こっちから銃弾飛んできたな」
ナミもその方向を見た。
「見て、ピストルが落ちてる!」
発射直後だろう、まだうっすらけむりを上げるピストルがそこにあった。
そしてその傍に、大きな黒いもしゃもしゃした物が生えた箱が一つ。
「何だこれ」
「めちゃくちゃ怪しいわね・・・」
2人はじっとそれを見つめた。
すると、
「あっ、動いた!!」
それは急に走り出した。
しかし、少しも進まないうちに木に激突する。
「くらっ!早く起こせェ!!!」
それは地面に転がったまま箱から足をばたつかせているが、どうやら起き上がれないようだ。
「に、人間だわ・・・」
そう、それは人だったのだ。
黒いもしゃもしゃしたものは、彼の髪の毛。
箱に詰まったおじさんが、そこに転がっていたのだ。
「起こせってんだ!」
じたばたしながら、彼は叫ぶ。
「こけたのにいばってる・・・」
「おもしれぇ、たわしか?たわし人間」
ナミは引き、ルフィは笑った。
「ゴムゴムの実か・・・。”悪魔の実”だろう。噂に聞いたことはあったが、それを食った奴は初めて見たぜ」
箱に詰まった男、島の住人ガイモンが言った。
ルフィたちは森の中から、海岸沿いに場所を移していた。
「おれも宝箱に詰まった人間初めて見たよ。箱入り息子なのか?」
「ああ・・・小さな頃から大切に育てられて・・・って、あほかお前!」
ガイモンさん、ノリ突っ込み。
「はまっちまったんだよ!抜けねェんだ!!この島にたった一人、延々20年この姿だ!わかるかお前らにこの切なさが!!!」
「え!?に・・・20年もたった一人でこの島にいるの?」
ナミがあまりの年数の長さに驚く。
「ああ・・・、20年だ・・・」
しみじみ言うガイモンに、ルフィが言った。
「ばかみてェ」
「ブッ殺すぞ、てめェ!!!」
気持はわかる。
気を取り直して、ガイモンが話し出した。
「20年てのァ・・・長いもんだ。髪の毛もひげもこの通り伸びっぱなしでボサボサ。まゆ毛までつながっちまった。現にこうやって、まともに人間と会話するのも20年ぶりだ」
そう言って息をつくガイモンを、ルフィはおもむろに引っ張り始めた。
「痛い痛い、何しやがる!!!」
「抜けねェなァ・・・」
「やめろやめろ、首が抜ける!!」
ようやくルフィが離れた。
「無茶すんじゃねェ!長年の運動不足もあって、今じゃこの宝箱はおれの体にミラクルフィットしてやがんだ!抜けやしねェし、壊そうとすりゃおれの体がイカレちまう!」
ぷんすか怒りまくるガイモンに、ナミが尋ねた。
「でもさ・・・、どうしてこの島へ来たの?」
「・・・お前、さっき海賊だと言ってたな」
ガイモンがルフィに言う。
「ああ、まだ3人だけどな」
「おれも昔、海賊だった」
「へェ!」
「あれはいい!宝探しの冒険には命を懸けても惜しくねェ、楽しいんだ。・・・何か宝の地図でも持ってんのか?」
「”偉大なる航路(グランドライン)”の海図なら持ってる」
ルフィはにっこり笑って言った。
「おれは”ワンピース”を目指すんだ!」
「なに・・・っ、ワンピースだと!!?」
ガイモンが驚く。
「まさか本気で”偉大なる航路”へ入るつもりか!?」
ルフィとガイモンは海図を広げた。
「で?どれが”偉大なる航路”だ?」
「さあ・・・、たわしのおっさんは知らねェのか?」
「おれは海図はさっぱりわからん!」
「なんだ、そうか」
「・・・海賊達の会話じゃないわ・・・」
大笑いするルフィとガイモンに、ナミはため息をついた。
そして、2人から海図を奪い取ると説明を始める。
「いーい?レッドラインは知ってるわよね?」
「ああ、海を割る大陸の名だろう」
ガイモンが答えた。
「そう!この世界に海は2つある!そして、その世界の海を真っ二つに両断する巨大な大陸を”赤い土の大陸(レッドライン)”と呼ぶの」
さらにナミは説明する。
「その中心といわれる町から”赤い土の大陸”に対して、直角に世界を一周する航路こそが、”偉大なる航路”!史上にもそれを制したのは、海賊王ゴールド・ロジャーただ1人!もっとも危険な航路だと言われてるわ」
「要するに、そのラインのどっかに必ず”ワンピース”はあるんだから、世界一周旅行って事か」
ルフィが言うと、
「ばか言え!そんなに容易い場所じゃねェ!」
ガイモンがたしなめる。
「少なくとも”海賊の墓場”って異名はホントらしいからな・・・」
少し怯えながら、ガイモンは続けた。
「以前”偉大なる航路”から逃げ帰ったって海賊を見た事があるが、まるで死人みてェに戦意を失っちまって、そりゃ見るに忍びねェ顔してやがったよ。何か相当恐ろしいことでもあったのか、恐ろしい海賊に遭ったのか、化物にでも出くわしたか・・・。誰一人口を開こうとはしねェが・・・、その姿は充分”偉大なる航路”の凄まじさを物語ってた」
ナミがごくりとつばを飲み込む。
「その上”ワンピース”のありかに至っては、もうお手上げだ。噂が噂をよんで、何が真実だかわかりゃしねェ。大海賊時代が幕開けして20余年・・・、すでにその宝は伝説になりつつあるのさ。わかるか?”ワンピース”なんてものは夢のまた夢って事だ」
「そうかなァ」
ルフィがこの男特有の気楽さで言った。
「なんとかなるだろ」
「ムリムリ!せいぜい稼ぐだけ稼いで逃げ出すってのが、一番利口なのよ!」
ナミも言うが、
「見つかるだろ、おれ運もいいんだ!」
ルフィはどこ吹く風で、にっと笑った。
「・・・別にいいけど、どこからそんな自信が沸くわけ?」
ナミは呆れた。
「おれがなぜこの島をずっと離れないかと言うとだな!!!」
その2人のやり取りを見ていたガイモンが、突然叫んだ。
「おお、どうしたおっさん」
「未練だ。あきらめきれねェんだ」
「何を?」
ルフィが尋ねる。
ガイモンが語り始めた。
「おれは20年前のあの時、海賊としてこの島へ上陸していた。この島に”財宝”が眠るとある地図に記されていたからだ ───」
「─── この島はもう探すだけ無駄だな!上陸して3週間、総勢200人で見つかったのはこの壊れたカラの宝箱1コだけだ!」
そう言って、海賊団の船長は空の箱を蹴飛ばした。
地図のとおりにこの島にやってきたが、成果はさんさんたるものであった。
「船へ引き上げろ、野郎共!!」
「おお!!」
宝がない、となると決断も早い。
こんな島に用はない、とばかりに海賊たちはすばやく撤収作業に入っていた。
そんな中、一方を見つめる男がいた。
若き日のガイモンである。
今と比べて髪の毛のボリュームが小さい。つながったまゆ毛は同じだが。
ていうか、昔もまゆ毛つながってたんやん。
「おい、何してるガイモン。先に行くぜ」
「ああ・・・」
しかし、彼はその場を離れなかった。
「・・・そういや、あの大岩の前にこの3週間ずっと船長がいたんだよなァ。誰か探したのか?あそこ・・・」
そしてゆっくりと大岩によじ登っていった。
やっとのことので登りきった大岩の頂上で見たものに、彼は目を疑った。
「こ・・・こんな所に!み、見つけた!!」
そこには宝箱が5つ並んでいたのである。
「おォい、みん・・・!!!」
彼が仲間の方を向いた時だった。
掴んでいた岩の一部が崩れ、彼はまっさかさまに落ちて行った。
「─── その時だ。箱にハマったのは・・・。気絶から立ち直ると、仲間達はもう海の彼方にいた。財宝を独り占めできると思ったけどよ、箱にハマったままじゃ登れねェし、第一抜けねェし・・・」
「・・・それから20年間誰も来なかったのか?」
語り終わったガイモンに、ルフィが尋ねた。
「いや・・・来たさ、幾度となく。財宝狙いの海賊共がな・・・。全て追い払ってやった!”森の裁き”でな」
そしてガイモンは遠い目をしながら言った。
「目について離れねェのさ。あの時確かに大岩の上で見た財宝が!ただこの箱にハマっちまったが為に!おれは20年間財宝を守り続けてきた、あれはおれのだ!!!」
「うん、間違いねェ!そりゃおっさんのだ!!」
ガイモンの心の叫びに、ルフィは深くうなずいた。
ナミも賛同する。
「わかったわ、ガイモンさん!その宝、あなたの代わりに取ってあげるっ!」
「何、本当か!?よかった!お前らに話して本当によかった!」
ルフィが言った。
「・・・お前海賊専門の泥棒だったよな、たしか」
「バカな事言うな!私だって場くらいわきまえるわよっ!!」
ナミは思わず怒鳴った。
日ごろの行いですね。
しばらくして、ルフィ、ナミ、ガイモンの3人は大岩の前にたどり着いていた。
「ここがそうだ。おれも久しぶりだ・・・、ここへ来るのは」
ガイモンが感慨深げに岩を見上げる。
「でも何で、今までにこうやって頼まなかったんだよ、人に」
ルフィが言うと、
「誰も信用できなかった、それだけだ。少なくともおれの姿を見て、おれと話そうなんて奴はいなかった」
ガイモンはずっと悔しかったのだ。
目の前にお宝があるのに、取りにいけなかった自分が。
だから悔しくて、この岩に近づけなかった。
だが。
「ついにこの時が来たか!今日はいい日だ!!」
ようやく、この目で確かめられるのだ。
ナミがルフィの肩を叩いて言った。
「よし、行けっ」
「おれが行くのか」
「私が登れる訳ないでしょ、こんな大岩」
そりゃそうだ。
「頼むぞ、麦わら!!」
「よし・・・」
ガイモンの声援を受け、ルフィは一気に大岩の一番上まで手を伸ばした。
端を掴むと、びよーんと一気に飛び上がる。
「やった!」
そして少し経って、箱を抱えたルフィが顔を出した。
「あったぞ、宝箱!5個!!」
それを聞いたガイモンが期待に目を輝かせる。
「よっしゃでかした!ここへ落としてくれ、それを!おれに当たらんようにな、わっはっはっはっは・・・」
「いやだ」
ガイモンの笑い声をさえぎるように、ルフィは言った。
心なしか、顔が引きつっている。
「なに!?」
「な・・・、何バカな事言ってんのよ!冗談やめて、早く落としなさいよ!それ全部、こっちへ渡して!!!」
「いやだね、渡したくねェ!」
ナミの声にも、ルフィは聞かない。
「あんた、いい加減に・・・」
「いいんだ!もういい!渡したくないんなら!!」
ガイモンがナミを止める。
「いい訳ないじゃない!どうしてそんなこと言えるの?あの宝は・・・」
しかしガイモンは、ルフィを見上げて言った。
「麦わら!・・・お前は、いい奴だなァ・・・」
その目には涙が浮かんでいる。
「うすうすな・・・、もしかしたらってな・・・、思ってたんだ。・・・なるべく、考えないようにしてたんだが・・・」
ルフィは箱を抱えて座り込む。
「ないんだろう、中身が・・・」
ガイモンはこらえきれずに泣き出した。
「・・・うん、全部空っぽだ」
ルフィが静かに言う。
「宝の地図が存在する財宝には・・・、よくあることなんだ。地図を手に入れた時には、宝はすでに奪われた後だってことは・・・」
ガイモンがしゃくりあげる。
「そんな・・・、20年も守り続けた宝がただの箱だったなんて・・・」
ナミもショックだ。
しかし、そんな雰囲気を追い払うようにルフィは笑った。
「だっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!まァ、くよくよすんなよ、おっさん!20年でおれ達が来てよかったよ!あと30年遅かったら死んでたかもな!」
「麦わら・・・」
つられてガイモンも笑う。
「これだけバカみちまったら、後は”ワンピース”しかねェよ。おれともう一回海賊やろう!!」
「お前・・・、おれを誘ってくれるのか・・・!!!」
ルフィの言葉が本当に嬉しかった。
「─── 本当に、この島に残るのか?おっさん」
ルフィが残念そうに言った。
ガイモンはルフィたちを浜辺で見送っていた。
「ああ、誘ってくれて嬉しかったぜ。宝はなくなったが、”森の番人”は続けてぇんだ」
「どうして?」
ナミが尋ねる。
「あの森にはな、珍しい動物がたくさん住んでるんだ」
「ああ!変なヘビとか・・・ブタとかね」
「この島に来る奴らは、宝よりむしろ珍獣を狙う方が多かった。さすがに20年居りゃ動物達にも愛着がわく。あいつらを見捨てるわけにはいかねェ」
ルフィが言った。
「おっさんも珍獣だもんな」
「ブッ殺すぞ!」
・・・気を取り直して。
「それにな、宝がなくなって気が楽になった。おれは改めてこの島でのんびりやるさ!」
「そうか!残念だな、おっさん面白ェのに」
「お前には必ずいい仲間が集まる!”ワンピース”はお前が見つけて、世界を買っちまえ!」
「ああ、そうする!じゃあな!!」
二つの船を見送るガイモンの後ろには、珍獣たちが勢ぞろいして一緒に見送っていた。
船は再び、”偉大なる航路”へ進路を向ける ───
第21話 町
「勝った!!」
ルフィはバギーが消えていった空に向かい、高々と両腕を突き上げた。
澄み切った、青い空である。
「これであらためて仲間になるんだよな!」
ルフィは振り返って、ナミに笑いかけた。
「手を組むの」
ナミは言い直した。
「いいよ。あんた達といると儲かりそうだしね」
そして、かかえたお宝をいとおしげに抱きしめる。
「バギーったらさすがに財宝にこだわる奴だけあって、宝の質がいいの!これだけあれば一千万ベリーはくだらないはずよ」
ルフィはすたすたと、地面に転がっている麦わら帽子の元に近づいていった。
「─── ねえ、2こに分けたから半分持ってよ。この宝、重くてたまんないわ」
しかし、ルフィは麦わら帽子をじっと見つめている。
それは、バギーのナイフの跡が残る、無残な姿になっていた。
その様子に気づいたナミが気の毒そうに言う。
「そんなに大切なの?その帽子・・・」
「ああ、でもまあいいや。まだかぶれるし!バギーもぶっ飛ばしたから気は済んだ」
ルフィはにっと笑って、両手で帽子をしっかりとかぶった。
ルフィたちの目の前には、倒されたモージ、カバジ、熟睡するゾロ、気絶してるブードル・・・。
瓦礫の山の中には、バギーが倒されたことを知って気絶するフリをする海賊の手下達なんかもいたが、ルフィたちはそっちのことはすっかり忘れていた。
「おいゾロ、起きろ!行くぞ」
ルフィは寝ているゾロの頭をパンパンと叩いて起こす。
ゾロはむくっと起き上がった。反射的に刀の柄に手をやる。
「・・・ん?・・・、カタはついたのか・・・・」
「ああ、海図も宝も手に入れた」
「そうか・・・」
ゾロも周りの様子を見て、刀から手を放した。
そしてふらつく頭に手をやる。
「・・・あー・・・、ダメだ。歩けそうにねェ」
「あたりまえよ。それで歩けたら人とは認めないわよ、あんた達」
ナミが呆れたように言う。
「・・・なんでおれも入ってんだ」
「あんたが一番疑わしいのよ!!」
不思議そうに言うルフィに、ナミは思わず大声を出した。
ふと、ルフィは思い出した。
「そうだ、町長のおっさんも起こさなきゃな!」
その時、ルフィたちの背後で声がした。
「君達・・・」
振り向くと、老若男女たくさんの人達。
彼らはみんな手に、棒切れや竹刀などを携えている。
1人が言った。
「おれ達はこの町の住人だ。海賊達の仲間割れでも起きたのか・・・。何か知っていたら、教えてくれ!」
「何だ・・・、町の人達か。まだ仲間がいたのかと思った」
ナミがほっと息をつく。
「教えろと言われたら、教えない事もないんだけど・・・」
ナミの言葉が終わる前に、町民の一人が気づいた。
「あ!!町長っ!!!」
そしてみんながブードルに駆け寄り、抱き起こす。
「何て事だ!しっかりして下さい!」
「くそっ、一体ここで何があったんだ!」
「海賊達の仕業に違いない!」
町民が騒ぐ中、ルフィが一言、
「あ、ごめん。そのおっさんはおれがぶっ倒した」
言っちゃった。
「何!?」
町民達が一斉にルフィを睨む。
ナミは慌てた。
「ちょっと!そんなことわざわざ言わなくても」
「見てたろ」
「見てたけどそれには理由が・・・」
町民達がルフィたちに向け、手にした武器を構える。
「お前らうちの町長をこんな目にあわせといて、言い訳は聞かんぞ!!」
「何者だ!まさか海賊か!?」
─── う・・・、殺気!ここでうっかり、泥棒だの海賊だの言ったら殺されそう・・・!
「海賊だ!!」
言い切るルフィ。
ナミの心配は現実のものになってしまった。
「やっぱりそうか!!」
殺気立つ町民たち。
横ではゾロが腹を抱えて笑っていた。
「ばかっ!」
何で言うのよ!とばかりに怒るナミに、
「ほんとだろ!」
と、言い返すルフィ。
そして・・・、
「逃げろっ!」
ルフィはゾロと半分のお宝を、ナミはもう半分のお宝を抱えて一目散に駆け出した。
「追えェ!!」
「絶対逃がさんぞ!!」
「町長の敵をとってやる!!」
追いかける、町民達。
走りながら、ナミがルフィに文句を言った。
「何であんたは、話をややこしくすんのよ!」
それには答えず、ルフィは笑って言った。
「いい町だな」
「え?」
「町長のおっさん1人の為に、あんなにみんなが怒ってる!どんな言い訳しても、きっとあいつら怒るぜ!」
ナミは何も言えなかった。
そしてルフィたちは、路地へ逃げ込む。
追いかける町民達の前に立ちはだかったのは・・・、
「ワン!!!!」
「シュシュ!」
「犬っ」
ルフィたちが振り返ると、シュシュが町民達を威嚇していた。
「おいシュシュ!そこをどけ!」
「あいつら悪い海賊なんだ!」
しかし、シュシュは町民達に吠えかかる。
「どうして邪魔するんだ、シュシュ!」
「シュシュ!そこを通せ!!」
シュシュの吼える声を聞きながら、ルフィはにっと笑った。
ルフィたちは何とか追っ手を振り切り、港までたどりついた。
「はあー・・・、怖かった。シュシュのお陰で何とか逃げ切れたわ。何で私達がこんな目にあわなきゃなんないの?」
ナミが息をついた。
「いいだろ別に。おれ達の用は済んだんだから!」
「そりゃそうだけどさ・・・」
港には2艘の舟が舫ってあった。1艘はルフィたちの舟。
もう1艘は・・・、
「これお前の舟なのか?」
ルフィが目を見張った。
「かっこいいなー!いーなー!!」
その舟はなんだかムダにカラーリングされていた。
「・・・そうは思わないけど、私は。バカな海賊から奪ったの」
ナミがそう言った時だった。
「待ってたぜ、泥棒女っ!!!」
その当の舟から、3人の男達が顔を出した。
「あ・・・、あんた達は・・・」
ナミが驚く。
─── まさか、こんなところにいるなんて。
「ここにいれば帰ってくると思ったぜ」
「ぐっしっしっし。まさかこの港で、盗まれた舟に出会えるとは思わなかった」
「おれ達を忘れたとは言わせねェぞ・・・!」
すごむ3人組。
そうこいつらは、ナミがこの島に来る前にだましてお宝を奪った、あの3人組である。
「知り合いか?」
「まあ、ちょっとね・・・」
ルフィの問いに、ナミは苦笑いで答える。
「ちょっとじゃねェ、因縁の仲さ!」
男達が憤慨して言った。
男達はルフィたちに気づくと、
「仲間もいたのか、一緒にお仕置きしてやんなきゃなァ」
1人が舟を下りて、ルフィがかついていたゾロの頭をぺしぺし叩く。
「人の物を盗む事がどんなに悪い事なのか、なァおい、てめェシカトこいてんじゃねェぞコラ。しっかり顔上げろ」
「あァ!?」
ゾロはしっかり顔を上げた。
「!!!?」
「ぎいや~~~~~っ!!!」
まさかのゾロに、3人組は慌てて海を泳いで去っていった。
その頃町の中では。
「あ!町長気がつきましたか!」
ブードルがようやく目を覚ました。
「よかった無事で!」
「一体何があったんだい?町長・・・」
町民達が口々に言う中、ブードルは痛む頭を押さえて起き上がった。
「ぬう・・・、これは!」
ブードルは目を疑った。
彼の目の前に広がるのは、瓦礫の山。
彼が気を失う前までは、酒場があったのに!
「わしらが来た時には、もうこの状態だった」
年配の町民が言う。
「何も見ておらんのか?」
「・・・・・!」
「そうだ!」
若い町民が口を開いた。
「さっきまで妙な3人組がここにいて・・・」
「小童共・・・、あいつら生きておるのか!?」
ブードルは歯噛みした。
「・・・あのバカ!この年寄りに非道なマネを・・・よくも!」
「そのバカ共なら、たった今みんなで追っ払ってやったとこです!」
町民達が騒ぎ出す。
「だが気が済まん!まるで我々をあざ笑うかのようだった!」
「あんな奴らに、町を襲われた私達の悔しさがわかるもんか!」
「やっぱりあいつらとっ捕まえて・・・」
「やかましいっ!!!」
ブードルが町民達をさえぎるように怒鳴った。
「あいつらの文句を言っていいのはわしだけじゃ!!わし以外、あいつらを悪く言うことは許さん!!!」
「何を・・・!どうして海賊をかばうんですか、町長!」
「─── やつらめ、このまま消えるつもりか!」
ブードルは、町民達の問いには答えず、傷の痛みをこらえながら立ち上がった。
「港へ行ったのか!?」
「ええ・・・、港のほうへ逃げました・・・」
ブードルはそう聞くや否や、着ていた古めかしい鎧を脱ぎ捨てながら走った。
「くそっ!わしの町で勝手なことばかりしおって!お前らに言いたいことは山程あるぞ!!」
「よし、行くか!」
港では出港準備が完了したところだった。
二つの舟は、一つに3人が乗るにはそれぞれが小さすぎる。二つの舟を並べて航海する事にしたのだ。
帆を張ると、ナミの舟の帆にはあのマークが。
「お前、その帆バギーのマークついてんじゃねェか」
「だってあいつらの舟だもん。その内消すわ」
舫綱を外し、舟が港を離れる。
その時だった。
「おい待て小童共!!!」
ブードルが息を切らせて走ってきた。
─── わしは死んでもかまわんと思った・・・!
─── 絶望のうちに死んでもかまわんと考えていた・・・!!
そして。
「すまん!!!恩にきる!!!」
涙を流して、ブードルが叫ぶ。
ルフィたちはにっと笑った。
「気にすんな!楽に行こう!!」
明るく言うルフィに、
「言葉もないわ・・・」
ブードルは、町の恩人達を泣き笑いで見送った。
しばらくして、海の上。
「何ですって、宝を置いてきたぁ!?」
ナミの叫びが響き渡る。
「あんたには半分預けておいたのよ!?五百万ベリーよ!?」
「ああ、だって町ぶっ壊れて直すのに金がいるだろ」
しれっと言うルフィにナミが怒鳴る。
「あれは私の宝なの!」
そして、ルフィの船に飛び移りぐいぐいとルフィを海へ叩き落しにかかる。
「やめろ!おれは泳げないんだ!欲しけりゃもっかい取って来いよ!」
「そんな事できるか!!次やったら殺すわよ!!」
「だははははははははは・・・!」
それを見て、ゾロが笑う。
「ばーか」
ナミも笑った。
「・・・なんだ、笑ってんじゃんお前」
「うっさい!!」
ルフィの突っ込みに、ナミがゲンコツで答える。
「効かん!」
ゴムだから。
一行に新しく”泥棒のナミ”を迎え、二艘の舟は海を行く。
次に下り立つ島に待つ、”森の裁き”を知る由もなく。───
ルフィはバギーが消えていった空に向かい、高々と両腕を突き上げた。
澄み切った、青い空である。
「これであらためて仲間になるんだよな!」
ルフィは振り返って、ナミに笑いかけた。
「手を組むの」
ナミは言い直した。
「いいよ。あんた達といると儲かりそうだしね」
そして、かかえたお宝をいとおしげに抱きしめる。
「バギーったらさすがに財宝にこだわる奴だけあって、宝の質がいいの!これだけあれば一千万ベリーはくだらないはずよ」
ルフィはすたすたと、地面に転がっている麦わら帽子の元に近づいていった。
「─── ねえ、2こに分けたから半分持ってよ。この宝、重くてたまんないわ」
しかし、ルフィは麦わら帽子をじっと見つめている。
それは、バギーのナイフの跡が残る、無残な姿になっていた。
その様子に気づいたナミが気の毒そうに言う。
「そんなに大切なの?その帽子・・・」
「ああ、でもまあいいや。まだかぶれるし!バギーもぶっ飛ばしたから気は済んだ」
ルフィはにっと笑って、両手で帽子をしっかりとかぶった。
ルフィたちの目の前には、倒されたモージ、カバジ、熟睡するゾロ、気絶してるブードル・・・。
瓦礫の山の中には、バギーが倒されたことを知って気絶するフリをする海賊の手下達なんかもいたが、ルフィたちはそっちのことはすっかり忘れていた。
「おいゾロ、起きろ!行くぞ」
ルフィは寝ているゾロの頭をパンパンと叩いて起こす。
ゾロはむくっと起き上がった。反射的に刀の柄に手をやる。
「・・・ん?・・・、カタはついたのか・・・・」
「ああ、海図も宝も手に入れた」
「そうか・・・」
ゾロも周りの様子を見て、刀から手を放した。
そしてふらつく頭に手をやる。
「・・・あー・・・、ダメだ。歩けそうにねェ」
「あたりまえよ。それで歩けたら人とは認めないわよ、あんた達」
ナミが呆れたように言う。
「・・・なんでおれも入ってんだ」
「あんたが一番疑わしいのよ!!」
不思議そうに言うルフィに、ナミは思わず大声を出した。
ふと、ルフィは思い出した。
「そうだ、町長のおっさんも起こさなきゃな!」
その時、ルフィたちの背後で声がした。
「君達・・・」
振り向くと、老若男女たくさんの人達。
彼らはみんな手に、棒切れや竹刀などを携えている。
1人が言った。
「おれ達はこの町の住人だ。海賊達の仲間割れでも起きたのか・・・。何か知っていたら、教えてくれ!」
「何だ・・・、町の人達か。まだ仲間がいたのかと思った」
ナミがほっと息をつく。
「教えろと言われたら、教えない事もないんだけど・・・」
ナミの言葉が終わる前に、町民の一人が気づいた。
「あ!!町長っ!!!」
そしてみんながブードルに駆け寄り、抱き起こす。
「何て事だ!しっかりして下さい!」
「くそっ、一体ここで何があったんだ!」
「海賊達の仕業に違いない!」
町民が騒ぐ中、ルフィが一言、
「あ、ごめん。そのおっさんはおれがぶっ倒した」
言っちゃった。
「何!?」
町民達が一斉にルフィを睨む。
ナミは慌てた。
「ちょっと!そんなことわざわざ言わなくても」
「見てたろ」
「見てたけどそれには理由が・・・」
町民達がルフィたちに向け、手にした武器を構える。
「お前らうちの町長をこんな目にあわせといて、言い訳は聞かんぞ!!」
「何者だ!まさか海賊か!?」
─── う・・・、殺気!ここでうっかり、泥棒だの海賊だの言ったら殺されそう・・・!
「海賊だ!!」
言い切るルフィ。
ナミの心配は現実のものになってしまった。
「やっぱりそうか!!」
殺気立つ町民たち。
横ではゾロが腹を抱えて笑っていた。
「ばかっ!」
何で言うのよ!とばかりに怒るナミに、
「ほんとだろ!」
と、言い返すルフィ。
そして・・・、
「逃げろっ!」
ルフィはゾロと半分のお宝を、ナミはもう半分のお宝を抱えて一目散に駆け出した。
「追えェ!!」
「絶対逃がさんぞ!!」
「町長の敵をとってやる!!」
追いかける、町民達。
走りながら、ナミがルフィに文句を言った。
「何であんたは、話をややこしくすんのよ!」
それには答えず、ルフィは笑って言った。
「いい町だな」
「え?」
「町長のおっさん1人の為に、あんなにみんなが怒ってる!どんな言い訳しても、きっとあいつら怒るぜ!」
ナミは何も言えなかった。
そしてルフィたちは、路地へ逃げ込む。
追いかける町民達の前に立ちはだかったのは・・・、
「ワン!!!!」
「シュシュ!」
「犬っ」
ルフィたちが振り返ると、シュシュが町民達を威嚇していた。
「おいシュシュ!そこをどけ!」
「あいつら悪い海賊なんだ!」
しかし、シュシュは町民達に吠えかかる。
「どうして邪魔するんだ、シュシュ!」
「シュシュ!そこを通せ!!」
シュシュの吼える声を聞きながら、ルフィはにっと笑った。
ルフィたちは何とか追っ手を振り切り、港までたどりついた。
「はあー・・・、怖かった。シュシュのお陰で何とか逃げ切れたわ。何で私達がこんな目にあわなきゃなんないの?」
ナミが息をついた。
「いいだろ別に。おれ達の用は済んだんだから!」
「そりゃそうだけどさ・・・」
港には2艘の舟が舫ってあった。1艘はルフィたちの舟。
もう1艘は・・・、
「これお前の舟なのか?」
ルフィが目を見張った。
「かっこいいなー!いーなー!!」
その舟はなんだかムダにカラーリングされていた。
「・・・そうは思わないけど、私は。バカな海賊から奪ったの」
ナミがそう言った時だった。
「待ってたぜ、泥棒女っ!!!」
その当の舟から、3人の男達が顔を出した。
「あ・・・、あんた達は・・・」
ナミが驚く。
─── まさか、こんなところにいるなんて。
「ここにいれば帰ってくると思ったぜ」
「ぐっしっしっし。まさかこの港で、盗まれた舟に出会えるとは思わなかった」
「おれ達を忘れたとは言わせねェぞ・・・!」
すごむ3人組。
そうこいつらは、ナミがこの島に来る前にだましてお宝を奪った、あの3人組である。
「知り合いか?」
「まあ、ちょっとね・・・」
ルフィの問いに、ナミは苦笑いで答える。
「ちょっとじゃねェ、因縁の仲さ!」
男達が憤慨して言った。
男達はルフィたちに気づくと、
「仲間もいたのか、一緒にお仕置きしてやんなきゃなァ」
1人が舟を下りて、ルフィがかついていたゾロの頭をぺしぺし叩く。
「人の物を盗む事がどんなに悪い事なのか、なァおい、てめェシカトこいてんじゃねェぞコラ。しっかり顔上げろ」
「あァ!?」
ゾロはしっかり顔を上げた。
「!!!?」
「ぎいや~~~~~っ!!!」
まさかのゾロに、3人組は慌てて海を泳いで去っていった。
その頃町の中では。
「あ!町長気がつきましたか!」
ブードルがようやく目を覚ました。
「よかった無事で!」
「一体何があったんだい?町長・・・」
町民達が口々に言う中、ブードルは痛む頭を押さえて起き上がった。
「ぬう・・・、これは!」
ブードルは目を疑った。
彼の目の前に広がるのは、瓦礫の山。
彼が気を失う前までは、酒場があったのに!
「わしらが来た時には、もうこの状態だった」
年配の町民が言う。
「何も見ておらんのか?」
「・・・・・!」
「そうだ!」
若い町民が口を開いた。
「さっきまで妙な3人組がここにいて・・・」
「小童共・・・、あいつら生きておるのか!?」
ブードルは歯噛みした。
「・・・あのバカ!この年寄りに非道なマネを・・・よくも!」
「そのバカ共なら、たった今みんなで追っ払ってやったとこです!」
町民達が騒ぎ出す。
「だが気が済まん!まるで我々をあざ笑うかのようだった!」
「あんな奴らに、町を襲われた私達の悔しさがわかるもんか!」
「やっぱりあいつらとっ捕まえて・・・」
「やかましいっ!!!」
ブードルが町民達をさえぎるように怒鳴った。
「あいつらの文句を言っていいのはわしだけじゃ!!わし以外、あいつらを悪く言うことは許さん!!!」
「何を・・・!どうして海賊をかばうんですか、町長!」
「─── やつらめ、このまま消えるつもりか!」
ブードルは、町民達の問いには答えず、傷の痛みをこらえながら立ち上がった。
「港へ行ったのか!?」
「ええ・・・、港のほうへ逃げました・・・」
ブードルはそう聞くや否や、着ていた古めかしい鎧を脱ぎ捨てながら走った。
「くそっ!わしの町で勝手なことばかりしおって!お前らに言いたいことは山程あるぞ!!」
「よし、行くか!」
港では出港準備が完了したところだった。
二つの舟は、一つに3人が乗るにはそれぞれが小さすぎる。二つの舟を並べて航海する事にしたのだ。
帆を張ると、ナミの舟の帆にはあのマークが。
「お前、その帆バギーのマークついてんじゃねェか」
「だってあいつらの舟だもん。その内消すわ」
舫綱を外し、舟が港を離れる。
その時だった。
「おい待て小童共!!!」
ブードルが息を切らせて走ってきた。
─── わしは死んでもかまわんと思った・・・!
─── 絶望のうちに死んでもかまわんと考えていた・・・!!
そして。
「すまん!!!恩にきる!!!」
涙を流して、ブードルが叫ぶ。
ルフィたちはにっと笑った。
「気にすんな!楽に行こう!!」
明るく言うルフィに、
「言葉もないわ・・・」
ブードルは、町の恩人達を泣き笑いで見送った。
しばらくして、海の上。
「何ですって、宝を置いてきたぁ!?」
ナミの叫びが響き渡る。
「あんたには半分預けておいたのよ!?五百万ベリーよ!?」
「ああ、だって町ぶっ壊れて直すのに金がいるだろ」
しれっと言うルフィにナミが怒鳴る。
「あれは私の宝なの!」
そして、ルフィの船に飛び移りぐいぐいとルフィを海へ叩き落しにかかる。
「やめろ!おれは泳げないんだ!欲しけりゃもっかい取って来いよ!」
「そんな事できるか!!次やったら殺すわよ!!」
「だははははははははは・・・!」
それを見て、ゾロが笑う。
「ばーか」
ナミも笑った。
「・・・なんだ、笑ってんじゃんお前」
「うっさい!!」
ルフィの突っ込みに、ナミがゲンコツで答える。
「効かん!」
ゴムだから。
一行に新しく”泥棒のナミ”を迎え、二艘の舟は海を行く。
次に下り立つ島に待つ、”森の裁き”を知る由もなく。───
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