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第14話 無謀っ!!

「─── よう・・・、戻ったか、モージ副船長」
「も・・・申し訳ありません、バギー・・・船長・・・」

満身創痍のモージが酒場に戻ってきた。
今にもぶっ倒れそうである。
しかし彼は、必死で戻ってきた。バギーに、ルフィの事を知らせる為に。

「何!?麦わらの男にやられただと!?ゾロじゃなかったのか、相手は!!」
バギーは信じられなかった。

─── あんなへらへらした男に、モージが???

「はァ・・・、わた・・・しも、み・・・みくびっ・・て、ま・・・した」
モージはもう、息も絶え絶えである。

─── でも、伝えねば・・・、ゴム人間だと・・・

「実は・・・、あ、あの男・・・あの男は・・・」

だが限界だった。

「ゴ・・・・・!!・・・げん・・・」

そう言い残し、モージはとうとうぶっ倒れた。
その言葉に、手下の海賊達が騒ぎ出す。

「・・・!?なんだ・・・、今の・・・!!」
「モージさん、何か伝えようとしてたぞ」
「あそこまでフラフラになりながら、一体何を・・・」
「『ご・・・げん』としか聞こえなかった・・・」
「『ご・・・げん』って一体・・・」

だが、バギーはモージの決死の伝言を理解したようだ。

「成程な・・・、それでのびのび戦いやがったとでも言うのか・・・!?」

バギーが叫ぶ。

「あの野郎、『ごきげん』だと!!?おれはもうキレた!!!てめェら、町を消し飛ばす準備はまだか!!急げ!!!」

・・・・・、残念賞。
ゴムにんげん、とうわ言のようにつぶやくモージの言葉もまた、バギーの怒声にかき消されてしまっていた。







町の外れ。ここは、町民達の避難所。
町民達は、町から少し離れた場所に仮設住宅を建て、避難生活を余儀なくされていた。
表に出ていた町民の一人が気づく。

「ん?あれは・・・、ペットフード屋のシュシュじゃないか!」

シュシュがペットフードの箱を咥え、避難所にやってきた。
町民達がいくら非難させようとも店の前を動かなかったシュシュが、ようやく戻ってきてくれたのだ。

「よかったよ、無事で!みんな心配してたんだぞ」
町民の一人が笑顔で迎える。

「しかし、ひどいキズだ。海賊達にやられたんだな」
「すぐに手当てを」

キズだらけのシュシュを見て。町民達は口々に言った。
そして一人の年配の町民が気づいた。

「おい、町長のジジイはどうした」
「そうだ・・・、町長。エサをやりに行くと言ってここを出たのに、シュシュだけ帰ってくるなんて変だな」

町民達がざわめく。

「まさか、町長さんの身に何か・・・!」
「心配だな。・・・よし、おれが見てこよう」
「バカモン、待て!」

若い町民の言葉に、年配の町民がたしなめた。

「町長は海賊共に捕まるほどバカじゃない。あやつは誰よりも町のことを知り尽くしておるのだからな。ただ・・・」

しかし、彼は町長が出かける時のやり取りを思い出した。
町長がエサをやりに出かける時、彼は早まったマネはするなとクギをさしていたのだ。
町民が全員無事なら、町などすぐに建て直せるからだ。

「・・・ただ、思い入れも深すぎる。わしらにとってはあまりにも・・・!強く止めてはおいたものの、バカな事を考えなければいいが・・・」

長い付き合いなだけに、町長の性格はよくわかっている。
大丈夫だとは思っているが、一抹の不安も残った。







そして場面は戻って、ペットフード屋跡。
燃え落ちた跡を見つめるルフィに、ナミが近寄ってきた。
もう、先ほどまでの怒りの表情ではない。

「どなってごめん!」
ナミは素直に謝った。

「ん?」
ルフィはズボンのほこりをはたきながら立ち上がった。

「いいさ、お前は大切な人を海賊に殺されたんだ。なんかいろいろあったんだろ?別に聞きたくねェけどな」

そんなルフィの言葉に、ナミは複雑な表情で少し笑った。

「ぬぐぐぐぐ・・・!わしはもう、我慢できーん!!!」

それまで黙っていたブードルが、突然大声を上げた。

「酷さながらじゃ!!さながら酷じゃ!!シュシュや小童がここまで戦っておるというのに、町長のわしがなぜ指をくわえて我が町が潰されるのを見ておらねばならんのじゃ!!!」

ブードルはこぶしを固める。

「ちょっと、町長さんおちついてよ!」
ナミが慌ててなだめるが、

「男には!退いてはならん戦いがある!!違うか小童っ!!!」
「そうだ!おっさん!!」

叫ぶブードルに、ルフィは笑って同調する。

「のせるな!!」
あおるルフィをナミは怒鳴りつけた。

「40年前さながらっ!!」
ブードルは語り始めた。

「ここはただの荒地じゃった・・・。そこから全てを始めたのじゃ。『ここにおれ達の町をつくろう。海賊にやられた古い町のことは忘れて・・・』とな」

語るブードルの顔は誇らしげであった。

「・・・はじめはちっぽけな民家の集合でしかなかったが、少しづつ少しづつ町民を増やし、敷地を広げ、店を増やし、わしらは頑張った!!」

そして町に向かって両腕を広げる。

「そして見ろ!!そこは今や立派な港町に成長した!!今のこの町の年寄りがつくった町なのじゃ!!わしらのつくった町なのじゃ!!」
ブードルの魂の叫びを、ルフィとナミは黙って聞いていた。

「町民達とこの町は、わしの宝さながら!!!己の町を守れずに、何が町長か!!!わしは戦う!!!!」

その時だった。

「撃て!!!特製バギー玉!!!」

ドゴゴゴゴオン!!!

酒場の屋上から放たれたバギー玉が、一瞬にして目の前の通りに立っている建物全てを破壊したのだ。





「ぬあっ」
「きゃあ」

その勢いで、ルフィたちも吹っ飛ぶ。
起き上がったナミが見たものは、もう建物ではない。残骸だった。

「んぬ・・・、わしの家まで!!!」
「あ!ゾロが寝てんのに!!!」

まだ土煙がもうもうと立つ建物の残骸に向かい、ルフィは叫んだ。

「おいゾロ、生きてるかァ!!?」

声がしない。

「死んだか・・・!?腹まきの小童・・・」

ブードルがそう言った時、残骸が音を立てて崩れた。

「ん?」

土煙が晴れる。

「あ─── 、寝覚めの悪ィ目覚ましだぜ」

ゾロが姿を現した。

「よかった!生きてたか!」
「・・・・・、何で生きてられるのよ・・・!!」

ほっとするルフィの横で、ナミはまたもやこの得体の知れない海賊たちの頑丈さに驚いていた。
その横で、ブードルは自身の胸を叩いた。

「・・・!!胸をえぐられるようじゃ・・・!!!こんなことが許されてたまるか!二度も潰されてたまるか!!突然現れた馬の骨に、わしらの40年を消し飛ばす権利はない!!!」

そして持っていた槍を振り上げる。

「町長はわしじゃ!!!わしの許しなく、この町で勝手なマネはさせん!!!いざ勝負!!」

そう言ってブードルは飛び出す。
しかし、それをナミが必死で止めた。

「ちょ・・、ちょっと待って町長さん」
「放せ、娘っ!!」
「あいつらの所へ行って何ができるのよ!無謀すぎる!!」

「無謀は承知!!!!」

「待っておれ、道化のバギーっ!!!」

ブードルはナミを振り払い、酒場へむけて駆け出して行った。

「町長さん・・・、泣いてた・・・!!」
ナミが心配そうに、去って行った方を見つめる。

「そうか?おれには見えなかった」
ルフィはにやっと笑う。

「なんだか盛り上がってきてるみてェだな!」
「しししし!そうなんだ」
「笑ってる場合かっ!!」

ニコニコ笑いあう二人に、ナミが怒鳴りつけた。
ルフィは自信ありげに言う。

「大丈夫!おれはあのおっさん好きだ。絶対死なせない!!!」
「こんなとこで笑ってて、どっからその自信がわくのよ!」

不安を隠せないナミに、ルフィはさらに自信を増して言った。

「おれ達が目指すのは”偉大なる航路(グランドライン)”、これからその海図をもう一度奪いに行く!」

そして、ナミに手を差し出した。

「仲間になってくれ!海図いるんだろ?宝も」
「・・・・・」

ルフィの改めての申し出に、ナミは言った。

「私は海賊にはならないわ!”手を組む”って言ってくれる?お互いの目的の為に!!」

そして、差し出されたルフィの手をぱんっと叩いた。







「2発目ーっ!!!」

酒場の屋上では、再度バギー玉の発射準備がなされていた。

「準備できました!!!」
「よーし撃・・・」

「道化のバギー!!!」

発射寸前、酒場の前で叫ぶ声がした。ブードルだ。

「出て来ォーい!!!!」
槍を携え、バギーを睨みつける。

「・・・?何だ、あいつは・・・」
発射を邪魔され、バギーは不機嫌にブードルを見下ろした。





「あんたも行くの?」
ナミがゾロを気遣う。重傷を負っているのだ。

「お腹のキズは?」
「治った」
「治るかっ!!」

ゾロは、左腕に巻いていた黒い手ぬぐいを頭に巻きなおして言った。

「ハラの傷より・・・、やられっぱなしで傷ついたおれの名の方が重傷だ」
ぎゅっと、気合を入れるように手ぬぐいを締める。

「いこうか!」
「ああ、いこう」

ルフィも指を鳴らしてニヤリと笑う。

「あっきれた・・・」
ナミはため息をついた。
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第13話 宝物

「うおお!!」
ブードルの叫ぶ声がする。

ルフィは声がする方に目をやった。

「何で生きとるんじゃ、小童!」
「何で生きてんのよ、あんた!!」

様子を見に来たブードルとナミは、ピンピンしている彼に度肝を抜かれた。

「生きてちゃわりいのか」
ルフィが不思議そうに言う。

「だって、家一軒貫通するほど吹き飛ばされて、ピンピンしてるのって変よ!!」

ナミが破壊された家を指す。
もう、家とは呼べない、ただの瓦礫の山と化したものがそこにあった。

「変でいいよ」
めんどくさい、とルフィが言う。

「─── しかしお前ら、この町へ来た目的は何じゃ!なぜあんな海賊と関わる!!」

ブードルの問いに、

「目的ならさっき決めた!”偉大なる航路(グランドライン)”の海図と、航海士を得る事だ!!」

ルフィは、にやっと笑って答えた。







その頃、ペットフード屋の前では、シュシュが自身の体の何倍もあるライオンのリッチー相手に威嚇し続けていた。
その様子をモージはリッチーの上から呆れながら眺めていた。

「何なんだ、この犬は・・・、おれ達を店に入れない気なのか?」

シュシュは吼え続けている。

「まさか、こんなちっぽけな店の番犬ってわけじゃねェよなァ・・・」

吠え掛かるシュシュに業を煮やしたリッチーは、前足で軽くシュシュをなぎ倒す。
吹っ飛ばされたシュシュは、店に入ろうとするリッチーに必死で噛み付く。
彼の脳裏に、彼の主人であるおじいさんとの思い出が蘇ってきた。

─── 店が完成した日の事。
─── なかなか売れなくて困っていた日の事。
─── たくさん売れて、一緒に喜んだ日の事。
─── 商品を食べてしまって怒られた日の事。
─── 自分を自慢だと言ってくれた日の事。
そして、病院に行ったまま、二度と帰ってこなかった事・・・。

ライオンに犬がかなうわけない。
でもシュシュは、何度吹っ飛ばされても果敢に挑んでいったのである。
店を、おじいさんとの思い出を守る為に。



「─── 畜生あの犬、おれにまで噛みつきやがって・・・。あーあー、血が出てる」

しばらくの後、ペットフード屋から出てくるモージとリッチーがいた。
リッチーはお目当てのエサをバリバリと喰らっている。

「このおれに番犬立てるとは、いい度胸してるぜあの店の主人も」

そして一人と一匹は店を後にしていった。







「─── おれ、ちょっとゾロのところに行ってくる。あの着ぐるみ男、ゾロ捜してたみてェだから」
「バカよせ!!今度こそライオンに食われるぞ!!」

しかし、ブードルが止めるのも聞かず、ルフィはまるで散歩にでも行くかのようにペットフード屋へ戻っていった。
角を曲がると、シュシュの吼える声が聞こえてくる。

ルフィは見た。

ペットフード屋が業火に包まれている。
シュシュはそれに向かって吼え続けているのだ。
ルフィの脳裏に、ブードルの言葉が蘇ってきた。

”きっとこの店は、シュシュにとって宝なんじゃ”
”大好きだった主人の形見だから、それを守り続けているのだと、わしは思う”

ルフィは見た。

シュシュが吼えながら、大粒の涙を流しているのを。

ルフィは道の向こうを見やった。
男がまたがったライオンの後姿が微かに見える。
ルフィはそれに向かって猛然と飛び出していった。







一仕事終え、のんびりと酒場の方に戻っていたモージは、突然目の前に現れた男に驚きを隠せなかった。

「・・・、てめェは・・・、オイ・・・!!てめェはさっき・・確かに、殺した筈だろう!!?」

─── ありえない!あの一撃で吹っ飛ばしたはずなのに!!!

だが、ルフィはけろっとして言った。

「あれくらいじゃ死なないね。おれはゴム人間なんだから」
「ごむ人間?悪運の強さは認めるが、多少頭は打ったか・・・。バカな事は言い出すし」

それならば、とモージはリッチーから飛び降りながら命じた。

「またおれの前に現れるってのもバカだ!!頭を噛み砕いてやれっ!!!」
リッチーがうなり声を上げてルフィに襲い掛かる。

「ライオンなんかに、おれが殺せるかっ!!」

ルフィは反動をつけて腕を交差していく。
二本の腕が絡まっていき、1本の長い鞭のようにリッチーの方へ伸びていく。

「な!!何だそりゃ!!!手が・・・」

モージが叫ぶ。

ゴムゴムの・・・槌ィ!!!

ドゴォン!

ルフィの絡まった手はリッチーの顔面を掴むと、そのまま地面に叩き付けた。
腕の絡まりが戻っていく勢いも合わさって、威力も倍増である。

「!!?リッチー・・・!??」

リッチーは叩きつけられ、さかさまの状態で顔面が地面にめり込んでいる。
モージは目の前の事態が信じられなかった。

「なんだ!!・・・お前・・・、何なんだ!!!」

「おれは昔、ゴムゴムの実を食った・・・!!!」
ルフィはゆっくりと立ち上がる。

「ゴムゴムの実・・・!!?まさか、お前・・・バギー船長と同じ”悪魔の実”の能力者・・・!!」

能力者相手に勝ち目はない。
同じ能力者であるバギーの側近であるが故、能力者の恐ろしさは誰よりもわかっている。
そんなモージの決断は早かった。

「よ・・・、よしっ!お前にな、好きなだけ宝をやろう!そ・・・、それとな、ここはひとつ穏便に謝ろうと思う。ごめん!!!」
「もう、謝んなくていいよ。今さら何しようと、あの犬の宝は戻らねェんだから」

ルフィは顔を上げる。その表情は怒りに満ちていた。

だからおれはお前を、ぶっ飛ばしに来たんだ!!!!

ルフィの腕がモージへ伸びる。

「思い知れ」
「あ・・・あああおい!!!やめてくれェああああ!!!!」

伸びた腕が、モージの胸倉を掴んだまま元の状態へ縮んでいく。

「助け・・・!!!」

ガン!!

ルフィの怒りを込めた鉄拳が、キレイにモージの顔面に入った。







すっかり燃え尽きてしまったペットフード店の前では、シュシュは残骸となってしまった自身の宝物を見つめていた。
悲しいのか、悔しいのか。
表情だけでは、彼の気持ちはくみ取れなかった。
その様子を、ブードルとナミが見つめている。

「どいつもこいつも・・・、海賊なんてみんな同じよ・・・!!」
ナミが吐き捨てるように言った。

「人の大切なものを、平気で奪って!!!」

ブードルはそれを黙って聞いている。
そこへ、ルフィが戻ってきた。

「!あら、海賊生きてたの・・・!」
それに気づいたナミが言う。

「てっきり、ライオンに食べられちゃったのかと思ったわ」
「おい、何言い出すんじゃ」

ブードルが驚く。
ナミの怒りが爆発した。

「あんた!海賊の仲間集めて町を襲いだす前に、ここで殺してやろうか!!!」
「おいやめんか、娘っ!!」

今にも殴りかかりそうなナミを、ブードルは慌てて抑えた。

「お前なんかにおれがやられるか」
ルフィはベーっと舌を出す。

「何っ!!?よーし、やったろうじゃないの!!」
「やめろっちゅーんじゃ、何なんじゃお前らはっ!!」

しかしルフィは、そんな二人を気にも留めず、すたすたとシュシュの傍に行く。
そして、目の前にくしゃっと崩れた箱を一つ置いた。
それは、もう商品としての価値はなくなったが、まぎれもなく店に置いてあったペットフードの箱だった。

「これしか取り返せなかった!あと全部食っちまいやがってよ!」

ルフィは笑いながら、シュシュの横に座り込む。
その様子を見ながら、ナミは振り上げた拳を下ろした。

─── あいつ・・・、あのライオンと戦ってきたんだ・・・。あの犬の為に・・・!!

「よくやったよお前は!よく戦った。まぁ、見ちゃいねェけどな。大体わかる!」

シュシュはペットフードの箱を咥えると、すたすたと歩き出した。
そしてルフィのほうを振り向き、

「ワン!!」
と一つ吼える。

まるでお礼を言うかのようだ。

「おう!!お前も頑張れよ!!」
ルフィもそれに答える。

その様子を見て、ナミは自分の間違いを悟った。







そしてその頃、酒場では。

「モージがやられた!!?」

早くもバギーに伝わっていた。

「”特製バギー玉”ありったけ用意しろ!!!茶番は終わりだ、この町ごと吹き飛ばす!全て消し飛ばしてやる!!!」

バギーは声高らかに宣言した。

第12話 犬

ルフィ・ゾロ・ナミに逃げられたバギーは、怒り心頭で手下たちに怒鳴っていた。

「このバギー一味!!旗揚げ以来、奪いに奪ってハデに名を上げて来た!!たかだか3人の泥棒なんぞにナメられていいのか!!?」

「いけません!」
手下たちが声をそろえる。

「声が小せェ、もう一回!!」
いけません!!!
うるせェ!!!

バギーが不敵に笑う。

「奴らには海賊の一団を敵に回す事の恐ろしさを教える必要がある!!ここで一発、”猛ショー”だ!!!」

その言葉を受けて、手下たちの間を割り一人の男と一匹のライオンが、のしのしとゆっくり入ってきた。

「─── お呼びで?バギー船長」

バギー一味の副船長、”猛獣使いのモージ”だ。
うなり声を上げる獰猛なライオンにまたがるその男は、胸を隠すくらいしかない短い丈の白い袖なしの毛皮を着ている。
そして、特筆すべきところは着ている毛皮と同じ色の、小さな耳のついた着ぐるみをかぶっている事だ。

「おおおっ!!モージさんだ!!」
「モージさんの猛獣ショーだ!!!」

手下たちが騒ぐ中、彼は静かに言った。

「ロロノア・ゾロの首、私がとっても?」
「構わん」

バギーはにやりと笑った。







その頃、バギーたちの酒場から逃げ切ったゾロは、町の中を、ルフィが入った檻を引きずっていた。

「─── もうだいぶ酒場から離れた。とりあえず、すぐには追っちゃ来ねェだろう」

だいぶ息を荒げていた。出血も未だ続いている。
ルフィも必死で鉄格子に噛み付いているが、頑丈な鉄格子はびくともしてなかった。

「しかし、いったん退いたはいいが、この檻は厄介だな・・・」
「そうなんだ、これが開かねェとあいつが来ても何もできねェよ!!」

そうこうしている内に、とうとうゾロは力尽きて倒れた。

「・・・もうダメだ、血が足りねェ。これ以上は歩けん・・・!!」

ふと、感じる視線。
うつ伏せで倒れていたゾロが、横に目をやると、そこには一匹の白い犬が鎮座していた。

「・・・なんだこの犬は・・・!!」
「犬?あ、犬だ」

ゾロの言葉に、ルフィもその犬に気づく。
檻をその犬の前まで引っ張ってもらい、まじまじと犬を見つめた。

「・・・これ何だ、犬か?本当に。おい、ゾロ。こいつ全然動かねェよ」

一軒の家の前に鎮座したまま、ほんとにその犬は動かない。

「知るか・・・、そんなもん犬の勝手だ。とにかく今は、お前がその檻から出る事を考えろ」
ゾロは傷口を手でかばいながら、家の柱に寄りかかった。

「死んでんのかな」

ルフィがその犬の両目を指でどすっと突く。
瞬間、その犬に顔をがぶっと噛み付かれた。

「痛え!!何すんだ、犬っ!!」

そして犬と同レベルで、ぼかすかとケンカをおっぱじめた。

「てめェ、今の事態わかってんのか!!?」
ゾロが怒鳴る。血もさらに吹き出る。

「犬め!!」
「くそ・・・、血が足りねェ!!」

二人は同時に倒れこんだ。
そんな二人を誰かが見下ろしていた。

「・・・あんた達一体何やってんの、二人して・・・。こんな道端で寝てたら、バギーに見つかっちゃうわよ!」

ナミだった。

「よォ、航海士」
ルフィとゾロが同時に声をかける。

「誰がよ!!!」
反論するナミ。

「・・・一応、お礼をしに来ただけよ。助けてもらったからね」
「礼?」

ルフィの前に、何かが放り投げられた。

「あ、鍵!!!檻の鍵盗って来てくれたのか」
「まァね・・・、我ながらバカだったと思うわ。他に海図も宝も何一つ盗めなかったもの。そのお陰で」

ナミがため息をつく。

「は───っ!!ホント、どうしようかと思ってたんだ、この檻!!」
ルフィが安堵のため息をつく。

「・・・は・・・、これで一応逃げた苦労が報われるな」
ゾロも息をついた。

が。
その鍵にルフィが手を伸ばすより先に、白い犬が鍵を咥える。
そしてゴクンと飲み込む。あっという間の出来事だった。

「このいぬゥ!!!吐け、今飲んだのエサじゃねェぞ!!!」

我に返ったルフィが、犬を引っつかんで吐かせようとする。
ギャーギャー騒ぐ中、一人の男が3人と1匹の傍にやってきた。

「くらっ!!小童ども!!シュシュをいじめるんじゃねェっ!!!」

「シュシュ?」
「誰だ、おっさん」

ゾロの言葉に、その男は答えた。

「わしか、わしはこの町の長、さながらの町長じゃ!」

オレンジの町の町長、ブードルだった。
白髪で丸いメガネをかけた老人。格好は勇ましく、年代ものの鎧を身につけ槍を抱えていた。

傷だらけのゾロを見かねて、隣の家に連れて行く。

「─── ゾロは?」
家から出てきたブードルに、ルフィは尋ねた。

「休ませてきた。隣はわしの家じゃ。避難所に行けば医者がおると言うとるのに、寝りゃ治ると言って聞かんのじゃ。すごい出血だとゆうのに!!」

「この犬、シュシュって名前なの?」
ナミが尋ねた。

「ああ」
ブードルが答える。

「こいつここで何やってんだ?」
「店番さ。わしはエサさながらをやりに来ただけさながらなんじゃ」

ルフィの問いに答えながら、ブードルはエサにがっつくシュシュの傍に座り込んだ。

「あ!本当。よく見たらここ、お店なんだ。・・・ペットフード屋さんか・・・」
ナミが店を見上げた。

ブードルはシュシュを見守りながら、この店について語り始めた。

「─── この店の主人は、わしの親友のじじいでな。この店は10年ほど前、そいつとシュシュが一緒に開いた店なんだ。二人にとっては思い出がたくさん詰まった、大切な店じゃ。わしも好きだがね。・・・・・この傷をみろ。きっと海賊と戦って、店を守ったのだ」

「だけど!いくら大切でも、海賊相手に店番させることないじゃない。店の主人はみんなと非難してるんでしょ?」
ナミが憤慨する。

「いや・・・、奴はもう病気で死んじまったよ。・・・三ヶ月前にな、病院に行ったっきり。奴は入院する前に、シュシュに店番を頼んで行ったんじゃよ」
「もしかして、それからずっとおじいさんの帰りを待ってるの?」
「・・・みんなそう言うがね・・・。わしは違うと思う」

ブードルはパイプをくゆらせる。

「シュシュは頭のいい犬だから、主人が死んだことくらいとうに知っておるだろう」
「じゃ、どうして店番なんて・・・」
「きっとこの店は、シュシュにとって宝なんじゃ。大好きだった主人の形見だから、それを守り続けとるのだと、わしは思う」

ブードルは煙を吐き出しながら苦笑いした。

「困ったもんよ。わしが何度非難させようとしても、一歩たりともここを動こうとせんのだ。ほっときゃ、餓死しても居続けるつもりらしい」

ナミはそんなシュシュを見つめて優しい顔になった。





その時だった。

グオオオオオ・・・!!!!

猛獣の雄たけびが、がらんとした町に響き渡る。

「な・・・何、この雄たけび・・・!!」
「こ・・・、こりゃあいつじゃ!!”猛獣使いのモージ”じゃ!!」

そう叫ぶや否や、ナミとブードルの二人はルフィとシュシュを残して一目散に逃げていった。
ルフィはため息をつく。

「あーあ、なんか来ちまったよ。鍵返せよ、お前ェ」

「見つけたぜェ、まず一人・・・。おれはバギー一味、猛獣使いのモージだ」
ライオンの雄たけびとともにルフィの目の前に現れたのは、”猛獣使いのモージ”であった。

ルフィはモージをじっと見つめる。

「フハハハ・・・、仲間に置き去りにされたのか?不憫だなァ、せっかく逃げ出したのに・・・」
ルフィの檻に、モージが迫ってきた。

「バギー船長はかなりお怒りだぜェ・・・。えらい事しちまったなァ、お前ら」
「なんだお前、へんな着ぐるみかぶって」

ルフィの関心はそこだったようだ。

「何っ・・・!!!失敬だぞ貴様ァ!!これは、おれの髪の毛だ!!」
「じゃあ、なおさら変だな」
「やかましいわァ!!!」

そうなのだ。
着ぐるみに見えるが、実際はモージの本当の髪の毛なのだ。
船長のバギーの鼻といい、モージの髪の毛といい、この一味には身体的に珍しい者が揃ってるようだ。

「てんめェ、その檻に入ってるからって安心してんじゃねェのか。まず、おれの怖さを知らんらしい・・・」

その様子を、ナミとブードルは建物の陰から窺っていた。

「あいつ、なんか挑発してるんじゃないの・・・」
「バカか、あいつは・・・」

それに気づかないモージは、自慢げにルフィに言い放った。

「言っとくが、この世におれに操れない動物はいないんだぜ。例えばそこにいる犬にしてもだ」
モージはライオンから下りると、シュシュに手を差し出した。

「お手」

ガブ

「あああっ!!」

ライオンの上に戻る。

「お前は所詮名もないコソ泥だ」
「犬は」

確かに。

しかし、モージはそれを無視して言った。

「貴様の命に興味はない。ロロノア・ゾロの居場所を言え」
「いやだ」

即答でルフィは断る。
それを聞くや否や、モージはライオンに命じた。

「やれ!!リッチー!!!」

ライオンが檻に飛び掛る。その衝撃で、檻がぶっ壊れた。

「鉄の檻が!!!」
「まずい!あの小童殺されるぞ!!!」

ナミとブードルが叫ぶ。

「やった、檻が開いた!!!」
ようやく檻から開放されたルフィは、早くも戦闘体制だ。

ドゴオオオ!!

しかし、次のリッチーの一撃で、家を一軒潰すほどの勢いで吹っ飛ばされてしまった。
その跡を見て、モージがほくそ笑む。

「即死だ!おれに歯向かうからそうなる。・・・よし、リッチー、ロロノア・ゾロを探しに行こう。奴を殺して名を上げるんだ」

しかしリッチーはそれには動かず、鼻を引く引くさせてシュシュの方へゆっくりと歩いていった。

「なるほど・・・、ここはペットフード店か。しょうがねェ奴だ、てっとり早く済ませろよ、食事は」

シュシュは、向かってくるリッチーに対してうなり声を上げて威嚇した。





「─── あー、びっくりした。裏の通りまで吹き飛んじまったよ」

リッチーに吹っ飛ばされたルフィは、むくっと起き上がった。
ゴム人間であるルフィは、これくらいはなんともない。

「でも窮屈な檻から出られた!!よォし、これからあいつら全員ぶっ飛ばして、泥棒ナミに航海士やってもらうぞ!!!」

ルフィはにっと笑って、こぶしを固めた。

第11話  敗走

ゾロの振り下ろす刃に、バギーは斬り刻まれ地面に転がった。

「・・・何て手ごたえのねェ奴だ・・・」

簡単につきすぎた決着に、ゾロも戸惑う。
その様子を見て、周りの手下どもはニヤニヤ笑っていた。

檻の中からルフィが言う。

「おいゾロ!早くこっから出してくれ」
「!・・・ああ」

いぶかりながら、ゾロは刀をおさめた。
手下たちの様子を、ナミも不審に思っていた。

─── どうなってんの、この一味。船長が殺されたのに笑ってるなんて・・・!!

ゾロは檻の形状を確かめて言った。

「こりゃ、鍵がなきゃあ開かねェぞ。この鉄格子はさすがに斬れねェしな」
「そうか」

その内、手下たちの笑い声が、どんどん大きくなってきた。

「・・・何がそんなにおかしい!!おとなしくこの檻の鍵を渡せ。おれはお前らと戦う気はない!!」
「・・・・・?おっかしな奴らだなァ・・・」

ルフィも不思議がる。

その時だった。

ドスッ!

ゾロがひざを突く。
ゾロの背後から、ナイフがわき腹に刺さっていた。
持ち手には、ナイフを握る手、のみ。





「!!?・・・ゾロっ!!?」

ルフィが驚く。

「!?・・・何、あの手!!!」

ナミも目の前の光景に、目を疑った。
海賊たちの笑いは止まらない。

「・・・くそっ!!何だこりゃあ、一体・・・!!!」

ゾロは苦しみながら、わき腹からナイフを引っこ抜いた。
ゾロの手から飛ばされたナイフは、地面に転がらず浮いたまま。

「手が・・・、浮いてやがる!!!」

ゾロは傷口を抑えるので精一杯だった。
しかしその背後に、迫る影。

「バラバラの実・・・!!!」

ゾロに斬られたはずのバギーがそこに立っていた。
離れていた右手が、最後にくっつく。

「それがおれの食った悪魔の実の名だ!!!おれは斬っても斬れない、バラバラ人間なのさ!!!」

「!!・・・体がくっついた・・・。悪魔の実なんて、ただの噂だと思ってた!!!」
ナミが叫ぶ。

「バラバラ人間って、あいつバケモンかっ!!」
と、ルフィ。

そういうあんたは、ゴム人間。

「急所は外しちまったか・・・、ロロノア・ゾロ!!だが相当の深手だろ。勝負あったな!!!」

バギーがにやりと笑う。
ゾロはそんなバギーをにらみつけた。
だが、わき腹のキズはバギーの言うとおり、彼にとってかなりのダメージだった。

─── 確かにこれじゃ勝ち目はうすい!ルフィを助けに来といて、何てザマだ!!
─── あの船長が何かの実を食ってたのは知ってたハズだが・・・、油断した!!!

「ひゃーっ、船長しびれる───っ!!」
「やっちまえ───っ!!斬りキザめ───っ!!」

期待通りの展開に、手下共がはやし立てる。

ナミは焦った。

─── まっずい、形勢が逆転した!
─── このままぼんやりしてたら、あの2人も私も、3人とも命はないわ!!

ルフィは檻の中で動けない。
戦況を見ながら、何もできない自分が悔しかった。

「後ろから刺すなんて卑怯だぞ!!デカッ鼻ァ!!!

ルフィが怒鳴る。
言っちゃいけない一言を。

「バカっ、それだけは言っちゃ・・・」
「誰がデカッ鼻だァああ!!!!」

ナミが止めるのも間に合わない。バギーの右腕のひじから下が、銃弾のようにルフィに向かって放たれた。
もちろん、ナイフは握ったままだ。

「ルフィ!!!」
ゾロが叫ぶ。

しかし。

「お前は必ず、ブッ飛ばすからな!!」

ルフィはにやっと笑った。

飛んできたナイフを、口でしっかりと受け止めていたのだ。
その衝撃で、刃の部分が折れている。

「ほほーう、ブッ飛ばす?」

ルフィの言葉に、バギーは吹き出した。

「ぶあーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ、ブッ飛ばすだァ!!?終いにゃ笑うぞ!!!てめェら3人、この場で死ぬんだ!!!」

バギーの笑い声が響く。

「ダメだ・・・、終わった・・・!!」
ナミが嘆く。

しかし当のルフィは、バギーに負けずに笑い返した。

「はっはっはっはっはっはっは!!死んでたまるかっ!!!」
「この状況でどうブッ飛べばいいんだ、おれは!?野郎ども!!笑っておしまいっ!!」

バギーの笑いは止まらない。
しかし、ルフィは叫んだ。

「逃げろ!!ゾロ!!!」

「!・・・、何っ!?」
その言葉に驚くゾロ。

「・・・!!ちょっ、せっかく助けに来てくれた仲間に逃げろって・・・!!あんたはどうすんのよ!!」
ナミも思わず言った。

しかし、ルフィは笑っている。
こんなところで死ぬ気なんて、さらさらない。
その顔を見て、ゾロは何かを感じたようだ。

「了解」

その2人のやり取りを見て、ナミはさらに焦った。

─── だめだっ!!わけわかんないわ、やっぱ海賊ってだから嫌いっ!!
─── ここは自力で逃げ出す方法を・・・!!

「バカタレが、逃がすかロロノア・ゾロ!!!」

バギーがナイフを握った両腕をゾロに向け発射する。

「バラバラ砲ーうっ!!!」

ゾロはそれを手にした刀でなぎ払うと、一目散に駆け出した。
なぎ払われた腕が、再びゾロを追いかける。

「ぎゃーっはっはっはっはっは!!ゾロが逃げるぞ!!」
「バギー船長から逃げられるもんかぁ!!!」
海賊達が騒ぐ。

しかし、ゾロが走った先にあるものは、大砲だった。
ゾロは砲身を抱えると180度ひっくり返し、砲口を海賊達に向ける。

「ぎいや───っ、大砲がこっち向いたァ───っ!!!」

まさかの事態に、逃げ惑う海賊たち。
バギーも同じだった。

「ぬあ~~~っ!!!あれにはまだ”特製バギー玉”が入ったままだぞ!!!」

「おおっ!!」
ルフィの顔が輝く。

「おい点火だ!!!」
ゾロがそばにいるナミに命じる。

「え・・・、は、はいっ!!」
「急げ!!!」
「よせ!!!ふせろォ───っ!!!」

ドゥン!!!

先ほど、通りの建物を吹っ飛ばしたバギー玉が、当の海賊たちめがけて炸裂した。





「・・・今のうちだ・・・!!」
ゾロが傷口を押さえたまま、ナミを見上げる。

「ところでお前、誰だ」
「私・・・、泥棒よ」

急に尋ねられ、ナミは少し面食らって言った。

「そいつはウチの、航海士だ」

ルフィが満面の笑みで言う。

「バッカじゃないの、まだ言ってんの!?そんな事言うひまあったら、自分がその檻から出る方法考えたら!?」
「あー、そりゃそうだ。そうする」

ナミはため息をついた。
その二人のやり取りを聞いていたゾロは、にやっと笑って言う。

「いや、問題ない。てめェは檻の中にいろ!!」

そう言うや否や、ゾロは中に入っているルフィごと檻を持ち上げていった。
わき腹のキズからは、勢いよく血が吹き出る。

「おい、ゾロいいよ!腹わた飛び出るぞ」
さすがにルフィも焦って言った。

「飛び出たらしまえばいい」
ゾロはお構いなしだ。

そして、檻を肩の上に担ぎ上げる。
血は、絶え間なく吹き出していた。

「何でそこまで・・・!!」
ナミも思わず言った。

しかし。

「おれはおれのやりてェ様にやる!口出しすんじゃねェっ!!!」

口からも血を流しながら、ゾロは鬼の形相で言い放った。

─── どうしてそこまで・・・。海賊のクセに・・・!!!

この2人は、今までナミが見てきた海賊たちの中でも、規格外なのは確かであった。







「どチキショーが、逃がさんぞォ!!!」

バギー玉が発射された後の煙の中から、バギーがむせながら現れた。
手下も含め、砲撃からどうやら逃れたようだ。

「あいつらどこだ!!!」

少しづつ煙が晴れていく。
しかし、そこにはもうすでに3人の姿はなかった。

「いません、船長っ!!」
「ゾロも!!ナミも!!檻まで!!!」
「ばかな!!あれは5人がかりでやっと運べる鉄の檻!!」

そして別の場所を探していた手下が叫んだ。

「しまった、盗まれてる!!」

聞きとがめて、バギーが怒鳴った。

「何がだ!!!」
「あの檻の鍵が、ありません!!」





その頃、ゾロと檻の中のルフィは酒場の隣の建物の屋根の上にいた。
バギーたちのいる酒場の屋上からは、ちょうど死角になっていて見えない。
ゾロたちを探す、海賊たちの声はその場所にも聞こえていた。
見つからないのを確認して、ゾロは担いでいた檻をドスンと下ろし、横に腰をおろす。
わき腹の血は、無理をしたせいでさっきよりさらに激しく流れていた。

「くそっ、この檻さえ開けば!!!開けば!!!」

ルフィは檻の中で暴れる。
しかし、頑丈な檻はびくともしなかった。

「・・・厄介なモンに巻き込まれちまった・・・!!だが一度やりあったからには決着をつけなきゃな!!」
そう言ってゾロは、傷の痛みに顔をしかめた。





「なめやがってあの3人組っ!!!ジョーダンじゃねェぞ、おいっ!!!」

見つからない3人に、バギーは業を煮やして怒鳴り上げた。

「おれ様は誰だ!!!!」
バギーは手下に問う。

「海賊”道化のバギー”船長です!!」
手下たちは、気をつけの姿勢で答える。

「その通りだ!!!」
バギーは怒り狂っていた。

「あいつら、ただの泥棒じゃねェ事はよぉ~~~~~くわかった!!!こいつぁ、おれへの宣戦布告とみて、間違いねェな!!!!」

第10話 酒場の一件

「盗まれた"偉大なる航路(グランドライン)”の海図が戻った!!そして新しい船員も加わった!!おれ達の航海は実に快調だ!!!」

バギー海賊団が占拠している酒場、”ドリンカーパブ”の屋上では、海図が戻ったことで宴が開かれていた。
海賊はすぐ宴を開く。ちょっとでもいい事があればすぐだ。
宴を開くことで、みんなで喜び、騒ぎ、結束を高める。
バギー海賊団も例外ではなかった。

「さァ、存分に飲め!!ハデに騒いで次の戦いに活気をつけろ!!!」
「うおおおおお───っ!!!」

バギーの言葉に、手下共が騒ぎ始める。
次々と飲み干される酒、よっぱらってテーブルの上で騒ぐ者、歌いだす者・・・。
その中に、新しく仲間に加わったナミもいた。

「ナミ!!飲んでるか、この野郎ォ!!」
「うっす!!いただいてます、バギー船長っ!!」

ナミが酒の入ったジョッキを掲げる。
荒くれ達の中で、そこだけ少し異質だった。

「おい新顔っ!!飲み競べだァ」

そんな彼女に、手下の一人が勝負を挑む。

「よしきた!」

受けて立つ、ナミ。
勝負がつくのに、時間はかからなかった。

「勝ちっ」

ナミは飲み干したジョッキを逆さに掲げる。
挑んだ手下は、床にひっくり返っていた。

─── ふふっ、私のお酒の強さは尋常じゃないのよ!
─── このペースでみんな飲み続けてくれたら、予想外に簡単にお宝を頂けそう!
─── まったく、海賊ってのは単純でやりやすいわ。

ナミは海賊たちを眺めてほくそ笑んでいた。

そんな中、ただ一人宴に参加していない者がいた。ルフィだ。
小さな鉄の檻に閉じ込められた彼は、脱出しようと必死で鉄柵をかじっていた。

「あー、楽しそうだなー。やっぱこうだよなー、海賊って!!」

・・・参加したいが為か。

「ん?」

気がつくと、ルフィの目の前にナミが座り込んでいた。

「どう?調子は、親分!」

ナミが笑って言う。

「うるせェ!こっから出せ!!はらも減ってる、なんか食わせろ!」

そんなルフィに、ナミは肉一切れを宴のテーブルから失敬してきて食べさせてやった。

「うまいっ。お前いい奴だなー、やっぱ仲間にしてやろうか」

もぐもぐしながらルフィが言う。
現金なもんである。

「いらないわよっ!!」

ナミが怒鳴る。

「あんた今の自分の立場わかってんの?このまま、きっとどっかへ売り飛ばされちゃうのよ」

まあ、そんなことになったのは彼女のせいなのだが。

「でも、ま、私の仕事が万事うまくいったら、この檻の鍵くらい開けて逃がしてあげるわ。私、あんたに全く恨みないし」
「じゃ、今開けろ」

「ぶわっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

ナミの背後で大きな笑い声。
バギーだった。

「大変な子分を持っちまったなァ!!コソ泥親分っ!!」
「何言ってんだ、そいつは子分なんかじゃねェ!」

ルフィがむくれて言う。

「あーあー、そう言いてェ気分だろうよ。なんせ裏切られちまったんだもんなァ」

バギーは気の毒そうなフリをする。

「返しては貰ったものの、このおれの宝に手をつけた罪は重い!!てめェの処分は決まってる」

そう言ってバギーは檻の中のルフィに顔を近づけた。

「逃がしてくれんのか?」
「そうだ、お前を逃がして・・・、逃がすかっ!!!」

危うくルフィのペースにのせられそうになる。
バギーは騒いでいる手下どもに向かって命令を出した。

「野郎共!!!”特製バギー玉”準~~~備っ!!!」
「うおおおおお」

ういやっほーう!っと手下達は勇んで大砲を用意する。

「バギー玉セット、完了しました!!」

手下が手にした砲弾には、バギーの海賊旗のマークであるピエロのドクロマークが描かれている。

「よし見せろ、その威力っ!!!」

手下は大砲の標準を傍の建物に合わせる。
そして・・・。
「!!!」

ドゴゴゴゴゴォン!

大砲から放たれた玉は、通りに建てられた建物を根こそぎ破壊する。
通りは瓦礫の山と化した。
ナミはその衝撃に声が出ない。

「まさにド派手っ!!!下手な町なら一発で消し飛ばす代物だ!!!こいつとおれの悪魔の実の能力でおれは"偉大なる航路”をも制してやるっ!!」

バギーの言葉に、手下たちも気勢を上げる。

「さァ撃て、ナミ!!」

バギーが叫ぶ。

「お前の元親分をこのバギー玉で消し飛ばし、おれ様への忠誠と、ともに世界を制す大いなる野望をここに誓うのだ!!元親分を派手に殺してみせろ!!!」

そして大砲の照準がルフィに合わせられる。

「あいつを殺す・・・!?私が・・・!?」

ナミは焦った。

「い・・・、いえ!!バギー船長。私は結構です・・・!!」

そしてなだめるように話を逸らす。

「それより・・・、そうだっ!お酒っ!酒を飲みましょう、あんなのほっといて!」
「やれ」

しかしバギーには通じなかった。

「え・・・」

「やれやれーっ、景気よくブッ放せェ!!」
「撃ーてっ。撃ーてっ」

周りの手下どもは、ナミの気も知らず囃し立てる。
撃て、のコールが響く中、ナミは動けずにいた。





─── ・・・まいった・・・、こんなことになるなんて・・。
─── これを撃たなきゃ、私はきっと殺されるわ・・・!!
─── でも、いくらこいつが海賊だからって・・・、むやみに人を殺せば、私も海賊と同類じゃない!!!

ルフィは黙ったままナミを見つめている。
業を煮やしてバギーは怒鳴った。

「ナミ!!!しらけさせんじゃねェ、早く点火しろ!!!」

その声にビクつくナミ。

─── やらなきゃ・・・、でも・・・。

葛藤しながら恐る恐る大砲に近づく。

「─── 手がふるえてるぞ」

ルフィが口を開いた。

「中途半端な覚悟で海賊を相手にしようとするから、そうなるんだ」

ルフィはにっと笑っていた。
およそ、大砲で狙われてる者の様子ではない。

「・・・!覚悟って何よ。人を簡単に殺してみせる事がそうなの?それが海賊の覚悟・・・?」

ナミはあぶら汗をかきながら言った。

「違う」

ルフィは言った。

「自分の命をかける覚悟だ!!」

ルフィの言葉に、震えが止まる。

未だ続く、撃て、の声の嵐の中、一人の手下がナミの手からマッチを奪い取った。

「おい新顔、じらすなよ。点火の仕方知らねェのか?火をこの導火線にボッと・・・」

手下が火をつける。
ナミは足に仕込んであった組み立て式の棒を手に取ると、その手下を思いっきり打ち負かした。

「な!!!?」

海賊たちの顔色が変わる。

「はっ・・・」

─── しまった・・・!つい・・・。

その様子を見てバギーが怒る。

「ナミ、てめェどういうつもりだァ!!!せっかくこのおれが部下に迎え入れてやろうってのに、あァ!!!」

ルフィも少し驚いて言った。

「何だお前、今さらおれを助けてくれたのか?」
「バカ言わないで!!」

ナミが海賊たちを警戒しながら言う。

「勢いでやっちゃったのよ!!・・・たとえマネ事でも、私は非道な海賊と同類にはなりたくなかったから!!私の大切な人の命を奪った、大嫌いな海賊と同類には・・・!!!」
「・・・あー、それで嫌いなのか、海賊が・・・」

その時、ルフィは気づいた。

「あ───っ、導火線に火がついてる───っ!!!」

殴り倒された手下は、しっかり役目は果たしていたのだ。

「やべ───!!!死ぬ───っ!!!」

ルフィはさっきよりも必死に鉄柵にかじりついた。
導火線は確実に短くなっていく。

「人をおちょくるのもたいがいにしろ小娘!!ハデに殺せ!!!」
「ハデに死ねェ!!!」

手下共がナミに襲い掛かる。

「まだ火が・・・」

襲い掛かってくる海賊たち。短くなる導火線。

「くそォっ、消し飛ぶっ!!!」

檻の中で必死にあがくルフィ。

ナミは突っ込んでくる海賊たちに向かって、棒を思いっきり振り回した。
だが。

「当たりませーん!!!」

海賊たちは嘲るようにナミの攻撃をかわす。

「死んでたまるかァっ!!!」

あともう少しで玉が発射する!
その時だった。
ナミは持っていた武器を放り出し、導火線を素手で握った。

「あつ・・・!!!」
「・・・!?お前・・・」

ナミの意外な行動に、驚くルフィ。
しかし、海賊たちはもうナミの真後ろに迫っていた。

「後ろっ!!!」

バキッ!!

「─── 女一人に何人がかりだ」

二本の刀で、突っ込んできた海賊たちを全て止める。

「ゾロォ!!!!」

ゾロがようやくルフィの元にたどり着いたのだ。





「ケガは?」
「ええ、平気・・・」

ゾロはナミを気遣うと、ルフィの方を見やる。

「やー、よかった。よくここがわかったなァ!!早くここから出してくれ」

のんきに言うルフィに、ゾロは呆れて言った。

「お前なァ・・・。何遊んでんだ、ルフィ。鳥に連れてかれて、見つけてみりゃ今度は檻の中か。アホ!」

「・・・ゾロ?」

ルフィの言葉に、海賊たちはざわめいていた。

「おい、あいつ・・・ゾ、ゾロって言わなかったか?」
「”海賊狩りのゾロ”か!?何で泥棒と喋ってんだ・・・!?」

ナミも驚いていた。

「あいつの言ってた仲間って・・・、"海賊狩りのゾロ”のこと・・・!?どうなってんの?」

バギーがゆっくりとゾロに近づく。

「・・・貴様、ロロノア・ゾロに間違いねェな。おれの首でも取りに来たか?」
「いや・・・、興味ねェな。おれはやめたんだ、海賊狩りは」
「おれは興味あるねェ」

バギーがナイフをくるくると回す。

「てめェを殺せば、名が上がる」
「やめとけ、死ぬぜ」

バギーの登場に、手下共が叫んだ。

「うおおお、やっちまえェ船長!!ゾロを斬りキザめぇ!!!」

「本気で来ねェと、血ィ見るぞ!!!」

ナイフを手に、バギーがゾロに襲い掛かる。

「・・・!そっちがその気なら・・・!!!」

両手、そして口に咥えた三刀流の刃が閃く。

ズバッ!!

一瞬のうちに、バギーは斬り刻まれ、バラバラになっていた。

「うわっ、よえーなあいつっ!」

あまりの手ごたえのなさに、ルフィが驚く。

「うそ・・・」

ナミも目の前の出来事が信じられないようだ。

「へへ・・・」

だが、彼の手下たちだけは不敵な笑みを浮かべていた。