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第10話 酒場の一件

「盗まれた"偉大なる航路(グランドライン)”の海図が戻った!!そして新しい船員も加わった!!おれ達の航海は実に快調だ!!!」

バギー海賊団が占拠している酒場、”ドリンカーパブ”の屋上では、海図が戻ったことで宴が開かれていた。
海賊はすぐ宴を開く。ちょっとでもいい事があればすぐだ。
宴を開くことで、みんなで喜び、騒ぎ、結束を高める。
バギー海賊団も例外ではなかった。

「さァ、存分に飲め!!ハデに騒いで次の戦いに活気をつけろ!!!」
「うおおおおお───っ!!!」

バギーの言葉に、手下共が騒ぎ始める。
次々と飲み干される酒、よっぱらってテーブルの上で騒ぐ者、歌いだす者・・・。
その中に、新しく仲間に加わったナミもいた。

「ナミ!!飲んでるか、この野郎ォ!!」
「うっす!!いただいてます、バギー船長っ!!」

ナミが酒の入ったジョッキを掲げる。
荒くれ達の中で、そこだけ少し異質だった。

「おい新顔っ!!飲み競べだァ」

そんな彼女に、手下の一人が勝負を挑む。

「よしきた!」

受けて立つ、ナミ。
勝負がつくのに、時間はかからなかった。

「勝ちっ」

ナミは飲み干したジョッキを逆さに掲げる。
挑んだ手下は、床にひっくり返っていた。

─── ふふっ、私のお酒の強さは尋常じゃないのよ!
─── このペースでみんな飲み続けてくれたら、予想外に簡単にお宝を頂けそう!
─── まったく、海賊ってのは単純でやりやすいわ。

ナミは海賊たちを眺めてほくそ笑んでいた。

そんな中、ただ一人宴に参加していない者がいた。ルフィだ。
小さな鉄の檻に閉じ込められた彼は、脱出しようと必死で鉄柵をかじっていた。

「あー、楽しそうだなー。やっぱこうだよなー、海賊って!!」

・・・参加したいが為か。

「ん?」

気がつくと、ルフィの目の前にナミが座り込んでいた。

「どう?調子は、親分!」

ナミが笑って言う。

「うるせェ!こっから出せ!!はらも減ってる、なんか食わせろ!」

そんなルフィに、ナミは肉一切れを宴のテーブルから失敬してきて食べさせてやった。

「うまいっ。お前いい奴だなー、やっぱ仲間にしてやろうか」

もぐもぐしながらルフィが言う。
現金なもんである。

「いらないわよっ!!」

ナミが怒鳴る。

「あんた今の自分の立場わかってんの?このまま、きっとどっかへ売り飛ばされちゃうのよ」

まあ、そんなことになったのは彼女のせいなのだが。

「でも、ま、私の仕事が万事うまくいったら、この檻の鍵くらい開けて逃がしてあげるわ。私、あんたに全く恨みないし」
「じゃ、今開けろ」

「ぶわっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

ナミの背後で大きな笑い声。
バギーだった。

「大変な子分を持っちまったなァ!!コソ泥親分っ!!」
「何言ってんだ、そいつは子分なんかじゃねェ!」

ルフィがむくれて言う。

「あーあー、そう言いてェ気分だろうよ。なんせ裏切られちまったんだもんなァ」

バギーは気の毒そうなフリをする。

「返しては貰ったものの、このおれの宝に手をつけた罪は重い!!てめェの処分は決まってる」

そう言ってバギーは檻の中のルフィに顔を近づけた。

「逃がしてくれんのか?」
「そうだ、お前を逃がして・・・、逃がすかっ!!!」

危うくルフィのペースにのせられそうになる。
バギーは騒いでいる手下どもに向かって命令を出した。

「野郎共!!!”特製バギー玉”準~~~備っ!!!」
「うおおおおお」

ういやっほーう!っと手下達は勇んで大砲を用意する。

「バギー玉セット、完了しました!!」

手下が手にした砲弾には、バギーの海賊旗のマークであるピエロのドクロマークが描かれている。

「よし見せろ、その威力っ!!!」

手下は大砲の標準を傍の建物に合わせる。
そして・・・。
「!!!」

ドゴゴゴゴゴォン!

大砲から放たれた玉は、通りに建てられた建物を根こそぎ破壊する。
通りは瓦礫の山と化した。
ナミはその衝撃に声が出ない。

「まさにド派手っ!!!下手な町なら一発で消し飛ばす代物だ!!!こいつとおれの悪魔の実の能力でおれは"偉大なる航路”をも制してやるっ!!」

バギーの言葉に、手下たちも気勢を上げる。

「さァ撃て、ナミ!!」

バギーが叫ぶ。

「お前の元親分をこのバギー玉で消し飛ばし、おれ様への忠誠と、ともに世界を制す大いなる野望をここに誓うのだ!!元親分を派手に殺してみせろ!!!」

そして大砲の照準がルフィに合わせられる。

「あいつを殺す・・・!?私が・・・!?」

ナミは焦った。

「い・・・、いえ!!バギー船長。私は結構です・・・!!」

そしてなだめるように話を逸らす。

「それより・・・、そうだっ!お酒っ!酒を飲みましょう、あんなのほっといて!」
「やれ」

しかしバギーには通じなかった。

「え・・・」

「やれやれーっ、景気よくブッ放せェ!!」
「撃ーてっ。撃ーてっ」

周りの手下どもは、ナミの気も知らず囃し立てる。
撃て、のコールが響く中、ナミは動けずにいた。





─── ・・・まいった・・・、こんなことになるなんて・・。
─── これを撃たなきゃ、私はきっと殺されるわ・・・!!
─── でも、いくらこいつが海賊だからって・・・、むやみに人を殺せば、私も海賊と同類じゃない!!!

ルフィは黙ったままナミを見つめている。
業を煮やしてバギーは怒鳴った。

「ナミ!!!しらけさせんじゃねェ、早く点火しろ!!!」

その声にビクつくナミ。

─── やらなきゃ・・・、でも・・・。

葛藤しながら恐る恐る大砲に近づく。

「─── 手がふるえてるぞ」

ルフィが口を開いた。

「中途半端な覚悟で海賊を相手にしようとするから、そうなるんだ」

ルフィはにっと笑っていた。
およそ、大砲で狙われてる者の様子ではない。

「・・・!覚悟って何よ。人を簡単に殺してみせる事がそうなの?それが海賊の覚悟・・・?」

ナミはあぶら汗をかきながら言った。

「違う」

ルフィは言った。

「自分の命をかける覚悟だ!!」

ルフィの言葉に、震えが止まる。

未だ続く、撃て、の声の嵐の中、一人の手下がナミの手からマッチを奪い取った。

「おい新顔、じらすなよ。点火の仕方知らねェのか?火をこの導火線にボッと・・・」

手下が火をつける。
ナミは足に仕込んであった組み立て式の棒を手に取ると、その手下を思いっきり打ち負かした。

「な!!!?」

海賊たちの顔色が変わる。

「はっ・・・」

─── しまった・・・!つい・・・。

その様子を見てバギーが怒る。

「ナミ、てめェどういうつもりだァ!!!せっかくこのおれが部下に迎え入れてやろうってのに、あァ!!!」

ルフィも少し驚いて言った。

「何だお前、今さらおれを助けてくれたのか?」
「バカ言わないで!!」

ナミが海賊たちを警戒しながら言う。

「勢いでやっちゃったのよ!!・・・たとえマネ事でも、私は非道な海賊と同類にはなりたくなかったから!!私の大切な人の命を奪った、大嫌いな海賊と同類には・・・!!!」
「・・・あー、それで嫌いなのか、海賊が・・・」

その時、ルフィは気づいた。

「あ───っ、導火線に火がついてる───っ!!!」

殴り倒された手下は、しっかり役目は果たしていたのだ。

「やべ───!!!死ぬ───っ!!!」

ルフィはさっきよりも必死に鉄柵にかじりついた。
導火線は確実に短くなっていく。

「人をおちょくるのもたいがいにしろ小娘!!ハデに殺せ!!!」
「ハデに死ねェ!!!」

手下共がナミに襲い掛かる。

「まだ火が・・・」

襲い掛かってくる海賊たち。短くなる導火線。

「くそォっ、消し飛ぶっ!!!」

檻の中で必死にあがくルフィ。

ナミは突っ込んでくる海賊たちに向かって、棒を思いっきり振り回した。
だが。

「当たりませーん!!!」

海賊たちは嘲るようにナミの攻撃をかわす。

「死んでたまるかァっ!!!」

あともう少しで玉が発射する!
その時だった。
ナミは持っていた武器を放り出し、導火線を素手で握った。

「あつ・・・!!!」
「・・・!?お前・・・」

ナミの意外な行動に、驚くルフィ。
しかし、海賊たちはもうナミの真後ろに迫っていた。

「後ろっ!!!」

バキッ!!

「─── 女一人に何人がかりだ」

二本の刀で、突っ込んできた海賊たちを全て止める。

「ゾロォ!!!!」

ゾロがようやくルフィの元にたどり着いたのだ。





「ケガは?」
「ええ、平気・・・」

ゾロはナミを気遣うと、ルフィの方を見やる。

「やー、よかった。よくここがわかったなァ!!早くここから出してくれ」

のんきに言うルフィに、ゾロは呆れて言った。

「お前なァ・・・。何遊んでんだ、ルフィ。鳥に連れてかれて、見つけてみりゃ今度は檻の中か。アホ!」

「・・・ゾロ?」

ルフィの言葉に、海賊たちはざわめいていた。

「おい、あいつ・・・ゾ、ゾロって言わなかったか?」
「”海賊狩りのゾロ”か!?何で泥棒と喋ってんだ・・・!?」

ナミも驚いていた。

「あいつの言ってた仲間って・・・、"海賊狩りのゾロ”のこと・・・!?どうなってんの?」

バギーがゆっくりとゾロに近づく。

「・・・貴様、ロロノア・ゾロに間違いねェな。おれの首でも取りに来たか?」
「いや・・・、興味ねェな。おれはやめたんだ、海賊狩りは」
「おれは興味あるねェ」

バギーがナイフをくるくると回す。

「てめェを殺せば、名が上がる」
「やめとけ、死ぬぜ」

バギーの登場に、手下共が叫んだ。

「うおおお、やっちまえェ船長!!ゾロを斬りキザめぇ!!!」

「本気で来ねェと、血ィ見るぞ!!!」

ナイフを手に、バギーがゾロに襲い掛かる。

「・・・!そっちがその気なら・・・!!!」

両手、そして口に咥えた三刀流の刃が閃く。

ズバッ!!

一瞬のうちに、バギーは斬り刻まれ、バラバラになっていた。

「うわっ、よえーなあいつっ!」

あまりの手ごたえのなさに、ルフィが驚く。

「うそ・・・」

ナミも目の前の出来事が信じられないようだ。

「へへ・・・」

だが、彼の手下たちだけは不敵な笑みを浮かべていた。
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第9話 魔性の女

「そう!私は海賊からお宝を盗む泥棒っ!」

ナミは軒先に腰掛け、足をぶらぶらさせながら、楽しそうに言った。

「私と組めば儲かるわよ!」
「いやだ!おれは別にお前と組みたくねェ」

ルフィは興味なさそうに、すたすた歩いて行く。

「ちょっと待ってよ!」

ナミは軒先から飛び降り、慌てて追いかけた。
追いつくと、ルフィの麦わら帽子を指して言う。

「そういえばさ、その帽子何なの?さっきそれ傷つけられて、怒ったじゃない。高いの?」

─── 帽子が飛ばされただけで吹っ飛ばすんだもん、何か価値があるものに違いないわ。

「これはおれの宝物だ!」

ルフィが帽子を押さえて言った。

「へえ、宝物・・・!中に宝石でも入ってたり・・・、あ!もしかして宝の地図!?」
「うるせーなー、おれは忙しいんだよ」

急に引っ付いてきた女の子に、ルフィはうっとおし気に言った。







その頃、海賊達が占拠している酒場の屋上では、バギーが手下の海賊達に苛立ちをぶちまけていた。

「まだ捕まらんのか、泥棒は・・・」
「た・・・只今追跡中のハズです。バギー船長」

手下の下っ端海賊の1人が、なだめるように訴える。
バギーが叫んだ。

「だいたい何でそう簡単に、”偉大なる航路(グランドライン)”の海図を盗まれるんだ!!!あァ!!?これから”偉大なる航路”へ入って、一暴れしようって時にだぜ・・・!!」

下っ端海賊がバカ正直に言った。

「それが船長、ほんの手違いで海図を保管してた小屋の鍵が、つけっぱなしに・・・!!」
「何だと・・・!?」

バギーは聞き逃さなかった。

「ですから、つけっぱなしに・・・」
「誰がつけっ鼻だァ!!」
「ええ!!?」

そうなのだ。
バギーの見た目は実はピエロそっくりなのだ。
好き好んでこの容姿にしているわけではない。顔の真ん中に鎮座する、赤くて丸い大きな鼻は正真正銘、バギーの自前の鼻だった。
当然、コンプレックスの塊である。
気にしすぎが故、部下達のなんでもない言葉にも過剰に反応するのだ。
ちなみに、船長がピエロならその手下どもは着ぐるみだの三角帽だのをかぶっている。
さながら、サーカス団のようだった。

そして、今日もサーカスの団長・・・じゃない、海賊団の船長のバギーは手下に対して怒っている。
まあ言えば、八つ当たりである。

「この鼻が自前じゃ可笑しいか?つけっ鼻みたいで」
「そ・・・、そんなこと!!マッタクの誤解ですっ!!」

バギーの恐さをよく知る下っ端は、恐れをなして言った。
しかし。

真っ赤でデカイですだァア!!?ハデに死ねェ~~~っ!!!」

見事なまでの脳内変換。

「ええェ~~~っ!!?」

そりゃ、”ええー”だろう。

「ま・・・待って下さい、船長!!!おれはそんなこと・・・!!!」
「おれは誰だ!!!」

バギーがすごむ。
そして、下っ端から離れ、椅子にどっかと座り込んだ。

「うがっ!!!バ・・・バギーせん・・・ちょ」

突然下っ端が苦しみだした。
その上不思議なことに、首を押さえた下っ端は少しづつ中に浮いていく。

「!!!・・・く、・・・くるじいっ!!!」

下っ端は足をばたつかせるが、足はもう地面には届かない。

「・・・でた!!あ・・・、悪魔の実の能力っ!!!」

他の下っ端たちがどよめく中、バギーは命令を出した。

「大砲用意!!」

そしてふわふわと宙に浮く下っ端に向け、大砲が即座に準備される。

「おれは何も・・・!!だ、だすけで」

許しを請う下っ端は、もう息も絶え絶えである。
しかしバギーは叫んだ。

「吹き飛ばせ!!ハデにな!!」
「ああああああ!!!」

ドゴォォン!!!

下っ端に向け、放たれる砲弾。
バギーはそれには目もくれず、他の手下どもに命令する。

「海図は必ず取り返せ!!それと、この町の金品をさっさと回収しちまえ!!」
「は・・・、はいっ!!!バギー船長っ!!!」

吹き飛ばされた仲間の二の舞にならぬよう、他の手下どもは怯えて返事するのだった。







さて一方の、ルフィとナミ。
2人はとある民家の中にいた。

「へー、海で仲間とはぐれちゃったんだ。何人?」
「1人だ、ここお前んちなのか?」

ルフィは、テーブルに腰掛けたナミに言った。
自分は椅子にちょこんと座っている。

「ううん、私、旅の泥棒だもん。ここは知らない人の家。この町の人達は、みんな町のハズレに非難してるの。酒場にいるバギーたちを避ける為にね」
「ふーん、そんなに怖ェのか、そのナミーって海賊は」
「ナミは私だ!!海賊はバギー!!!」

いっしょにすんなっ!!と、ナミが怒鳴る。

「バギーはね、大砲好きで有名な海賊なの」

ナミがバギーについて知っていることを話した。

「どこだかの町で子供に自分の鼻をバカにされたからって、大砲でその町一つ消し飛ばしたって話もあるし、その上、妙な奇術を使うとも聞いてるわ」
「─── しかし、何でこの町誰もいねェんだ」
「みんな避難してるって言ったじゃない!!聞いてろ!!」
「ああ、だからお前空き巣やってんのか」
「しっつれいね!!私は海賊専門の泥棒だって、言ってるでしょ!?」

ナミは声を荒げる。

「下等な空き巣なんかと一緒にしないで!!あんたとしゃべってると疲れるわ!!」
「まあ、おちつけよ」

ははっと笑うルフィに、ナミはため息をつく。

「─── 私の目標はね」

ナミは自分のことを少し話す。
表情がこれまでとは違っていた。

「何が何でも一億ベリー稼ぐ事!!そしてある村を買うの」
「村を買う!?一億ベリーなんて大金、並の海賊じゃあ・・・」
「策はあるわ」

不思議そうに言うルフィに、ナミは隠していた海図を取り出した。

「見て、これは今盗んできた”偉大なる航路”の海図!まずこの町で”道化のバギー”にお宝をいただいたら、私は”偉大なる航路”へ入って、もっともっと大物の海賊のお宝を狙うつもり!!」

ナミはにっと笑う。

「どう?私と組んで大儲けしない?あんたの強さ、使えるのよ。分け前ははずむから!」
「─── もしかしてお前、航海術持ってんのか?」

ルフィは期待を込めて尋ねた。

「ん!当然っ!!ナメてもらっちゃ困るわ!航海の腕にかけては、私の右に出る者はそうそういないでしょうね。私、海大好きだもの」
「そうかっ!」

ルフィが喜ぶ。

「やった!!ちょうどいい!!おれ達も、今”偉大なる航路”を目指してるんだ!!」
「ほんと!?」

ナミも期待を込める。

「ああ!!お前”航海士”としておれ達の仲間になってくれよ!!海賊の仲間に!!」

「!!・・・いやっ!!」
「?」

ルフィの言葉に、ナミの態度が豹変した。

「・・・ハ、・・・あんた海賊だったの」

ナミがルフィを拒絶するように手を振る。

「─── やめやめ!今の話、全部ナシ!やっぱ、あんたとは組みたくないわ」

そして、何か合点がいったようだ。

「─── ははーん、なるほどね・・・。だからその地図で宝探しってわけ・・・」

そう言って、麦わら帽子を指す。

「これは宝の地図なんかじゃねェって、言ってるだろ!」
「うそよ!じゃあ何!そんなボロい帽子、宝だなんて」

ルフィは帽子を脱ぎ、誇らしげに見つめながら言った。

「これは昔、友達から受け取ったおれの大切な宝物なんだ!!仲間を集めて海賊になる事を、おれはこの帽子に誓った」

「ふんっ!!海賊海賊って、バカな時代だわ!!」

ナミはテーブルから下りた。

「私が世界で一番嫌いなものはね、海賊なの!!!!好きなものはお金とみかん」

ナミの本心だった。
好きなものも含めて、これだけは譲れない。

─── あーあ、なーんだ。こいつも能無しの略奪者か・・・。
─── かといって、盗むお宝なんて持ってなさそうだし、何か役に立たないかしら・・・。

「おい、航海士になってくれよ!」

ナミの言葉も気にせず、ルフィは彼女を勧誘する。

「やだっつってんでしょ!!」

その時、ナミの頭に悪知恵が浮かんだ。

─── そ~~~~~だっ!

いたずらっ子のような表情で、ルフィに言った。

「─── まァ、でも困ってるみたいだから、条件をのんでくれたら考えてもいいわ」
「本当か!そうなんだ、困ってんだ。条件って何だ?」

ルフィは喜んで、素直に尋ねる。

「私と一緒にバギーの所へ行ってほしいの。別に何もしなくていいわ、ただそれだけ!」
「よっしゃ行こう。どこに居るんだ、バギーは」

そう聞くや否や、ルフィはニコニコしながら、すたすたと出口へ向かった。

「ちょっと待って、準備もあるのよ、一応!」

慌ててルフィを止めると、ナミは家の奥に行き、何やらごそごそ。
しばらくして戻ってきた彼女の手には、ロープが握られていた。

「何だそのロープ」

ルフィが不思議そうに聞く。
それに対して、ナミは満面の笑顔で言った。

「ただのロープよ。問題ある?」

─── 誰が海賊なんかになりますか!

ナミは心の中で、にやりと笑った。





2人はがらんとした町をてくてく歩く。
しばらくして、目的地にたどり着いた。

「この道のつきあたり、あそこよ、海賊達のいる酒場は」

ナミが奥に見える建物を指す。

「─── で、何しに行くんだ?」

何の疑いもなくルフィは尋ねる。
そのとたん、

「それは行ってのお楽しみよ!!海賊のおにーさん!!」
「げ!何すんだ」

ルフィは、あっという間にナミが持っていたロープで縛り上げられてしまった。







さて、場所は戻って酒場の屋上。
バギーは、盗まれた海図を追っていた手下たちから報告を受けていた。

「なんだとォ!!!海図泥棒に逃げられただァ!!?てめェら、怪力男3人揃って何てザマだ!!!!」

悲しいお知らせだったようだ。
手下達は必死で言い訳をする。

「申し訳ありません、バギー船長!!」
「しかし!!本当にやたら強い奴で!!その・・・、麦わら帽子をかぶった・・・親分が!!!」

「ハデに死ねェ~~~っ!!!」
「!!!うわあ~~~~~っ!!!」

「バギー船長!!」

あわや先ほどの手下の二の舞、というところで、また別の手下が驚きを隠せない様子でバギーに報告に走ってきた。

「どうしたァ!!!」
「さっきの泥棒が・・・、自分から来てますが・・・!!」
「よォし!!ここへ連れて来い!!・・・・・って、何ィ!?自分から来ただと!!?どういうことだァ!!」

バギーが驚く。

「わかりませんが・・・、来てます」
「よォし!!ここへ連れて来い!!」

やってきた者を見て、言い訳していた手下達が叫ぶ。

「あっ!!こいつ!!こいつですよ、バギー船長!!」
「空から降ってきた泥棒の親分!!」

そしてバギーの目の前に、ロープでぐるぐる巻きに縛られたルフィが、ナミに放り投げられた。

「泥棒を捕まえてきました、道化のバギー船長!!海図はお返しします!」

そう言ってナミは、盗んだ海図を取り出す。

「こんにゃろ、だましたな!!」

床に転がったまま怒るルフィに、ナミはペロッと舌を出す。
そんな2人に、バギーは凄んで言った。

「よく返しに来てくれたな。だが・・・、どういう事だ・・・?」

その問いに、ナミは笑顔で言う。

「親分とケンカしました!もう、うんざりです。私をバギー一味に入れてください!!」
「は?」

意外な返事だったが、バギーはすぐさま笑い出した。

「ぶわ───っはっはっはっはっはっはっは!!もう、うんざりか!はっはっ、面白れェ女だ、よし気に入った!!部下にしてやる!!」

ナミは作り笑顔でそれに答える。

─── 潜入成功っ!これでバギーのお宝も、”偉大なる航路”の海図も全部いただいて、この町から逃げてやる!!

そしてルフィは鉄格子がはめられた小さな檻に入れられてしまった。

「あいつはもう、仲間にしてやらん!!」

その中で一人むくれていた。







ちょうどその頃、オレンジの町の港では。

「つきました、ゾロのだんな!!」

ゾロが拾った海賊達に小船を漕がせ、ようやく彼はこの町に到着した。
まあ、海賊達がいたからこそ、ちゃんと着くことができたのだろう。
これがゾロ一人だと・・・、きっともう二度とルフィに会えなかったに違いない。
・・・本人はそんなこと、露ほども思ってないだろうが。
よかった。一人じゃなくてほんとによかった。

辺りを見回して、ゾロが言う。

「何だ・・・、がらんとした町だな。人気がねェじゃねェか・・・」
「はあ、実はこの町、我々バギー一味が襲撃中でして・・・」

海賊が答える。
その横で、あとの2人がこそこそ話し合っていた。

「・・・どうする、バギー船長に何て言う。手ぶらだぜおれ達」
「そりゃ、あったことをそのまま話すしかねェだろ!!どうせあの女は、海の彼方だ」

ゾロが言った。

「じゃあ、とりあえずそのバギーってのに会わせてくれ。ルフィの情報が聞けるかも知れねェ」







 管理人ひとことこめんと
バギー登場。
ルフィにとっては初の能力者の敵です。
初めての敵ってことでおだっち先生にも思い入れがあるのか、まさかこんなに長いお付き合いになるとはねw
私結構好きです、バギー。
運の良さならルフィ並かもね、この人。

第8話 ナミ登場

シェルズタウンを後にし、ルフィとゾロの2人は次の島へ向け、のんびりと航海していた。
天気は快晴。波も穏やか。しかし ───。

「あ───、腹へった───」
「・・・・・」

軽く遭難しかけである。

それもそのはず、2人が乗った小さな船には水の入った樽一つ、あとは自分たちの旅の道具くらいしかないのだ。
およそ、”偉大なる航路(グランドライン)”へ向け航海しようというような船の装備ではない。

「─── だいたい、お前が航海術持ってねぇってのはおかしいんじゃねェか?」
ゾロが呆れて言った。

「おかしくねェよ、漂流してたんだもんおれは!」
ルフィが言い返す。

・・・威張って言うことではない。

「お前こそ、海をさすらう賞金稼ぎじゃなかったのかよ」
「おれはそもそも賞金稼ぎだと名乗った覚えはねェ」

ゾロは言う。

「ある男を探しにとりあえず海へ出たら、自分の村へも帰れなくなっちまったんだ。仕方ねェからその辺の海賊船を狙って生活費を稼いでた・・・。それだけだ」
「何だ、お前迷子か」
「その言い方はよせ!!」

ゾロが怒鳴る。

・・・図星だったのだろうか。

「まったく・・・!航海もできねェなんて、海賊が聞いて呆れるぜ!」

ゾロがため息をつく。

「これじゃ”偉大なる航路”も目指しようがねェ。早ェとこ”航海士”を仲間に入れるべきだな」
「あと、”コック”とさ”音楽家”とさァ・・・」
「んなモンあとでいいんだよ!!!」

そして2人は同時に倒れこんだ。

「腹へった」

それもそのはず、シェルズタウンを出発してから何も食べてないのだ。
倒れこんだ2人の目線の先に、1羽の鳥が飛んでいる。

「お、鳥だ」
「でけぇな、わりと・・・」

鳥は優雅に空を舞う。

「食おう!!あの鳥っ」

ルフィが、がばっと起き上がった。

「?どうやって・・・」
「おれが捕まえてくる!まかせろ!!」

そう言うと、ルフィは船のマストへ腕を伸ばした。

「ゴムゴムの・・・ロケット!!!」

そして反動をつけて、鳥めがけて飛んで行った。

「なるほどね・・・」

ゾロはその様子を見ていた・・・が。
ルフィの様子がおかしい。

「はっ!」
「は!?」

思ったよりでかかったその鳥は、ルフィをぱくっと咥えたのだ。

「ぎゃ───っ、助けて───っ」

そしてどこかへと飛んでいく。

「あほ───――っ!!!一体何やってんだ、てめェはァ!!!」

ゾロは慌てて舟を漕ぎ、鳥を追いかけて行った。





力いっぱい追いかけている途中、前方から声がした。

「お───い、止まってくれェ!!」
「そこの船、止まれェ!!」

見ると、海に3人の男達が浮かんでいた。

「ん!?遭難者か、こんな時にっ!!」

ゾロは叫んだ。

「船は止めねェ!!勝手に乗り込め」
「な!!なにいっ!!?」

暴走する船が、自分達の目の前に迫ってくる。

「うお!」
「どわああっ!!」

間一髪、彼らは船に乗り込むことに成功した。

「へえ!よく乗り込めたな」

漕ぎながら、ゾロが感心する。

「ひき殺す気かっ!!・・・なんて乱暴な奴だ・・・!!」

瞬間、ぜいぜい喘いでいた男達の様子が一変した。
刀をひらめかせて、ゾロに迫る。

「おい、船を止めろ。おれ達ァ、あの海賊”道化のバギー”様の一味のモンだ」
「あァ!?」

ゾロも表情を変える。





「あっはっはっはっはーっ」
「あなたが”海賊狩りのゾロ”さんだとはつゆ知らずっ!しつれいしましたっ」

しばらくの後、ゾロの代わりに船を漕ぐ3人の男達の姿があった。
ゾロに思いっきりボコボコにされて。

「てめェらのお陰で仲間を見失っちまった。とにかくまっすぐ漕げ。あいつの事だ、陸でも見えりや自力で下りるだろう」

3人の海賊は、愛想笑いしながら、えいさー、えいさーと漕いでいる。

「─── で、何で海賊が海の真ん中で溺れてたんだ」
「それだっ!!よく聞いてくれやした!!」

海賊たちはここぞとばかりに訴える。

「あの女っ!!」
「そうあの女が全て悪いっ!!!」
「しかもかわいいんだ、けっこう!!」

約1名、余計なことを。

海賊の1人が話し始めた。

「ありゃあ、おれ達が商船を襲った帰りの事でした───」





─── ゾロの船が通りかかる少し前の事。

「ぐっしっしっしっしっし!!」
「こりゃあ、いい額の宝だぜ!!」

ピエロのような顔の骸骨の海賊旗を掲げた船が、拠点にしている島にちょうど戻るところであった。
船の上では、3人の海賊が奪ったお宝の品定めをしていた。

「あの小せェ商船にしちゃあ、上出来だ!!」
「バギー船長から御褒美が出るかもな!!」

思ったよりも質のいいお宝だったのだろう、宝箱を囲んで3人はホクホク顔だった。

「ん?おい、あの船なんだ」

しばらくすると、前方に船が漂流しているのが見えた。

「誰かぐったり倒れてるぞ」

海賊達は自分達の船を、その船の横につける。

「お?女じゃねェのか?」
「おい!お前、ぐっしっしっし、どうしたんだ。死んでんのか?」

その声に彼女は目を覚ました。

「あ・・・ああ、私は夢でも見ているのかしら・・・。こんなに広い海で・・・、人に出会えるなんて・・・」

彼女は息も絶え絶えに言う。
肩までのオレンジ色の髪、スレンダーだが出るところは出て引っ込むところは引っ込むという、かなりバランスの取れたスタイル。白とブルーのボーダーのTシャツに、オレンジのミニスカートがよく似合っていた。そしてかなりの美少女。
そう、彼女は少女、と言った方がまだしっくり来るくらい若い女性であった。

「・・・ど、どなたか存じませんが・・・、水を。水を・・・一杯いただけませんか。・・・できるなら、たった一かけらのパンでも・・・。私・・・遭難してしまって・・・!!」

そして傍らの宝箱を指した。

「お金なら・・・差し上げます、いくらでも。どうか・・・、助けて・・・」

宝箱を見て、3人の海賊達はにやっと笑った。

「いいとも、助けてやろう。その前にその宝箱を見せてくれねェかな?」
「どうぞ・・・、こちらへ来て好きなだけお持ちください。それより・・・、水を・・・!!」

だが、海賊達は我先に彼女の船に飛び移る。

「まァ待て待て、娘さん!!宝の確認が先さ!」
「そう!なんせおれ達ゃ、あんたの命を助けるんだ!!」

しかし、時はすでに遅かった。

「よろしければその船ごと、差し上げますわ!」

海賊達と入れ替わりに、彼らの船に乗り込んだ彼女はにっこりと笑って言った。

「は!??」
「あの女!!おれ達の宝積んだ船を!!」
「おい、この宝箱空だぜ!!!」

もう、後の祭り。
彼女を乗せた彼らの船は、ゆっくりと遠ざかって行く。

─── と、その時彼らの真上に雲が広がってきた。
その様子を遠めに見ながら、彼女は言った。

「南の空に低い黒雲をともなう寒冷前線を発見っ!!まもなく激しい雨とともに、スコールが吹くでしょう。小さな船は転覆にご注意くださいっ!!」

するとどうでしょう。
彼女の言ったとおり、局地的なスコールで海賊達の乗った船が転覆したのだ。

「ビンゴっ!」

彼女がにやっと笑う。

「じゃあね、お宝はもらってくわ!」

溺れる海賊達を尻目に、彼女は意気揚々と去っていった。

「畜生ォ、てめェ謀りやがったな!!!」
「待ちやがれ、女ァ!!!」

スコールの空に、彼らの叫びはむなしく響いていった。





「─── ってゆう次第なんですよ!ヒドいでしょ!?」

大声で訴える海賊達だったが、ゾロは、

「・・・天候まで操るのか・・・。海を知り尽くしてるな、その女。航海士になってくれねェかな」

感心しきりだった。

「あいつは絶対探し出してブッ殺す!!」
「それより宝をまずどうする」
「そうだぜ、このまま帰っちゃバギー船長に・・・」

焦る海賊達。

「そのバギーってのは誰なんだ・・・!?」

ゾロは、先ほどから出てくる”バギー”という名前が気にかかっていた。
海賊の1人が答える。

「おれ達の海賊船の頭ですよ。”道化のバギー”を知らねェんで?”悪魔の実シリーズ”のある実を食った男でね。恐ろしい人なんだ!!」
「・・・悪魔の実を・・・?」

─── この海にルフィ以外に悪魔の実を食べた奴がいるのか・・・。







その頃、ゾロたちの船からそう遠くない場所にある島では、一つの騒ぎが起きていた。
この島の町の名前は、”オレンジの町”。
港には大きな海賊船が停泊しており、そのせいで町は人っ子一人いなかった。
みんな海賊たちから避難しているのだろうか。
そのがらんとした町を、1人の女の子が逃げ回っていた。
そう、あの海賊達のお宝を奪ったオレンジの髪の彼女だ。

「待て貴様ァ~~~っ!!」
「泥棒女ァ、海図を返せェーっ!!!」

追うのは、海賊達。

「やっと手に入れた!”偉大なる航路”の海図っ!!!」

彼女は手にした海図を握り締める。

「クソ!!早く取りかえさねェと、おれ達の命も危ねェぜ!!」
「船長の砲弾で死ぬのもゴメンだしな!」

海賊達は追いかける足をさらに速めた。





その頃、海賊たちが占拠している酒場では。

「バギー船長、港の空に何か見えます!」

海賊の1人が空に何か見つけたようだ。

「大砲で打ち落とせ」
「はいっ!!」

放たれる大砲。
それは空の得体の知れない物体に、寸分違わず命中した。

「おあーっ」

ズドォン!!!

そしてそれは、彼女と、それを追う海賊たちの間に落ちた。

「ひ・・人が、空から降って来た!!!」
「何・・・?」

目の前の出来事に驚く彼女と海賊達。

「何で砲弾が飛んでくるんだ!?くっそ~~~」

それは、土煙の中から起き上がってきた。

「あ───、助かった」

ルフィである。

「うわっ、生きてる!!!」

さらにその事実に驚く海賊たち。
彼女は、とっさに状況を理解し、知恵をめぐらせた。
─── そして。

「お・・・!!親分っ!!助けに来てくれたのね!?後は任せたわ!!」

そう、ルフィに言うや否や、一目散に駆けて行った。
海賊が叫ぶ。

「おい、女が逃げたぞ」
「追う必要はねェ!!」

別の海賊が叫んだ。
そしてルフィを囲む。

「親分がわざわざ残ってくれてる」
「なるほど・・・、子分をかばったって訳だな。お陰で追い回す手間が省けた」
「なァ親分っ!!」

海賊の1人がルフィに向けて剣を振り回す。

「あの海図は恐れ多くも海賊”道化のバギー”様の持ち物だ!!!」

その勢いでルフィのかぶっていた麦わら帽子が飛んだ。

「あ」

瞬間、ルフィはその海賊に鉄拳を食らわせた。
殴られた海賊は、その勢いで吹っ飛ぶ。

「おれの宝物に、触るな」

「こ・・・」
「この野郎ォ~~~っ!!!」

勝負は一瞬だった。
残りの海賊達は、あっという間に地面に転がっていた。

「─── すごいっ」

傍の建物の軒先から声がする。
彼女だった。

「強いのね、あんた。剣相手に素手で勝っちゃうなんて」
「あ!誰だ、お前」

ルフィが気づいて言った。

「私は海賊専門の泥棒っ!!ナミって言うの。私と組まない?」
「海賊専門?」

ルフィはいぶかしんだ。







 管理人ひとことこめんと
ナミ登場です。
ナミはねー、ずるいよねー。
周りにいい男はべらかしてさーw
でもナミもそれに負けないくらいオトコマエだから良しとしましょう。

第7話 友達

「た・・・大佐が負けた・・・!!!」
「モーガン大佐が倒れた!!!」

地面に転がるモーガンとヘルメッポ。
海兵たちはその光景を信じられないでいた。

「まだおれ達を捕らえてェ奴ァ、名乗り出ろ!」
ゾロが凄む。

海兵たちは顔を見合わせ ───

「やったァ───っ!!!」
「解放された!!!」
「モーガンの支配が終わったァ!!!」
「海軍バンザーイ!!!」

全員が武器を放り投げ、跳びあがって喜んだ。
その様子を見ながらルフィは、

「なんだ、大佐やられて喜んでやんの」
「・・・みんな、モーガンが恐かっただけなんだ・・・!!」

コビーも喜ぶ。
その時、突然ドサっという音が聞こえた。

「ゾロ!?」
「ゾロさん!!」

ゾロが急に倒れた。







「はァ、食った・・・!!!さすがに9日も食わねェと極限だった」

満腹になったゾロがふーっと息をつく。
もう、黒い手ぬぐいは頭に巻いていない。
こうしてみると、普通の青年である。
・・・髪の毛は緑色だが。
一騒動の後、ルフィたちはリカの家でママの手料理をご馳走になっていた。
窓には、モーガンの支配から救ってくれた人達を一目見ようと、町中の人が張り付いている。

「じゃあ、どうせ一ヶ月は無理だったんだな!」

ルフィががっつきながら言った。

「おめェはなんでおれより食が進んでんだよ」
「すいませんなんか・・・、僕までごちそうに・・・」

コビーが申し訳なさそうに言うと、

「いいのよ!町が救われたんですもの!」

リカのママが笑って言った。
その横で、リカもニコニコしている。

「やっぱり、お兄ちゃんすごかったのね!」
「ああ、すごいんだ。もっとすごくなるぞ、おれは!」

ルフィがにっと笑う。

「・・・それで。ここからどこへ向かうつもりだ?」

ゾロが尋ねた。

「”偉大なる航路(グランドライン)”へ向かおう」

目を輝かせて言うルフィに、コビーが慌てる。

「んまっ、また無茶苦茶な!!!まだ2人なのに”偉大なる航路”へ入るなんて!!死にに行く様なもんです!!!わかってるんですか!?あの場所は世界中から最も屈強な海賊たちが集まって来てるんです!!」

必死になって訴えるコビーだったが、

「まァ、どの道”ワンピース”を目指すからにはその航路をたどるしかねェんだ・・・。いいだろう」

と、ゾロ。

「いいって、あなたまでゾロさん!!?」
「別にお前は行かねェんだろ・・・?」
「い・・いか・・・行かないけど!!心配なんですよ!!いけませんか!!?あなた達の心配しちゃいけませんか!!!」

コビーがテーブルを叩く。

「いや・・・、それは」

その迫力にゾロも押され気味だ。
コビーがルフィの方を向いて言った。

「ルフィさん、ぼくらは・・・!!つきあいは短いけど、友達ですよね!!!」
「ああ、別れちゃうけどな。ずっと友達だ」

ルフィの笑顔に、コビーも安心したようだ。

「ぼくは・・・、小さい頃からろくに友達なんていなくて・・・、ましてやぼくの為に戦ってくれる人なんて、絶対いませんでした。なによりぼくが戦おうとしなかったから・・・!!だけど、あなた達2人には・・・!!自分の信念に生きることを教わりました!!!」
「だから、おれは”偉大なる航路”へ行くんだよ」
「まァそうなるな」

ゾロも同意する。

「あっ、そうか。・・・・・いや!違いますよ。だからぼくは今行く事が無謀だって・・・」

危うく言いくめられるところだった。

「それより」

ゾロが刀の柄でコビーを小突いた。

「お前は大丈夫なのかよ」
「え?」
「雑用でもアルビダの海賊船に2年居たのは事実なんだろ?海軍の情報力を見くびるな。その素性が知れたら入隊なんてできねェぜ」





「─── 失礼!」

その時、リカの家に一人の海兵、海軍中佐がやってきた。
外には他の海兵たちがずらっと並んでいる。

「君らが海賊だというのは、本当かね・・・」

その問いに、ルフィが答えた。

「そうだね、1人仲間もできた事だし、じゃ今から海賊ってことにしよう!」
「・・・反逆者としてだが、我々の基地とこの町を実質救って貰った事には一同感謝している。しかし君らが海賊だとわかった以上、海軍の名において黙っているわけにはいかない。即刻、この町を立ち去ってもらおう。せめてもの義理を通し、本部への連絡は避ける」

その言葉に、家の外に居た町の人達が反論した。

「おい海軍っ!!何だ、そのいいぐさは!!」
「てめェらだって、モーガンにゃ押さえつけられてビクビクしてたじゃねェか!!」
「我々の恩人だぞ!!!」

しかしルフィは、素直に中佐の言葉に従い、腰を上げた。

「じゃ・・・、行くか。おばちゃん、ごちそうさま」

「ルフィさん・・・」
「もう行っちゃうの?お兄ちゃん達」

コビーは言葉もない。
リカも寂しそうだ。
そんなコビーにルフィは何も言わず、そばを素通りする。

「君も仲間じゃないのか?」

中佐はその場に立ちすくんだままのコビーに言った。

「え!ぼく・・・!!ぼくは・・・!!」

”別れちゃうけどな・・・、ずっと友達だ”

コビーの脳裏に、ルフィの言葉が浮かぶ。

「ぼくは彼らの・・・、仲間じゃありません!!!」

その言葉を聞いて、ルフィはにやっと笑った。

「・・・待ちたまえ、君達!!」

中佐が家を出て行こうとするルフィとゾロを引き止める。

「本当かね?」

ルフィは言った。

「おれコイツが今まで何やってたか知ってるよ」
「ルフィさん・・・!?」

─── まさか・・・・・!!

「どの辺の島だかわかんねェけど、こーんな太った女の海賊がいてさァ、アルビダっつったかな」
「ちょ、やめて下さいよ・・・」

─── 海賊船に居たことがバレたら・・・、海軍に入れなくなっちゃう!!!

中佐は黙って聞いている。

「なんだかイカついおばさんなんだけど、2年間もコイツそこで・・・」

─── やめて下さいよ!!やめて下さいよ・・・!!!

「やめて下さいよ!!!!」

コビーは思わずルフィを思いっきり殴っていた。
当の殴られたルフィはにやりと笑う。
ゾロも、ほっと安堵のため息をついた。
殴ったショックで息を荒げるコビーに、

「やったな、このヤロォ」

ルフィが殴り返す。

「このやろ、このやろ」

軽くぼっこぼこに倍以上返し。
コビーはなすすべがない。

「やめたまえ!!!これ以上この町で騒動を起こすことは許さんぞ!!!」

中佐が大声を上げる。

「おいおい、やりすぎだ。そのへんにしとけよ」

ゾロがルフィを引っ張って止めた。

「君らが仲間じゃないことはよくわかった!!!今すぐこの町を立ち去りなさい!!!」

中佐の声を、床に倒されたままのコビーは聞いていた。

─── わざとか・・・、ぼくの為に!!!わざとぼくにけしかけて・・・、殴らせて・・・!!!

ルフィたちは笑顔で港に向かう。

─── また・・・!!ぼくは最後の最後まであの人に頼ってしまった!!
─── 何も変わってないじゃないか!!!ぼくは・・・、バカか!!?
─── ここから這い上がれなきゃ、本当にバカだ!!!

コビーはすっくと立ち上がって、中佐に頭を下げて訴えた。

「ぼくを海軍に入れてください!!!雑用だって何だって喜んでやります!!海兵になるためなら!!!」

─── よしやるぞ!!ぼくはやる!!!

しかし、表にいた1人の海兵が言った。

「中佐!私は反対ですよ!悪いがね、私はまだ君を信用しきれない」

コビーの顔に不安がよぎる。

「海賊が海軍のスパイになるという例もある。まずは君の素性を調べて・・・」

「ぼくは!!!海軍将校になる男です!!!!」

コビーがゆるぎない瞳で叫ぶ。

「・・・海賊にやられた同士は数知れない。海軍を甘く見るな」

中佐がコビーを通り過ぎる。

「入隊を許可する」

コビーの決心が中佐に届いたのだ。

「はいっ、ありがとうございます!!!」


こうして、晴れてコビーは海軍に入隊することとなった。







その頃、港では。

「たいしたサル芝居だったな。あれじゃバレてもおかしくねぇぞ」

ゾロが苦笑いする。

「あとはコビーが何とかするさ、絶対!」
「何にしてもいい船出だ。みんなに嫌われてちゃ、後引かなくて海賊らしい」
「だはは、そうだな!」

ルフィが出航の準備を始めた時だった。

「ル!ル!ルフィさんっ!!!」

息せき切って、コビーが走ってきた。

「ありがとうございました!!!このご恩は一生忘れません!!!」

そう叫んで、手の甲を向けた敬礼をする。
タール等で汚れた手のひらを見せない為の、海兵ならではの敬礼だ。

「海兵に感謝される海賊なんて聞いたことねェよ」
ゾロが笑う。

「しししし!」
ルフィも笑う。

「まあ逢おうな!!!コビー!!!」

「全員敬礼!!」

コビーの後ろに海兵たちもやってきていた。
全員、ルフィたちに感謝の気持ちを込めて敬礼をしている。
コビーや海兵、町の人達に見送られ、ルフィとゾロは船を出した。
見送りながら、中佐がコビーに言った。

「いい友達をもったな」
「はいっ」

そして中佐は海兵全員に告げる。

「我々の今の敬礼は、海軍軍法の規律を犯すものである。よって全員、先一週間メシ抜きだ!!!」
「はっ!!!」





船の上では、改めてルフィが宣言していた。

「く───っ、行くかァ!!”偉大なる航路”!!!」





1人目の仲間に”海賊狩りのゾロ”を引き込み、船は行く。
しかし彼らは、重大なミスにまだ気づいていなかった。

第6話 1人目

「やったァ!!仲間になってくれんのかよ!!」

ゾロの言葉に、”やっほー”とルフィが喜ぶ。
念願の、仲間だ。

「わかったらさっさとこの縄を解け!!」

ゾロが急かす。
海兵たちはその様子を遠巻きに見ながら、つい今しがた起こった事をまだ信じられないでいた。

「あいつ・・・、何だ・・・!!」
「銃弾を弾き返しやがった・・・!!!」

モーガンが警戒した様子で言う。

「ありゃ、ただの人間じゃねぇぞ・・、あのガキ・・・!!!噂に聞く、あの『悪魔の実シリーズ』の何かを食いやがったに違いねェ」
「・・・あの海の秘宝を!!?」
「まさか・・・、じゃあ今の能力は悪魔の・・・!!」

海兵たちがモーガンの言葉にどよめいた。
そうこうしている内に、ルフィがゾロの縄に手をかける。

「大佐、あいつゾロの縄を!!!」
「解かせるな!!!銃が駄目なら斬り殺せ!!!」
「お・・・うおおおおお」

海兵たちが刀を抜き、ルフィたちのもとに突っ込む。
が、しかし、当のルフィは縄をほどくのに苦労していた。

「くっそー、かてェなァ、この結び目・・・」
「おい!!グズグズするな!!」

ゾロが焦る。

「まァ待てよ、うるせーな」
「待ってられる状況じゃねェだろっ!!」

その時、気絶していたコビーが目を覚ました。

「・・んん・・・、は・・・気を失ってたのか・・・、一体・・・」

見ると目の前のルフィたちに抜刀した海兵たちが迫っていた。

「うわっ、え!!?ル・・・ルフィさん、ゾロさん危ないっ!!!」

そんなコビーの叫びが聞こえてないのか、ルフィはのんびり言った。

「お!解けたよ。片方の手っ!」

嬉しそうに解けた縄をゾロに見せる。

「バカ野郎、刀をよこせ!!」

迫る海兵たち。
モーガンが叫ぶ。

「おれに逆らう奴ァ、全員死刑だァ!!!」

コビーは叫ぼうにも声が出ない。
その時だった。

ガキン!!!

海兵たち全ての攻撃が阻まれた。
ゾロの両手、そして口に咥えられた刀、三刀流の刀によって。
魔獣がようやく開放されたのである。





「ロ・・・ロロノア・ゾロ・・・!!!」

驚愕するモーガン。

「お───っ、かっこいいっ!!」

初めて見るゾロの剣に、ルフィはしびれた。

「てめェら、じっとしてろ。動くと斬るぜ」

「ひい・・・・・!!!」

その迫力に、海兵たちはただ怯えるばかりだった。
ゾロは海兵たちを抑えながら言った。

「海賊にはなってやるよ・・・。約束だ。海軍と一戦やるからには、おれもはれて悪党ってわけだ・・・。だが、いいか!!おれには野望がある!!!」

ゾロの目が光った。

「世界一の剣豪になる事だ!!!!こうなったらもう、名前の淨不浄も言ってられねェ!!悪名だろうが何だろうが、おれの名を世界中に轟かせてやる!!!誘ったのはてめェだ!!野望を断念する様な事があったら、その時は腹切っておれにわびろ!!!」

ゾロの言葉に、ルフィは笑って言った。

「いいねえ、世界一の剣豪!!海賊王の仲間なら、そのくらいなって貰わないとおれが困る!!!」
「ケッ、言うね」

モーガンが海兵たちに吼える。

「何ボサッとしてやがる!!!とっととそいつらを始末しろ!!!」
「しゃがめ、ゾロ!!」

ルフィが足に反動をつける。

「ゴムゴムの・・・」

「鞭!!!!」
ズバァン!!!

伸びた足が鞭のようにしなり、ゾロが抑えていた海兵たちを全てなぎ倒した。

「や・・・やった!!すごいっ!!!」

コビーが両手を握り締めた。

「てめェは一体・・・!!」

ゾロは目の前の光景に目を疑う。

「おれはゴム人間だ!!!」

ルフィがにやっと笑った。

「ゴ・・・ゴ・・・ゴム人間!!?」
「た・・・大佐!!あいつら・・・!!我々の手にはおえません!!」
「ムチャクチャだ!!あんな奴ら・・・!!」
「それに・・・、ロロノア・ゾロと戦えるわけがない・・・!!」

海兵たちは、2人にすっかり戦意喪失していた。
そんな海兵たちに、モーガンは冷たく言い放った。

「大佐命令だ。今・・・、弱音を吐いた奴ァ・・・頭撃って自害しろ。このおれの部下に、弱卒は要らん!!!命令だ!!!」
「・・・・・!!」

その言葉に怯えた海兵たちは、静かに銃口を自分自身に向けた。
その光景に驚くルフィたち。

「どうかしてるぜ、この軍隊は・・・!!!」

ゾロが飛び出すより先に、ルフィが突っ走って行く。

「おれは海軍の敵だぞ。死刑にしてみろ!!!」

モーガンめがけて、パンチを繰り出した。
その様子を見て、海兵たちは銃を下ろしていく。
ゾロは咥えていた刀を下ろした。
コビーが叫ぶ。

「ルフィさん!!!こんな海軍つぶしちゃえェ!!!」

海軍に憧れていたコビーが、この島の、モーガンに支配されるだけの海軍に見切りをつけた瞬間だった。

「身分も低い、称号もねェ奴らは・・・!!このおれに逆らう権利すらないことを覚えておけ。おれは海軍大佐、斧手のモーガンだ!!!」
「おれはルフィ!よろしくっ」

・・・自己紹介ではない。
そんな事言ってる間に、モーガンの斧がルフィを襲う。

「死ね!」

それを跳びあがってかわすルフィ。
モーガンの斧は、その横の鉄柵を真っ二つに切り落とした。

「んな!!なんて切れ味だっ!!!」

コビーが驚愕する。
しかし、斧をかわしたルフィは反動をつけて、両足でモーガンの顔を蹴りつける。
モーガンは耐え切れず吹っ飛んだ。

「た・・・大佐が!」

海兵たちは目の前の光景に驚いていた。
この島を支配している海軍大佐斧手のモーガンが、麦わら帽子をかぶった少年に吹っ飛ばされている。

「小僧・・・」

モーガンが起き上がり、飛び掛ってくるルフィに斧を構える。

「死刑だ!!!」

振り下ろされた斧を、ひらっと身をかわして避けたルフィは、回転を加えモーガンの左側頭部に蹴りを入れた。
また吹っ飛ぶモーガン。

「つ・・・、強すぎる・・・!!」
「モ・・・、モーガン大佐が一方的に・・・!!」

コビーも海兵たちも、ただただ驚くしかなかった。





「何が海軍だ」

ルフィが地面に横たわるモーガンの胸倉を掴んで言った。

「コビーの夢をブチ壊しやがって・・・」

こぶしを固める。

「待てェ!!!」

その時、声がした。
しかしルフィはそんな声にかまわず、モーガンを殴る。

「待てっつったろ、アホか、このォ!!!」

ヘルメッポだった。
ルフィに引きずり回され、盾にされて気絶していたのが、ようやく気がついたらしい。

「こいつの命が惜しけりゃ動くんじゃねェ!!!ちょっとでも動いたら撃つぞ!!!」

ヘルメッポは手にした銃を、コビーに向けていた。

「ルフィさん!!」

コビーが叫んだ。

「ぼくは!!ルフィさんの邪魔をしたくありません!!死んでも!!!」

その言葉に、ルフィはにっこりと笑った。

「ああ・・、知ってるよ」

そして狙いをヘルメッポに定める。

「諦めろバカ息子、コビーの覚悟は本物だぞ!!」
「おいてめェ!!動くなっつったろ!!撃つぞ!!よし撃つ!!!」
「─── ルフィさん、後ろ!!!」

モーガンがルフィの後ろから斧を構えて迫っていた。

「おれは海軍大佐だ!!!」

それに気づいていないのか、ルフィはヘルメッポから目を離さない。

「ゴムゴムの・・・」

その様子を見て、ゾロは刀を口に咥えた。

「!?親父、早くそいつを・・・」

「銃(ピストル)!!!」

伸びるパンチがヘルメッポに炸裂する。
ルフィの背後のモーガンは・・・。

「ナイス」

ルフィがにやりと笑う。

「ゾロ」

モーガンがゆっくりと地面に倒れる。
ゾロが斬り倒していたのだ。

「お安い御用だ、船長」

同じように、ゾロも笑った。